本好き僧侶が薦めるおすすめ小説25選~入門から上級編までレベルごとにおすすめ作品をざっくりご紹介!
本好き僧侶が薦めるおすすめ小説25選~入門から上級編までレベルごとにおすすめ作品をざっくりご紹介!
前回の記事「本好き僧侶が本気で学生におすすめしたい本10選~人間としての学びのために!読書は必ず力になる!」では「学生におすすめしたい本10選」をご紹介しました。
その中ではあえて小説作品を入れずに実際的な意味で役に立つ本をチョイス致しましたが、今回の記事では読書の初心者から上級者までレベルごとにぜひおすすめしたい小説をご紹介していきたいと思います。読書にレベル分けや段階をつけるのはいかがなものかという見解もあるかもしれませんが、あくまで目安です。読みやすさやページ数、要求される基礎知識の量など目安となるものは現に存在します。
また、基本的にここで紹介する本はどれも私が自信を持っておすすめしたい名著です。そのいずれも最高に面白い作品ですので入門編や上級編などの分類を気にせず興味が湧いた本についてはぜひリンク先のページも覗いてみて下さい。リンク先ではそれぞれの本のより詳しい解説や関連書籍なども掲載しています。その本を通じてさらに多くの本に繋がれるようにサイトを作っていますので、ぜひ活用して頂けましたら幸いです。
では、まずは〈入門編〉5冊から見ていくことにしましょう。〈入門編〉といえど内容は芳醇です。ぜひご参考にして頂ければ幸いです。
おすすめ小説〈入門編〉4選
読書をいざ始めようと思っても何を読んでいいかわからない。読んでも難しすぎて眠くなる。これは読書入門あるあるですよね。
そんな方でもまずは楽しめる小説、しかも私が自信を持って厳選した名作をここで皆さんにご紹介します。本は面白いです。そして何より、皆さんの思考能力の糧になります。楽しみながら考える力を養えるのが本の素晴らしい点だと私は感じています。
では早速始めていきましょう。それぞれのリンク先ではより詳しくその本についてお話ししていきますのでぜひそちらもご参照ください。
1 コナン・ドイル 『シャーロック・ホームズの冒険』
最近、「本は普段あまり読まないのですが、そういう私でも読みやすくて面白い小説はありますか」と聞かれることが増えてきたのですが、そんな時私は迷わずこのシャーロック・ホームズシリーズをおすすめしています。
シャーロック・ホームズシリーズ最初の短編集でありながらそのクオリティは折り紙付きです。これからいくつも短編集が出るのでありますが、その中でも今作はベストなのではないかと思うほど面白いです。
その中でも特に好きな事件はやはり『ボヘミアの醜聞』です。まずタイトルからしてとんでもなくオシャレ。訳者の言葉選びのセンスには脱帽です。
そしてこの事件ではあの有名なアイリーン・アドラーが登場します。女性に全く興味のないシャーロック・ホームズですら一目置く才気煥発の絶世の美女です。もちろん恋愛的な意味ではありませんが、あのホームズを出し抜く驚異の機知を持つキャラクターです。
また、この事件で語られるホームズとワトスンの会話が非常に興味深いです。まさにシャーロック・ホームズシリーズの根幹とも言えることがここで語られます。ぜひその会話を紹介したいと思います。
「推論の根拠を聞くと、いつでもばかばかしいほど簡単なので、僕にだってできそうな気がするよ。それでいて実際は、説明を聞くまでは、何が何だかわからないのだから情けない。眼だって君より悪くなんかないつもりなんだがねえ」
「それはそうさ」とホームズは巻きタバコに火をつけて、肘掛椅子にどかりと腰をおろしながらいった。「君はただ眼で見るだけで、観察ということをしない。見るのと観察するのとでは大ちがいなんだぜ。たとえば君は、玄関からこの部屋まであがってくる途中の階段は、ずいぶん見ているだろう?」
「ずいぶん見ている」
「どのくらい?」
「何百回となくさ」
「じゃきくが、段は何段あるね?」
「何段?知らないねえ」
「そうだろうさ。心で見ないからだ。眼で見るだけなら、ずいぶん見ているんだがねえ。僕は十七段あると、ちゃんと知っている。それは僕がこの眼で見て、そして心で見ているからだ。
新潮社、コナン・ドイル著、延原謙訳『シャーロック・ホームズの冒険』2018年第130刷版P12-13
「見る」と「観察する」は決定的に違う!
言われてみるとまさにハッとする言葉ですよね!ホームズの鋭さはこうした「観察力」あってこそのものでした。もう憧れてしまいますよね。
『ボヘミアの醜聞』はストーリーそのものの面白さも抜群ですが、ホームズとワトスンのこのやりとりが聞けるという意味でも大好きな短編です。
またこの短編集では『赤髪組合』や『唇の捩れた男』、『青いガーネット』、『まだらの紐』など有名な短編も収録されています。特に『まだらの紐』は私の中でもお気に入りの事件です。
ひとつひとつの短編はどれも50ページにも満たないのでさくさく読んでいけます。まさに気軽そのもの!
一日一つペースでゆったり読んでいくもよし、一気に読み切るもよし、その楽しみ方は様々です。
読書初心者にも自信を持っておすすめできる名作短編集です。
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2 星新一 『ボッコちゃん』
この本は日本SFの第一人者星新一によるショート・ショート(超短編)集です。
私が星新一作品を知ったのはSF好きな友人がおすすめしてくれたのがきっかけでした。
そして読み始めてみるとその作品のインパクトに驚くことになりました。
この本の最初は『悪魔』という作品なのですが、なんと、ページ数にしてたったの5ページ!ですがその5ページの中であっと驚くような物語が展開されます。1ページ目から「これからどうなるんだろう」と惹き付けられ、最後には予想外なオチにハッとさせられる。
「おぉ!これが星新一か!」
そう思わずにはいられない、独自な世界観でした。これはすごい! こんな短いページ数であっと驚く展開を具現化する力に私はすっかり魅了されてしまいました。
しかも、面白いのはもちろんなのですが私はそこに「なんか、オシャレだな」という思いまで抱いてしまいました。
この本は『ボッコちゃん』という可愛さすら感じさせる不思議なタイトルですが、いやいや、その作品はものすごくカッコいいです。オシャレです。スタイリッシュです。
ショート・ショートというくらいですからひとつひとつの作品がものすごくコンパクトですので、いつでも気楽に読むことができるのも嬉しいところです。こちらも読書初心者におすすめの作品です。もちろん、玄人の方も唸ること間違いなしのとてつもない名作揃いです。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
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3 アンデルセン 『アンデルセン傑作集 マッチ売りの少女/人魚姫』
アンデルセン童話と言えば誰しもが子供の時に絵本やアニメなどでお世話になった経験があると思います。私もその一人です。メルヘンチックだけれどもどこか切なさを感じさせるストーリーは一度読んだら忘れられない印象を残しますよね。
まずこの本で最初に顔を合わすのは『親指姫』です。この作品もものすごく有名ですよね。私も読んだ記憶があります。
そしていざ読んでみると、すぐに驚くことになりました。
言葉自体は易しいですし、物語もヒキガエル、モグラ、ツバメたちと人間のように言葉を交わす童話的なものです。ですがその物語に何とも言えない奥深さを感じるのです。子供向けだと油断しているとびっくりすることになります。ここ数年私はひたすら本を読んできましたが、それらの本と全く遜色がないくらい、いや、童話として語られているからこそその奥深さがより感じられるような気がしました。
語りもストーリーも易しいのです。ですがそこで親指姫や動物たちの姿を通して語られる人間の心がなんとも言えない味があるのです。これはぜひ読んで頂きたいです。大人だからこそわかる物語の繊細さがあります。大人になって色んな経験をし、人生について様々な思いがあるからこそ見えてくるアンデルセン童話の味わい。
これはぜひおすすめしたいです。私は読み始めてからあっという間に引き込まれてしまい、そこからもう止まりませんでした。一つ一つの作品も短いのでテンポよく読み進めることができるのもありがたいです。
アンデルセン童話は想像していたよりもはるかに奥深い作品です。これは大人だからこそ味わえる絶品でもあります。
これはぜひぜひおすすめしたいです!ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。きっと驚くような体験になると思います。この切なさ、繊細な感受性をぜひ味わってみて下さい。本当に面白いです。
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4 ひのまどか 『音楽家の伝記 はじめに読む1冊メンデルスゾーン』
本作『音楽家の伝記 はじめに読む1冊メンデルスゾーン』は私が待ちに待った作品でした。
と言いますのも本作の主人公メンデルスゾーンは私が一番好きなクラシック音楽家だからです。(メンデルスゾーンはあの結婚行進曲の作曲家でもあります)
私がメンデルスゾーンと出会ったきっかけはチェコの偉大な作曲家スメタナでした。私は数年前、チェコの歴史を学ぶ流れで本書の著者でもありますひのまどかさんの『スメタナ―音楽はチェコ人の命! (作曲家の物語シリーズ)』を読むことになりました。この「作曲家の物語シリーズ」は現在発刊されている「音楽家の伝記 はじめに読む1冊」シリーズの前身になります。
このスメタナの伝記があまりに面白く、一気に「作曲家の物語シリーズ」を読んでいった私だったのですが、その中でも一番好きになったと言える人物がメンデルスゾーンでした。そして本作『音楽家の伝記 はじめに読む1冊メンデルスゾーン』こそ、かつて私が読んで感動した『メンデルスゾーン―美しくも厳しき人生 (作曲家の物語シリーズ)』の新装復刊版になります。私はこの本を読んで泣きました。メンデルスゾーンの生涯があまりにドラマチックで感動せずにはいられなかったのです。こんなにもすごい人がいたのかと私は衝撃を受けました。
そして何と言ってもひのまどかさんの語り口の素晴らしさです。
ひのまどかさんの作品は「10歳から読めて、大人にも本物の感動を。歴史上の偉大な音楽家たちの生涯を、物語のように読みやすく」というコンセプトで書かれています。これは言うは易しですがどれほど困難なことか!
