MENU

『ドストエフスキー、妻と歩んだ運命の旅~狂気と愛の西欧旅行』~文豪の運命を変えた妻との一世一代の旅の軌跡を辿る旅

ドストエフスキーの旅

【2026年追記】

私がこれまで書いてきた旅行記の中でも、特に思い入れの深いものがこの「ドストエフスキーの旅」です。

ドストエフスキーは新婚間もない妻アンナとロシアを離れ、ヨーロッパ各地を巡りました。それは幸福な新婚旅行などではありません。借金とギャンブル、病、貧困、そして最愛の子の死。二人は数々の苦難に見舞われます。

しかし、この旅が二人の運命を大きく変えることになります。

私は2022年、ドストエフスキー夫妻の足跡を追ってヨーロッパを旅しました。

これは単なる文学者の史跡巡りではありません。

一人の人間が妻とともに絶望の淵から立ち上がっていく、その旅路を追体験するための旅でした。

ここから全30記事にわたって、その軌跡を辿っていきます。


目次

上田隆弘『ドストエフスキー、妻と歩んだ運命の旅~狂気と愛の西欧旅行』~文豪の運命を変えた妻との一世一代の旅の軌跡を辿る旅

2022年11月初旬から12月末にかけて、私はヨーロッパを旅した。

ドイツ、スイス、イタリア、チェコ。

これらの国を私は巡ったわけだが、私がこれらの国を訪れたのはロシアの文豪ドストエフスキーゆかりの地であるからだ。

フョードル・ドストエフスキー(1821-1881)Wikipediaより

私はこの3年半、「親鸞とドストエフスキー」をテーマに学び続けてきた。そしてその集大成として私はこの旅を計画したのである。

本来はここで私がなぜドストエフスキーを学び始め、そして愛するようになったのかをお話しするのが筋だろう。

だがそれは以前当ブログでも紹介した。なのでここではその一覧記事を紹介するにとどめておく。

あわせて読みたい
「なぜ僧侶の私がドストエフスキーや世界文学を?」記事一覧~親鸞とドストエフスキーの驚くべき共通点 親鸞とドストエフスキー。 平安末期から鎌倉時代に生きた僧侶と、片や19世紀ロシアを代表する文豪。 全く関係のなさそうな2人ですが実は重大なつながりがあるとしたらいかがでしょうか。 このまとめ記事ではそうした私とドストエフスキーの出会いと、なぜ僧侶である私がドストエフスキーを学ばなければならないのかを紹介しています。

この一覧の記事の中でも特におすすめしたいのが「『カラマーゾフの兄弟』大審問官の衝撃!宗教とは一体何なのか!私とドストエフスキーの出会い⑵」と「親鸞とドストエフスキーの驚くべき共通点ー越後流罪とシベリア流刑」の記事だ。私がなぜ「親鸞とドストエフスキー」をテーマに学んでいるかが端的にわかる記事となっている。

とは言え、やはり記事を書いた私としては全体の流れを読んで頂ければこれほどありがたいことはない。恐縮ではあるがぜひはじめから通して読まれることをおすすめしたい。

さて、というわけで私はこの「親鸞とドストエフスキー」の学びの集大成としてこの旅を計画することとなった。

だが、多くの方はこう思われたのではないだろうか。

「ロシアの文豪ドストエフスキーを学ぶならロシアに行けばいいではないか」

そう。まさにそうなのだ。

実は私もほんの一年前まではそう思っていた。ドストエフスキー研究の仕上げはやはりロシアに行かねばならない、そう思っていたのだ。

しかし世界情勢がそれを許さなかった。ロシアによるウクライナ侵攻で世界は変わってしまった。

ロシアによる侵攻は言語道断としか言いようがない。これまで私はドストエフスキーをきっかけにロシアの歴史や文化を学んできた。そして今も学んでいる。だが、だからといって今回の侵攻が正当化されることなど到底私も認めることができない。ロシアの文学や芸術はそうした圧政や暴力に反対する人々が紡いできた歴史であったはずだ。しかしロシア帝国やソ連の時と同様、暴力でそれはねじ伏せられてしまった・・・

