ロシアの文豪ツルゲーネフおすすめ作品8選

ツルゲーネフとドストエフスキー

ロシアの文豪ツルゲーネフおすすめ作品8選

ツルゲーネフと言えばトルストイやドストエフスキーと並ぶロシアを代表する文豪です。代表作は『あいびき』や『初恋』、『父と子』などが挙げられます。

今となってはトルストイやドストエフスキーの方が有名ですが、かつての日本では二葉亭四迷が『あひびき』という邦訳でツルゲーネフの作品をいち早く紹介し、ロシア文学といえばツルゲーネフの方が有名だったのです。

そんなツルゲーネフですがドストエフスキーの生涯を知る上で度々出てくる人物であります。

ドストエフスキーとこの人物との因縁は生涯続きます。『貧しき人びと』で華々しく作家デビューした若きドストエフスキーはあっという間に彼と不仲となります。いや、ドストエフスキーが一方的に彼を嫌ったという方が正確かもしれません。

大貴族の御曹司で社交界でも優雅に立ち振る舞う色男ツルゲーネフと、元々神経質で自惚れやすい自意識過剰な文学青年たるドストエフスキーではまったく噛み合う要素がありません。

人間性の違いによる不和もそうですが彼らはやがて文学における立場でも袂を分かつことになります。

ドストエフスキーはスラブ派というロシア主義、ツルゲーネフは西欧派というロシアの西欧化を目指す人々の代表となっていきます。

こうした思想的な違いによっても両者は対立するようになっていくのです。

ツルゲーネフを知ることでドストエフスキーが何に対して批判していたのか、彼はどのようなことに怒り、ロシアについてどのように考えていたかがよりはっきりしてくると思われます。

また、ツルゲーネフの文学は芸術作品として世界中で非常に高い評価を得ています。

それに対しドストエフスキーの文学は芸術作品としてはそこまでの評価は得ていません。いや、むしろ芸術性に関しては批判されているくらいです。しかしそれを補ってやまない圧倒的な思想力がドストエフスキー作品の魅力となっています。

文学としての芸術とは何か、そしてそれを補ってやまないドストエフスキーの思想力とは何かというのもツルゲーネフを読むことで見えてくるのではないかと感じています。

では、これよりツルゲーネフのおすすめ作品を紹介していきたいと思います。

それぞれの記事でより詳しくお話ししていきますので、ぜひリンク先もご参照ください。

ツルゲーネフの代表作『猟人日記』あらすじと解説―ツルゲーネフの名を一躍文壇に知らしめた傑作

『猟人日記』は1852年に発表された短編集です。

『猟人日記』はツルゲーネフの名を世に知らしめた作品で、多くの短編を集めた形で出版されました。日本でも有名な『あひびき』という短編はこの作品の中に収録されています。

また、この作品は彼の幼少期、虐げられた農奴の姿を目の当たりにしていたことも執筆の大きな要因となっています。

彼の母は暴君のように振る舞い、農奴だけでなくツルゲーネフも虐待していました。その時の大地主である醜い母の姿を彼は忘れられないのでありました。

優しい性格だったツルゲーネフは農奴たちに同情します。彼らを単なる奴隷のようにしか考えない地主たちの横暴に、心を痛めるのです。だからこそ、農奴たる彼らもひとりひとり同じ人間なんだ、美しい心を持った人間なのだということをツルゲーネフは示していくのです。

このことについては以下の記事で紹介していますので興味のある方はぜひご覧ください。

そしてこの『猟人日記』によってロシア社会は大きな衝撃を受け、これを読んだ皇帝アレクサンドル2世が農奴解放令の布告を決心したとも言われています。

それだけこの作品の与えたインパクトというのは大きかったのです。

ツルゲーネフを代表する芸術作品としてだけではなく、ロシア社会の実態を捉えたという点でもこの作品の持つ意味は大きなものであると言えそうです。

ツルゲーネフの代表作『猟人日記』あらすじと解説―ツルゲーネフの名を一躍文壇に知らしめた傑作

ツルゲーネフの名作『ルーヂン』あらすじ解説―ロシアのハムレット「余計者」の創造

二葉亭四迷訳「うき草」の題名によって明治以来わが国に知られて来た名作。女地主ダーリヤの邸に現われた一人の男ルーヂン。人々の前で知識をふり廻すが、しょせんは意志の弱い冷淡な知識人に過ぎず、のちに革命の理想だけを抱いてあえなくも死んでゆく。今日でもなお見られる知識人の一タイプを示す。