ですが、本書はこのコンセプトが見事に体現されています!私はこれまで古今東西、数多くの偉人の伝記を貪るように読んできましたが、ひのまどかさんの伝記は群を抜いたクオリティーです。そしてその中でも最高傑作と言えるのがこのメンデルスゾーンの伝記と言えるでしょう。
私もこの本にあまりに感動したため、母にこの本を貸したことがあります。以前母が入院した時に、「何かいい本があれば読んでみたい」と頼まれたのです。「普段本を読まないけどそれでも面白く読める本を」というリクエストでしたので私は迷わずひのまどかさんの本をチョイスしました。そしてその反応はと言いますと、母も泣いたそうです。そしてその読みやすさに驚いたようでした。
中学校や短大の授業でも読書初心者の人にこそぜひ読んでほしい作品として生徒・学生達におすすめしています。そして彼らからも読みやすくて面白かったと好評でした。
伝記にはある時代、社会におけるその人の生き様、死に様がリアルに描かれます。
偉人達の生き様、死に様を通して学べることは私たちが想像するよりはるかに多いと私は確信しました。
偉人達が置かれた状況は困難に満ち、波乱万丈な出来事がこれでもかと続きます。
天才であるが故に自ら破滅へと突き進んだり、あるいは逆境でもこつこつこつこつ努力を惜しまず、苦労を経て成功を掴むということもあります。
そして突然の病や大切な人の死にもぶつかります。
18世紀、19世紀頃の伝記を読んで気付くのはとにかく病や死が多いということです。大切な我が子を何人も失った作曲家たちの苦しみにも私たちは直面することになります。
そうした桁違いのスケールを持つ偉人達の人生を、栄光と苦悩のどちらも目の当たりにしながら学べること。
そしてそれと共に彼らが生きた時代背景、歴史を学ぶことで私たちが生きる現代世界とは何なのかということも考えられること。
これが伝記の素晴らしい点なのではないかと思います。
読書入門においてこのシリーズに勝るものなしとすら私は感じています。このシリーズは正確には「小説」ではありませんが、「良質な物語を読む」という観点からぜひここに紹介させて頂きました。このシリーズはスメタナをはじめ様々な音楽の偉人を学ぶことができます。
このシリーズについては上の記事で詳しく解説していますのでぜひこちらもご参照ください。
私が読書入門に一番おすすめしたいのがこのシリーズです。ものすごく面白く、そして読みやすいです。きっと皆さんも読めばびっくりすると思います。現在このシリーズはヤマハミュージックエンターテインメントホールディングスさんから続々復刊されていますので手に取りやすくなっております。ぜひぜひおすすめしたい作品です。
5芥川龍之介『羅生門』
『羅生門』は1915年に発表された作品で、太宰治の『走れメロス』と同じく学校の教科書でもお馴染みの短編です。
物語の舞台は地震や火事、飢饉などの天災が続いていた京都。ある男が羅生門の下で雨宿りをしています。京都全体が悲惨な状態。食べるものも売るものもなく、仏像や仏具ですら破壊され薪として売られていたほどでした。
そんな有り様ですから羅生門も荒れ果てたまま打ち捨てられ、いつしかここは無法者のたまり場となり、さらには死体置き場になっていました。ある男はそんな羅生門に行きついたのです。
そしてふと羅生門の楼へ上る梯子を見つけ、上ってみると人の気配を感じます。そこで出会ったのが不気味な老婆。なんとこの女は死体から黙々と髪を引き抜き続けていたのでした。
恐る恐る近づき、その理由を問いただしてみると・・・というのが羅生門の大きな流れです。
ま~それにしても芥川の短編技術の見事なこと!羅生門を上り、夜の闇に現れる不気味な気配。そこに何がいるのかと大人になっても変わらず夢中になって読んでしまいます。まるで映画的な手法と言いますか、臨場感がとてつもないです。
この作品である一人の男が悪の道へと踏み出すその瞬間を決定的に捉えた芥川。その微妙な心理状態を絶妙にえぐり出したラストは絶品です。
『羅生門』は厳しい。厳しい厳しい世の有り様をこれでもかと見せつけます。悪の道へ踏み出すというのはどういうことなのか、まさにそこへと通じていきます。実に素晴らしい。読書初心者でも読みやすい作品ながら玄人も唸らす傑作です。ぜひぜひおすすめしたい作品です。
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おすすめ小説〈入門編〉まとめ
まずは「おすすめ小説〈入門編〉」ということで5冊の本を紹介しました。
膨大にある中から厳選しての5冊です。これは自信を持っておすすめしたい作品たちです。
入門編ということで読みやすさ、そしてコンパクトな分量をポイントに選びましたが、その内容も芳醇そのもの。ただ単に読みやすいだけでなく名著として名高い作品をピックアップしたつもりです。
せっかく読むなら名著と呼ばれる作品を読んでほしい。これは私の願いでもあります。世に本はたくさんあれど、真の名著というのはなかなか出会うのも難しいというのが実際のところです。読書に挫折する方は最初から難しい本を選んだり、あるいは相性が悪かったり、さらにはそもそもイマイチな本を選んでしまっている可能性もあります。
最初から難しい本を読める人などいません。誰しもが幼い頃は絵本から始まり、そこから少しずつ少しずつ成長して本を読めるようになっていきます。
「本を読めること」と「文字が読めること」は全く違います。読書は文字が読めるからといってすぐに誰でもできるものではないのです。
大谷翔平選手の球をいきなりホームランできないのと一緒で、本に慣れていない人がいきなりドストエフスキーの大著『カラマーゾフの兄弟』を読んでもそれは厳しい話なのです。何事も順番が大事。無理する必要はありません。じっくりじっくり楽しみながら本を読んでいきましょう。
ここで紹介した5冊はその入り口として最高の作品たちです。楽しみながら力がついてきます。読書力をつけるには良質な物語を読むのが一番です。ぜひこれらの作品をきっかけに読書の道に進んで頂けたら何よりでございます。
では、ここから少しレベルアップして中級編の名作たちをご紹介していきます。
おすすめ小説〈中級編〉10選!
