カフカの代表作『変身』あらすじと感想~カフカの不思議な世界観を体感

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カフカの代表作『変身』あらすじと感想~カフカの不思議な世界観を体感

今回ご紹介するのは1915年にフランツ・カフカによって発表された『変身』です。

私が読んだのは新潮社版、高橋義孝訳の『変身』令和二年第120刷版です。

こう書いてみて驚きですが第120刷版まで出ているというのはものすごいことですよね。どれだけ多くの人がこの作品を読んできたのだろうとはっとする思いでした。

では早速この作品について見ていきましょう。

ある朝、気がかりな夢から目をさますと、自分が一匹の巨大な虫に変わってしまっているのに気がついた男グレーゴル・ザムザ。なぜ、こんな異常な事態になってしまったのか……。その謎は究明されぬまま、ふだんと変わらない、ありふれた日常がすぎていく。事実のみを冷静につたえる、まるでレポートのような文体が読者に与えた衝撃は、様ざまな解釈を呼び起こした。海外文学最高傑作のひとつ。

新潮社、カフカ、高橋義孝訳『変身』裏表紙

この作品の出だしはものすごく有名です。ある日目を覚ますと自分が巨大な虫に変わっていた。この話はきっと誰しもが耳にしたことがあると思います。せっかくなのでこの作品の出だしを見ていきましょう。

ある朝、グレーゴル・ザムザがなにか気がかりな夢から目をさますと、自分が寝床の中で一匹の巨大な虫に変っているのを発見した。彼は鎧のように堅い背を下にして、あおむけに横たわっていた。頭をすこし持ちあげると、アーチのようにふくらんだ褐色の腹が見える。腹の上には横に幾本かの筋がついていて、筋の部分はくぼんでいる。腹のふくらんでいるところにかかっている布団はいまにもずり落ちそうになっていた。たくさんの足が彼の目の前に頼りなげにぴくぴく動いていた。胴体の大きさにくらべて、足はひどくか細かった。

「これはいったいどうしたことだ」と彼は思った。夢ではない。見まわす周囲は、小さすぎるとはいえ、とにかく人間が住む普通の部屋、自分のいつもの部屋である。

新潮社、カフカ、高橋義孝訳『変身』P5

カフカといえば、よくわからない不条理な世界観を描くことで有名ですが、この出だしはまさしくそんなカフカの特徴がはっきりと示されています。

朝に目を覚まして自分が虫になっていたなら、通常では考えられない大事件のはずですが、それなのにこの語りではどこか淡々としている雰囲気がありますよね。普通では考えられない事態が日常の中に入り込んでくる。そしてそれが日常の世界の中に溶け込んでいくことに直面させられる。それがカフカの不条理な世界観の特徴です。

この作品について訳者は巻末の解説で次のように述べています。

『変身』は奇怪な小説である。ある朝、グレーゴル・ザムザは自分が一匹の巨大な虫に変身しているのに気付く。カフカの描写からすると、これはどうやら巨大なむかでといったほうがふさわしいかも知れない。人間が動物に変身するということは、童話の世界でならまだしも、普通の世界ではありえない。これが第一の不思議である。第ニの不思議は、グレーゴルの変身を周囲の人々が誰も不審に思わないということである。人々は、そのような現象は、当然のことながらありうることだと考えている。第三番目に、カフカが、なぜ変身したかを、まったく説明していないこと、これもまた不思議なことである。このような奇怪な事実を面前にして、読者は、ただ困惑し、自分の気持を整理することができない。

新潮社、カフカ、高橋義孝訳『変身』P128

まさしくこの解説にあるように、この小説ではなぜグレーゴルが虫になってしまったのかが全く語られません。しかもそれに対してグレーゴル含めてそこまでの疑問を持っていないこともまた不思議。もちろん家族はその変身に困惑し、すったもんだをし続けるのですが、その対応も私たちが想像する常識的な行動とはどうもずれています。

この不思議な世界観がカフカの魅力です。日常と不条理の奇妙な融合。そしてその違和感を感じつつもそれが当たり前のように動き続ける登場人物たち。

よくこんな作品を書けたものだなと読んでいて驚いてしまいました。どうやったらこんな筋書きを思いつくことができたのだろうと不思議に思ってしまいました。

普通なら主人公が虫になってしまったとしてそれを大事件にして、どうやったら元に戻れるかという筋書きにしてしまうと思うのです。そうすればそこから主人公の冒険が始まり、変身の謎や、仲間や敵との出会いから物語を膨らませることもできたはずです。むしろそれがフィクションの定番であります。

しかしカフカはそうはしませんでした。そこにカフカの独自性があり、後にこの作品が文学史上最高傑作のひとつとされる所以があるのだなと思いました。

こうしたカフカの独自性はどこから生まれてきたのか、彼の人柄にもとても興味が湧いてきました。

ユダヤ人商人の子として生まれたカフカ。チェコ人でありながらユダヤ人であることでそこに帰属を見出せない。そして当時のプラハの上流階級の多くはチェコ語ではなくドイツ語を使っていたため、彼もドイツ語を使わざるをえませんでした。言語も借りものであったというカフカ。自分は何者なのか、確固たるものを持てないカフカ。そして彼生来のナイーブな性格。作品もさることながら彼の生涯にもかなり独特なものを感じます。『変身』の巻末には彼の生涯についてもざっくりとしたわかりやすい解説があるので新潮社版はおすすめです。

『変身』はページ数にして100頁ちょっとの作品ですので、気軽に読むことができます。不思議な世界観で最初はとまどうかもしれませんが、慣れればすいすい読んでいくことができます。奇妙で不条理なカフカワールドを体感するには最適な作品です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「カフカの代表作『変身』あらすじと感想~カフカの不思議な世界観を体感」でした。

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