本好き僧侶が本気で学生におすすめしたい本10選~読書は必ず力になる!

ストラホフ修道院図書館 僧侶の日記

学生におすすめしたい本10選~読書は必ず力になる!本好き僧侶が名著を推薦!

今回の記事では「学生におすすめしたい本10選」ということで、これから社会に出ていく学生の皆さんにぜひおすすめしたい本をご紹介していきます。

私がこの記事を書こうと思ったのはまさに今年2023年から私自身が学生たちと接する上で感じたものがあったからでした。私は現在函館大谷短期大学の非常勤講師を務めています。その中で学生たちにもおすすめの本を紹介したりもしているのですが、それをまとめた記事があると目の前の学生たちだけでなく全国の学生達にもそれを伝えることができることに今さらながら思い当たったのでした。

中学、高校までは「ありのままが大切、個性が大切。みんな仲良く」と、いわば手厚く優しく守ってもらえた世界です(それですらスクールカーストやいじめなど過酷なことも多い)。ですが社会に出るとそれこそ誰も守ってくれないもっと厳しい世界が待ち受けています。「いやいや、そんなこと言ったって良い人だっているはずでしょ?」。もちろんそうです。ですがやはり中学高校の親や社会に守ってもらえる環境と比べるとあまりにギャップがあるのは事実だと思います。

そしてそういう場に出るにあたって自分の身を守る術やそこで闘っていくための心構えが必要になってきます。小手先のテクニックだけではどうにもならない世界があるのは残念ながら事実なのです。あえて厳しいことを言うようですが、現実はそんなに甘くありません。キラキラした成功者が「夢は叶います。あなたはあなたらしく生きていればいいのです」と言うのを鵜呑みにしては危険です。それを成し遂げるためにその成功者がどれほどの才能を持ち、どれほど恵まれた環境にいて、どれほどの努力をしてきたのかということも私たちは考えなければなりません(しかも、たとえ一見キラキラしていようとそれが本当に正当なものなのかという根本的な問題もあります。もし誰かを傷つけていたり、人を騙して生きていたとしたらどうでしょう)。

「あぁ、そう考えたらこの先やってけない。そんな辛い世界に生きる価値なんてあるのだろうか。嫌だな。辛いな」

そう思った方もきっと多いことでしょう。

ですが安心してください。

皆さんの生きる世界がどうであろうと、皆さんのものの見方や生き方は自分で選ぶことができます。それが大人になるということです。

私はあえて皆さんに世の中の厳しい面を先にお伝えしました。ですがそれは皆さんを怖がらせて委縮させるのが目的ではありません。皆さんが自分自身の置かれた状況をまずは認識して、そこからどうするのかを考えてほしかったからなのです。

大人になるということは受け身の世界から卒業することです。自分で自分の道を選び、そしてそれを自分の人生として引き受けていくことです。たしかに環境によってその生活は大きく左右されることでしょう。ですが人間それだけではないのです。

学生という時期はそうした大人に変わっていくための大切な準備期間です。この時期に何を学び何を実践したのかがこれからの人生に大きな影響を与えることになります。

専門的な知識や能力も当然大切です。学問やスポーツ、社会活動に打ち込むことも学生として大切な時間です(もちろん思いっきり遊ぶことも)。

ですがそれとは別に一人の大人として、人間として生きていく上で大切なことももちろんあるのです。今回の記事ではそんな人生にとって大きな意味を持つ内容が書かれたおすすめの本を皆さんに紹介したいと思います。

前置きが長くなってしまいましたが、では早速始めていきましょう。この記事ではおすすめ本の簡単な紹介を述べていきますが、興味のある方はそれぞれのリンク先でより詳しくその本についてお話ししていきますのでぜひそちらもご参照ください。

1 デール・カーネギー 『人を動かす』

まずはじめにお話ししたいのがこの本が書名で圧倒的に損をしているという点です。

『人を動かす』というタイトルは何か他人を自分の思うままに動かすかのようなややネガティブな印象を与えてしまいます。

この本の原著のタイトルは『HOW TO WIN FRIENDS AND INFLUENCE PEOPLE』で、大ざっぱに訳すならば『仲間を得て、人々に影響を与える方法』といったところでしょうか。たしかに「人々に影響を与える」という点から『人を動かす』という和訳のタイトルが付けられたのもわかるのですが、この書名を見ると利己的で怪しい自己啓発本なのではないかという警戒心を抱いてしまうのも事実なのではないでしょうか。少なくとも私はこれまでこの本を気軽に人に薦めることはできませんでした。この本を紹介したら自分がどう思われるか正直恐かったのです。