ここからは本を読むことに抵抗がない人向けです。ものすごく難解な長編小説には手が伸びないけれども、面白い本ならば読んでみたいという方にぜひおすすめしたいです。
では始めていきましょう。
1 オーウェル 『動物農場』
おすすめ作品中級編の第一冊目はジョージ・オーウェルの『動物農場』です。まずはこの本のあらすじを見ていきましょう。
人間たちにいいようにされている農場の動物たちが反乱を起こした。老豚をリーダーにした動物たちは、人間を追放し、「すべての動物が平等な」理想社会を建設する。しかし、指導者となった豚たちは権力をほしいままにし、動物たちは前よりもひどい生活に苦しむことになる……。ロシア革命を風刺し、社会主義的ファシズムを痛撃する20世紀のイソップ物語。
角川書店、ジョージ・オーウェル、高畠文夫訳『動物農場』裏表紙
私はオーウェルの代表作『一九八四年』と同じく、この作品も10年ほど前の学生時代に初めて読みました。その時の衝撃は今でも忘れません。
特に物語の最終盤で豚が二足歩行で行進するシーンはあまりのショックで、その時の驚きは今でも鮮明に覚えています。
そして時を経てソ連の歴史を学んでからこの本を改めて読み返してみると、この作品がいかに優れた作品かがよくわかりました。1917年のロシア革命からレーニン、スターリン体制のソ連の動きをこれほどうまく描写し、風刺する技術には驚くほかありません。
この『動物農場』を読んでいてつくづく思うのは、甘い言葉や憎悪を煽る言葉に気をつけねばならないということでした。そしてまた気づくのは豚たちの話術の強さです。彼らの雄弁によって農場の動物たちは「おかしいな」と感じつつもついつい丸め込まれてしまいます。そして気付いた頃には暴力で支配されてしまうのです。しかもそうなったにも関わらずまだ彼らの巧妙な偽装のトリックに騙され続けるのです。
敵を作りだし、憎悪や不満を煽り、それにより敵を倒そうと宣伝してくる人たちには気を付けた方がいいです。敵を倒した後に何が起こるのか、それを『動物農場』は教えてくれます。
『動物農場』は150ページほどの短い作品です。文体も読みやすく、一気に読めてしまいます。そんな読みやすい作品でありながら驚くほどのエッセンスが凝縮されています。
『一九八四年』は大作ですし、内容的にも読むのが大変なのも事実。挫折された方も多いかもしれません。そういう方にはぜひこの『動物農場』をおすすめしたいです。もちろん、『一九八四年』とセットで読むのがベストですがこの一冊だけでも衝撃的な読書になること請け合いです。
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2 オルダス・ハクスリー 『すばらしい新世界』
ディストピア小説といえばオーウェルの『一九八四年』が有名ですが、この作品はなんと、その17年も前に発表された作品です。1932年の段階でこの作品が書かれたことにまず驚きました。
そして『一九八四年』が徹底した管理社会の構築によって完成された暗い世界を描いているのに対し、ハクスリーの『すばらしい新世界』ではそんな暗さがありません。そこに生きる人たちはあくまで「幸福」であり、『一九八四年』のような徹底した監視すら必要ないのです。ここが大きな違いなのですが、不気味な「幸福さ」とその幸福がいかにして出来上がっているかに私たち読者は恐怖や違和感を覚えることになります。
ディストピア小説の元祖であり、SFファンのみならず全ての人におすすめしたい1冊です。『一九八四年』は読んでいてかなり辛くなりますが、この作品はそこまでどぎついものではありません。(とはいえかなり考えさせられますが・・・)
『一九八四年』に挫折した人でも読みやすい作品となっています。
幸せとは何か、ユートピアとは何か、もしソーマという苦しみを忘れられる魔法の薬があったらどうなるのだろうか、それをはたして自分は使うだろうか、仮に使ったとしてすべての苦しみを忘れて忘我恍惚状態になることが人生と言えるのだろうか、などなど思うことはそれこそ無数に出てきます。『一九八四年』もものすごく頭がフル回転になる作品ですがそれとはまた違ったフル回転をこの作品ではすることになります。
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3 レイ・ブラッドベリ 『華氏451度』
SFものが続いていますがこれもぜひおすすめしたい逸品です。
先に申し上げておきますが、この本はものすごいです・・・!前半部分はその世界観に入り込むのが難しく、読むのが辛かったのですが中盤くらいから一気に引き込まれてしまいました。そこから怒涛のように読み耽り、読み終わった瞬間には放心状態になるほどでした。しばらく何もできないくらいの読後感です。これほどまでの読後感は久々でした。それこそ、真っ白。完全にこの作品に憑依されてしまったかのような感覚でした。
私たちが日々摂取している情報とは一体何なのか。本とは何を私たちにもたらすのか。テクノロジーの進化で簡単に情報にアクセスできる一方、その弊害は何なのか。
これらが明快に語られます。私はこれを読んで心底恐ろしくなりました・・・1955年に発表されたこの作品があまりに現代を的確に言い当てていることに戦慄を覚えました。これは今を生きる私たちに対しての警告です。絶対に知っておいたほうがいいです。
この作品の読後感は異常でした。ここまで真っ白になったのは久々かもしれません。
ただ、この作品の前半部分は正直、あまり面白くはありません。この作品が好きだからこそあえて厳しめに言います。ただ単にSF特有の世界観がわかりにくいというだけならまだいいのですが、それに加えて話が冗長だったり、言葉のやりとりも私にとっては合わない感覚でした。これは私個人の感覚ですのでそうではない感想を持つ方もたくさんおられると思います。ただ、この作品の前半部分で挫折してしまった人が多いのではないかと私は思うのです。私自身、何度読むのをやめようと思ったことか・・・
ですが中盤くらいから一気に物語が面白くなってきます。そうなったらもう止まりません。驚くほどこの作品に没頭してしまいました。前半部分をなんとか乗り切ればその後は恐ろしいほどの面白さです。ですので、なんとかあきらめずに、前半は流し読みでもいいのでとにかく中盤まで進んで下さい。そうすればきっとこの本の面白さが伝わってきます。正直、別の人が書いたんじゃないかというくらい、私の中でがらっと印象が変わりました。
この作品は『一九八四年』、『すばらしい新世界』と並ぶSFディストピア小説の傑作です。ぜひ手に取ってみてはいかかがでしょうか。非常におすすめです!
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4 バルザック 『ゴリオ爺さん』
さあいよいよフランス文学に突入しました。フランス文学というと難しそうに思えるかもしれませんが大丈夫です。安心してください。この『ゴリオ爺さん』、タイトルはあまりに無骨で重そうですがところがどっこい、とんでもなく面白い作品です。サマセットモームが世界の十大小説に選んだ理由がよくわかります。
この作品の主人公ラスティニャックは弁護士になるために華の都パリに上京してきました。
しかしそこで地道に勉強してもどん詰まりであることを感じます。
もっと手っ取り早く成功するにはどうしたらいいのか。そういう考えがやがて彼の頭を占めるようになります。
ここからはフランス文学者鹿島茂氏の『フランス文学は役に立つ!』を参考にしていきます。
ラスティニャックは、社交界の有力夫人の後ろ盾がありさえすれば無一文の青年でも政界で出世できるという王政復古期特有の風潮に目をつけ、親戚のボーセアン子爵夫人のコネを頼りに社交界に入り込もうとしますが、しかし、ラスティニャックには見栄を張ろうにも軍資金がありません。そのため、泥で汚れた靴をレストー伯爵夫人の召使に馬鹿にされ屈辱を味わいます。
こうした欲望の水準が急上昇した時代に欲に駆られる人をうまく利用してやろうと待ち構えていたのが脱獄徒刑囚ヴォートランです。ヴォートランはラスティニャックが「いきなり」出世したい欲望に身を焦がしているのを見ると、巧みに言いよって、自分の仲間に引き入れようとします。そのときヴォートランがラスティニャックを説得するために使った論法は要約すればショート・カット人生の勧めですが、このショート・カット人生を狙う若者の大量出現こそが大革命の最大の産物なのです。
「もし、君がてっとりばやく出世したいんなら、すでに金持ちか、少なくともそう見えなくちゃいけない。金持ちになるんだったら、このパリじゃ、一か八かの大バクチを打ってみるに限る、さもなきゃ、せこい暮らしで一生終わりだ。はい、ご苦労さん」
ラスティニャックはこのヴォートランの誘惑に負けそうになり「ぼくに、何をしろというんです?」と尋ねるところまでいきますが、偶然が作用して、間一髪のところでヴォートランの魔手から逃れます。(中略)
大革命で既成の社会システムが崩壊し、「金がすべて」となった世の中で、自分だけしか恃むもののない青年が、悪魔に魂を売り渡すことなく、社会と闘うにはどうしたらいいかという近代的テーマをとりあげた記念碑的作品。ラスティニャックは「やりたいことをやり、いきなり有名になって大金持ちになりたいが、面倒くさい努力は嫌いだ」という現代的青年のプロトタイプで、以後、フロべールも、モーパッサンも、ゾラも、自分なりのラスティニャックを造形しようと腐心することとなります。
鹿島茂『フランス文学は役に立つ』NHK出版 P71-73
ラスティニャックは手っ取り早く出世しようとします。しかしそれは人を騙し裏切る権謀術数の世界に入ることを意味します。そしてそれは恋すらも利用してのし上がろうというものでした。
ヴォートランの言葉はまさしく悪魔的です。ここでは記事の分量上ご紹介できませんが、「善とは何か悪とは何か、この世の現実とは何か」とものすごい迫力で彼に迫ります。「美徳なんて捨ててしまえ。人間を軽蔑しろ。法律の抜け穴を探せ。どうせ君はこれから人を騙し、罪を犯す。せいぜい血を流すか流さないかの違いだろう。それだって立派な殺人さ」とたたみかけます。
そしてそれに必死に抗おうとするラスティニャック。彼は一体どうなってしまうのか。これが『ゴリオ爺さん』の主題です。
いかがでしょうか。なんだか面白そうな気がしてきますよね。バルザックはどす黒い人間の本質や社会の仕組みをこれでもかと暴露します。悪の指南役ヴォートランの言葉はまさに戦慄ものです。人間とは何か。人間心理の奥底を知りたい方にぜひおすすめしたい名著中の名著です。
フランス文学者鹿島茂先生のフランス文化の解説書と共に読むともっと楽しめます。
上の記事でそれらの本をまとめていますのでぜひこちらもご参照ください。
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5 チェーホフ 『六号病棟』
ロシアの文豪チェーホフによる名作中編『六号病棟』。これがまたすごいんです・・・!
