ローマおすすめ参考書一覧~歴史、文化、宗教、芸術!ローマがもっと面白くなる名著を一挙ご紹介!

ローマおすすめ観光スポット ローマ帝国の興亡とバチカン、ローマカトリック

目次

ローマおすすめ参考書一覧~歴史、文化、宗教、芸術!これを読めばもっとローマが面白くなる!

前回の記事「僧侶推薦ローマおすすめ観光スポット15選!王道からマニアックな教会まで美の極致を味わう」ではローマのおすすめスポットをご紹介しましたが、この記事ではそんなローマをもっと楽しむためのおすすめの参考書、ガイドブックをご紹介していきます。

それぞれのリンク先ではより詳しくその本についてお話ししていますのでぜひそちらもご参照下さい。

では早速始めていきましょう。

ローマをもっと味わうための必読参考書6選!まずは入門的な書籍とローマの全体像を掴むためのおすすめ本を紹介します

石鍋真澄『サンピエトロが立つかぎり 私のローマ案内』

早速この本について見ていきましょう。

「永遠の都」ローマは歩くたびに新たな発見がある。本書は新進の美術史家が実際に歩きながら、遺跡や聖堂、 噴水や広場について歴史的エピソードをまじえて平易に解説した「エッセー風」ローマ案内。ローマ旅行に必携。

吉川弘文館商品紹介ページより

はじめに言っておきます。この本は最高です!

ローマの魅力を堪能するのにこれほど優れた作品は存在しないのではないでしょうか!それほど素晴らしい作品です。

「本書によってローマの魅力を会得した読者は、熱い旅心を呼び覚まされるにちがいない。」

まさにこれです!この本を読むとものすごくローマに行きたくなります!そして観たい場所が一気に増えるので旅行スケジュールがパンパンになること間違いなしです(笑)

こちらが本書の目次になります。

ローマのメジャーどころもビシッと押さえられていますし、あまり聞いたことのない場所もあるかもしれませんが、読んでみると「おぉ!そうなのか!」と面白く読めます。ひとつひとつが発見の連続です。

2022年に私はローマを訪れ、こちらの旅行記を執筆しましたがそのメインの参考文献がこの『サンピエトロが立つかぎり 私のローマ案内』になります。

この本では終始わくわくする名解説を楽しむことができます。

その深さ、広さには驚くしかありません。漠然と見えていたローマの景色が変わること請け合いです。

最強のローマガイドブック、ここに極まりたり!!ぜひおすすめしたい最強のローマガイドブックです。

塩野七生、石鍋真澄『ヴァチカン物語』

上の『サンピエトロが立つかぎり 私のローマ案内』はローマ全体の最高の解説書でしたが、本書はローマカトリックの総本山、バチカンを知るためのおすすめガイドブックになります。

バチカンといえばサン・ピエトロ大聖堂。その美しさたるや、言葉にできません。

この本ではそんなバチカンの歴史とこの圧倒的建造物の美しさの秘密について解説していきます。

この本ではまず『ローマ人の物語』の著者である塩野七生氏によるバチカンのエッセイから始まります。とてもわかりやすく、入門者でも楽しく読み進めることができます。

そしてこの本の中盤からはバチカンの歴史とその美しさの秘密を石鍋真澄氏が解説していくのですが、この解説がとても刺激的でものすごく面白いです。バチカンの素晴らしさはどこにあるのか、その背後にどんな思想が込められているのかがよくわかります。

この本はバチカンを知るためにものすごくおすすめな一冊です。ぜひガイドブックとしてこの本を活用して頂けたらなと思います。バチカンをこれから訪れる方にも、これまで訪れたことがある方にもすべての方におすすめしたい作品です。

