ゲーテ『ファウスト』あらすじと感想~ゲーテの代表作の面白さを味わうために必要なものとは

ドイツの大詩人ゲーテを味わう

ゲーテ『ファウスト』あらすじ解説~世界文学の金字塔を味わうために

ゲーテ(1749-1832)Wikipediaより

今回ご紹介するのはゲーテにより発表された『ファウスト』第一部、第二部です。

私が読んだのは新潮社版、高橋義孝訳、平成26年71刷版『ファウスト』です。

早速この作品のあらすじを見ていきましょう。

世界の根源を究めようとする超人的欲求をいだいて、ファウストは町へ出る。理想と現実との乖離に悩む彼の前に、悪魔メフィストーフェレスが出現、この世で面白い目をみせるかわりに、死んだら魂を貰いたい、と申出る。強い意志と努力を信じる彼は契約を結び、若返りの秘薬を飲まされて、少女グレートヒェンに恋をするが一前後六十年の歳月をかけて完成された大作の第一部。(第一部)

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追求の精神の権化ファウストは、行為の人として、〝大きな世界〟での遍歴に入る。享楽と頽廃の宮廷から冥府に下った彼は美の象徴へレネーを得るが、美はたちまち消滅してしまう。種々の体験を経た後、ついに彼は、たゆまぬ努力と熱意によって、人間の真の生き方への解答を見いだし、メフィストーフェレスの手をのがれて、天上高く昇る。文豪ゲーテが、その思想を傾けつくした大作の完結編。(第二部)

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ゲーテの『ファウスト』といえば言わずと知れた世界文学の傑作です。

ですが、実際にこれを読んだ人となるとかなり少ないのではないかと思います。この現象は『ドン・キホーテ』『レ・ミゼラブル』などの名作と似ているのではないかと思います。

有名ではあるがあまり読まれない『ファウスト』。

そしてこの作品が厄介なのは、とにかく理解するのが難しいという点です。いざ読んでみればすらすら読めてしまう『ドン・キホーテ』とは違った雰囲気があるのです。

かく言う私も『ファウスト』には何度も苦しめられました。

始めてこの作品を読んだのは大学生の時。その時は読んだはいいもののさっぱりわからず、ただ読み切っただけという状態でした。そこから大学院生時代にリベンジするも、その時も何が面白いのかさっぱりわからずじまいでした。

そして昨年、ツルゲーネフの『ファウスト』を読んだ流れでゲーテに再チャレンジしたところ、この時はようやく何が書かれているのか、その内容や物語の大まかな流れが把握できるようになったのを感じることができました。しかしやはり「面白い!」という気持ちまでは湧いてこなかったというのが正直なところでした。世界文学を学んで色々な知識を得てからのリベンジでしたので「今度こそは」と期待していたのですがそれでも手が届かない作品だったのです。

当ブログでここまでゲーテを紹介してこなかったのもそうした私の苦手意識があったからこそでした。

ですが、前回の記事で紹介した小栗浩著『人間ゲーテ』を読んだことで、『ファウスト』を全く違った目線で見ることができました。また、当ブログでは紹介しませんでしたが、ルドルフ・シュタイナーの『ゲーテ 精神世界の先駆者』という本の『ファウスト』解説も非常に有益でした。

そしてエッカーマンの『ゲーテとの対話』の中にもゲーテ自身が『ファウスト』への解説をしているところがいくつもあり、これも非常に助かりました。ゲーテが何を意図して『ファウスト』を書いたのか、そして読者に何を感じてほしいかを著者本人から聞けるのは大きな助けになりました。そのひとつを紹介します。

ゲーテはH氏に、ドイツ文学ではどんなものを読んだか、とたずねた。「『エグモント』を読みました」とH氏はこたえた、「この本は、ひじょうに面白かったので、三回もくり返し読んだほどです。また『トルクヴァート・タッソー』も、たいへん楽しく読みました。今、私は『ファウスト』を読んでおりますが、これはすこし難しいと思います。」ゲーテは、この最後の言葉をきいて笑った。「もちろん」と彼はいった、「私なら、『ファウスト』はまだあなたにおすすめしませんよ。あれはとんでもない代物で、あらゆる日常の感覚を超越しています。けれども、私にたずねないで自分から読みはじめたのですから、ひとつどこまで読みとおせるか、やってごらんなさい。ファウストは、じつに珍しい個性の持主だから、その内面の状態を追感できる人は、ほんの僅かしかいません。メフィストーフェレスの性格にしても、皮肉のせいで、それに偉大な世界観察の生きた結果でもあるために、やはりなかなかの難物です。しかし、まあ、どのような光があなたの心にひらめくか、よく見つめることですね。