まず皆さんにお伝えしたいことがあります。
それは「この作品があまりに恐ろしく、あまりに衝撃的である」ということです。
この作品はチェーホフ作品中屈指、いや最もえげつないストーリーと言うことができるかもしれません。
院長がいつの間にか精神病者にさせられて病院を首になり、あまつさえ精神病棟に放り込まれそこで死を迎えるというあらすじを読むだけでもその片鱗が見えると思いますが、作品を読めばその恐ろしさがもっとわかります。その辺のホラー映画を観るより恐いかもしれません。
ただ、この恐さと言うのが「ホラー映画的な恐怖」ではなく、人間の本性、そして自分自身の虚飾を突き付けられるような怖さです。
この作品を読むと「え?じゃあ自分って何なんだ?この院長や精神病者と何が違うんだ?正気と狂気の違いって何だ?ずるく生きる人間に利用されるしか私の道はないのか?……暴力の前ではすべては無意味なのか?」などなど様々な疑問が浮かんでくることでしょう。
この作品はチェーホフどころか、最近読んだ本の中でも特に強烈な印象を私に与えたのでした。これはもっともっと日本で広がってほしい作品だと私は思います。
チェーホフはとにかく面白い!「ロシア文学で何をおすすめしますか」と聞かれたら私は「チェーホフ!」と即答するでしょう。短い作品の中で繰り広げられる見事な人間模様には驚愕するしかありません。ぜひおすすめしたい作品です。
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6 カレル・チャペック 『ロボット(R・U・R)』
チェコの作家と言えば『変身』で有名なフランツ・カフカを連想すると思います。
ですがチェコにはものすごい天才がもう一人いたのです。それがここで紹介するカレル・チャペックという人物です。
「好きな本は何ですか?」と聞かれて「チャペックの『ロボット』!」と答えたらそれだけでものすごいインパクトです。少なくとも私は「おぉ!この人は何者か!と一目も二目も置いてしまいます。チャペックもカフカと同じようにユーモア溢れる風刺で世の中を斬っていきます。
ここで紹介している『ロボット』のあらすじは以下の通りです。
ロボットという言葉はこの戯曲で生まれて世界中に広まった。舞台は人造人間の製造販売を一手にまかなっている工場。人間の労働を肩代わりしていたロボットたちが団結して反乱を起こし,人類抹殺を開始する。機械文明の発達がはたして人間に幸福をもたらすか否かを聞うたチャぺック(1890-1938)の予言的作品。
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1920年にしてすでにロボットをテーマにしたSF小説が存在していたということに私はまず驚きました。そしてそもそも「ロボット」という言葉自体がこの作品によって生み出され世界中に広がっていったというのも驚きでした。
私はカフカ作品も好きですが、正直、このチャペックには参ってしまいました。『ロボット』はもっともっと世に知られてもいい作品です。ジャンルは違いますが『変身』と比べてもまったく遜色ないくらい素晴らしい作品だと思います。
いや~いい本と出会いました。
ぜひぜひおすすめしたい作品です。絶対後悔しないと思います。それほど面白いです。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
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7 シェイクスピア 『オセロー』
シェイクスピアと聞くと難しそうだったり固いイメージを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
ですが、シェイクスピア存命当時は上流階級から下層階級までひとつの劇場に集まり、わいわいがやがやしながら彼の演劇に大笑いしていたのです。つまり、現在の演劇やお笑いの楽しみ方と全く同じだったのです。私たちが好きな舞台を観に行ったり、気楽にお笑いを観に行くようにシェイクスピア作品は楽しまれていたのです。
そう考えると敷居が下がってくるように感じませんか?
実際シェイクスピア作品はものすごく面白いです。外国作品特有の名前の覚えにくさはあるかもしれませんがそのストーリー展開や心理描写は超一級品です。ま~面白い!
特にここで紹介したオセローはそのドラマチックさ、読みやすさで群を抜いています。
今作の主人公はオセローというアフリカ系の将軍です。
彼は戦で類まれなる武勇を示し、その地位まで出世しました。そしてそれだけでなく高潔で真っすぐな性格で人望の厚い将軍です。
そんな将軍が妻として迎えたのが美しきデズデモーナという由緒ある貴族の娘でした。デズデモーナとオセローはなかば駆け落ちに近い形で結ばれます。そんな強い愛によって結ばれていたはずの2人ですが、イアーゴーというオセローの側近の策略によって引き裂かれることになるのです。
イアーゴーといえば『アラジン』のオウムのキャラクターを思い浮かべる方も多いかもしれません。そのイアーゴの名前の元になったのがこの『オセロー』のイアーゴーなのだそうです。
というのもこの作品のイアーゴーはとにかく口が上手くて人を騙すのが驚くほど巧みです。彼の人を騙す能力は読んでいて末恐ろしくなるほどです。
この作品はオセローが主人公ではありますが、実はイアーゴーの方が出番が多く、しかも生き生きと描かれます。イアーゴーがタイトルでもいいくらい彼の奮闘ぶり、策の鮮やかさが描かれています。
そうしたイアーゴーの悪役っぷりもこの作品の大きな見どころです。『アラジン』のイアーゴもそうですが、人を騙す悪役ではあるのですがなぜか憎めない不思議な魅力があります。そんなイアーゴーの立ち回りもぜひ楽しんでみてください。
個人的にこの作品は大好きな作品です。人間の狂気、混沌を覗くかのような感覚を味わうことが出来ます。シェイクスピア作品でも屈指のおすすめ作品です。
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8 ダンテ『神曲 地獄篇』
『神曲』といえばイタリア古典の最高傑作と知られる作品です。正確には小説ではないのですがぜひこの作品はおすすめしたいです。
と言いますのも、この作品で説かれる地獄の描写がとにかく面白いのです!
『神曲』では地獄が階層状に描かれます。下へ行けば行くほど罪の重い人間が置かれていて、上のリストにもありますように、それぞれの罪状に応じて地獄の責め苦を味合わされることになります。
基本的には物理的な方法で身体を痛めつけるのが地獄の責め苦のパターンになります。火で炙られるというのも『地獄篇』ではたくさん出てきます。
ですがこの作品を読んでいて驚くのは、時にユーモアが感じられるような刑罰が存在しているという点です。
これは第八の圏谷の第三の濠なのですが、ここでは聖職売買を犯した罪人が罰せられています。穴の中に逆さまに埋められ、地表に出た足が炎に焼かれているのがこの罪人たちなのですが、挿絵で見てみるとなんとも間抜けなようにも思えてしまいますよね。
たしかに穴の中に逆さに埋められ足を延々と焼かれるというのは想像を絶する痛みを伴う責め苦でしょう。ですがどうも恐怖を感じさせない何かがあるのです。挿絵の影響も大きいのでしょうが、本文を読んでいてもどこかユーモアと言いますか皮肉めいたものが感じられます。聖職売買を犯した罪人たちへの怒りや嘲笑をダンテはここで暗に込めようとしていたのかもしれません。
『神曲』では他にも不思議な責め苦が語られるのですが、この作品で私が最も驚いたのは地獄の最下層の描写でした。
悪魔大魔王が控えるこの地獄の最下層なのですが、なんと!この場所は氷漬けの世界なのです!
私たちのイメージからすると地獄といえば燃え盛る炎のイメージがありますよね。
ですが『神曲』では違うのです。ここはキンキンに冷えた氷の世界で、罪人たちは全身を凍らされて苦しんでいるのです。
私が『神曲』を初めて読んだのは大学三年生の頃でした。今から10年以上も前です。ですがこの地獄の最下層の氷漬けの世界を初めて目にした時の衝撃は今でも忘れられません。
「キリスト教の地獄の一番底は氷の世界なのか!仏教と真逆じゃないか!」と私は仰天したのです。
日本の地獄と比較しながら読んでいくのはものすごく面白いです。14世紀初頭に書かれたとは思えない想像力豊かな作品です。翻訳も易しく、とても読みやすいです。時代背景やキリスト教知識があればより楽しめますが、それがなくても十分すぎるほど面白いです。〈中級編〉で紹介出来るほど読みやすい作品ですのでぜひこれはおすすめしたいです。
ちなみにですがこの『神曲』には続編の『煉獄篇』と『天国篇』もあるのですが先に進めば進むほど面白さが減じていくと残念な構図になっていますのでまずは『地獄篇』だけでも全く問題ないと思います。この『地獄篇』だけでも十分成立していますので安心して楽しんでみて下さい。
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9 サマセット・モーム 『昔も今も』
私がこの作品を読んだのは、高階秀爾著『フィレンツェ 初期ルネッサンス美術の運命』という本がきっかけでした。
この本では15世紀にルネッサンス全盛を迎えたフィレンツェの政治情勢やイタリア全体の時代背景を知ることになりました。
ルネッサンス芸術の繁栄はイタリアの独特な政治情勢に大きな影響を受けていて、レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロもまさに各国間の政治的駆け引きの道具として利用されていたということに私は驚くことになりました。
そしてそのまさに同時代に生きていたのが『君主論』で有名なあのマキャヴェリだったのです。
『君主論』はマキャヴェリズムという言葉があるほど有名な作品ですが、この本自体はなかなかに読みにくく、手強い作品となっています。私も以前この本を読もうとしたのですが前半で挫折してしまいそのままになっていました。
ですがこの『フィレンツェ 初期ルネッサンス美術の運命』を読んでから改めて『君主論』を読むと、全く別の顔を見せるようになったのです!とにかく面白いのなんの!時代背景がわかってから読むと、マキャヴェリの言葉がすっと入ってくるようになったのです。
そうなってくると『君主論』のモデルともなったチェーザレ・ボルジアという人物が気になって気になって仕方なくなってきました。世界中を席巻することになった『君主論』のモデルになるほどの人物ですから、とてつもなく巨大な男に違いません。これはぜひもっと知りたいものだと本を探した結果出会ったのが本書『昔も今も』でした。
先に申し上げますが、この本はものすごく面白かったです!極上の歴史小説です!これはいい本と出会いました!