石鍋真澄『教皇たちのローマ』

この本もぜひおすすめしたい衝撃の一冊です。私はこの本にとてつもないショックを受けました。まさに私の中にあった常識が覆されたかのような凄まじいショックでした。

バチカンと言えばその美しい美術館やシスティーナ礼拝堂、サン・ピエトロ大聖堂など、何も知識がなくても圧倒される素晴らしさがあります。

ですが、これらの建造物や芸術が生まれてきた背景には何があったのか、その流れを知ることで全く違った世界が現れてきます。

この本を読めば衝撃を受けること間違いなしです。これまで見えていたローマ・バチカン像が変わると思います。

これはぜひおすすめしたい作品です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

石鍋真澄『ベルニーニ バロック美術の巨星』

この作品は17世紀のローマで活躍した天才芸術家ベルニーニについて語られた伝記です。

ベルニーニ(1598-1680)Wikipediaより

ベルニーニといえば何と言ってもサン・ピエトロ大聖堂にありますこちらの作品が有名です。

バルダッキーノ(手前)とカテドラ・ペトリ(後方) ブログ筆者撮影

初めて見た時、その独特な姿に言葉を失ってしまうほどの衝撃を受けたバルダッキーノ。

そしてそのバルダッキーノの先にはカテドラ・ペトリというこれまたベルニーニの傑作が配置されています。

そして「ミケランジェロとベルニーニが設計したサン・ピエトロ大聖堂の美の秘密を解説 イタリア・バチカン編⑥」の記事でもお話ししましたが、ベルニーニはこの大聖堂内の装飾やバチカン広場の設計も担当しています。

なぜバチカンはこんなにも美しいのか、そこにはベルニーニという偉大な天才がいたからこそなのでした。

この伝記はそんなベルニーニとは何者だったのか、そしてこの人物が生まれてくる時代背景とはどのようなものだったのかを知ることができる素晴らしい作品です。

この本も私の旅行記で主要な参考文献となっています。

ローマをもっと深く味わうために必読の参考書です。ものすごく面白い伝記です。ぜひおすすめしたい逸品です。

ナショナルジオグラフィック『ローマ帝国 誕生・絶頂・滅亡の地図』

この本はローマ帝国を学ぶ入門書としておすすめの一冊となっています。

ページ数は全96ページとかなりコンパクトで、図版や写真もたくさん掲載されていますので気軽に手に取ることができます。

私がこの本でありがたいなと思ったのはその読みやすさでした。

古代ローマについての知識がほとんどなくても読み進めやすい文章となっています。歴史の本となるとどうしても人物名や地名が大量に出てきて頭が混乱してしまいがちですが、この本は96ページというコンパクトな分量ですので要点がぎゅぎゅっと凝縮されています。

ですのであまり細かいところに立ち入らず、歴史の大きな流れをざっくりと学ぶことができます。

まずはこの本でざっくりとした流れを掴んでから他の参考書に進んでいくとスムーズだと思います。

ローマ帝国に興味があるけど何を読んだらわからないという方にぜひともおすすめしたい1冊です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

『地球の歩き方ローマ2018~19』

私はこの『地球の歩き方』に度肝を抜かれました。

これまでも私は海外に行く度に『地球の歩き方』にお世話になっていたのですが、今回紹介する『ローマ』はその中でも飛び抜けて充実した旅ガイドになっています。

私がそれを実感したのは上で紹介した『ベルニーニ』に出てくる教会や彫刻を探している時でした。

『ベルニーニ』の巻末にも地図は一応掲載されてはいるのですが、できればもっと詳細なマップがほしい!そこでもっと見やすい地図を求めてこの本を手に取ったのですがそれが大正解!ばっちりベルニーニゆかりの地も収められていました。

私はこの『ローマ』版を買う前にすでに『イタリア』版を買っていました。と言いますのも私はローマだけではなくミラノやフィレンツェ、ヴェネツィアなどいくつもの都市を巡る予定があったからです。

ですが、最初はこの『イタリア』版で十分だったのですがローマを学べば学ぶほど行きたい場所が増えてきたのです。しかもベルニーニゆかりの地や文学ゆかりの地となるとかなりマニアックな場所も出てきます。

そうなると『イタリア』版では対応しきれません。

そこで改めて『ローマ』版を買って見てみるとそれらマニアックな場所もばっちり収録されているではありませんか!

地図もしっかり細かい所まで掲載されていますし、解説も充実しています。これは素晴らしい!

