戦争と平和、世界の仕組みを学ぶためのおすすめ作品15選~今こそ歴史を学び世界を問い直す時!学生にぜひ薦めたい名著!

戦争と平和 おすすめ本 僧侶の日記

目次

僧侶推薦!戦争と平和、世界の仕組みを学ぶためのおすすめ作品15選~今こそ歴史を学び世界を問い直す時!学生にぜひ薦めたい名著!

ここまで当ブログでは「学生におすすめしたい本10選」「おすすめ小説24選」と私がおすすめする本をご紹介してきました。

今回の記事では小説作品とは一味違う歴史書、ノンフィクション作品をご紹介していきたいと思います。

この記事では特に「世界の見方」を問う作品を重視してチョイスしました。私達の生きる世界はどう成り立っているのか、かつてこの世界で何が起きていたのか、そして翻って私たちが生きる現代日本はどうなっているのかを考えるのに役立つ作品をご紹介していきます。歴史を学ぶことは「今」を学ぶことに他なりません。単に過去の出来事を暗記して終わりにするのではなく、そこから何を学びどう生かしていくのかが肝心です。

私が今こうした記事を書いているのも、2023年度から函館大谷短期大学の非常勤講師を務めることになり、そこで「人間学」という授業を担当するようになったのがきっかけでした。目の前に学生たちがいて、彼らに何を伝えることができるのかを考える日々です。これまではひたすらパソコン画面と向き合い記事を更新する毎日でしたが、今や目の前に学生がいるのです。そうなってくると「伝える」ということに対する気持ちがまた変わってきたのを感じたのです。

これまでは不特定多数の方に向けてブログを更新していました。それが今や目の前の彼らに届いてほしいという思いになってきたのです。やはり顔が見えるというのは違いますね。

というわけで学生におすすめの歴史書・ノンフィクション作品をこれから紹介していきます。もちろん学生だけでなく全ての人におすすめしたい名著揃いです。ぜひ皆さんの学びに役立てて頂けましたら幸いです。それぞれの本のリンク先ではより詳しく解説していきますので気になった本があればぜひそちらもご参照ください。

1 ヴァーツラフ・ハヴェル 『力なき者たちの力』

まず言わせてください。この本は衝撃的な1冊です。私がこれまで読んできた本の中でもトップクラスのインパクトを受けた作品でした。元々プラハの春に関心を持っていた私でしたが、この本を読み、あの当時のプラハで何が起こっていたのか、そしてそこからどうやってソ連圏崩壊まで戦い、自由を勝ち取ったのかという流れを改めて考え直させられる作品となりました。

この本はコロナ禍で混乱を極め、生きにくい世の中となってしまった日本においても非常に重要な視点を与えてくれます。今こそこの本が評価されるべき時です!

「プラハの春?ヴァーツラフ・ハヴェル?誰?何のこと?」とお思いになられた方も多いと思います。

ですが私がこの本をトップバッターに持ってきたのには大きな意味があります。それだけこの本は世界の歴史を考える上で重要な問題提起をしています。この本についてはここで簡単には言い表せないのですが、以下の記事で詳しく解説していますのでぜひご参照ください。

『力なき者たちの力』は今こそ読むべき名著中の名著です。

2 菊池良生 『傭兵の二千年史』

この作品の素晴らしいところは傭兵のそもそもの始まりから歴史を見ていける点にあります。

古代ギリシャからの歴史の変遷を「傭兵」という観点から見ていく本書は非常に刺激的です。

この本を読んでしまうと歴史の見え方がそれまでと全く変わってしまいます。

人間ははるか昔から戦争を繰り返してきました。しかしその戦争を戦っていたのは誰だったのか。

もちろん、その主役は王侯貴族だったかもしれません。しかしひとりひとりの兵士はどこからやって来たのか。そしてどのようなシステムで戦争は行われてきたのか。

興味深いことにこの本で語られる傭兵の歴史は日本の歴史ともリンクしてきます。

日本の歴史を考える上でもこの本は非常に重要な示唆を与えてくれます。

戦争とはそもそも何なのか。なぜ人は争うのか。なぜ戦争は止められないのか。

それらの疑問を「傭兵」という観点から見ていく本書は非常に貴重です。新書で読みやすいというのもありがたいポイントです。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