ですがこの本はそうした怪しいものではありません。

私がこの本を初めて手に取ったのは大学三年生の時で、自己啓発書と宗教の関係性について調べていたのがきっかけでした。当時私は自己啓発書に書かれているのはキリスト教や様々な宗教の教義から宗教色を抜いたものなのではないかという仮説を立てて様々な本を読んでいたのです。

そんな時に出会ったのがこの本でした。

この本は自己啓発書の中でも古典中の古典ということで私はその時も「この本もキリスト教の影響も強いのだろうな」という思いで読み始めたのですが、読み始めてすぐにこの本の奥深さに胸打たれることになりました。

「この本は只者ではない・・・!」

明らかに世に氾濫する怪しい本とは違います。

当時私は21歳の年です。まだまだ若く、言うならば尖っていたどうしようもない時期でした。

ですがこの本を読んで私自身の至らなさを猛省させられることになりました。うまくいかないことを周りのせいにして自分勝手に世界を見ていた自分。傲慢な自分。自分のものさしで勝手に他者を裁いていた自分。

この本は『人を動かす』というタイトルではありますが、私にとっては全くそれどころではありませんでした。自分は何と愚かな人間だったのかと読む度に猛省させられることになりました。この本に出てくる残念なパターンの人間がなんと自分に当てはまることか。私は自分自身で自分の人生を苦しいものにしていたのです。

この本ではとにかく様々な実例が展開されていきます。実際の生活における様々なシーンで「よく生きるとは何か」、「人間関係において大切なことは何か」、「他者と共存していくというのはどういうことなのか」ということを考えていきます。人間の機微、人間心理の奥深さをこの本では実例たっぷりで学ぶことができます。非常に読みやすい構成、文体ですので読書が苦手な方でもすらすら読めこと間違いなしです。

単なる小手先の人生テクニックとはまるで違います。「この本を読めばビジネスにも使えます。人を動かしてうまいことやりましょう」というものとは全く次元の異なるものがこの本では説かれます。もちろんそういう使い方もできなくはないですが、それはこの本の真価とまるで真逆のものだと私は思います。

この本はあくまで「自分自身のあり方」を問うてくる作品です。

『人を動かす』というタイトルはまさに本末転倒なのではないかと私は思ってしまいます。それを目的にこの本を購入したならばきっと驚くと思います。自己を問い、そのあり方が変わることで「結果的に」人間関係が変わりますよというのがこの本の大きな柱です。

この本に書かれたことを実行するのは簡単なことではありません。ですが私にとって自分の愚かさを徹底的に突きつけられたのがこの本でありました。21歳の若い時にこの本を読むことができたのは私にとってありがたい経験となりました。ぜひ若いうちに読むことをおすすめしたい名著です。

2 エイミー・E・ハーマン 『観察力を磨く 名画読解』

この本は「有名絵画を題材に私たちの観察力を養い、日々の生活にも応用していきましょう」ということをテーマにした作品です。

「絵画の見方を学ぼう」

これ自体は特に何ら新しいことでも、珍しいことでもありません。これまでこうしたテーマでそれこそ無数の本が出版されてきました。ですがこの本はそうした無数の本とは一味違います。

著者が、

「世界に対するあなたの見方をひっくり返したい。うまくいけば、思いもよらなかったところに色や光、ディテールやチャンスを見いだすことができるだろう。何もないと思っていた空間に、命や可能性、そして真理が見つかるだろう。これ以上ないほどの混沌のなかに、秩序と答えが見つかるだろう。そうなれば二度と、昔のように世界を捉えることはなくなる。」