私はこれまで当ブログで様々な本を紹介してきましたが、まさか『地球の歩き方』を紹介する日が来ようとは!(笑)

ですがそれほどクオリティーの高い素晴らしい1冊となっています。

ローマ・カトリックについてのおすすめ参考書

ここからはさらにローマを深く知るためのおすすめ書籍を紹介していきます

G・ブアジンスキ『クラクフからローマへ』

ビル・クリントンアメリカ合衆国大統領と(1993年Wikipediaより

この本はヨハネ・パウロ2世が教皇となった一年余の1980年に書かれました。

ヨハネ・パウロ2世(1920-2005)は1978年から2005年間、ローマ教皇として在位していました。

この作品はそんなヨハネ・パウロ2世がポーランドで生まれ、そこからローマ教皇となるまでの人生をまとめた伝記です。

彼の伝記を読んでいるとヨハネ・パウロ2世は若い頃から猛烈に勉強し、無類の読書家であったことがわかります。彼は詩人でもあり、哲学にも通じていました。彼の偉大な所はその幅広い視野にあります。彼はカトリックの司祭でありながら、それと敵対するマルクス主義の理論にも詳しく、彼の前では共産主義者もたじたじとしてしまうほどだったそうです。

ヨハネ・パウロ2世は独善的に思想を押し付けたりしません。ナチスやソ連の弾圧に苦しんだ体験がそうした傾向を強めたのかもしれません。彼のそうした懐の広い大きな心に私は何度も胸打たれました。私はこの伝記を読んで何度も泣きそうになりました。伝記を読んで泣きそうになることはほとんどない私ですが、この本では何度もそういう箇所がありました。私はすでに何度もこの本を読み返しています。きっとこれからもこの本は私の大切な一冊となることでしょう。

南里空海 野町和嘉『ヴァチカン ローマ法王、祈りの時』

この作品では通常なかなか見ることも取材することもかなわないヴァチカンの貴重な写真を見ることができます。

私もヴァチカンについてはこれまで様々な本を読んできましたが、「祈りの時」に特化して儀式の最中の模様を取材しているこの本は非常に貴重なものだと思います。私にとってもこの作品はとてもありがたいものとなりました。

この作品ではヨハネ・パウロ二世の生涯についてもまとめられていて、彼がいかに突出した存在だったかがよくわかります。

こちらも写真がたくさん掲載されていて、祈りの場に臨むヨハネ・パウロ二世の貴重な姿を見ることができます。この作品で語られる解説もとてもわかりやすく、ヴァチカンやヨハネ・パウロ2世についての入門書としてもこの本は優れていると思います。

石鍋真澄『サン・ピエトロ大聖堂』~美の殿堂の歴史とその魅力をもっと知るためにおすすめの参考書

サン・ピエトロ大聖堂については上でも塩野七生、石鍋真澄著『ヴァチカン物語』をご紹介しましたが、本作『サン・ピエトロ大聖堂』はもっと詳しくこの大聖堂について知りたい方にうってつけの作品となっています。

サン・ピエトロ大聖堂はその歴史を知らずとも圧倒される驚異の建築です。

ですがその歴史や観るべきポイントを知ることでその魅力をもっと味わうことができます。ものすごく面白い作品です。ぜひおすすめしたい一冊です。

アンドレ・シャステル『ローマ劫掠 1527年、聖都の悲劇』

1527年のサッコ・ディ・ローマ(ローマ劫掠)事件。

私がこの事件を知ったのは上でも紹介した『教皇たちのローマ』のおかげです。

この事件は1527年にローマが攻撃され、虐殺、略奪の限りが尽くされた恐るべき出来事でした。

ローマ劫掠を描いた銅板画 Wikipediaより

しかもそれを行ったのが何を隠そうカール5世の神聖ローマ帝国軍でした。

カール五世(1500-1558)Wikipediaより

カール五世はスペインと神聖ローマ帝国という二つの国の皇帝です。つまり彼は熱烈たるカトリック国家のトップにいた人物になります。そのカトリック王国の盟主が聖地バチカンを徹底的に破壊し略奪したというのですから私はその事実に頭がくらくらする思いでした。

と言いますのも、私はこれまで、スペインはアメリカ大陸の発見後その黄金を用いてカトリックの繁栄と宗教改革への対抗のために莫大な財と労力を用いていたと理解してきました。