2人の天才、マキャヴェリとチェーザレ・ボルジアが織りなす濃密な人間ドラマ!そして彼らが生きたイタリアの時代背景も知れます。ドラマチックなストーリー展開の中に『君主論』を思わせる名言が出てきたり、人間臭いマキャヴェリの姿も知れたりと非常に盛りだくさんな作品となっています。
1500年近辺のイタリア、ヨーロッパはまさしく日本の戦国時代のような戦乱の世です。私たち日本人にとって戦国時代の歴史小説や大河ドラマには胸熱くなるものがありますが、この小説はまさにそのヨーロッパ版と言うことができましょう。歴史ものが好きな方には激アツな作品であること間違いなしです。ぜひぜひおすすめしたい名作です。
※ローマやイタリアを知るためのおすすめ書籍はこちらのカテゴリーページへどうぞ
「ローマ帝国の興亡とバチカン、ローマカトリック」
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10 アンナ・ドストエフスカヤ 『回想のドストエフスキー』
ロシアの文豪ドストエフスキーといえば『罪と罰』や『カラマーゾフの兄弟』など、読書界隈ではラスボス的な存在としてよく知られる大文豪です。
私はドストエフスキーが大好きです。ですが、正直ドストエフスキー作品を万人に薦めたいかと言われるとそうではありません。彼の作品はかなり癖があり、ボリュームもとてつもなく大きいです。〈上級編〉でいよいよ紹介はするものの、「条件付き」でのおすすめになります。それほど厄介な存在でもあります。
ですがドストエフスキーという人物そのものは「現実は小説よりも奇なり」を地で行くとてつもないスケールの人間でした。彼の人生そのものが並の小説よりもはるかに面白いのです。
そんなドストエフスキーを最も近くで支えたのが彼の妻アンナ夫人です。そしてその彼女がドストエフスキーとの結婚生活を回想して書いたのが本作『回想のドストエフスキー』になります。
正確にはこの作品は小説ではありませんが、アンナ夫人の一人称で書かれた伝記小説のように読むことができます。まあこれが面白いのなんの!正直ドストエフスキー作品そのものより圧倒的におすすめしたいほどです。
私はアンナ夫人のこの作品を読んだからこそドストエフスキーを心の底から好きになりました。
ギャンブル中毒で妻を泣かせ続けたダメ人間ドストエフスキー。
愛妻家ドストエフスキー。
子煩悩ドストエフスキー。
最高のパートナーを得てギャンブル中毒を克服したドストエフスキー。
コーヒーを得意になって碾くドストエフスキー。
様々なドストエフスキーをこの作品で見ることになります。
私はドストエフスキーとアンナ夫人のドラマチックな結婚生活が好きで好きでたまりません。
そしてこの二人の出会いは運命だとしか思えません。このことについては「(14)ドストエフスキーとアンナ夫人の結婚は運命だとしか思えない~なぜアンナ夫人は彼を愛し、守ろうとしたのか」の記事でもお話ししましたが、まさに彼ら二人の出会いは運命としかいいようのないものでした。
そんな運命の出会いからの二人の苦悩と復活にも私はいつも胸が打たれます。ドストエフスキーは本当に幸運な人間だと思います。アンナ夫人という伴侶がいなければ彼の人生はまさに破滅だったことでしょう。
ドストエフスキーは巨大な人間です。彼は並の人間ではありえない、とてつもないスケールの人生を生きました。彼は何事も極端まで行かなければ気が済まない人間でした。彼の生涯は私たちに「世界の大きさ」を開いてくれます。
ドストエフスキー夫妻の結婚生活はまさに巨大なスケールで語られた一つの作品にも等しいと言えましょう。
私はこの人生の旅に大いなるドラマを感じました。こんなに劇的で感動的な旅があるでしょうか。
私はドストエフスキーが好きです。ですが、何よりも「アンナ夫人といるドストエフスキー」が好きです。
私はその思いが高じるあまり、2022年に2人のゆかりの地を訪ねてヨーロッパ中を旅しました。
ドストエフスキーと言うと「うっ」と一歩引いてしまう方も多いと思いますが、彼の作品ではなく彼の生涯が書かれた超一級の物語なら読めそうな気がしませんか?正直、並の小説より圧倒的に面白いです。ドストエフスキーに関心の無かった人こそぜひ読んでみてほしい作品です。え?こんな人だったの?どびっくりすること間違いなしです。一つの小説作品としてこの作品はぜひぜひおすすめしたいです。
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おすすめ小説〈中級編〉まとめ
〈入門編〉と比べると一気にレベルアップしたように感じるかもしれませんが、どの作品も読みやすさという点ではそこまで難しいということはないと思います。
これらの作品を読むことで当時の時代背景や人々の思想や生活も知ることができます。自分たちの生きる世界とは全く異なる世界をここにいながら知ることができるのが本のありがたいところです。
ここで紹介した本を通してさらに様々な本へと繋がっていってくれたならば私としては最高の喜びであります。
おすすめ小説〈上級編〉10選
ここからは上級編です。ここから先は分量がものすごく多かったり、基礎知識やある程度の読解力、思考力が必要とされる作品となっていきます。
ですがどの作品もカントやヘーゲル、マルクスのような超難関な文章が続くというわけではありません。あくまで小説ですので読むことすら困難だということは基本的にはありません。読書入門者、初心者の方がいきなり読むには厳しいかもしれませんが〈中級編〉で紹介した本を楽しむことができたなら十分こちらも楽しむことができるでしょう。
では、始めていきましょう。
1 セルバンテス 『ドン・キホーテ』
『ドン・キホーテ』はスペインのラ・マンチャ地方を舞台にスタートした小説です。
ですがこの『ドン・キホーテ』、名前は聞いたことがあっても実際にどんな小説で何がすごいのかということになると意外と知られていないのではないでしょうか。
作中ドン・キホーテが風車に突撃するというエピソードが有名ではあるものの、その出来事の理由は何かと問われてみるとさらに謎になってくるでしょう。
『ドン・キホーテ』は有名ではあるけれども、実は謎に包まれた小説と言えるかもしれません。
この作品はスペインの作家ミゲル・デ・セルバンテスによって書かれた大作です。
これまでに幾人もの作家による翻訳が出版されていますが、私は岩波文庫の牛島信明訳を愛読しています。
牛島信明訳はとにかく読みやすいです。言葉遣いも現代的で私たちが読んでも全く違和感なく読むことができます。身近な文体で楽しく読書しようとするなら岩波文庫の牛島信明訳がベストなのではないかと私は思います。
さらに要所要所で挿入されている挿絵がまたすばらしいです。
挿絵のおかげでドン・キホーテの様子がより鮮明に想像できて物語に入り込みやすくなります。
一言で言うならば「こんなに読みやすい古典はなかなかない」と断言することができるでしょう。
古典と言えば小難しくて眉間にしわを寄せて読むものだというイメージもあるかもしれませんが、『ドン・キホーテ』においてはまったくの逆。
私は元気を出したいときや明るい気分になりたいときに『ドン・キホーテ』を読みます。
理想に燃えて突進し、辛い目にあってもへこたれず明るく前に進み続ける、そんな『ドン・キホーテ』を読んでいると不思議と力が湧いてくるのです。
2019年の世界一周の旅でも私は『ドン・キホーテ』をKindleに入れて旅のお供にしていました。