1855年作。岩波書店、中村融訳『ルージン』

『ルーヂン』は1856年に発表されたツルゲーネフの代表作です。

この作品は『あひびき』と同じく二葉亭四迷によって翻訳され、早くから日本でも知られていた作品です。

この作品の主人公ルーヂンは洗練された立ち振る舞いや圧倒的な弁舌の才によって田舎の人々をあっという間に魅了してしまう好男子です。

しかしその正体はなんと悲しきかなや、単なる空っぽな人間だったのです。彼には確固たる意志もなく、社会のどこにいてもうまくやっていけない社会不適合者だったのです。

ツルゲーネフはルーヂンというロシアのハムレットを生み出しました。

ツルゲーネフはシェイクスピアを愛読し、特に『ハムレット』に大きな影響を受けたと言われています。彼はハムレットのような、運命に対し煩悶する人間、運命を切り開く行動力を持てない人間に対し強い関心を向けたのです。

ハムレットが実際に行動力のない人間なのかというとこれは難しい問題なのですが、ツルゲーネフは彼に対してそのような印象を受けていたようです。

ルーヂンは強い意志を持たないインテリです。それに対しドストエフスキー作品の登場人物は意志の化け物揃いです。狂気に近い激情がそれぞれにあります。

冷静な芸術家ツルゲーネフと激情家ドストエフスキーの違いを感じられて非常に興味深い小説でした。

ツルゲーネフの名作『ルーヂン』あらすじ解説―ロシアのハムレット「余計者」の創造

ツルゲーネフ『貴族の巣』あらすじ解説―ロシアで大絶賛されたツルゲーネフの傑作長編

『貴族の巣』は1859年に発表された長編小説です。

主人公のラヴレツキーは現実生活に必要な知恵を軽蔑した父親によって歪んだ教育を受けた人物です。このブログでも何度も登場してきた「余計者」の系譜に連なる思想を彼は子供の時から吸収していくことになります。

そんな彼が大人になると当然ながら現実世界において失敗と幻滅ばかりとなります。彼も現実を知らないが故にまったく無力な余計者となってしまいます。

彼は美人の妻と結婚していたのですが、あらすじにありますようにこの妻にいいように利用され裏切られてしまいます。現実を知らない彼はそれにショックを受けロシアの友人の家へ向かうことになったのです。

タイトルの『貴族の巣』というのはロシア貴族の荘園、領地のことです。主人公がここで過ごした日々がタイトルの由来となっています。

この作品は発表されるやいなやロシア中で大評判となり、ツルゲーネフの文豪としての地位はこの作品で固まったとさえ言うことができるほどでした。

ツルゲーネフを学ぶまで『貴族の巣』という小説はまったく知らなかったのですが、この作品がツルゲーネフの作品中屈指の人気があるというのは驚きでした。

ロシア中から大喝采をもって迎えられるほどこの作品はロシアで大人気となり、ドストエフスキーもこの作品に対して賛辞を送っています。

たしかにこの小説はとても読みやすかったです。展開もどんどん動きますし、小説としてかなり面白いです。

また、主人公ラヴレツキーの性格描写が非常に精緻に描かれています。彼がなぜそのような性格になり、なぜそのような行動を取るのかということが鮮やかに描かれます。

ツルゲーネフといえば『猟人日記』のように芸術的な自然描写が特徴ですが、この作品ではそれに加えて恋愛描写も芸術の域に達しています。ドストエフスキーのようなどろどろした混沌とはかなり毛色が違います。

ドストエフスキーを読んだ後にツルゲーネフを読むと、芸術家とは何か、文学における芸術とは何かというのがなんとなく見えてくるような気がします。ここでうまくそれを説明することはできないのですが、読んだ時の感覚として明らかに違うものを感じます。