たしかにそれは事実なのですが、そんなスペイン・神聖ローマ帝国があろうことかカトリックの総本山のバチカンを略奪し破壊するなんて想像できるでしょうか。

なぜこのようなことが起きてしまったのかは長くなってしまうのでお話しできませんが、私にとってはこの出来事はあまりに衝撃的なものとなったのでした。これまでもローマ掠奪(サッコ・ディ・ローマ)という出来事自体はキリスト教史を学ぶ上でおそらく目にしていたことはあったはずです。ですがこの出来事の重大さ、深刻さには全く気付いていませんでした。この本を読んで初めてその意味がわかりました。そのような意味でも『教皇たちのローマ』はこれまでのキリスト教観を覆してくれた作品になりました。

そしてその『教皇たちのローマ』の中で参考文献として挙げられていたのがここでご紹介するアンドレ・シャステル『ローマ劫掠 1527年、聖都の悲劇』になります。

この作品ではサッコ・ディ・ローマという恐るべき事件の経緯をかなり詳しく見ていくことができます。

サッコ・ディ・ローマ事件は私にとってあまりにショッキングな出来事でした。

その目を背けたくなるような悲劇を学ぶのにこの本は最適です。

私はこの本を読んでからの一か月以上そのショック状態から抜け出せませんでした。それほどの衝撃です。宗教だけでなく、人類の歴史としてこの出来事は非常に大きな意味を持っていると私は感じています。

陶山昇平『ヘンリー八世 暴君かカリスマか』

ヘンリー八世といえばシェイクスピアの『ヘンリー八世』で有名なイングランド王で、16世紀前半から中頃にかけて在位した人物です。

ヘンリー八世は並外れたカリスマ、暴君とも知られており、離婚問題でローマカトリックと対立し、そのままイギリス国教会を立ち上げたことでも有名です。そこからイギリスの反カトリックの流れが出来上がり、陰謀うずめく血みどろの政治闘争が続けられることになります。こうした流れで出てくるのが血まみれのメアリーやエリザベス女王になります。この2人が共にヘンリー八世の子だったというのは興味深いですよね。

さて、私がこの本を手に取ったのは一見ヘンリー八世とは関係のない1527年のサッコ・ディ・ローマ(ローマ劫掠)事件がきっかけでした。私がこの事件を知ったのは上でも紹介した『教皇たちのローマ』のおかげです。

この事件は1527年にローマが攻撃され、虐殺、略奪の限りが尽くされた恐るべき出来事でした。

そしてこの本を読んでいて私はふと頭をよぎるものがありました。

「あれ?1527年といえば、この辺でヘンリー八世がイギリス国教会を作ろうとしていなかったっけ・・・もしかしてヘンリー八世がこんな大胆なことができたのはサッコ・ディ・ローマでバチカンが弱っていたからではないか?」

私はこれまでシェイクスピアの伝記を読んだ関係で、何となくではありましたがイギリスの流れを知っていました。そしてその歴史とイタリア・ローマ史がビビッと繋がった瞬間でした。これは今すぐにでも確かめたい!あのヘンリー八世はこの時どんな状況だったのだろう!私は居ても立っても居られなくなりこの本を手に取ったのでした。

そして読んでみて驚きました。サッコ・ディ・ローマ事件はやはり大きな影響を与えていたようです。まぁ、正確に言えばそもそもサッコ・ディ・ローマ事件が起きてしまったというそのこと自体がローマカトリックの弱体化とヨーロッパの複雑な政治情勢を示していると言えます。こうした国際情勢の中ヘンリー八世がどのように動いていたのかを知れるこの伝記は非常に興味深いものがありました。

実際、この本はものすごく面白いです。著者の語りも素晴らしく、歴史の流れがすっと入ってきます。ヘンリー八世という圧倒的カリスマの驚異の人生を私達は目撃することになります。

この本はシェイクスピアファンにも強くおすすめしたいです。この王の娘が後のエリザベス女王であり、その治世で活躍したのがシェイクスピアです。彼が生きた時代背景を知ればもっとシェイクスピア作品を楽しむことができます。時代背景を離れた芸術はありません。私にとってもこの伝記は非常にありがたいものとなりました。