3 ティモシー・スナイダー 『ブラッドランド ヒトラーとスターリン 大虐殺の真実』

私は2019年にアウシュヴィッツを訪れました。人類の悲惨な過去を学ぼうと思ったからです。(「アウシュヴィッツを訪ね、私は何を学び、何を感じたのか 世界一周記ポーランド編一覧」の記事参照)

ですがこの本を読んで自分がいかに何も知らないのかということを思い知らされることになりました。

アウシュヴィッツに対する見方が変わってしまうほど衝撃的な事実がそこにはありました。

訳者が「読むのはつらい」と言いたくなるほどこの本には衝撃的なことが書かれています。しかし、だからこそ歴史を学ぶためにもこの本を読む必要があるのではないかと思います。

そもそもこの本を読むきっかけとなったのはスターリンの大テロル(粛清)と第二次世界大戦における独ソ戦に興味を持ったからでした。

スターリンはなぜ自国民を大量に餓死させ、あるいは銃殺したのか。なぜ同じソビエト人なのに人間を人間と思わないような残虐な方法で殺すことができたのかということが私にとって非常に大きな謎でした。

その疑問に対してこの上ない回答をしてくれたのがこの『ブラッドランド ヒトラーとスターリン 大虐殺の真実』でした。

全体主義と戦争のもたらす悲惨さを学ぶのにこの本は非常におすすめです。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

4 キャサリン・メリデール 『イワンの戦争 赤軍兵士の記録1939-45』

この本は、私が独ソ戦の歴史を学び始めてからずっと疑問に思っていたことに答えてくれた本でした。

その疑問とは、「なぜソ連の兵士は死ぬとわかっていても戦い続けたのか」という疑問でした。

独ソ戦においてソ連は人海戦術と言えば聞こえがいいですが、信じられないほど大量の兵士をナチス軍に突撃させています。そして無残にも彼らは圧倒的な戦力差で蹂躙されたのでありました。

しかしこの人海戦術は結果としてナチス軍を撃退することになります。

スターリンの命令により兵士として戦闘を強制されたことはわかります。逃げたり捕虜となってしまえば身内共々殺すという規則が兵士を動かしていたこともこれまで学んできました。(「独ソ戦中のスターリンと反撃するソ連軍の地獄絵図のごとき復讐 「スターリンに学ぶ」⑸」の記事を参照下さい)

しかしそれでもなお彼らがなぜあそこまで悲惨な戦いを続けられたのかということが私にはどうしてもわからなかったのです。

そのことをこの本では当時の戦争経験者への聞き取りやソ連崩壊に伴う新資料を駆使して分析していきます。

この本では一人一人の兵士がどんな状況に置かれ、なぜ戦い続けたかが明らかにされます。

彼ら一人一人は私たちと変わらぬ普通の人間です。

しかし彼らが育った環境、ソ連のプロパガンダ、ナチスの侵略、悲惨を極めた暴力の現場、やらねばやられてしまう、戦争という極限状況が彼らを動かしていました。

人は何にでもなりうる可能性がある。置かれた状況によっては人はいとも簡単に残虐な行為をすることができる。自分が善人だと思っていても、何をしでかすかわからない。そのことをこの本で考えさせられます。

