太宰治『走れメロス』あらすじと感想~教科書でもお馴染みの名作を大人になってから読んでみると・・・!

走れメロス 三島由紀夫と日本文学

太宰治『走れメロス』あらすじと感想~教科書でもお馴染みの名作を大人になってから読んでみると・・・!

今回ご紹介するのは1940年に太宰治によって発表された『走れメロス』です。私が読んだのは新潮社、20203年第百五刷版『走れメロス』所収版です。

早速この作品について見ていきましょう。

それだから、走るのだ。信じられているから走るのだ――。
友情、青春、愛。大人になって再読したい。誰もが親しんだ名作を。
表題作ほか、文学的、芸術的豊かさに溢れた「中期太宰」の魅力を存分に味わう。


人間の信頼と友情の美しさを、簡潔な力強い文体で表現した『走れメロス』など、安定した実生活のもとで多彩な芸術的開花を示した中期の代表的短編集。

Amazon商品紹介ページより
太宰治(1909-1948)Wikipediaより

太宰治の『走れメロス』は言わずと知れた名作中の名作です。学校の教科書でもお馴染みですよね。

ただ、学校を出てからというもの、大人になってから太宰作品を読むとなるとこれがほとんど機会がない。かく言う私も三島由紀夫を学ぶ流れで33歳にしてようやく太宰作品を手に取ることになりました。

『走れメロス』はほとんど誰しもがそのストーリーを知り、一度は読んだことがある名作ではありますが、大人になってから読むというのはほとんどない作品なのではないでしょうか。

さて、この物語の流れは民を虐げる暴君に立ち向かった結果処刑を宣告されるも、親友を身代わりに3日以内に戻ってくるという約束をメロスが取りつけたことから始まります。なぜ3日なのか。それは愛する妹の結婚式を執り行うためでした。メロスは好漢です。自分のことよりも誰かのために動く男なのです。(その身代わりにされた親友は気の毒なことでしたが)

さて、無事に妹の結婚式を執り行い、身代わりの親友を救うためにメロスは急ぎ帰ります。しかしメロスには運がなかった!大雨で橋は崩落し、さらには盗賊に襲われ、さすがの英雄メロスも倒れ込みます。万事休す。もはや約束は守れぬか・・・

しかし「ふと耳に、潺々せんせん、水の流れる音」が聞こえ、メロスは息を吹き返します。体力の限界だった身体も、弱った心も奮い立たせてメロスは走り出します。走れメロス!友を救うために走るのだ!

これがおおまかな流れになります。皆さんもきっと思い出すものがあるのではないでしょうか。

やはり大人になってから読んでもこの作品はぐっと来ます。わかっていてもうるっと来てしまうのですよね。

この作品について巻末では次のように解説されています。

『走れメロス』は「新潮」昭和十五年五月号に発表された。ギリシアのデーモンとフィジアスという古伝説によったシラーの『担保』という詩から題材をとっている。人間の信頼と友情の美しさ、圧政への反抗と正義とが、簡潔な力強い文体で表現されていて、中期の、いや太宰文学の明るい健康的な面を代表する短編である。多くの教科書に採用され、またしばしばラジオなどで朗読され、劇に仕組まれ、太宰の作品の中でもっとも知られている。しかし単に明るいだけではなく、暗さ、不安の中から迷い、苦しみに耐えて、はじめて息吹いた健康さであり、信頼であり、明るさであるところに、この作品の深い感動の奥行きがある。古伝説やシラーの詩に比較すると、いかにも太宰らしい現代的な心理描写や含羞が見られるが、それらは少しもこの作品の基調をなす古典的な美しき、強さを損っていない。親友檀一雄と旅し、共に金がなくなったときの苦しい体験が、この作品のきっかけになっていると言う。太宰は『走れメロス』について「青春は、友情の葛藤であります。純粋性を友情に於いて実証しようと努め、互いに痛み、ついには半狂乱の純粋ごっこに落ちいる事もあります」(みみずく通信)と述べている。

新潮社、太宰治『走れメロス』P292-293

この解説の中でも、私は「人間の信頼と友情の美しさ、圧政への反抗と正義とが、簡潔な力強い文体で表現されていて、中期の、いや太宰文学の明るい健康的な面を代表する短編である」という言葉がとても印象に残っています。

『走れメロス』は明るいのです。健全な肉体、爽やかな友情、よりよき目的を果たす責任感などなど、私たちを感動させる理想的な物語が語られます。

ただ、教科書で読んだ時のようにこの作品を単体を読んだ場合はそれでよいのでありますが、よくよく大人になってからこの作品を考えてみると、この『走れメロス』もあの太宰治が書いたものだということをどうしても意識してしまいます。

と言いますのも、太宰治はこの小説を書く前の時期にアルコールや薬物依存などで破滅的な生活を送っており、さらには精神病棟にまで入れられていたという状況にあったのです。『走れメロス』や『富嶽百景』『駆込み訴え』などの傑作短編を書いていた頃というのは井伏鱒二の助けを得て療養し、再出発に向けての日々を過ごしていた頃でした。つまり『走れメロス』の明るい雰囲気というのはその時の太宰自身の境遇とも重なってくるのです。

しかしその後、『斜陽』で一躍文壇のスターとなったものの、このタイトル通り斜陽のごとく太宰の生活も再び破滅に向かっていきます。そして自らを烙印するかのように『人間失格』を書き上げ、そのまま自殺してしまいます。

『走れメロス』はたしかに明るい作品です。しかし、後の太宰の人生を考えるとどこかその明るさに悲しさを感じてしまう私がいます。『走れメロス』の理想的な世界観があまりに美しいが故に、太宰の破滅がそこに予感されるような気がするのです。

これは大人になってから人生の色々なことを知っていくにつれてもっと感じていくようなものなのかもしれません。人生の酸いも甘いも知った上でこの明るい名作が投げかけてくるものを感じていく。これは実に贅沢な読書体験です。大人だからこそ楽しめる『走れメロス』なのかもしれません。

もちろん、

オススメは、何と言っても『走れメロス』。何度読み返しても、話がわかっていても、この底なしに人間の心の美しさを賛美した短編には泣かされる。

意外なことに、「メロスは激怒した」と、三人称の正攻法の文体で始まる。けれども、盛り上がってくるのは、「私は、今宵殺される。殺される為に走るのだ」とか、「私は信頼されている」などの一人称の語りの部分から。いつの間にか、読者はメロスと一緒に走っている。そして、いつの間にか、泣いている。

新潮社、『文豪ナビ 太宰治』P26-27

と『文豪ナビ 太宰治』で語られるように、細かいこと抜きでとにかく感動できる名作としてやはり『走れメロス』は圧倒的な存在です。

何歳で読もうがこの作品が名作であることは間違いありません。

分量も少ないですし、文庫本で非常に手に取りやすい作品です。この『走れメロス』には当ブログでも紹介した名作短編『富嶽百景』『駆込み訴え』などの珠玉の芥川作品も収録されています。

ぜひ合わせて読むことをおすすめします。

ほぼ20年ぶりに読んだ『走れメロス』。実に実に素晴らしい作品でした。

以上、「太宰治『走れメロス』あらすじと感想~教科書でもお馴染みの名作を大人になってから読んでみると・・・!」でした。

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