「大事なものを見る力は世界を変える。本書を読めばあなたも、ずっと目を閉じて生きてきたことに気づくのではないだろうか。」

と言うのもまさにその通りです。この本で学んだことはまさに私たちの世界の見え方を一変させてしまうほどの破壊力があります。

ただ漠然と「観察力を磨こう」と過ごしていてもなかなかすぐには身に付きません。ですがはっきりと意識して観察を続けるなら、確実に世界の見え方が変わります。

「見る」と「観る」の違いがこんなにも大きいものだったのかと私は衝撃を受けることになりました。

これは勉強をする上でも、仕事をする上でも、いや、生きること全てにおいても大切な技術です。これはぜひ多くの人に体感して頂きたい驚異のプログラムです。

「名画を観る」というと小難しく感じるかもしれませんが安心してください。そのような小難しい知識や哲学用語などは一切出てきません。問題は、「あなたがその絵の中に何を見たか」ということそれに尽きます。名画はあくまで観察力を磨く材料に過ぎません。絵画の知識がなくとも全く問題ありません。むしろ何もない方が何の先入観もなく観れるのでよいかもしれません。

まずはとにかく読んで実践してみて下さい。

これはぜひできるだけ若いうちに読むことをおすすめします。なぜならこれは「一生ものの財産」になるからです。20歳でこれを知れば50年60年もこの観察法を実践しながら生活することができます。つまり、50歳から始めるより30年もアドバンテージがあるわけです。この差はあまりに絶大です。

もちろん何歳から始めても問題はありません。始めることに手遅れなんてことはありません。誰しもにおすすめしたい名著中の名著です。

3 外山滋比古 『思考の整理学』

Amazon商品紹介ページより

自分の頭で考え、自力で飛翔するためのヒントが詰まった学術エッセイ。
アイディアが軽やかに離陸し、思考がのびのびと大空を駆けるには?
自らの体験に即し、独自の思考のエッセンスを明快に開陳する、恰好の入門書。
考えることの楽しさを満喫させてくれる一冊。

2008 年に東大(本郷書籍部)・京大生協の書籍販売ランキングで1 位を獲得して以来、14年の間に東大は7度の、京大は4連連続9度の売上1 位を獲得。(文庫版)
「東大・京大で一番読まれた本」として知名度を高め、新たな読者を増やし続けています。Amazon商品紹介ページより

この本は上の本紹介にありますように、すでに270万部を売り上げた驚異のベストセラーです。しかも東大生や京大生からの支持も厚く、「勉強をするための入門書」として根強い人気がある作品です。

私もこの本を学生時代に読み、大いに励まされた記憶があります。この本では「学ぶとは何か」ということを真正面から問うていきます。私達は「勉強」というと苦しくて大変というイメージを抱きがちですが、人間としてそもそもなぜ学ばなければならないのか、学ぶことの真の楽しさとは何かをこの本では考えていくことができます。

また、ひとつひとつの章がコンパクトにまとめられていて非常に読みやすく、まさに読書の入門書としてうってつけです。

勉強や読書というと堅苦しくて大変だと思うかもしれませんが、そうした固定観念をひっくり返してくれるのがこの本です。この本を読めば「学ぶ」ということの意味やその楽しさを知ることができます。

私もこの本を読んだことで格段に読書が楽しくなったという実感があります。むやみやたらに読書をするのではなく、まさしく「思考を整理し」、より豊かな読書ライフを送れるようになったと私は感じています。何より、自信をもって本をたくさん読めるようになりました。本や様々な学びをより深く味わう術をこの本では教えてもらいました。

受け身の勉強ではなく積極的な学びへと誘ってくれる素晴らしい作品です。これは学生だけでなく全ての方におすすめしたい一冊です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

4 香西秀信 『レトリックと詭弁』

口が強い人に言いくるめられて、辛い思いをした方はきっとたくさんおられるのではないかと思います。

そして悲しいかな、優しい人や真面目な人ほどそうした相手の言葉に反論できず、自分の中にその苦しみを溜め込んでしまう。さらに悪いことには「自分が悪いんだ」と自分を責めてしまう。そうして優しい人や真面目な人がどんどん病んでいってしまう。こうしたことが実際かなり多く起こっているのではないかと思います。