そうした意味でもこの作品は非常に面白い作品でした。

ツルゲーネフ『貴族の巣』あらすじ解説―ロシアで大絶賛されたツルゲーネフの傑作長編

ツルゲーネフ『その前夜』あらすじ解説―農奴解放直前のロシアを描いた長編小説

『その前夜』は1860年に発表された長編小説です。

この作品が発表された1860年はまさしく1861年の農奴解放令の前夜でした。

世の中の流れが農奴解放へと向かって行く中で、青年たちはどのようなことを思い、何をしようとしているのか。それをツルゲーネフは凝視します。

そしてツルゲーネフはそうした青年たちの中でも、社会に積極的に関わり行動していこうとする女性を描こうと思い立つのです。

これまで「余計者」というロシアのハムレットを多く描いてきたツルゲーネフですが、ここにきて運命に立ちむかう行動力あふれた人物を造形しようとするのです。

「余計者」の典型とされる『ルーヂン』の主人公ルーヂンという男は抽象的な理論を操ることにかけては天才的ですが、彼には強い意志が欠けていました。彼はハムレットのように運命の前に悩み苦しみ、それを打開する行動ができない人物として描かれます。

それに対しこの作品の主人公インサーロフ、そして彼に恋するエレーナはまさしく行動の人。

ツルゲーネフは1861年の農奴解放前の激動のロシア社会をこの2人を通して描こうとしたのでした。

『その前夜』は発表後すぐに多方面から激しい非難を浴びることになります。この作品は私個人としてはすいすい読めて面白い物語のように感じましたが、当時のロシア社会からは拒絶されてしまった作品なのです。

これ以降ツルゲーネフはロシアにおいて難しい立場に立たされることになります。その風向きが変わるのは彼の晩年の1870年代後半のこと。彼がロシアで大歓声をもって迎えられるまで長い時を待たなければならなくなってしまうのです。この記事ではその顛末についてもお話ししていきます。

この作品はツルゲーネフにとっては苦い記憶となってしまいましたが、現代日本人たる私が読んだ感想としてはそこまで非難されるべき作品ではないと思いました。

国によって、そして時代によって評価がこうも異なるのかというのを感じられた作品でした。

ツルゲーネフ『その前夜』あらすじ解説―農奴解放直前のロシアを描いた長編小説

ツルゲーネフの自伝的代表作『初恋』あらすじ解説

16歳の少年が初めて恋した年上の女性ジナイーダにはすでに恋人があった。その相手がほかならぬ自分の父であることを知った時の驚きと悲しみ……。人生の曙「初恋」を歌うリリシズムに貫かれたこの自伝的物語は、哀愁の詩人としてのツルゲーネフ(1818-83)の真髄をよく伝え、またジナイーダは彼の創り出したもっともユニークな女性像といわれる。

岩波文庫、米川正夫訳『初恋』

『初恋』は1860年ツルゲーネフによって書かれた中編小説です。

記事内でより詳しくお話ししていきますがこの小説はツルゲーネフの実際の体験をもとにして書かれています。自分が恋した女性が実は父の愛人だったという、もし実際にそういう場面に直面したらかなりショックを受けそうな内容です。

物語としても非常に面白い『初恋』ですが、ツルゲーネフの恋愛観を知る上でも非常に興味深い作品となっています。

分量も文庫で100ページ少々と気軽に読めるものとなっています。

ツルゲーネフの代表作『初恋』、とてもおすすめな作品です。

ツルゲーネフの自伝的代表作『初恋』あらすじ解説

ツルゲーネフ『父と子』あらすじ解説―ニヒリストの語源はここにあり!

「ニヒリスト」という言葉はこの作品から広まった―自然科学以外の一切を信用せず、伝統的な道徳や信仰、芸術、社会制度を徹底的に批判するバザーロフ青年。

年寄りは時代遅れで役立たずだと言い切る新世代と、彼の様な若者こそ恥ずべき高慢と冷酷の塊だと嘆く旧世代。新旧世代の白熱する思想対立戦を鮮やかに描き、近代の日本人作家たちに多大なる影響を与えたロシア文学の代表的名作。
※適宜改行しました

新潮社、工藤精一郎訳『父と子』表紙裏

『父と子』は1862年に発表された長編小説です。

ニヒリスト、ニヒリズムといえばなんとなくニーチェを思い浮かべてしまいますが、ニヒリストという言葉自体は実はツルゲーネフがこの作品で生み出したものだったのです。これには私も驚きでした。