佐藤彰一『宣教のヨーロッパ』

フランシスコ・ザビエル(1506頃-1552)Wikipediaより

イエズス会といえばまず思い浮かぶのはザビエルではないでしょうか。私もそのイメージが強いです。

この本でももちろんザビエルについて語られるのですが、今回私がこの本を手に取ったのはそのイエズス会の創始者イグナティウス・デ・ロヨラに興味があったからでした。

イグナティウス・デ・ロヨラ(1491-1556)Wikipediaより

この本はそのイグナティウス・デ・ロヨラの生涯や思想を知る上で非常にありがたい作品でした。

この本では彼がどこで生まれどんな過程を経てイエズス会の創始者となったのか、そしてその時代背景はどのようなものだったのかということを学ぶことができます。ザビエルとの関係性を知れたのも嬉しかったです。

イグナチオ・デ・ロヨラ『霊操』

イエズス会の創始者イグナティウス・デ・ロヨラの瞑想法がベルニーニの独創的な作品に大きな影響を与えていた。

これは宗教を学んでいる私にとっても非常に興味深いものでした。

で、あるならばそのイグナティウス・デ・ロヨラやイエズス会そのものについてもっと知ってみたい。

そんな思いを持ったからこそ私は彼の主著『霊操』を手に取ったのでした。

この作品には彼の瞑想プログラムが記されています。そしてこの作品の訳者解説では驚きの事実が語られていました。なんと、ロヨラの語る瞑想法と禅仏教との類似性が指摘されていたのです。

実際にこの『霊操』を読んでいくと、なるほど、たしかに瞑想の方法やそのプロセスには相通ずるものを感じました。

そして私がこの本を読むきっかけとなったベルニーニとのつながりもまさしく感じられました。

石鍋氏の解説で、

『この書物において最も印象的なことは「想像の眼」や「想像の耳」や「想像の手」を用いて「現場の設定、すなわち、場所を眼の前に現に見るように想像すること」を繰り返し鍛えようとしていることである。想像の五官を働かせて霊的世界に沈潜し、より深い宗教的境地に達しようとするこの書物の教えは、確かにべルニーニの作品に反映しているように思われる。』

と述べられていたのももっともでした。

まさに「想像の五感」を用いて地獄や神の世界を感じ、深い宗教的境地に達していく流れがこの作品で説かれていきます。

トマス・ア・ケンピス『キリストにならいて』

トマス・ア・ケンピス(1379/80-1471)Wikipediaより

私がなぜこの人物に興味を持ったのかといいますと、ローマバロックの天才、ベルニーニがきっかけでした。

ベルニーニはローマにいるとき毎日この『キリストにならいて』を読んでいたようです。この作品が彼の精神形成に大きな影響を与えていたのは確かなようです。実際、ベルニーニは敬虔なカトリック教徒として知られていました。人格的にも優れていたことは石鍋氏の『ベルニーニ』からも伝わってきます。

この作品の持つ力強さには衝撃しかありません。この本がこれだけ世界に影響を与えたのもわかる気がします。ここまで力強さを感じる本はなかなかありません。

ベルニーニとのつながりから読んだこの作品でしたが素晴らしい読書になりました。僧侶としても非常に刺激を受けた作品になりました。

フスト・ゴンサレス『キリスト教史』

この本では「キリスト教こそ絶対に正しくて、異教徒は間違っている」というニュアンスはまず存在していません。歴史的にその出来事はなぜ起こったのかということをできるだけ客観的に見ていこうという視点が感じられます。

また、この本はそもそも読み物としてとても面白いです。キリスト教史の教科書というと、固くて難しい本をイメージしてしまいがちですが、フスト・ゴンサレス『キリスト教史』は一味も二味も違います。

私の世界一周記のキリスト教についての記述もこの本を参考にして書きました。

キリスト教の歴史を学ぶならこの本は非常におすすめです。肩肘張らずに読めるとても面白い物語です。

松田隆美『煉獄と地獄 ヨーロッパ中世文学と一般信徒の死生観』

私がこの本を手に取ったのはダンテの『神曲 煉獄篇』がきっかけでした。

10年ぶりに読んだ『神曲 煉獄篇』。初めて読んだ時はキリスト教の知識もあまりなく、煉獄についてほとんど疑問に思うこともなく読み進めていたのですが、ドストエフスキーを通じてキリスト教について学び直した今、「煉獄ってそもそも何なのだ?」という思いが湧き上がってきたのでありました。