私も口の強い人の言葉にずっと苦しんできました。しかも、それが明らかに私をやり込めようとする思惑から出ているとわかった時もどうすることができず、ただただ自分を責めていました。厄介なことに、そういうことをしてくる人は自分より明らかに立場上強い位置にいることが多いのですよね・・・相手が簡単に反論できない状況を利用してやり込めようとしてくる。ただでさえ口で負けてしまうのにこれではどうしようもありません。

そんな世の中にあって、この本はそれこそそんな苦しみへの処方箋というべき素晴らしい1冊です。

この本は生きにくいこの世の中において非常に力強い味方になってくれます。

真面目で優しい人ほど辛い目に遭う世の中なんてやはりおかしいと思います。

たしかに、人類の歴史上それは延々と繰り返されてきました。それが現実だと言われたらそれまでです。

ですが、著者が述べるように、私達にもできることはあります。自分たちの心を守るために実践できるものがあるのです。それを知れただけでも大きな力になります。私もこの本には救われました。

この本はぜひおすすめしたい作品です。

5 バーバラ・N・ホロウィッツ、キャスリン・バウアーズ 『WILDHOOD 野生の青年期』

「この本、めちゃめちゃ面白いです・・・!」

この本は私たちに世界の新しい見方を開いてくれます。

なぜ私たちは青春時代あんなにも悩み、血迷った行動を繰り返すのでしょう。思い出すと恥ずかしくなるような黒歴史や、今思えばぞっとするような軽率な行為も多くの人が経験したことだと思います。そうした行動がなぜ引き起こされてしまうのか、その鍵が「我々人間も動物である」という点にあったのです。

本書の解説でも「ただ、ずっと自分の足元ばかりに集中していた視線がふと、空のほうを見上げる瞬間が生まれないだろうか。ひと呼吸分だけでも、心を静める時間が手に入るかもしれない。」と述べられていたように、自分という人間に対し距離を置いて客観視できるような感覚をこの本では得ることができます。

これはぜひ若者に読んでほしい作品です。色んな事にぶつかり、悩むのが思春期、青年期でありますし、まさに自分探しの時期であります。そんな多感な時にこの本を読むことは自分と向き合うという意味でも大きな意義があると思います。

また、教育の場に携わる方や、子を育てる親にとってもこの本はぜひおすすめしたい作品です。人間も動物なのだという視点があると、それこそ世界の見え方が変わってきます。

いや~素晴らしい本でした!これは面白い!ぜひぜひ手に取って頂きたい名著です!

6 小林秀雄 『読書について』

小林秀雄は昭和に活躍した、「批評の神様」と呼ばれる文学者です。

この『読書について』という本は小林秀雄が読書について書いたエッセイが集められています。

その中で私は彼の次の言葉に胸を打たれました。少し長くなりますが引用します。

或る作家の全集を読むのは非常にいい事だ。(中略)読書の楽しみの源泉にはいつも「文は人なり」という言葉があるのだが、この言葉の深い意味を了解するのには、全集を読むのが、一番手っ取り早い而も確実な方法なのである。

一流の作家なら誰でもいい、好きな作家でよい。あんまり多作の人は厄介だから、手頃なのを一人選べばよい。その人の全集を、日記や書簡の類に至るまで、隅から隅まで読んでみるのだ。(中略)

僕は、理屈を述べるのではなく、経験を話すのだが、そうして手探りをしている内に、作者にめぐり会うのであって、誰かの紹介などによって相手を知るのではない。こうして、小暗い処で、顔は定かにわからぬが、手はしっかりと握ったという具合な解り方をして了うと、その作家の傑作とか失敗作とかいう様な区別も、別段大した意味を持たなくなる、と言うより、ほんの片言隻句にも、その作家の人間全部が感じられるようになる。

これが、「文は人なり」という言葉の真意だ。それは、文は眼の前にあり、人は奥の方にいる、という意味だ。

『読書について』小林秀雄 中央公論新社 2018年五版発行 P11~13

その人の言葉を通してその人自身が見えるようになる―それこそ読書の醍醐味である。

あぁ、さすが小林秀雄!なんと心を震わせてくれるのでしょう。

書物が書物には見えず、それを書いた人間に見えて来るのには、相当な時間と努力とを必要とする。人間から出て来て文章となったものを、再び人間に返すこと、読書の技術というものも、其処以外にはない。

『読書について』小林秀雄 中央公論新社 2018年五版発行 P13

本が本には見えない・・・!