物語は主人公アルカージーが友人バザーロフを伴って帰郷するところから始まります。

旧世代を代表するアルカージー家と新世代のニヒリスト、バザーロフの衝突がそこで描かれます。

そしてその衝突と並行してアルカージー、バザーロフはある姉妹に恋をすることになります。

世代間の衝突と恋の物語が混じり合い、小説として非常に面白い展開となっています。

この作品は小説として非常に面白いです。そして驚くほど読みやすい小説でした。

長々としたややこしい文章もなく、まるでプーシキンのようにすっきりとした文体。そして物語もどんどん展開されていき、その勢いにぐいぐい引き込まれてしまいます。

また、ニヒリストとは一体何なのかということも旧世代の代表アルカージー家の面々と新世代の代表バザーロフの対話によって明らかにされます。ですのでややこしくて難しい哲学論とは全く異なった趣で語られていきます。これも『父と子』が非常に読みやすい大きな理由の一つであると思われます。

バザーロフという人物を考案することによって、ツルゲーネフは時代を代表する典型的人物を生みだし、それに人間らしい肉付けを加えるという力技を成し遂げたというのがこの作品の最も偉大な点であると私は思います。

出来上がった作品を受け取る私たちからするとあまりぴんと来ないかもしれませんが、バザーロフという人間を創造したというのはものすごいことです。

バザーロフを見た時に多くの人が「あぁ!いるよねこういう人!」と思わず納得してしまう、「あるある」的な感覚です。

ツルゲーネフがバザーロフというニヒリストを生み出すと、それ以降現実世界においてそのような人は「バザーロフ的人間」とか「ニヒリスト」と呼ばれることになりました。

この影響力たるやすさまじいものがあります。

これをやってのけたツルゲーネフの観察者、芸術家としての能力はやはりずば抜けているなと感じました。

『父と子』は読みやすく、とてもおすすめな作品です。ぜひ手に取ってみてください。

ツルゲーネフ『父と子』あらすじ解説―ニヒリストの語源はここにあり!

ツルゲーネフ『煙』あらすじ解説―文学における芸術を知るならこの本がおすすめ!

『煙』は1867年に発表された長編小説です。

主人公リトヴィーノフは彼を深く愛する優しく誠実な婚約者と落ち合うためにドイツの保養地バーデン=バーデンへとやって来ます。

彼の目の前には彼女との穏やかで幸せな生活が待っているはずでした。

・・・あの女と再会するまでは。

リトヴィーノフは再会したかつての恋人イレーネにダメだとわかっているのに惹き付けられてしまいます。

このイレーネという女は非常に狡猾な魔性の女です。こういう女性に目をつけられたリトヴィーノフは不運としか言いようがありません。

とはいえリトヴィーノフはリトヴィーノフで煮えきらないというか、妙に悩み過ぎたりと言いますか自分から破滅に向かいたがっているかのようにも見えます。彼自身にも破滅の原因があったのです。

この物語はそんな二人を軸に展開されていきます。

さて、当時のロシア文壇からは不評だったこの作品ではありましたが現代日本に生きる私が読んでみたらどうだったのかと言いますと・・・

正直、面白くはなかったです。

リトヴィーノフとイレーネのどうしようもない恋、そしてそれを取り巻く小者な男たち。彼らのやりとりを延々と見せられるのはかなり厳しかったです。ストーリー展開もそれほどなく、ただただリトヴィーノフが振り回され、婚約者への不実をぐにぐに悩み悔やみ続けます。

では、この小説は読むに値しないものなのか。

いや、それが違うんです。

実は私にとってこの『煙』という小説は、ツルゲーネフ作品の中でもトップクラスに印象に残った作品となったのです。

面白くはないはずのこの作品がなぜ私の中でこんなにも印象に残ったのか、そのことを説明するのにズバリな解説が文学全集の巻末解説にありましたのでそちらを紹介します。

長編小説『けむり』の終章で、女と別れた主人公リトヴィーノフが、汽車の窓を流れる白い蒸気を眺めながら、人間世界のいっさいは「みんな煙なんだ、蒸気なんだ」とつぶやくくだりは、なんとも文学的である。鑑識の必要がないだけに、いっそう文学的でさえある。

数百ぺージにおよぶこの長編を、作者はこの一節を書かんがために我慢して進めてきたのではないかという、錯覚に陥るほどである。

人生は煙なんだ―なんという美しい言葉だろう。虚無的な、諦観的な匂いのする言葉である。わかりきった哲理であるか。わかりきった哲理を美しく表現するのが文学というものだ。文学は思想ではない。思想は文学になり得るが、文学は思想にならぬのである。
※適宜改行しました

河出書房新社『世界文学全集9 プーシキン ツルゲーネフ』P453

これです。まさにこれなんです!