恐るべき一冊です。今だからこそ強くおすすめしたい名著です。

5 高木徹 『ドキュメント 戦争広告代理店 情報操作とボスニア紛争』

私たちはわかりやすい善玉悪玉論に流されてしまいがちです。しかし、ものごとはそんなに単純ではありません。

特に、国際紛争の場ではその複雑さは想像を絶するものです。「こうだからこう」というのが通用しない世界です。

この本ではそうした世界の複雑さを知ることができます。そしてそんな世界においてメディアによるPR戦略がいかに重要であるかも知ることになります。

私たちが日々目にしているニュースというのはそもそもどんなものなのか。どんな意図があってそのニュースは流れているのか。

そもそもニュースとして私達に届けられるというのはとてつもない選別を通して行われることなのです。

知らないことは存在しないことと同じ。知られなければ無視されるのと同じ。

この本は私達が日々接しているニュースそのものについても考えさせられる一冊となっています。

この本では単純な善玉悪玉論の危うさを語っていますが、もちろん、セルビア人側の暴力行為が正当化されているというわけではありません。

私も2019年にボスニアを訪れ、紛争を経験したガイドさんにサラエボ包囲戦やスレブレニツァの虐殺のお話を聞かせて頂きました。

単純な善玉悪玉という分け方はないにしても、やはりそこには暴力によって多くのものを失った人たちの苦しみがあります。

単純に善玉悪玉論で考えてしまうのも間違いですが、「善玉も悪玉はない。どちらも暴力を行っていた」と割り切って終わりにしてしまうのも何か危険を感じてしまいます。

この問題の難しさはいつも感じてしまいます。紛争の複雑さをこの本では目の当たりにすることになります。

ぜひ皆さんにも手に取って頂きたい一冊です。とても読みやすい本です。著者の語り口にぐいぐい引き込まれます。

6 ジャン・ハッツフェルド 『隣人が殺人者に変わる時 ルワンダジェノサイド 生存者たちの証言』

この本は 「隣人が殺人者に変わる時」三部作の第一作目に当たります。 続編の『隣人が殺人者に変わる時 加害者編』 と『隣人が殺人者に変わる時 和解への道―ルワンダ・ジェノサイドの証言』もこれまた強烈です。いや、むしろ進めば進むほど恐ろしさは増していきます。

この三部作はとにかく衝撃的です。

「こんなむごい歴史があり得るのか」

著者はそう述べます。

この三部作はそんな恐るべき歴史を現地に生きる人たちの言葉から見ていくことになります。

正直、こんなに強烈な本を読むことになるとは思ってもいませんでした。

ボスニア紛争やスレブレニツァの虐殺を学ぶ過程で知ることになったルワンダジェノサイド。そしてそこから期せず手にすることになったこの三部作でしたがあまりに衝撃的な作品でした。

平和とは何か。人間とは何か。罪と罰とは何か。善と悪、神の問題。赦しの問題。

人間における根本の問題がここに詰まっています。答えはありません。ですが、極限状態に生きた人たちの声がここにはあります。その声に耳を傾け、自分は何を思うのか。これは非常に重要なことだと思います。

この三部作と出会えてよかったなと心の底から思います。

精神的には非常に厳しい読書になりましたが、まったく悔いはありません。

少しでも多くの方にこの三部作が広まってくれたらなと思います。

ぜひおすすめしたい作品です。

7 スチュアート・D・ゴールドマン 『ノモンハン1939 第二次世界大戦の知られざる始点』

この本もものすごいです。

ノモンハン事件という、私たちも名前だけは知っている歴史上の出来事が想像もつかないほど巨大な影響を世界に与えていたということがこの本で明らかにされています。

日本はなぜ第二次世界大戦で悲惨な敗北を繰り返したのか、なぜ軍部が暴走し無謀な戦闘を繰り返したのかもこの本では分析されています。読むとかなりショックを受けると思います。私もこの本を読んでいて何度も「嘘でしょ・・・」と唖然としてしまいました。それほどショッキングな内容となっています。

日本がなぜ戦争に突入していったのか、そしてなぜ敗北を繰り返したのかということがこの本ではとても明確に分析されています。海外の研究者だからこそ見れる日本像というものが描かれています。

