牛島信明『ドン・キホーテの旅』概要と感想~これを読めばドン・キホーテが面白くなる!ぜひおすすめしたい最高の入門書!
今回ご紹介するのは2002年に中央公論新社より発行された牛島信明著『ドン・キホーテの旅』です。
早速この本について見ていきましょう。
ドン・キホーテといえば、風車に突進するあの騎士かと、誰もがイメージを浮かべることができる。本書は、作品の全体と細部を丹念に読み解きながら、われらが遍歴の騎士の魅力に新たな光を投げかけるものである。従者サンチョ・パンサはもちろん、イエス・キリスト、芭蕉、フーテンの寅さんらを招き、この、人間の想像力が生みだした最高の果実をより深く味わおうというのである。愉快で斬新なドン・キホーテ入門の決定版。
Amazon商品紹介ページより
この作品は当ブログの2019年の世界一周記スペイン編の記事の中でも紹介した作品です。
これらの記事を書くにあたり参考にしたのがまさしく今回紹介している『ドン・キホーテの旅』になります。
著者の牛島信明氏は岩波版の『ドン・キホーテ』の訳者になります。
私は『ドン・キホーテ』が大好きです。
ですが最初からこの作品を好きだったわけではありません。
古典の名作ということでとりあえず読んでみようと初めて手に取った時は何が面白いのかさっぱりわからないくらい手応えのない読書になりました。
ですがそれもそのはず、作者のセルバンテスは一見不思議で愉快な冒険の中に裏のメッセージをふんだんに忍ばせるという手法を用いています。
つまり、小説の裏に隠されたメッセージを読み取れなければ単なる狂人ドン・キホーテのトラブル冒険記で終わってしまうのです。
となるとこの小説の何がすごいのかさっぱりわからないというのも当然のこと。これでは『ドン・キホーテ』の面白さ、奥深さは伝わってきません。
ですが、そんな『ドン・キホーテ』を読むにあたり救世主となるのが何を隠そう、この牛島信明著『ドン・キホーテの旅』という本になります。
この作品は本当に素晴らしいです。これを読めば散々苦戦した『ドン・キホーテ』が全くの別物になります。もう面白くて面白くてたまらないというくらいの大変身を遂げます。
『ドン・キホーテ』はパロディ作品です。表面上に出てくるものの裏を見れなければ面白くありません。
ではどうやってその裏を見ていくのか、どこにこの作品の面白さがあるのかということをこの本では丁寧に見ていきます。


目次にありますように様々なポイントからこの作品を見ていくのですがこれがまたどれも興味深い!「え!?そうなの!?」という面白い発見がどんどん出てきます。これは刺激的です。
漠然と読んでもまず気付くことができない『ドン・キホーテ』の面白さをこれでもかと解説してくれます。
この本を読めばまず間違いないです。私は自信を持っておすすめします。それほど面白い入門書となっています。
巻末のあとがきにはこの本が書かれた経緯が書かれているのですが、これがまた『ドン・キホーテ』を読む素晴らしい後押しになっていますので最後にこちらをご紹介します。
おそらく何事にも機縁というものがあるだろう。本書の出来にも思い出すに心楽しいそれがある。
拙訳の『ドン・キホーテ』が文庫化されてしばらくした頃、一面識もない方から電話をいただいた―いままで『ドン・キホーテ』には何度も挑戦しながらいつも途中で挫折していたが、今度の訳ではじめて読み通せた。とても面白かったので、ちょっと話がしたい。一度会わないか、というお誘いであった。訳者としてこれほど嬉しいことがあろうか。この誘いの主が実は中央公論新社の宮一穂さんであり、これがすべてのはじまりであった。
文庫本全六冊を携えて現れた宮さんは、そのページをたぐりながら、数カ月に及んだドン・キホーテ読書体験をいかにも楽しそうに話されたが、その本にはいくたの書き込みがなされていた。
最近文学が読まれないことを嘆くといったいまや定番ともいうべき話題から始まった談笑は、杯を重ねるに及んで、遂に、ドン・キホーテについてどんな形式でも構わないから何か書いてみないかということになった。(中略)
こうして原稿ができあがってからは、全面的に新書編集部の郡司典夫さんのお世話になった。実際、郡司さんはそもそもの題名から章題、さらに細部の記述にいたるまで多くの提案をされたが、そのほとんどが僕を首肯させた。読者にドン・キホーテの面白さを伝えるというねらいにとって、それらが効果的に思われたからである。
本書が読みやすいものになっているとすれば、それは郡司さんの力によるところが大きい。宮一穂さんに対するのと同様の心からなる謝意を表したいと思う。
この本が名のみ高くてあまり読まれることのない『ドン・キホーテ』を少しでも多くの読者に近づけることを期待しつつ。
中央公論新社、牛島信明『ドン・キホーテの旅』P219-221
何度も何度も読むのに挫折していた宮一穂さんさんが牛島訳の『ドン・キホーテ』で初めて読み通すことができた。そこからこの本は始まった。これは面白いエピソードですよね。
たしかに牛島氏の訳はとても読みやすく、味があります。私も牛島氏の『ドン・キホーテ』が大好きです。私がここまでドン・キホーテを好きになれたのも牛島氏の訳のおかげだと思います。初めて読んだ時はたしかにその真の面白さはわからなかったかもしれませんが、読みやすさという点では抜群だったのを覚えています。
そこからこの入門書を読んでからはその面白さに大はまりです。
「この本が名のみ高くてあまり読まれることのない『ドン・キホーテ』を少しでも多くの読者に近づけることを期待しつつ。」
と牛島氏は述べられておりますが、まさにこの本は本当に素晴らしい入門書です。
私もこの作品が世に広まることを心から願っています。ぜひぜひおすすめしたい1冊です。
以上、「牛島信明『ドン・キホーテの旅』~これを読めばドン・キホーテの面白くなる!ぜひおすすめしたい最高の入門書!」でした。
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