あぁ、こんな境地があったのか・・・

私はこの小林秀雄の言葉があったからこそより一層読書に没頭することになりました。

本を読むというのはどういうことかを考える上でもこの本は非常に貴重な示唆を与えてくれます。ぜひおすすめしたいです。

7 レジー 『ファスト教養 10分で答えが欲しい人たち』

【「教養=ビジネスの役に立つ」が生む息苦しさの正体】


社交スキルアップのために古典を読み、名著の内容をYouTubeでチェック、財テクや論破術をインフルエンサーから学び「自分の価値」を上げろ――このような「教養論」がビジネスパーソンの間で広まっている。
その状況を一般企業に勤めながらライターとして活動する著者は「ファスト教養」と名付けた。
「教養」に刺激を取り込んで発信するYouTuber、「稼ぐが勝ち」と言い切る起業家、「スキルアップ」を説くカリスマ、「自己責任」を説く政治家、他人を簡単に「バカ」と分類する論客……2000年代以降にビジネスパーソンから支持されてきた言説を分析し、社会に広まる「息苦しさ」の正体を明らかにする。

Amazon商品紹介ページより

この本は単に「ひろゆき、中田敦彦、カズレーザー、DaiGo、前澤友作、堀江貴文(本書より)」をはじめとしたインフルエンサーを批判したいがために書かれた作品ではありません。

それよりも、そのようなインフルエンサーになぜ私たちは魅力を感じてしまうのかという現代社会のメカニズムを丁寧に追っていく作品となっています。

この本を読めばわかるのですが、「ファスト教養」はいかに手っ取り早くビジネスに役立つものを摂取できるかにかかっています。そして自分が競争に生き残るための戦略として「ファスト教養」は意味を持ちます。

様々な可能性や立場をじっくりと考えるというプロセスは放棄され、(本人が思う)合理的思考に沿ってサバイバル競争に突き進むことになります。ですがこうした学びははたして世の中にとって良い影響を与えるものなのでしょうか、私は大いに疑問を持っています。著者も次のように述べています。

ファスト教養に欠落しているもの

本章では、個人がお金を稼いで生き残る術に特化したファスト教養の考え方が広く支持されるに至った必然性について述べてきた。いわゆるビジネス書や自己啓発書といったジャンルのヒット作は以前から多数存在していたが、自己責任をべースに加速するファスト教養は二一世紀に入ってからの日本の社会全体の流れが生み出した現象と言える。そして、この勢いは今後しばらく続くのではないだろうか。

ここまでいくつかのキープレイヤーを紹介しながら論を展開してきたが、大きく共通してるのは「公共との乖離」である。彼らは人々が支え合う社会といったモデルを、うっとうしいと否定するかの如く、個人としてのサバイバルを重視する。堀江や橋下、およびひろゆきそれぞれがべーシックインカムの導入を主張するのも、「一定程度金を渡すからあとはそれで何とかしろ」という手法が強烈な個人主義的思想と相性が良いからだろう。また、中田敦彦にしろDaiGoにしろ、自身の学びを社会全体や弱者に対して還元するような姿勢は見受けられない。

埼玉工業大学非常勤講師で批評家の藤崎剛人は「ライフハック、やりがい搾取、個人主義…〝NewsPicks系〟な人々の『不自由な思考』(文藝春秋 digjtal)において、個人の努力にすべてを帰結させる発想や社会のすべてをビジネス思考で考える態度(「むしろ最低限の公正さを担供するための法規制でさえ、ビジネスの観点からみると目の上のたんこぶとなる」)など本章で取り上げてきた面々が共通して持つ考え方を「責任概念なき個人主義」と評した。

努力して何かを学ぶこと自体に咎められる要素は何もない。その成果が金銭的な対価として着実に個人に返ってくる社会のあり方は、一つのあるべき姿ではある。成果を出すために世の中においてニーズのあるスキルに絞って勉強するのは戦略として正しい。それを進めるための効率的なやり方を志向するのは当然で、時にはリスクをとってルールすれすれのチャレンジを行うことも必要かもしれない。