またこの出来事がスターリンとヒトラーにとってどのような意味があったのかということも明らかになります。

第二次世界大戦を局地的に見るのではなく、全世界のつながりとして見ていく視点をこの本では学べます。第二次世界大戦を捉え直す素晴らしい機会となります。

この本は今の日本を見ていく上でも非常に重要な問題提起を与えてくれます。これからの日本のためにもぜひ手に取ってほしい1冊です。非常におすすめな1冊となっています。

8 ヴィクター・セベスチェン 『レーニン 権力と愛』

この作品もとてつもない名著です。ロシア革命やレーニンに関心がなくても、人類の歴史や人間そのものを知るのに最高の参考書です。

ウラジーミル・レーニン(1870-1924)Wikipediaより

レーニンという人物はロシア革命の立役者であり、その後のソ連世界の道筋を決定づけた人物です。

この本ではソ連によって神格化されたレーニン像とは違った姿のレーニンを知ることができます。

『レーニン 権力と愛』はレーニンその人だけでなく、当時の時代背景まで詳しく知ることができます。そして何より、私たちの生きる世界がどのようなものなのかを解き明かしてくれます。

ソ連の崩壊により資本主義が勝利し、資本主義こそが正解であるように思えましたが、その資本主義にもひずみが目立ち始めてきました。経済だけでなく政治的にも混乱し、この状況はかつてレーニンが革命を起こそうとしていた時代に通ずるものがあると著者は述べます。だからこそ血塗られた歴史を繰り返さないためにも、今レーニンを学ぶ意義があるのです。

そして何より、この伝記はとにかく面白いです!なぜロシアで革命は起こったのか、どうやってレーニンは権力を掌握していったのかということがとてもわかりやすく、刺激的に描かれています。筆者の語りがあまりに見事で小説のように読めてしまいます。

この本もとにかくおすすめです。

9 トリストラム・ハント 『エンゲルス マルクスに将軍と呼ばれた男』

当ブログではマルクスについても多くの記事を更新してきました。ですが私はマルクス主義者ではありません。むしろマルクス思想の流行に危惧の念を抱いている人間です。ではなぜそんな私が私がマルクスを学んでいるのかと言うと、彼を学ぶことは歴史の大きな流れを学ぶことにほかならないからです。マルクスは良くも悪くも人間の歴史に凄まじい影響を与えた巨人です。この巨人を学ぶことは人間存在そのものを問う大きな手掛かりとなります。

私個人としては「マルクスは宗教的な現象か」という切り口で考察を始めましたが、そこで最も参考になった書物がこのエンゲルス マルクスに将軍と呼ばれた男』という伝記だったのです。

マルクス・エンゲルスと二人セットで語られることも多いエンゲルス。マルクス思想が世界に広まっていく上で欠かせない存在だったエンゲルスですが、実際エンゲルスとは何者だったのかというとほとんど知られていません。かく言う私もこの本を読む前はほとんど知りませんでした。

ですがこの本を読めばマルクスの活動においてエンゲルスがいかに大きな役割を果たしていたか、そしてエンゲルスという人物そのもののスケールの大きさを知ることができます。マルクスの陰に隠れてあまり目立たなくなってしまいましたが、やはりエンゲルスも歴史上ずば抜けた存在であったことがよくわかります。

この伝記はマルクスやエンゲルスを過度に讃美したり、逆に攻撃するような立場を取りません。そのようなイデオロギー偏向とは距離を取り、あくまで史実をもとに書かれています。

語り口も絶妙で非常に読みやすく、面白いです。

エンゲルスはマンチェスターの綿工場の経営者でした。そうです。彼とマルクスが散々罵倒していたブルジョアそのものです。彼は自分の労働者を搾取して得たお金をマルクスに送金していました。エンゲルスの送金がなければマルクスは生活を続けることすらできませんでした。つまり、『資本論』も生まれてくることはなかったのです。マルクスの『資本論』は労働者の搾取によって得たお金によって書かれたという何とも矛盾に満ちたものだったのでした。

この本ではそうしたエンゲルスとマルクスの矛盾に何度もぶつかることになります。

ただ、歴史の不思議といいますか、これだけ世界に影響を及ぼす人間というのはやはり何かが違います。現代を生きる私達には眉をひそめたくなるような事でも、激動の19世紀の中ではそれもありうるだろうということも考えさせられます。イデオロギー的なものを超えて、歴史的に彼らは実際に何を行ったのかということをじっくり見ていく大切さを感じました。

また、この本で最もありがたいなと感じたのは、エンゲルスがどのような思想に影響を受け、そこからどのように彼の著作が生み出されていったかがわかりやすく解説されている点です。