ソ連や現代ロシアの歴史を学んでいると、つくづく同じことが繰り返されていることを感じる(もちろん、形を変えてではあるが)。

そんな世界情勢の中、私は元々考えていた別のプランをメインに据えることを考え始めた。

実はロシア国内のドストエフスキーゆかりの地を巡るという計画と並行して、ヨーロッパ内のドストエフスキーゆかりの地を巡りたいという思いが私の中に強烈にあったのだ。

この世界情勢の中、実行できるとしたら間違いなくこちらだ。しかも、ドストエフスキーの学びも最終盤に入り、私の中で「ヨーロッパとドストエフスキー」というテーマに関心の比重が移っていたのも事実だった。

では、なぜ私がヨーロッパのドストエフスキーゆかりの地に強い関心を持つようになったのか、そのきっかけこそドストエフスキーの奥様アンナ夫人による伝記『回想のドストエフスキー』だった。

あわせて読みたい
アンナ・ドストエフスカヤ『回想のドストエフスキー』あらすじと感想~妻から見た文豪の姿とは。これを... 私はこの本を読んでドストエフスキーを心の底から好きになりました。 ギャンブル中毒になりすってんてんになるダメ人間ドストエフスキー。生活のために苦しみながらも執筆を続けるドストエフスキー、愛妻家、子煩悩のドストエフスキーなど、意外な素顔がたくさん見られる素晴らしい伝記です。ぜひ読んでみて下さい。きっとドストエフスキーのことが好きになります!

私がドストエフスキーを学ぼうと思ったきっかけは『カラマーゾフの兄弟』だった。

だが心の底からドストエフスキーを好きになったのはこの『回想のドストエフスキー』のおかげだったのだ。

そしてこの本の中で説かれるドストエフスキーとアンナ夫人の西欧旅行。これが私の心を打ったのだ。新婚早々二人はロシアを離れてヨーロッパへと旅立った。そして4年に及ぶ西欧滞在で2人の運命は大きく変わることになる。この旅がなければ『白痴』以降の大作、つまり『悪霊』も『未成年』も『カラマーゾフの兄弟』も生まれることはなかっただろう。それほどこの旅はドストエフスキーにとって大きなものがあったのだ。

そして何よりこの旅を通して2人は強く結ばれ、ドストエフスキーは苦しみ抜いた前半生と全く異なる幸福な家庭生活を過ごすことができたのだ。ドストエフスキーといえば重く陰鬱なイメージがあるかもしれないが、彼の晩年は幸福そのものだったのである。これは私にとっても大いに救いとなった事実であった。

そしてドストエフスキーを学び始めてすでに3年以上が経った今、私は強く感じている。「私はアンナ夫人と共にいるドストエフスキーが好きなのだ」と。

このように、2人が強く結びつくきっかけとなったのがこのヨーロッパ旅行であり、この旅の最中に『悪霊』、『未成年』、『カラマーゾフの兄弟』の萌芽が生まれているということも見逃せない。

そう考えるとこの旅がドストエフスキーにとってどれほど巨大な意味を持つかが見えてくるのではないだろうか。

また、私はドストエフスキーを学ぶ過程でヨーロッパの歴史や文化も学ぶことになった。『レ・ミゼラブル』のようなフランス文学からローマ帝国の歴史、ルネサンス、フェルメール、メンデルスゾーンなど様々な地域、ジャンルを超えて学んできた。一見全く異なるジャンルのものに見えるかもしれないが私にとっては「親鸞とドストエフスキー」というテーマに一直線に繋がる大切な存在だ。全ては繋がっている。

ヨーロッパの歴史や文化を学んだ上でドストエフスキー夫妻の旅を追体験することは、私にとって必ずや大きな意味を持つことだろう。そう思い私はこの旅を決めた。

そして同時にこの旅を通してドストエフスキーの人となりを知ってもらえたらきっと皆さんの彼に対するイメージは変わることだろう。私はドストエフスキーが好きだ。そしてそれは彼の人柄やアンナ夫人と過ごした幸福な結婚生活があったからこそだ。暗くて厳めしい文豪ドストエフスキーではない、素顔のドストエフスキーを知って頂けたら何よりも嬉しく思う。