岩波書店、エッカーマン、山下肇著『ゲーテとの対話(上)』P201

ここは『ファウスト』の難しさがどこにあるのかについて話された箇所ですが、他にも『ファウスト』に対する言及がいくつも出てきますので『ゲーテとの対話』は必読だと思います。どこに着目して『ファウスト』を読めばよいのかがかなりすっきりします。

これら参考書を読んで感じたのは、「ただ『ファウスト』のみを読んだだけではその面白さはなかなかわからない」ということでした。

やはり当時の社会情勢や時代背景、思想、文学、芸術の流れを知っておかないと十分に楽しむことができないのです。

最近、当ブログではニーチェを学んだ流れで、ショーペンハウアーホフマンカントヘーゲルなどドイツの哲学者、文学者についての本を紹介してきました。

それらの本には当時のヨーロッパやドイツの時代背景が詳細に描かれていました。

それらを学んでから上に紹介したゲーテの参考書を読み、いよいよ『ファウスト』に取り掛かってみると、前に読んだ時とはがらっと変わった世界が私の前に現れました。

自分でも驚いたのですが、『ファウスト』が面白いんです。読んでいてわくわくしてくるんです。これには本当に驚きました。そして何より、ものすごく嬉しかったのです。10年越しでようやく『ファウスト』を「面白い!」と思うようになれた。これはそれこそ小躍りしたくなるほどの喜びでした。

この記事では具体的に何を知ればファウストが面白くなるかは長くなってしまいますのでご紹介できませんが、エッカーマンの『ゲーテとの対話』、小栗浩著『人間ゲーテ』、ルドルフ・シュタイナーの『ゲーテ 精神世界の先駆者』の『ファウスト』解説を読むこと。これに尽きます。私の口から短い要約的な解説を聴くよりも、こうした本からじっくりその解説を味わった方が確実に有益です。

『ファウスト』はたしかに難しい。ですがそれはただ難解だからというより、「いかにして読むべきか」、そして「この作品が書かれた背景」が現代を生きる私たちにはわかりにくいということなのです。ですのでこれさえわかってしまえばものすごく楽しむことができます。

よくよく考えてみれば『ファウスト』が発表されたことで当時の人はそれこそこの作品に夢中になったわけです。それは当時の人が今より圧倒的に頭が良かったというより、その時代の人々の心に響く内容がこの作品に込められていたということなのです。(もちろん、文学としての完成度、その芸術的崇高さも世界最高峰なのも間違いありませんが)

これまで、『ファウスト』は私の中で苦手作品の筆頭にある存在でした。

しかし今となっては私の大好きな作品のひとつになりました。この本を「面白い!」と感じられた瞬間の喜びは生涯忘れないと思います。それほど嬉しかったのです。

何遍立ち向かってもわからなかったものがわかるようになる。面白いと思えるようになる。

この快感は読書の最高の喜びのひとつだと思います。

今回の記事では『ファウスト』の具体的な内容や解説はお話ししませんでしたが、私がこの作品の面白さに気づいたきっかけや喜びをお話しさせて頂きました。ぜひ、解説書を読み、そこから『ファウスト』に立ち向かって行ってください。丸腰では太刀打ちできない存在ですが、背景がわかればぐっと身近な存在になります。そしてこの作品が与えてくれる読書の喜びやパワーをぜひ感じて頂ければなと思います。

それほど主人公のファウストの存在は力強く、英雄的な存在です。そして彼を誘惑する悪魔メフィストーテレスの魅力も素晴らしいです。

本当はそうした魅力をひとつひとつ紹介した方がよかったのかもしれませんが今回はここまでにしておきます(笑)

以上、「ゲーテ『ファウスト』あらすじと感想~ゲーテの代表作の面白さを味わうために必要なものとは」でした。

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