そしてボスニアで強盗に遭い、辛い気持ちになっていた時に力をくれたのは何を隠そう、『ドン・キホーテ』でした。(強盗の一件については「上田隆弘、サラエボで強盗に遭う。「まさか自分が」ということは起こりうる。突然の暴力の恐怖を知った日 ボスニア編⑨」の記事をご参照ください。
「ドン・キホーテはあんなにも大変な目にあってるんだ。それなら私だって大変な目に遭うのも当然じゃないか!旅に出て何かに挑もうとしたならば、辛い目に遭うのも当たり前なんだ。むしろそれこそ遍歴の騎士道において大切なことなのだ!私だってまだまだやれる!ドン・キホーテを真似て、自分も前向きに旅を続けねば!」と勇気づけられたのを鮮明に覚えています。
私の中で『ドン・キホーテ』が決定的に重要な書物になった瞬間でした。
ただ、おそらくいきなりこの作品を読んでみても頭の狂った変なおじさんが行く先々でトラブルを引き起こし、ひどい目に遭わされるという印象以上のものを受け取ることはなかなか難しいといのが実際のところです。
渡すが初めて『ドン・キホーテ』を読んだ時もそうでした。
たしかに1冊目はくすっとしてしまう面白さがあるのですが、それ以降はあまりそういうシーンもありません。
ただただドン・キホーテがトラブルを引き起こし、それに怒った人々がドン・キホーテたちをボコボコにするという展開が続きます。
正直、全て読み終えた直後はなぜこの小説が世界最高の文学と呼ばれているのかさっぱりわからなかったことを覚えています。
ですがそれもそのはず、作者のセルバンデスは一見不思議で愉快な冒険の中に裏のメッセージをふんだんに忍ばせるという手法を用いているのです。
つまり、小説の裏に潜む隠れたメッセージを読み取れなければ単なる狂人ドン・キホーテのトラブル冒険記を延々と読むことになってしまうのです。
となるとこの小説の何がすごいのかさっぱりわからないというのも当然のこと。
これでは読むのもなかなか辛い。
と、いうわけで、『ドン・キホーテ』を読むときはあらかじめ解説書を読んでおくことをおすすめします。
その中でも特におすすめは中公新書から出版されている牛島信明著『ドン・キホーテの旅 神に抗う遍歴の騎士』という本です。ぜひこの本とセットで読むことをおすすめします。これさえあれば百人力です。『ドン・キホーテ』の面白さがわかればもう病みつきになること間違いなしです。この本が世界最高の小説の一つとして称えられる意味がよくわかると思います。ぜひ楽しんでみて下さい。
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2 ヴィクトル・ユゴー 『レ・ミゼラブル』
この作品は1862年、ヴィクトル・ユゴーによって発表された言わずと知れた名作です。
この小説を原作に数多くの舞台や映画化もされていて、むしろそちらの方が印象が強い作品かもしれません。
ちなみに私もミュージカルの大ファンです。観るたびに号泣し、今でもよくサントラを聴いています。
この物語には救いがあります。読んでいて元気が出ます。
たしかにこの作品は『レ・ミゼラブル』のタイトル通り、「悲惨な人々」がたくさん描かれます。ファンチーヌはその最たる例です。
しかし、そんなみじめな人びとを生み出すこの世においてジャン・ヴァルジャンのような人間が戦い続けている。ミリエル司教のような高潔で善良な人間がいる。そしてかれらの善なる力が次の世代に引き継がれていく。
こうした人間の持つ崇高な善なる力、理想がこの作品では描かれています。
『レ・ミゼラブル』は分量も多く、原作はほとんど読まれていない作品ではあるのですが、基本的には難しい読み物ではなく、わかりやすすぎるほど善玉悪玉がはっきりしていて、なおかつ物語そのものもすこぶる面白い作品です。
しかも単に「面白過ぎる」だけではありません。この作品にはユゴーのありったけが詰まっています。つまり、ものすごく深い作品でもあります。私もこの作品のことを学ぶにつれその奥深さには驚愕するしかありませんでした。
原作も最高ですし、ミュージカルも最高です。まず間違いない作品です。原作を読むのが厳しいという方でも、まずはミュージカル映画を観てみて下さい。王道中の王道です!圧倒的な音楽と歌、ストーリー展開に夢中になること間違いなしです。
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3 エミール・ゾラ 『ルーゴン・マッカール叢書』
「ルーゴン・マッカール叢書」とは簡単に言えば、フランス第二帝政期(1852-1870)を舞台にしたエミール・ゾラの社会観察シリーズとでもいうべき作品群です。2021年の大河ドラマ『青天を衝け』で渋沢栄一が訪れたパリ万博はまさにこの時代に当たります。彼が目にしたパリの文化が後に日本にもたらされることになり、今を生きる私たちにつながっているのです。
現代では当たり前の存在になっているデパートが生まれたのがこの時代で、欲望を刺激し、人々の「欲しい」という感情を意図的に作り出していくという商業スタイルが確立していったのもこの時代でした。(※詳しくはデパートはここから始まった!フランス第二帝政期と「ボン・マルシェ」の記事を参照)
第二帝政期は私たちの生活と直結する非常に重要な時代です。現代のライフスタイルの起源がまさにここにあるのです。
そしてその当時の時代背景、そして人間心理を知る上でゾラの「ルーゴン・マッカール叢書」はこの上ない歴史絵巻となっています。
ゾラの作品は決してただ単に過去の時代を描いたものではありません。彼は人間の本質に迫ろうとしました。彼の描く人間たちは今を生きる私達と何も変わりません。
世の中の仕組みを知るにはゾラの作品は最高の教科書です。
この社会はどうやって成り立っているのか。人間はなぜ争うのか。人間はなぜ欲望に抗えないのか。他人の欲望をうまく利用する人間はどんな手を使うのかなどなど、挙げようと思えばきりがないほど、ゾラはたくさんのことを教えてくれます。
ゾラはどぎつい世の中の現実を私達に見せつけます。作中、きれいごとを排した人間のどろどろしたどす黒い感情、煩悩がこれでもかと飛び交います。
まるで「世の中を知るには毒を食らうことも必要さ。無菌室に生きてたら世の中を渡ることなどできるもんか」と言わんがごとしです。
そのゾラの集大成が「ルーゴン・マッカール叢書」であり、この中にゾラの代表作『居酒屋』や『ナナ』が含まれています。そしてそれぞれの作品はつながりはありつつも、単独の作品としても読むことができるようになっています。私が初めて読んだゾラ作品は『居酒屋』でしたがこれが面白いのなんの!その面白さに私はまさに衝撃を受けてしまったのでした。(その衝撃については「『居酒屋』の衝撃!フランス人作家エミール・ゾラが面白すぎた件について」の記事参照)
「名刺代わりの小説10選」ということで本来は一作品を上げるのがルールですが、このルーゴン・マッカール叢書はやはりその全体込みで大好きな作品ということでここで取り上げさせて頂きました。どれを読んでもものすごく面白いのですが以下私のおすすめ作品をピックアップしています。ぜひこちらもご参照ください。
4 トーマス・マン 『魔の山』
この小説は私にとって非常に大切な作品です。私の「十大小説」を選ぶとすれば『魔の山』は確実にその中でも大きな位置を占めます。それほどこの作品は力強く、強烈なインパクトがあります。とにかくスケールの大きな作品です!