当時の時代背景や流行していた思想などと一緒に学ぶことができるので、歴史の流れが非常にわかりやすいです。エンゲルスとマルクスの思想がいかにして出来上がっていったのかがよくわかります。この本のおかげで次に何を読めばもっとマルクスとエンゲルスのことを知れるかという道筋もつけてもらえます。これはありがたかったです。

マルクスも自分一人で独創的な思想を生み出したわけではありません。彼は猛烈な勉強家でした。彼は様々な思想を吸収し、ライバルたちと闘い思想を練り上げていきました。無からは何も生まれません。マルクスも当時の時代背景と大きく関わって生きています。

思想だけでなく時代背景を知ることの大切さをこの本では知ることができます。

マルクスに関心のある方に必読の名著です。最近マルクスや『資本論』関連の本がたくさん出ていますが、まずはこの本を読むことを強くおすすめします。そしてロバート・スキデルスキー、エドワード・スキデルスキー著『じゅうぶん豊かで、貧しい社会―理念なき資本主義の末路』という作品もマルクスについての視野を広げてくれる名著です。どちらも世界の歴史の流れを学べる素晴らしい一冊です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

10 ヴィクター・セベスチェン 『東欧革命1989 ソ連帝国の崩壊』

上で紹介した『レーニン 権力と愛』もそうですが彼の作品はとにかく読みやすく、面白いながらも深い洞察へと私たちを導いてくれる名著揃いです。そんなセベスチェンによるソ連崩壊の過程を追ったドキュメント作品がこの『東欧革命1989 ソ連帝国の崩壊』です。

この本で語られる内容は驚くほどグローバルです。

ソ連そのものだけでなく、アメリカ、ポーランド、チェコ、ベルリン、ハンガリー、ルーマニア、アフガニスタンなどなど、多くの国と地域がこの本で語られます。

そしてそれが時系列に沿って臨場感あふれるセベスチェン節で語られていきます。これはスリリングで刺激的な読書になりました。「えっ!?」と驚く事実がどんどん出てきます。さらに、「そことそこがそうつながるのか!」という驚きにも何度も直面することでしょう。

私がこの中で一番驚いたのはポーランドにおけるヨハネ・パウロ二世の存在です。ローマカトリック教皇が冷戦においてどのような役割を果たしていたのか、そしてこのヨハネ・パウロ二世という人物がどれだけスケールの大きな人物だったかということを知りました。私はその箇所を読んで鳥肌が立ちっぱなしでした。こんなに偉大な人がこの時代にいたのかとまさしく雷に打たれたような衝撃を受けました。そうした歴史を知れただけでもこの本と出会えた意味はとてつもなく大きなもののように感じています。

また、近年アメリカ軍のアフガニスタン撤退による混乱が伝えられましたが、ソ連もかつてアフガニスタンに侵攻し駐留していました。しかし結局それはうまくいかず撤退へとつながり、ソ連崩壊の大きな要因となったこともこの本では知ることができます。

この本は、世界規模の大きな視点で冷戦末期の社会を見ていきます。そして時系列に沿ってその崩壊の過程を分析し、それぞれの国の相互関係も浮かび上がらせる名著です。これは素晴らしい作品です。何度も何度も読み返したくなる逸品です。

冷戦とは何だったのか。ソ連圏末期には何が起こっていたのか。そしてそうしたことと地続きで繋がっているのが私たちの世界だということを学ぶことができます。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

11 中村哲 『アフガニスタンの診療所から』

中村哲医師は2019年に現地で銃撃に遭い、亡くなられました。改めてこの本を読み、中村医師がいかに大きな存在だったかということに驚くしかありません。

ソ連の侵攻後アフガン情勢は悲惨を極めました。そしてソ連軍が撤退した後もその混乱は止むことなく、そこから911テロ、アメリカによる空爆へと繋がっていきます。

そんなソ連、アメリカの軍事侵攻、その後のアフガン情勢を考える上で中村医師の作品はこの上なく大きな示唆を与えてくれるのではないかと思い、この作品を手に取ったのでした。