この小説の最後の最後に、すべてを失ったリトヴィーノフが汽車の車窓から眺める景色。

そしてその煙を眺めながら「煙だ、煙だ。」とつぶやくリトヴィーノフ。

この場面はまるで目の前にその情景が現れてくるかのような感覚を受けました。

まるで映画の一場面を見ているかのような気分になったのです。そしてその場面のなんと美しいことか!

解説で「数百ぺージにおよぶこの長編を、作者はこの一節を書かんがために我慢して進めてきたのではないかという、錯覚に陥るほどである。」と言われるのが本当にわかります。本当にそう思ってしまうのです。

たしかにこの小説は面白くはないです。

しかし、最後の最後、この煙のシーンまで来るとあぁ・・・!となります。

ツルゲーネフはこのためにこの小説を書いたんだと一発でわかります。

するとそれまでの面白くなさが一気に吹き飛びます。

これぞ芸術!これが文学における芸術なんだと驚かされました。

なんて詩的で美しいシーンなんだろうと開いた口が塞がりませんでした。

この一瞬を体感するためにもぜひこの作品はおすすめです。

ツルゲーネフ『煙』あらすじ解説―文学における芸術を知るならこの本がおすすめ!

ツルゲーネフ『処女地』あらすじ解説―ドストエフスキー『悪霊』との比較に最適!

「ルーヂン」で1840年代人を,「父と子」で50年代のニヒリストを描いた作者は,この作品で70年代のナロードニキ青年をとりあげる。ハムレット型のネジダーノフ,理想への固い信念を失わないマリアンナ,地味だが着実なリアリストのソローミンを中心に,かれらの「ヴ・ナロード」の運動と恋が,流麗な筆致で描かれる。

岩波書店、湯浅芳子訳『処女地』

この小説はツルゲーネフの晩年に書かれた最後の大作で、あらすじにあるように70年代の青年たちをテーマに小説を書き上げました。

この作品もやはりツルゲーネフの芸術的センスが遺憾なく発揮されています。

前作の『煙』のラストシーンでもその芸術溢れる描写に驚かされましたが、この作品でも思わず唸ってしまうような素晴らしい描写がありました。

ここでは長くなりますので、ぜひこの記事をご覧ください。その箇所についてお話ししていきます。

ツルゲーネフの美しい自然描写は圧倒的です。まさに目の前に情景が浮かぶようです。

しかもただ目の前に情景を浮かべさせるのではなく、その最も美しい瞬間をツルゲーネフは完璧に捉えるのです。これには脱帽です。

ここまで長々とツルゲーネフ作品を読んできましたが私の中で最も心に残ったのがこの小説です。それほどこの描写は私にとって衝撃でした。文学における芸術とは何かと聞かれたら、これから先きっと私はこの小説の一節を思い浮かべることでしょう。

前作の『煙』のラストシーンも素晴らしかったですがこちらはそのさらに上を行く美しさでした。

私にとって『処女地』と『煙』のこの2つのシーンはツルゲーネフ芸術のツートップと言っても過言ではありません。

文学の専門家からするときっと異論はたくさんあるのでしょうが、芸術という意味で個人的に最もインパクトがあったのはこの2作品だったかなと思います。

『猟人日記』『アーシャ』『貴族の巣』などの作品も高い芸術性が評価された作品ですが、私個人としては円熟したツルゲーネフの筆が光る『煙』と『処女地』もおすすめしたいなと思います。

ツルゲーネフ『処女地』あらすじ解説―ドストエフスキー『悪霊』との比較に最適!