ただ、「自分が生き残ること」にフォーカスした努力は、周囲に向ける視線を冷淡なものにする。また、本来「学び」というものは「知れば知るほどわからないことが増える」という状態になるのが常であるにもかかわらず、ファスト教養を取り巻く場所においてはどうしてもそういった空気を感じづらい。『勉強が死ぬほど面白くなる独学の教科書』における中田敦彦とYouTubeチャンネル「予備校のノリで学ぶ『大学の数学・物理』(ヨビノリ)」を運営するヨビノリたくみとの対談における中田の反応が象徴的である。

中田:今、わからないことは全体の何パーセントくらいあるんですか?
たくみ:感覚的にいうと、わかっていることが0・001パーセントぐらいだと思います。
中田:え?少ない……。もっとわかっているような印象を持っていました。

知識を得ることで全能感を持ち、他者に対して優越感を覚えながらサバイブに対する自信を深める学びのあり方は、どうにも幼稚に感じられる。堀江や橋下がたびたび強調する「シンプルな決断」というのは、本来は何かを学べば学ぶほど難しくなってくるはずである。だが、ファスト教養的な世界観が浸透した先にあるのは、未知のものへの畏れや例外的な出来事への配慮、違う立場に対する想像力や思いやりが醸成されることなく、ビジネスシーンで求められる「シンプルな意思決定」ばかりがあらゆる場面で持て囃される社会である。ここまで本書で名前を挙げてきた面々は、この先形成される可能性のあるそんな社会のあり方についてどう考えているのだろうか。「自分は何があっても生き残れる」という自信をべースに、「社会なんてどうでもいい」という本音を開陳するのだろうか。そして、彼らが掲げる価値観にシンパシーを覚える人たちは、「自己責任」「スキルアップ」「公共との乖離」といった発想を内面化して(その一方では「いつか脱落するかもしれない」という恐怖感に苛まれながら)何者かになるべく突き進むのだろうか。

別にそれでも構わないというスタンスも当然あるとは思うが、本書ではそんな社会の姿はさすがにバランスを欠いているのではないか?という立場をとりたい。自身のスキルアップのために教養を使うというファスト教養としての学びのあり方を一定レべルでは肯定しつつも、社会への眼差しや品格も含めた次の時代の教養のあるべき姿を検討していきたいと思う。

集英社、レジー『ファスト教養 10分で答えが欲しい人たち』p123-126

このまま「ファスト教養」どっぷりの世界観が日本にはびこり続けるならば私は大きな脅威を感じます。

今や「新たな危険なカルト教団」がいつ生まれてもおかしくない状況です。現にインフルエンサーの顧客集めの手法はカルトに近いのではないかと私は考えています。

過激なことを言い、自信満々に断言し、極論も厭わない。そして巧みに敵を作りだし、相手を罵り、自分たちが正義だと思わせる。

「悪いのはあなたを理解しない社会の方。でも私について来ればあなたは成功する。悪いのはあなたを無下に扱う敵なのだ。私の言う通りに努力するあなたは人間として素晴らしい。」

そして教祖は信者の意思、主体性を奪っていきます。信者は自分の意思でやっていると思っています。ですがその実態は?

ここではカルトについては話が反れてしまうのでこれ以上はお話しできませんが、「ファスト教養」が流行する土壌がそこと密接に繋がっているということは改めて注意したいと思います。

学ぶことや本を読むことは大事なことです。ですがその学びたいという意思に付け込む人間がいることも忘れてはなりません。この本は現代日本を生きる上で必須の作品だと私は考えています。ぜひおすすめしたい一冊です。