煉獄は聖書の中には書かれていません。ですがカトリック世界においては非常に重要なものとして存在してきました。

ではその煉獄はいつ頃に生まれたのか。どのような背景で煉獄が語られるようになったのか。そしてどのように人々の間に広まっていったのか。

それらのことを知りたくなり、私はこの本を手に取ったのでした。

この本ではなぜ煉獄が生まれてきたのかということを時代背景からとてもわかりやすく解説してくれます。

やはり思想というのは何もないところからぽんと生まれてくるものではありません。必要とされる時代背景があるからこそ生まれてくるのだということをこの本では感じることができます。

古代ローマを知るためのおすすめ参考書

本村凌二『興亡の世界史第04巻 地中海世界とローマ帝国』

この作品はタイトル通りローマ帝国の興亡の歴史の解説書になります。この本でありがたいのはローマ帝国の歴史はもちろん、ギリシャやカルタゴなど地中海諸国との関係性も網羅している点にあります。

そしてハンニバルやカエサルについての解説も豊富にあるのも嬉しいです。

ローマ帝国の長い歴史をまとめるとなるとどうしてもひとつひとつの出来事については薄くなってしまいがちです。ですがこの本ではあえてそこを割り切り、ハンニバルとカエサルという超ビックネームについて手厚く解説を加えています。私としてもカエサルとハンニバルについてもっと知りたいなと思っていたところでしたのでこれはありがたい解説でした。

もちろん、他の人物についてもわかりやすくてドラマチックな解説がなされていますのでご安心ください。この本は最初から最後まで一つの小説を読んでいるかのような面白さです。

佐藤幸三『図説 永遠の都 カエサルのローマ』

この本はカエサルの歴史と古代ローマ帝国の中心地フォロ・ロマーノを見ていくガイドブックになります。

この本はとにかく写真や図版が大量に掲載されていて現地の様子をイメージするのにとても助かります。

また地図も充実していて、何がどこにあるのかというのも知ることができます。そしてそれらひとつひとつの歴史もこの本では学ぶことができます。

これは現地で実際に歩く際に非常に役に立つものと思われます。

私も該当箇所をコピーして現地に持って行くことにしました。これがあれば現地で見逃してしまいがちなものまでしっかりと予習していくことができそうです。

歴史の大きな流れを掴むことも大切ですが、それだけだといざ現地に着いたとしてもどこに何があって何が見どころなのかを掴むのかは至難の技です。やはり実際にそこに何があるのかがわからないと厳しいものがあります。

そういった意味でこの本は非常にありがたいガイドブックとなっています。

エドワード・ギボン『ローマ帝国衰亡史』

この作品は1776年に発表された『ローマ帝国衰亡史』という壮大な作品を編訳し一冊にまとめたものになりますが、それでも500ページを超える大作となっています。

あれほどの繁栄を誇ったローマ帝国がなぜ崩壊していったのか。

単に蛮族が侵入したから崩壊したという単純な見方でいいのだろうか。

繁栄を謳歌するローマ帝国内で何が起こっていたのか。

それらを考えるのにこの作品はうってつけです。

そして歴史の流れを追いながら現代にも通ずる教訓がこの本では語られます。これが深いのなんの・・・!

小説のように読みやすいギボンの文章に加えて様々な考察が語られていく本書はやはり名著中の名著です。

そして章と章の間に置かれた訳者解説も非常に充実しています。

本編だけではわかりにくい箇所もこの解説のおかげでその流れも掴みやすくなります。

この本を読んでローマ帝国についてもっと興味が湧いてきました。知的好奇心が刺激される名著です。

アントニー・エヴァリット『キケロ もうひとつのローマ史』

キケロは古代ローマの哲学者、弁論家として有名ですが、彼はあのカエサル(前100年頃~前44)とまさしく同じ時代を生きた政治家でもありました。

私もキケロといえば哲学者というイメージがあったので政治家キケロというのはなかなかピンと来ませんでした。しかも独裁を狙ったカエサルに対して共和制を守るために最後まで闘っていたというのですから驚きです。