もちろん、タイトルにも書いたがドストエフスキーは狂気の作家だ。正直、彼はダメ人間中のダメ人間でもあった。旅の最中ギャンブル中毒でどれほど窮地に陥ったことか。さらには嫉妬深くて癇癪持ちの一面もあった。そしててんかんの持病に苦しみ続けた病人でもあった。

だが、それにも関わらずドストエフスキーとアンナ夫人は強い絆で結ばれ愛し合った。これには驚愕するほかない。信じられないようなことが起こったのだ。

この旅ではドストエフスキーがかつてのダメ人間から復活していく過程も見ていくことになる。彼はこの旅でまさに絶望的な精神状態から復活した。そして妻アンナ夫人の成長にも驚くことだろう。何と言ってもアンナ夫人は若干20歳でこの旅に出た。そして旅を終えた4年後にはそれこそドストエフスキーが全幅の信頼を置くほどの精神的成熟を見せることになる。二人の奇跡のような旅路を巡ることは超一級の小説を読むにも等しい冒険だ。

これから先私は『ドストエフスキー、妻と歩んだ運命の旅~狂気と愛の西欧旅行』という伝記と旅行記のハイブリッド型の記事を書いていく。基本的には上で紹介した『回想のドストエフスキー』をベースに彼らの旅路を紹介し、実際に現地を訪れた私の所感も合わせてお話ししていく。

まずは次の記事でドストエフスキーが妻アンナ夫人と出会うまでの前半生をざっくりと振り返っていく。彼の波乱万丈な人生を短くまとめるのはなかなかに難しいことではあるがまずはやってみよう。ドストエフスキーがいかに苦しい人生を送ってきたかを知れば、アンナ夫人との出会いがいかに幸運なものであったかがはっきりするだろう。

続く

Amazon商品ページはこちら↓

回想のドストエフスキー〈1〉 (みすずライブラリー)

回想のドストエフスキー〈1〉 (みすずライブラリー)

※以下、この旅行記の目次です

第一章 アンナ夫人との出会い――運命の結婚へ

1.妻アンナ夫人と出会うまでのドストエフスキー
2.ドストエフスキーとアンナ夫人との出会い
3.ドストエフスキーとアンナ夫人の恋のはじまり
4.文豪ドストエフスキーの一風変わったプロポーズ!
5.結婚初期のドストエフスキーの危機的な経済状況
6.ドストエフスキーが生涯苦しんだ持病てんかんの発作を目の当たりにするアンナ夫人
7.客だらけのドストエフスキー家の家庭状況と新婚早々親類からの嫁いびりに苦しむアンナ夫人

第二章 西欧への旅立ち――ギャンブル狂気と夫婦の危機

8.いよいよ旅の始まりへ
9.ドストエフスキー夫妻最初の滞在地ベルリン
10.ドストエフスキー夫妻のドレスデン滞在
11.妻を残しカジノの街ホンブルクへギャンブルに行くドストエフスキー
12.バーデン・バーデンでの賭博者ドストエフスキーの狂気
13.バーデン・バーデンでドストエフスキーゆかりの地を巡る
14.ドストエフスキーとアンナ夫人の結婚は運命だとしか思えない

第三章 スイスの日々――『白痴』とソーニャの誕生、そして死

15.ホルバインの『墓の中の死せるキリスト』に衝撃を受けるドストエフスキー
16.『白痴』執筆開始と名マネージャーアンナ夫人の誕生
17.共産主義、社会主義革命家を批判したドストエフスキー
18.ドストエフスキー夫妻待望の第一子ソーニャの誕生と早すぎた死
19.宗教改革の街ジュネーブでドストエフスキーゆかりの地を巡る
20.ドストエフスキー夫妻のヴヴェイ滞在

第四章 イタリアへ――苦難の中で続く旅と創作

21.ドストエフスキーお気に入りのミラノ大聖堂と夫妻のイタリア滞在の始まり
22.フィレンツェでのドストエフスキーの日々
23.美しき水の都ヴェネツィアにドストエフスキーは何を思ったのだろうか