中村医師については私がお話しするまでもなく、日本中の方が知られていると思います。

今回紹介している『アフガニスタンの診療所から』は1992年に書かれたものです。中村医師は1984年にパキスタンのペシャワールに赴任し、86年にアフガニスタン難民のための医療チームを結成し、その後アフガニスタンでの医療活動を開始します。

この本はそんな中村医師のアフガニスタンとの縁や、ソ連軍による侵攻で荒廃したアフガンの村の様子を知ることになります。

物に溢れ、平和な日本では想像もつかない現実がそこにあります。そして現地の人々の文化、精神性はどのようなものなのか、中村医師はストレートな言葉で私たちに語りかけてきます。

アフガニスタンの現実を通して私たちのあり方を痛烈に問いかけるのがこの作品です。

「真剣に考えればぞっとするような問題でさえ、「ニ一世紀に向けて」だの、「グローバル」だの、「地球にやさしい」だのという流行語で、うわべをよそおって安心しているのが日本の現状だと思えてならないからです。」

「近代化された日本でとうの昔に忘れ去られた人情、自然な相互扶助、古代から変わらぬ風土」

「私たちが「進歩」の名の下に、無用な知識で自分を退化させてきた生を根底から問う何ものかがあり、むきだしの人間の生き死にがあります。こうした現地から見える日本はあまりに仮構にみちています。人の生死の意味をおきざりに、その正義の議論に熱中する社会は奇怪だとすらうつります。」

これらの言葉は1992年に中村医師によって書かれたものですが、この言葉はまさに今の私たちに突き刺さるものではないでしょうか。

コロナ禍に揺れているここ数年の日本のあり方に、中村医師は何と言うのでしょうか。私はそれを思わずにはいられません。

この本は今こそ読むべき名著中の名著です。

文庫本で200ページほどというコンパクトなサイズですので、気負わずに手に取ることができますので、ぜひぜひおすすめしたい作品です。

12 ヴィトルト・シャブウォフスキ 『踊る熊たち 冷戦後の体制転換にもがく人々』

この本は旧共産圏のブルガリアに伝わる「踊る熊」をテーマに、旧共産圏に生きる人々の生活に迫る作品です。

この本もすごいです・・・!

ロシアに関する本は山ほどあれど、旧共産圏のその後に関する本というのはそもそもかなり貴重です。

しかも、その地に伝わってきた「熊の踊り」というのがまさに旧共産圏から「自由」への移行劇を絶妙に象徴しています。

熊は虐待といっていいような状況で飼育され、調教されていました。この本を読めば目を反らしたくなるような調教方法が語られます・・・

そしてこの本ではそんな熊たちが引き取られ、〈踊る熊〉園という保護施設において自由を得た熊たちの様子を見ていくことになります。ですが、これがまたえげつないんです・・・

熊たちはそこでもまた虐待されているのでしょうか?いやいや、それが違うんです。虐待どころか人間も受けることがないような手厚い介護を受けて自由で健康な生活を送っているのです。

しかしこれがまた恐ろしいものを私たちに突きつけることになります。

なんと、自由を得た熊たちが、その自由に苦しみ、かつての奴隷時代のように踊り出すのです・・・

こんな恐ろしい光景があるでしょうか・・・!

著者はこうした熊たちの姿を通して、旧共産圏に生きる人々の苦しみについてこう語ります。著者自身も旧共産圏のポーランド人であるため、ものすごい説得力を感じます。

「自由は痛い。そしてこれからも痛みつづけるだろう。私たちはそれに対して、踊る熊たちよりも高い対価を支払う覚悟はあるだろうか?」

この本を読んで痛感するのは「自由」の重さです。これまですべてを支配されていた人にとって、急に自由を与えられることは何よりも苦しい。自分が何をするべきか考える方が耐えがたい・・・

現代日本に生きる私たちも「自分たちは自由だ」と思っているかもしれません。

ですが、はたして本当にそうなのでしょうか・・・?

知らず知らずのうちに「何をすれば良くて、何をしたらいけないか」を刷り込まれているとしたら?

自分がなりたいと思っているもの、ならねばならないと思っているものはどこから来ているのでしょうか?