番外編 おすすめ参考書⑴ ツルゲーネフのおすすめ伝記―アンリ・トロワイヤ『トゥルゲーネフ伝』

ツルゲーネフの生涯を知るには伝記が最適です。

その中でも私がおすすめしたいのがアンリ・トロワイヤの『トゥルゲーネフ伝』(水声社 市川裕見子訳)です。

アンリ・トロワイヤといえばすでに私のブログでもお馴染みの存在になっています。

アンリ・トロワイヤ(1911-2007)はモスクワ生まれのロシア系フランス人で、小説家、伝記作家として非常に多くの著作を残しています。

彼の代表作は、『プーシキン伝』や『ドストエフスキー伝』『大帝ピョートル』『女帝エカテリーナ』など数え切れないほどの名作伝記があります。

トロワイヤは彼の他の伝記作品と同じく、この作品でも物語的な語り口でツルゲーネフの生涯を綴ります。

そしてこのあとがきにもありますように、文豪ツルゲーネフを尊崇する伝記では省かれがちなエピソードも彼は余すことなく記しています。

ツルゲーネフとドストエフスキーの不仲は有名ですが、この伝記ではドストエフスキーがなぜ彼をこんなにも毛嫌いしたかがよくわかります。そして、そんなツルゲーネフがなぜそのようになっていったのかも幼少期から遡って知ることができます。

ひとつひとつのエピソードがとても興味深かったです。

とてもおすすめな伝記です。

ツルゲーネフのおすすめ伝記―アンリ・トロワイヤ『トゥルゲーネフ伝』

番外編 おすすめ参考書⑵ 佐藤清郎『観る者と求める者 ツルゲーネフとドストエフスキー』これ1冊で両者の個性が浮き上がってきます!

佐藤清郎著『観る者と求める者 ツルゲーネフとドストエフスキー』は1993年、武蔵野書房より発行されました。

佐藤清郎氏はこの記事の一つ前で紹介した『ツルゲーネフの生涯』の著者であり、ツルゲーネフをはじめとしたロシア文学の研究者です。

この本はタイトルにもありますように「観る者」ツルゲーネフと「求める者」ドストエフスキーの気質、個性に着目して2人の文学スタイルを改めて見ていこうという試みがなされています。

表紙にはこの本について「五十数年間、主にロシア文学と取り組んできた著者による人間の本質と生き方についての洞察の集大成」と記されています。

この本の特徴は何より、ツルゲーネフとドストエフスキーの違いを彼らの生涯や作品を通して明らかにしていく点にあります。

冷静で中道的な観察者ツルゲーネフ、激情的で何事も徹底的にやらなければ気が済まない求道者ドストエフスキー。

なぜ二人はこうも違った道を進んだのか、そしてその作風の違いはどこからやってきたのかを著者は語っていきます。

この著作を読むことでドストエフスキーがなぜあんなにも混沌とした極端な物語を書いたのか、ツルゲーネフが整然とした芸術的な物語を書いたのかがストンとわかります。

これはすごいです。

そして何より、この本は面白くて面白くてびっくりするほどです。ものすごく興味深いことだらけです。読んでいる内にのめり込んでしまい時間を忘れてしまうほどでした。

本当におすすめです。素晴らしい本と出会えました。

佐藤清郎『観る者と求める者 ツルゲーネフとドストエフスキー』これ1冊で両者の個性が浮き上がってきます!

おわりに

ツルゲーネフは大地主の家に生まれ、大貴族の御曹司として育ちました。

お金もままならない下級貴族出身のドストエフスキーとはまるで違った人生です。

幼少の頃から何度もヨーロッパへ外遊し、生涯にわたって国際人として活躍したツルゲーネフ。

彼が西欧派と呼ばれるロシアの近代化を目指す陣営にいたのもこうした背景がありますが、やはりその根底には幼少期の辛い体験があったと思われます。

専制的な暴君のような母親。虐待される農奴の姿。そしてその農奴からの搾取で成り立つ自らの生活。

ツルゲーネフはそうした旧きロシアの農奴制度に心からの嫌悪を感じていたようです。

ツルゲーネフの生涯と作品をたどることでドストエフスキーの側から見たツルゲーネフ像とはだいぶ違った姿を感じることができました。

ツルゲーネフとドストエフスキーの違いを感じることができたことは非常に興味深かったです。また、文学における芸術とは何かということをとても考えさえられました。

芸術家ツルゲーネフのすごさを感じることができたのはとてもいい経験になりました。これからトルストイを読んでいく時にもこの経験はきっと生きてくるのではないかと思います。

ツルゲーネフはドストエフスキーとはまた違った魅力を持つ作家です。ぜひ皆さんも手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「ロシアの文豪ツルゲーネフおすすめ作品8選」でした。

関連記事

HOME