私がこの本を初めて読んだのは大学院生になってからのことでした。人生問題について書かれた重厚な小説を読んでみたいと思っていた私がふと出会ったのがこの作品だったのです。トーマス・マンについては学生時代に『ヴェニスに死す』を読んだことがあったり、ゲーテとの絡みでその名が出ていたりと元々興味のある存在でした。
ま~とにかくでかい!この小説のスケールは常軌を逸しています。小説の舞台自体は閉鎖空間たる「魔の山」ですが、私たちの日常を吹き飛ばす異界だからこそ存在する魔力をこの本では体感することになります。
そしてこの小説の中で私が最も印象に残ったのが次の一節です。
「生命とはなんだろう?だれもそれを知らなかった。生命が湧きでる、生命が燃えあがる自然的基点は、だれにもわからない。」
「生命のもっとも単純な形態と、無機であるために死んでいるとさえいうに値しない自然物とのあいだの距離にくらべたら、脊椎動物と偽足アミーバとの距離など問題にならなかった。」
生物と無生物との違いは何なのか。生命とは何なのか・・・
この一節を読んだ時の衝撃は今でも忘れられません。この一節だけを読めばなんてことのない問いのように思えるかもしれません。これはきっと誰しもが一度は抱いたことのある問いでしょう。ですが『魔の山』という異界に身を置いてハンス・カストルプと共にここまで歩んでくると、この問いは信じられないくらいの重さを持って私たちの前に現われるのです。
私は自分で問わずにはいられませんでした。自分と石ころの違いはなんだろう。石ころと生物を隔てるその究極の一歩は何なのだろう。仮にそれが命だとして、では命って何なのだろう。死者と生者の違いは何なのだろう・・・
こう考えていくと無限に問いが連なり、私たちが日常ほとんど目を向けないであろう根本問題が現れて来ることになります。偉大な長編小説をじっくり読むということはこういうことなのかと私はつくづくその時感じました。同じ一節でも大きな物語の中で語られた一節はそれこそ圧倒的な重みを持つのです。これは読めばわかります。ぜひこの小説を読んでそれを体感して頂けたらなと思います。
私がこの小説を初めて読んでからそれこそ10年近くも時が経ちましたが、それでもこの小説の衝撃は今も強烈に残っています。
この作品もぜひ学生のうちにおすすめしたい作品です。まさに学生という感受性豊かな時期に主人公のハンス・カストルプと共に「魔の山」の強烈な人物達と出会うのは非常に貴重な体験となると思います。本を読んでも人と出会うことはできます。本のよい所はここにいながら時と場所を超えて人と出会えることです。ぜひセテムブリーニ氏やペーペルコルンというとてつもないスケールの人物たちと対面してみて下さい。度肝を抜かれること間違いなしです。ぜひぜひおすすめしたい名作です。
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5 オーウェル 『一九八四年』
『一九八四年』は言わずと知れたディストピア小説の最高峰です。
私がこの作品を初めて読んだのは10年ほど前の学生時代でした。まだ20歳そこそこで世界のこともあまりわかっていなかった当時の私でしたが、この本の恐ろしさに強烈な印象を受けたのを覚えています。
今回久々に『一九八四年』を読み直したわけですが、今度の『一九八四年』は前回とは全く違った恐怖を感じることになりました。
と言うのも、私は最近、ソ連やナチス、独ソ戦の歴史を学び、全体主義の恐怖をこれでもかと感じていたからです。
(※以下のカテゴリーページに記事をまとめていますのでぜひご参照ください)
・「レーニン・スターリン時代のソ連の歴史」
・「独ソ戦~ソ連とナチスの絶滅戦争」
・「スターリンとヒトラーの虐殺・ホロコースト」
・「冷戦世界の歴史・思想・文学に学ぶ」
・「現代ロシアとロシア・ウクライナ戦争」
・「ボスニア紛争とルワンダ虐殺の悲劇に学ぶ~冷戦後の国際紛争」
・「マルクスは宗教的な現象か」
この作品は単に未来のディストピアを想像して書かれたものではありません。実際にソ連やナチスの全体主義で行われていたことが描かれています。
ですがよくよく考えてみましょう。この作品は私たちにとっての未来の姿なのでしょうか、過去の姿なのでしょうか。
私はこの作品は私たちの現在の姿でもありうると感じました。
それはソ連の歴史を学んでいた時にも強く感じたことでもあります。
国民の精神をどのように誘導し、権力に都合のいいように動かしていくか。全体主義体制はあらゆる手段を用いてそれをコントロールしようとします。
それは注意して見ていかないと気付くことができないレベルで徐々に徐々に私たちに浸潤してきます。
『一九八四年』の世界においても、最初からビック・ブラザーが全てを掌握していたのではないのです。しかし、いつしか国民が自分から進んでビック・ブラザーに忠誠を誓い、互いに監視し合うようになってしまったのです。そうなってしまっては一個人が疑問を持ってもヴィンストンのように簡単に捕らえられ、蒸発、あるいは改造されてしまいます。
『一九八四年』はどの時代においても「今」を問うてくる作品です。
「今」、私たちはどのような世界に生きているだろうか。
そのことを強烈に突きつけられる作品です。読書人必読の書と言える名著です。
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6 ウィリアム・ゴールディング 『蠅の王』
さて、ここでご紹介する『蠅の王』ですがこれまた凄まじい作品となっています。
この作品を初めて読んだ時の衝撃は忘れられません。
最初は子供たちだけで楽しく暮らしていたはずだったのがいつの間にそれが崩壊していく。そして理性的で善良な子たちが野蛮で暴力的な力に屈していく過程は読んでいて非常に辛い気持ちになります。まさにトラウマ本です。
子供であろうが人間は人間。人間には内に獣が住み着いている。そこに大人も子供も区別はない。人間、誰しも獣になりうる。そうしたことをこの作品は私たちに突きつけます。
私がなぜこの作品にこんなにも衝撃を受けたのか、それはこの作品が描く世界があまりに身近だからです。
『一九八四年』のSF世界のような遠い世界ではありません。これは今私たちが生きている世界をそのまま映し出しているかのように私は感じてしまうのです。
皆さんも子供時代、強い者がグループを組んでその社会(クラス)を牛耳っているのを見たことがあると思います。ある人はそうした「強い者」から実際に被害を受けたこともあると思います。あるいはその逆も・・・
この作品はそんな子ども時代の記憶のみならず、大人になった今ですらぞっとするものを私たちに連想させます。
私は正直、これ以上どう伝えていいのかわかりません。
ただ、あまりにこの作品は身近すぎるのです・・・あまりにどぎついのです。
読んでいると本当に胸の奥がむかむかしてきます。善良な子供たちがなぜ暴力的な子供たちからそんなに苦しめられなければならないのかと本気で憤りが湧いてくるのです。はっきり言います。この本は読むのが辛いです。笑って楽しむ作品ではありません。
ですが人間の本質を考える上でこの上ないインパクトを与える作品であることは間違いないです。
人間は何にでもなりうる。理性的にも獣的にも。
はじめは仲良しだったはずの子供たちがなぜ殺人まで犯してしまったのか。そのメカニズムをこの上なく的確に暴き出している作品です。
正直、この作品については思うことがあまりに多すぎてなんと書いていいのかもうわかりません。
ゴールディングの寓意が効きすぎてどこから何を話していいのか、もはやわからないのです。パニック状態です。
それほどこの作品は強烈です。
ぜひこの作品を読んでその衝撃を味わって頂けたらなと思います。非常におすすめな作品です。
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7 ゲーテ 『ファウスト』
ゲーテの『ファウスト』といえば言わずと知れた世界文学の傑作です。
ですが、実際にこれを読んだ人となるとかなり少ないのではないかと思います。この現象は『ドン・キホーテ』や『レ・ミゼラブル』などの名作と似ているのではないかと思います。
有名ではあるがあまり読まれない『ファウスト』。
そしてこの作品が厄介なのは、とにかく理解するのが難しいという点です。いざ読んでみればすらすら読めてしまう『ドン・キホーテ』とは違った雰囲気があるのです。
かく言う私も『ファウスト』には何度も苦しめられました。
始めてこの作品を読んだのは大学生の時。その時は読んだはいいもののさっぱりわからず、ただ読み切っただけという状態でした。そこから大学院生時代にリベンジするも、その時も何が面白いのかさっぱりわからずじまいでした。
『ファウスト』はたしかに難しい。ですがそれはただ難解だからというより、「いかにして読むべきか」、そして「この作品が書かれた背景」が現代を生きる私たちにはわかりにくいということなのです。ですのでこれさえわかってしまえばものすごく楽しむことができます。
よくよく考えてみれば『ファウスト』が発表されたことで当時の人はそれこそこの作品に夢中になったわけです。それは当時の人が今より圧倒的に頭が良かったというより、その時代の人々の心に響く内容がこの作品に込められていたということなのです。(もちろん、文学としての完成度、その芸術的崇高さも世界最高峰なのも間違いありませんが)
これまで、『ファウスト』は私の中で苦手作品の筆頭にある存在でした。
しかし今となっては私の大好きな作品のひとつになりました。この本を「面白い!」と感じられた瞬間の喜びは生涯忘れないと思います。それほど嬉しかったのです。
何遍立ち向かってもわからなかったものがわかるようになる。面白いと思えるようになる。
この快感は読書の最高の喜びのひとつだと思います。
以下の記事では私がいかにして『ファウスト』を楽しく読めるようになったかをお話していきます。いわば『ファウスト』を読むコツです。ぜひおすすめしたい記事です。
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8 ドストエフスキー 『死の家の記録』
さあいよいよ大御所中の大御所が登場です。
ドストエフスキーといえば『罪と罰』や『カラマーゾフの兄弟』をイメージする方が多いと思いますが、私個人の思いとしてはこの『死の家の記録』こそその入り口にふさわしい作品だと考えています。