私たちは本当に「自分で」考えているのでしょうか。

「自由」の抑圧は共産圏だけの問題ではありません。どちらかといえば資本主義側の方が欲望を「自由」や「夢」などと置き換えて巧妙に宣伝するため厄介と言えるかもしれません。「自由」を謳う資本主義のあり方は本当に「自由」なのかというは非常に難しい問題です。ここでは長くなってしまうのでお話しできませんが、この本はそんな「自由」の問題を「踊る熊」を通して考えていきます。これは非常に奥深いです。

また、この本の後半ではキューバやエストニア、ポーランド、セルビア、コソボなど様々な旧共産圏の国が出てきます。社会主義が急に崩壊し、自由資本主義に投げ出された人々がどのような影響を被ったかが語られます。

この本を読みながら何度も全身を寒気が走りました。

ソ連崩壊ですべてが終わったのではないのです。「共産主義が倒れたからこれからは資本主義だ」という単純な問題ではないのです。普段私たちがなかなか目にすることもない旧共産圏の国々が置かれた苦境について知るのに最高の1冊です。

そして「踊る熊」を通して私たち自身のあり方も問われる衝撃の作品です。これは名著です。ぜひぜひおすすめしたい作品です。

13 マキャヴェッリ 『君主論』

ニッコロ・マキャヴェリ(1469-1527)Wikipediaより

マキャヴェッリの『君主論』といえばマキャヴェリズムという言葉があるように、厳しい現実の中で勝ち抜くためには冷酷無比、権謀術数、なんでもござれの現実主義的なものというイメージがどうしても先行してしまいます。

国家間の戦争も駆け引きもまさにマキャヴェリズム。勝つためには手段を選んではいられない。所詮世の中弱肉強食。強いものが生き残る。

たしかに『君主論』の中でそうしたことが語られるのは事実です。

ですが、「なぜマキャヴェッリがそのようなことを述べなければならなかったのか」という背景は見過ごされがちです。

当時のイタリアの政治状況はかなり特殊な状況です。この特殊な政治状況を知ることこそマキャヴェッリを学ぶ最大の意味なのではないかと私は感じています。そしてそれを知ることは現在の国際情勢を考えることと同義です。

戦争と平和を学ぶ上で避けて通れないマキャヴェリズムの存在。その本家大本の『君主論』はやはり重要な作品です。ここではこの本の重要なポイントはほとんどお話しできませんでしたのでぜひ以下のリンク先をご参照頂ければと思います。

14 エドワード・ギボン 『ローマ帝国衰亡史』

この本は1776年に発表された『ローマ帝国衰亡史』という壮大な作品を編訳し一冊にまとめたものになりますが、それでも500ページを超える大作になっています。

1776年に発表された『ローマ帝国衰亡史』は時代を超えて読み継がれてきた名著で、錚々たる偉人達に愛されてきた作品です。私も解説を読んでこの作品がいかに偉大かを知り、読む前から期待でいっぱいになりました。

そしてこの本は現代を生きる私たちにとっても大きな意義があります。

あれほどの繁栄を誇ったローマ帝国がなぜ崩壊していったのか。

単に蛮族が侵入したから崩壊したという単純な見方でいいのだろうか。

繁栄を謳歌するローマ帝国内で何が起こっていたのか。

それらを考えるのにこの作品はうってつけです。

そして歴史の流れを追いながら現代にも通ずる教訓がこの本では語られます。これが深いのなんの・・・!