8 フランクル 『夜と霧』

この作品は心理学者フランクルがアウシュヴィッツやミュンヘンのダッハウ収容所での経験を綴ったものです。

『夜と霧』は世界的に知られた名著中の名著です。私がこの本を初めて読んだのは学生の時でした。その時の衝撃は今も忘れられません。

そうした読書体験があったからこそ私は2019年にアウシュヴィッツを訪れたのでした。

そして現地で感じた恐怖もまた忘れられないものとなりました。特にガス室に入った時に感じた思いは今でも鮮明に残っています。

なぜホロコーストは起こったのか、そこで何が起こっていたのか。人を大量に殺していくメカニズムと何なのか。

歴史を学ぶことは今を学ぶことです。二度とその歴史をくり返さないために、苦しくとも目を反らしてはなりません。

当ブログではこうした戦争の悲惨な歴史について学べる本を紹介しています。以下のカテゴリーページでそれらがまとめられていますのでぜひこちらもご参照頂ければ幸いです。

「レーニン・スターリン時代のソ連の歴史」
「独ソ戦~ソ連とナチスの絶滅戦争」
「スターリンとヒトラーの虐殺・ホロコースト」

9 ひのまどか 『作曲家の物語シリーズ』(現『音楽家の伝記 はじめに読む一冊』シリーズ)

このシリーズは児童書として書かれたものですが、どんな世代の方にも響く作品だと思います。

逆に言えば、大人でも感動する本を子ども時代に読めるというのはどれだけ大きな体験となることでしょう。

読んで頂ければわかりますが、このシリーズは決して子供向け感満載に書かれた本ではありません。言葉遣いも「ひとりの人間」に対し、本気で語りかけてくるような雰囲気です。児童書だからといって決して子ども扱いをしません。

そしてそれだけではありません、このシリーズを読んでいて強く感じたのは「伝記のすばらしさ」です。

伝記にはある時代、社会におけるその人の生き様、死に様がリアルに描かれます。

偉人達の生き様、死に様を通して学べることは私たちが想像するよりはるかに多いと私は確信しました。

偉人達が置かれた状況は困難に満ち、波乱万丈な出来事がこれでもかと続きます。

天才であるが故に自ら破滅へと突き進んだり、あるいは逆境でもこつこつこつこつ努力を惜しまず、苦労を経て成功を掴むということもあります。

そして突然の病や大切な人の死にもぶつかります。

18世紀、19世紀頃の伝記を読んで気付くのはとにかく病や死が多いということです。大切な我が子を何人も失った作曲家たちの苦しみにも私たちは直面することになります。

そうした桁違いのスケールを持つ偉人達の人生を、栄光と苦悩のどちらも目の当たりにしながら学べること。

そしてそれと共に彼らが生きた時代背景、歴史を学ぶことで私たちが生きる現代世界とは何なのかということも考えられること。

これが伝記の素晴らしい点なのではないかと思います。

たくさんの知識を頭に入れることも大切です。それは間違いありません。

ですが「偉人の生き様、死に様」から、

「じゃあ、私達が生きるというのはどういうことなのだろうか」
「私の生き様って何なのだろう」
「私の死に様はどうなるのだろう」
「どんな生き様、どんな死に様を私はしたいのだろう」
「偉人たちが生きていた時代はああだったけれど、今の時代は一体どうなんだろう。もし未来の人達が私達の世界を見たらどう思うのだろう」

などなど、じっくりと考えることも大切なのではないでしょうか。

そのことを教えてくれるのが伝記なのではないかと思います。

偉人達の歓び、悲しみ、苦悩すべてを見ることができるのが伝記です。

ぜひ偉人達の「生き様」「死に様」を目の当たりにし、そこから皆さんも何かを感じて頂けたらなと思います。

そしてその最上級の伝記として私はひのまどかさんの「伝記シリーズ」をおすすめします!

そしてぜひ全巻読んでみて下さい。読めば読むほど味わいが増してきます。様々な作曲家の人生がどんどんクロスしていき、18世紀以降の世界がどんどん見えてくるようになってきます。

こんな読書体験は滅多にありません。これは断言します。

現在はこの伝記シリーズの新版として『音楽家の伝記 はじめに読む一冊』が続々出版されています。その中でも『音楽家の伝記 はじめに読む一冊 小泉文夫』はシリーズ初めての日本人音楽家の登場ということでぜひおすすめしたい一冊となっています。

魅力あふれる主人公小泉文夫さん、そしてそんな彼が世界中を股に掛けて繰り広げる音楽探究の冒険。彼が目にした世界や時代背景、文化、音楽の面白さがまるで映画を観ているかのように目の前に現れてきます。