第五章 再生――ギャンブルとの決別、帰国、そして『カラマーゾフの兄弟』へ

24.プラハに滞在したかったドストエフスキー夫妻
25.カジノの街ヴィースバーデンでドストエフスキーのギャンブル中毒が消滅!!
26.ドストエフスキー夫妻の4年ぶりの帰国!
27.帰国後のアンナ夫人の無双ぶり!借金取りも撃退!
28.ドイツの温泉地バート・エムスのドストエフスキーゆかりの地を訪ねて
29.最愛の子アリョーシャの急死と『カラマーゾフの兄弟』のつながり
30.「ドストエフスキーの旅」を終えた私の思いと今後のブログ更新について

次の記事はこちら

あわせて読みたい
(1)妻アンナ夫人と出会うまでのドストエフスキー(1821~1866年「誕生から『罪と罰』頃まで)をざっく... この記事ではドストエフスキーが妻アンナ夫人と出会うまでの前半生をざっくりと振り返っていきます。彼の波乱万丈な人生を短くまとめるのはなかなかに難しいことではありますが、できるだけコンパクトに要点をまとめてみました。 ドストエフスキーがいかに苦しい人生を送ってきたかを知れば、アンナ夫人との出会いがいかに幸運なものであったかがはっきりすることでしょう。


前の記事はこちら

あわせて読みたい
【パリ・ジョージア旅行記】(31)あとがき~パリ・ジョージアの旅を終えて 「トルストイの原点はカフカースにあったのではないか」そんな仮説を立てて私はここまでやって来ました。 そして実際にトルストイが見たであろう景色や山の民に私は思いを馳せることになりました。 それが結果的にドストエフスキーと結びついたのです。 「ドストエフスキーはトルストイは正反対である。だから一方を学べば他方も学ぶことになる」 まさにその通りでした。 この記事でこのパリ・ジョージアの旅を総括します。これにて私の『秋に記す夏の印象』も完結です。

ドストエフスキーのおすすめ書籍一覧はこちら

「おすすめドストエフスキー伝記一覧」
「おすすめドストエフスキー解説書一覧」
「ドストエフスキーとキリスト教のおすすめ解説書一覧」

関連記事

あわせて読みたい
僧侶の私がなぜドストエフスキーを学ぶのか~私とドストエフスキーの出会い⑴ 地元を離れた東京での学生時代。 「お坊さんになるなら『カラマーゾフの兄弟』を読んでみてほしい」 偶然出会ったある人の言葉が私にとって一生を変えるほどの衝撃をもたらすことになりました。 私とドストエフスキーの初めての出会いをこの記事ではお話ししています。
あわせて読みたい
ドストエフスキーおすすめ作品7選!ロシア文学の面白さが詰まった珠玉の名作をご紹介! ドストエフスキーといえば『罪と罰』や『カラマーゾフの兄弟』など文学界では知らぬ者のない名作を残した圧倒的巨人です。彼は人間心理の深層をえぐり出し、重厚で混沌とした世界を私達の前に開いてみせます。そして彼の独特な語り口とあくの強い個性的な人物達が織りなす物語には何とも言えない黒魔術的な魅力があります。私もその黒魔術に魅せられた一人です。 この記事ではそんなドストエフスキーのおすすめ作品や参考書を紹介していきます。またどの翻訳がおすすめか、何から読み始めるべきかなどのお役立ち情報もお話ししていきます。
ドストエフスキーの旅

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

2019年「宗教とは何か」をテーマに80日間で13カ国を巡り、その旅をもとにした世界一周記を全国9紙で連載。
現在は北海道新聞「みなみ風」で『インド・スリランカ仏跡紀行』を連載中。

コメント

コメント一覧 (2件)

  • 十九世紀ロシア農村司祭の生活、ただいま、Amazonで注文しました。
    豊富な読書の指標、ありがとうございます。

    • コメントありがとうございます!
      嬉しいお言葉ありがとうございます!
      『十九世紀ロシア農村司祭の生活』という本には私も驚きました。やはり時代背景を知れるのは興味深いですよね。
      今後ともよろしくお願いします!

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください。

目次