と言いますのも、『罪と罰』はドストエフスキー特有の黒魔術的な文体が強く出ていて、いきなりこの作品に突入すると面を食らう可能性があります。また、『カラマーゾフの兄弟』はこの後紹介するように、重厚で、さらにはとてつもないボリュームがあり、これを入り口として読むのはあまりおすすめできないというのが私の正直な思いです。
この作品は心理探究の怪物であるドストエフスキーが、シベリアの監獄という極限状況の中、常人ならざる囚人たちと共に生活し、間近で彼らを観察した作品なのですから面白くないわけがありません。
あのトルストイやツルゲーネフが絶賛するように、今作の情景描写はまるで映画を見ているかのようにリアルに、そして臨場感たっぷりで描かれています。読んでいてまるで自分もそこにいるかのような、それほどの迫力をもって描かれています。
物語も展開が早く、次々と場面が動いていくのでページをめくる手が止まりません。
しかもドストエフスキーはそんな中で随所に驚くほどの人間分析をやってのけます。
人間の本質に迫るドストエフスキーの目は、監獄という極限状況の中でさらに研ぎ澄まされているように感じます。
そういう点でこの本はフランクルの『夜と霧』に近い作品と言えるかもしれません。
それほどこの作品は人間の奥底にまで沈んでいく作品であると私は思います。
ドストエフスキーといえば、心の奥深くのドロドロをえぐり出すような心理描写をイメージしますが、この作品ではそのような内面描写よりも、主人公の目を通して周囲の状況や他の囚人たちの心理を冷静に分析しているような文体で進んで行きます。そうした意味で、この小説は他のドストエフスキー作品よりも非常に読みやすい作品と言うことができます。(もちろん、そこはドストエフスキー。内容はかなり重く深いので一筋縄ではいきませんが)
ドストエフスキー作品の入り口に何をおすすめするかと聞かれたら私はまずこの作品を挙げます。
人間心理の奥底を覗くのにこの作品は最適です。恐るべき作品と申しておきましょう!ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
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9 トルストイ 『戦争と平和』
さあ、いよいよ文学界のラスボス的存在とも言えるトルストイ大先生のお出ましです。
長編小説界のキングオブキング、『戦争と平和』。まさに〈上級編〉の名にふさわしい名作でしょう。
『戦争と平和』はとにかくスケールの大きな作品です。
この作品はできるだけ若いうちにまず読んだ方がいいです。特に学生のうちにこそ読むべき作品です。
まず読むのに時間がかかり過ぎます。社会人になってからだととてつもない覚悟が必要になります。
さらに言えば、若くて頭が柔軟なうちにトルストイ大先生の説教をがつんと受けておいた方がいいということです。
この作品では「人生とは何か。人間としてどうあるべきなのか」という教訓が山ほど出てきます。
これは年を取ってある程度自分が固まってしまってから聞くより、できるだけ早い方が絶対にその後につながっていきます。トルストイ大先生の説教に頷くか反発するかは自由です。どちらでもいいのです。ですが、こうした圧倒的なスケールで語られる物語や人生の教えをがつんとぶつけられる体験、これはかけがえのないものだと私は思います。
私は31歳にして初めて『戦争と平和』を読みました。やはり学生の時に読めてたらなとも感じましたが、ドストエフスキーを研究して様々な文学や歴史を知った上で読んだ今のタイミングも悪くなかったなと思っています。
ちなみに私はトルストイ大先生の説教に圧倒はされたものの、反発を感じた派であります。これはきっとドストエフスキー的な思考を持っているとこうなりやすいのではないかと感じております。
ドストエフスキーが小さな暗い部屋で何人かが集まりやんややんやと奇怪な言葉のやりとりを繰り返す物語を書くとすれば、トルストイはロシアやカフカースの広大な世界や華やかな貴族の大広間のイメージです。
ドストエフスキーが人間の内面の奥深く奥深くの深淵に潜っていく感じだとすれば、トルストイは空高く、はるか彼方まで広がっていくような空間の広がりを感じます。
深く深く潜っていくドストエフスキーと高く広く世界を掴もうとするトルストイ。
二人の違いがものすごく感じられたのが『戦争と平和』という作品でした。
万人におすすめできる作品ではありませんが、凄まじい作品であることに間違いはありません。一度読んだら忘れられない圧倒的なスケールです。巨人トルストイを感じるならこの作品です。
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10 ドストエフスキー 『カラマーゾフの兄弟』
『カラマーゾフの兄弟』はドストエフスキーの晩年に書かれた生涯最後の作品です。
ドストエフスキーはこの作品で生涯変わらず抱き続けてきた「神と人間」という根本問題を描いています。
さて、この小説における重大な山場が「大審問官の章」であります。
私自身、この本を初めて読んだのは20歳の冬です。宗教の知識も浅い未熟者だった私がその時どこまで読み込めていたのかはわかりません。
しかしこの「大審問官の章」は私にとてつもない衝撃を与えることになりました。
ここまで痛烈に宗教を攻撃する言葉を私は初めて目にしたのでした。しかもその言葉を吐いているのがカトリックの高位聖職者たる大審問官であり、こともあろうにその相手はあのイエス・キリストであります。
大審問官は異端者を火あぶりにする責任者です。その彼がキリストを攻撃するのです。なんという逆説でありましょう!
しかしその大審問官も根っからのキリスト批判者ではありませんでした。いや、むしろかつては熱烈なキリスト讃美者でした。キリストのために生き、キリストの説く自由な信仰を熱烈に求め修行していたのです。
ですが最後にはカトリック側についてしまったのです。彼にも抗いようのない苦しみや葛藤があったのです。
この辺の描写にも私は唸らされるわけであります。
当時の私は知ってはいませんでしたが、ドストエフスキー自身はロシア正教を熱心に信仰していました。ドストエフスキーは熱烈に信仰を求めたからこそ、信仰上の問題を極限まで突き詰めて論じていったのです。表面上は激烈なまでに無神論的なこの「大審問官の章」ですが、実はこの章があるからこそ、後の展開が開けてくるのです。
さて、「大審問官の章」についてここまで述べてきましたが、当時「宗教とは何か」「オウムと私は何が違うのか」と悩んでいた私の上にドストエフスキーの稲妻が落ちたのです。
私は知ってしまいました。もう後戻りすることはできません。
私はこれからこの「大審問官の章」で語られた問題を無視して生きていくことは出来なくなってしまったのです。
これまで漠然と「宗教とは何か」「オウムと私は何が違うのか」と悩んでいた私に明確に道が作られた瞬間だったのです。
私はこの問題を乗り越えていけるのだろうか。
宗教は本当に大審問官が言うようなものなのだろうか。
これが私の宗教に対する学びの原点となったのでした。私が当ブログで「親鸞とドストエフスキー」というテーマで世界文学や歴史の本を更新し続けてきたのもここに大きな理由があります。以下のまとめ記事でより詳しくお話ししていますのでぜひご参照ください。
『カラマーゾフの兄弟』はただ暗くて重いわけではありません。
しかも「難しい」というイメージがかなり先行していますが、実際に読んでみるとそこまで難しい表現は出てきません。言葉自体は読みやすいとすら言えるかもしれません。
たしかに、上巻の前半は忍耐が必要になります。正直に申しまして、前半はプロローグといいますか、中盤からの盛り上がりのための前準備のような内容です。(慣れてくるとこの箇所もものすごく面白くなってきます。いや、むしろここにこそドストエフスキーの巧みな小説技巧がつぎ込まれており、私はここにも最近魅力を感じるようになってきました)
もしかしたら、ここで挫折してしまう人が大半なのかもしれません。
ですがここを辛抱すると上巻の後半から一気にエンジンがかかってきます。
ここまで辛抱強く読んできた方なら、これまで溜めていたエネルギーが爆発するがごとく一気にドストエフスキーの筆の勢いに呑み込まれていくことになるでしょう。
中巻下巻に入ってもその勢いは止まることはありません。きっと抜け出せなくなるほど没頭すること請け合いです。それほどすごいです。この作品は。
上巻の前半部分さえ突破すれば後はもう怒涛のごとしです。
決してこの作品は難しいのではありません。難しいのではなく、深いのです。(この作品についてもっと知りたい方はぜひ「『カラマーゾフの兄弟』はなぜ難しい?何をテーマに書かれ、どのような背景で書かれたのか~ドストエフスキーがこの小説で伝えたかったこととは」の記事をご参照ください)
『カラマーゾフの兄弟』が発表されてから120年の月日が経ってもなお変わらずに多くの人から愛され続けているのはそれなりの理由があるのです。
この物語そのものが持つ魅力があるからこそ、読者に訴えかける何かがあるからこそ、こうして読み継がれているのだと思います。
私の中でこの作品は別格の存在です。私に最も強い影響を与えたのはこの本で間違いありません。
分量も多く、基礎知識も必要とされる手強い作品ですがぜひこの「世界最高峰の小説」を味わってみてはいかがでしょうか。
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おわりに
ここまで入門から上級編まで25作品をご紹介しました。
そのどれもが私の大好きな作品であり、ぜひおすすめしたい作品です。
当ブログではこれまで数多くの本を紹介してきました。そのどれもが私が自信を持っておすすめできる作品です。
今回ご紹介した25冊はその中でも選りすぐり中の選りすぐりの精鋭たちです。本当はまだまだご紹介したい作品がありますが泣く泣く選外となりました。マニアックな作品だったり万人受けしないという理由から外れた作品も当然あります。ですがマニアックだからこそ響く作品というのもやはりありますよね。当ブログではそんな作品たちもたくさん紹介していますのでぜひサイト内を覗いて頂けたらなと思います。
皆さんの読書のお役に立てたならば何よりも幸いでございます。
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