この本で特に印象に残ったのは小泉文夫さんが音楽研究のために留学したインドでのお話でした。

私は僧侶ということでやはりインドにはかなり興味があります。ですがまだ行ったことはなく、コロナ禍が収まればできるだけ早く訪れたいなと思っていました。

そんなインドでひたすら音楽研究に励む小泉文夫さんの姿にはやはり心打たれるものがありました。

そして広い視野を持ち、世界各国の様々な音楽、文化を学ぶ尋常ではない探究心。そしてそれをわかりやすく、楽しく伝える教育者としての能力。

こんなにすごい人が日本にいたんだととにかく驚きました。

このシリーズの入り口にぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

10 唯円 『歎異抄』

いよいよ最後の十作品目で仏教の本が出て参りました。「僧侶推薦」と言いながら仏教書が出てこないことに皆さんも不思議に思っていたのではないでしょうか。しかもこの『歎異抄』、直接皆さんの実生活の役に立つ作品ではありません。「これを読めばよりよく生きれる」という類の本では全くないのです。

ですがなぜ私がここにこの本を紹介したのかと言いますと、この『歎異抄』が「直接実生活の役には立たずとも、私達のものの見方にガツンと衝撃を与えるものすごい作品」だからなのです。

『歎異抄』の主人公はこの本の著者である唯円です。彼は浄土真宗の開祖親鸞聖人のお弟子さんです。

親鸞(1173-1263)Wikipediaより

『歎異抄』ではこの親鸞と唯円の問答が記されています。そしてこの問答の中に出てくる親鸞の言葉がとにかくすごい!

皆さんも聞いたことがあるでしょうか。「」という言葉です。

これは「悪人正機説」という親鸞の有名な思想なのですが、「善人が救われるのだから悪人でも救われるのは間違いない」という衝撃的な教えです。

普通に考えたら「そんなことあってたまるか」という一見非常識な教えなのですが実はここにこそ深い意味があります。親鸞は単に悪者でも救われると言ったわけではないのです。

『歎異抄』は日本の思想にも巨大な影響を与えた作品です。明治以降の知識人たちも皆この本を読んでいます。

いわば日本思想における巨大な爆弾とでもいうべき凄まじい力を秘めているのが『歎異抄』になります。

言葉自体は鎌倉時代のものではありますがそこまで難解な文章ではありません。現代語訳版も今や多く出版されていますのでそちらをまずは読むのも一つの手です。いずれにせよ日本文化の生んだ強烈な思想を体感することは大きな経験になると思います。これを読んだから社会ですぐに役に立つという話ではありません。ですがひとりの人間としてこうした強烈な思想とぶつかるというのは、人間そのものを深く問うてみる大きなきっかけとなります。これは僧侶としてぜひ皆さんにおすすめしたい一冊です。

もちろん、日々生きる上で糧になる仏教書はたくさんあります。心を落ち着けたり、生きる上での指針となる教えがたくさん説かれているのが仏教です。おすすめ書籍はたくさんあります。ですがここであえて、学生の皆さんに『歎異抄』というダイナマイトをぶつけてみたいと思いここで紹介させて頂きました。正直内容を理解しようと思わなくてもいいです。こんなことを言っている人がいるんだということをまずは肌で感じて下さい。その体験がいつかふとしたことと繋がることもあるのです。それがあるかないかで人生の奥深さは全く変わってくるのではないでしょうか。

ブログ更新のスケジュールの都合でまだ『歎異抄』そのものについては紹介出来ていませんがぜひおすすめしたい一冊です。

おわりに

今回の記事では「学生におすすめしたい本10選」ということでお話しさせて頂きましたが、これとは別におすすめの小説についてはまた他の記事で紹介していきますのでぜひそちらも参照頂ければと思います。

今回紹介した本は必ずや皆さんの力になります。騙されたと思ってまずは読んでみて下さい。最近は本離れが進んでいるという話もよく聞きますが、それは本当にもったいないことです。なぜ本を読むことが大切なのかはまた後ほど別の記事で改めてお話ししたいと思いますが、少なくともここで紹介した本については私は自信を持っておすすめします。

ぜひこれらの本を読み、活用して頂けたらと思います。

以上、「本好き僧侶が本気で学生におすすめしたい本10選~読書は必ず力になる!」でした。

次の記事はこちら

関連記事

HOME