小説のように読みやすいギボンの文章に加えて様々な考察が語られていく本書はやはり名著中の名著です。

そして章と章の間に置かれた訳者解説も非常に充実しています。

本編だけではわかりにくい箇所もこの解説のおかげでその流れも掴みやすくなります。

この本を読んでローマ帝国についてもっと興味が湧いてきました。古代ローマ盛衰の歴史はあらゆる分野につながる大きなテーマです。ローマ帝国こそ人間の歴史を考えるのに最も適した教材なのではないかとすら私は感じています。私はこのローマに魅了され、「上田隆弘『劇場都市ローマの美~ドストエフスキーとベルニーニ巡礼』~古代ローマと美の殿堂ローマの魅力を紹介!」という旅行記を書くことになりました。ぜひこちらもご参照して頂ければ幸いです。

『ローマ帝国衰亡史』は知的好奇心が刺激される名著です。ぜひおすすめしたい一冊です。

15 ジョージ・オーウェル 『一九八四年』

『一九八四年』は言わずと知れたディストピア小説の最高峰です。今回、小説は紹介しない予定でしたがやはりこの作品はどうしても外せませんでした。この本はある意味ノンフィクションとすら言える作品です。

私がこの作品を初めて読んだのは10年ほど前の学生時代でした。まだ20歳そこそこで世界のこともあまりわかっていなかった当時の私でしたが、この本の恐ろしさに強烈な印象を受けたのを覚えています。

今回久々に『一九八四年』を読み直したわけですが、今度の『一九八四年』は前回とは全く違った恐怖を感じることになりました。

と言うのも、私は最近、ソ連やナチス、独ソ戦の歴史を学び、全体主義の恐怖をこれでもかと感じていたからです。

(※以下のカテゴリーページに記事をまとめていますのでぜひご参照ください)
「レーニン・スターリン時代のソ連の歴史」
「独ソ戦~ソ連とナチスの絶滅戦争」
「スターリンとヒトラーの虐殺・ホロコースト」
「冷戦世界の歴史・思想・文学に学ぶ」
「現代ロシアとロシア・ウクライナ戦争」
「ボスニア紛争とルワンダ虐殺の悲劇に学ぶ~冷戦後の国際紛争」
「マルクスは宗教的な現象か」

この作品は単に未来のディストピアを想像して書かれたものではありません。実際にソ連やナチスの全体主義で行われていたことが描かれています。

ですがよくよく考えてみましょう。この作品は私たちにとっての未来の姿なのでしょうか、過去の姿なのでしょうか。

私はこの作品は私たちの現在の姿でもありうると感じました。

それはソ連の歴史を学んでいた時にも強く感じたことでもあります。

国民の精神をどのように誘導し、権力に都合のいいように動かしていくか。全体主義体制はあらゆる手段を用いてそれをコントロールしようとします。

それは注意して見ていかないと気付くことができないレベルで徐々に徐々に私たちに浸潤してきます。

『一九八四年』の世界においても、最初からビック・ブラザーが全てを掌握していたのではないのです。しかし、いつしか国民が自分から進んでビック・ブラザーに忠誠を誓い、互いに監視し合うようになってしまったのです。そうなってしまっては一個人が疑問を持ってもヴィンストンのように簡単に捕らえられ、蒸発、あるいは改造されてしまいます。

『一九八四年』はどの時代においても「今」を問うてくる作品です。

「今」、私たちはどのような世界に生きているだろうか。

そのことを強烈に突きつけられる作品です。読書人必読の書と言える名著です。

おわりに

ここまで15冊の本を紹介してきましたがいかがでしたでしょうか。有名な本もあれば見たことも聞いたこともない本もあったと思います。ですがそのどれもが私が自信を持っておすすめできる作品です。

当ブログではこの他にも数多くの本を紹介しています。それぞれの本のリンク先では関連著作も掲載していますのでその本に関係のある作品を辿っていけるような作りになっています。気になる本があればぜひ記事を辿って頂けたらと思います。

基本的に当ブログでは私が実際に読んで「これはおすすめできる」と思えた本のみを掲載しています。もちろん私の好みや思考回路との相性も反映されてはいますが、どの本も一定以上のクオリティーは保証できます。時間は有限です。私たちに与えられた時間はあまりに少ないです。そんな中私たちが何を読むのかというのは大きな問題になってきます。

その限られた時間を有効に使うための道しるべとして当ブログを利用して下されば何よりも嬉しく思います。

ぜひこれらの本を読んで頂くことを願っています。

以上、「戦争と平和、世界の仕組みを学ぶためのおすすめ作品15選~今こそ歴史を学び世界を問い直す時!学生にぜひ薦めたい名著!」でした。

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