ローマ帝国と言えばカエサルというイメージが強い中、この本ではキケロを中心にローマ史を見ていきます。英雄の物語ではなく、ある意味敗者と言ってもいいキケロから見た古代ローマを見ていけるこの作品は非常に興味深いものがありました。

私たちはローマ帝国といえばカエサルを連想してしまいますし、「ルビコン川を渡る」、「来た、見た、勝った」などの英雄的な物語につい夢中になってしまいます。

圧倒的なカリスマが敵をばったばったとなぎ倒していき、その見事な決断力で世界を変えていくというストーリーに私たちは抗えません。

ですがその魅力的な英雄物語の陰で何が起きていたのか。私達がそのことを知る機会に恵まれることはなかなかありません。

そこで登場したのがまさにこの作品になります。

キケロは共和制を守り、独裁を防ぐことに生涯腐心しました。ですが彼が守ろうとしていた共和制システムもすでに腐敗しきっていて機能不全。八方塞がりの中で彼は戦いを続けていかなければならなかったのでした。この難しい舵取りの中でキケロは悩み続けることになります。

この作品ではカエサルの古代ローマとは一味違う、「もうひとつのローマ史」を知ることになります。

この本を読んでいていかに古代ローマが機能不全だったのかということを突き付けられました。ですがそれを破壊するのではなく、なんとか回復させようとするキケロの奮闘がこの本では語られます。

アントニー・エヴァリット『アウグストゥス ローマ帝国のはじまり』

今作の主人公アウグストゥスはあのカエサルの甥にあたる人物です。

上で紹介した『キケロ もうひとつのローマ史』ではカエサルとほぼ同時代に生きたキケロについてお話ししました。共和制を守るために奮闘していたキケロ。しかしカエサルの独裁を止めることはできず、さらにはその後継者の一人となったアントニウスに暗殺されるという悲劇的な最期を迎えることになります。彼の死はカエサルの死の翌年、紀元前43年のことでした。

紀元前63年に生まれたアウグストゥスはまさにこうした政治悲劇を目撃して若き日々を過ごしていました。

カエサルの甥とはいえ病弱で軍事も苦手だったアウグストゥスは忍耐の日々を過ごしながら徐々に力を蓄え、いつしかローマ帝国のトップにのし上がっていきます。そしてパクス・ロマーナ(ローマの平和)と呼ばれる黄金時代を迎えることになったのでした。ここから哲人君主マルクス・アウレリウスの時代まで200年ほどその繁栄は続くことになります。ローマ帝国の全盛期の始まりはこのアウグストゥスだったのです。

この伝記はそんなアウグストゥスの生涯と当時の時代背景を知れるおすすめの伝記です。

アウグストゥスは英雄カエサルに比べると派手さはありませんが、カエサルにもできなかったことをどんどん成し遂げていきます。そんな彼の力には驚くしかありません。

そしてカエサル亡き後にこのアウグストゥスと熾烈な権力闘争を繰り広げたアントニウスはシェイクスピアの傑作悲劇『アントニーとクレオパトラ』の主人公でもあります。

私がローマ帝国をもっと学んでみようと思ったきっかけがシェイクスピアのこの作品だったのですが、『アウグストゥス ローマ帝国のはじまり』は時代的にまさにドンピシャの伝記となっています。

シェイクスピアが語ったアントニウスやクレオパトラ、アウグストゥスと実際の歴史はどれくらい違うのかということを考えながら読むのもとても楽しかったです。

と同時に、ローマ帝国の繁栄がどれだけ血に濡れていたのかということも知り戦慄することになりました。共和制を守る、平和な国を創るという理想の下にどれだけの犠牲者がいたのかということを考えさせられました。

カエサル『ガリア戦記』

カエサルはローマ帝国を代表する英雄です。カエサルといえば「賽は投げられた」、「ルビコン川を渡る」、「来た、見た、勝った」、「ブルータス、お前もか」などの言葉でも有名ですよね。

そしてそのあまりのカリスマぶりは多くの作品でも取り上げられ、あのシェイクスピアも『ジュリアス・シーザー』という傑作を残しています。

さて、そんなカエサルによる文学作品がこの『ガリア戦記』になります。

実際にこの本を読んでみるとその流れるような文章に驚くと思います。古代ローマやギリシャは弁論術が盛んだったということで、カエサルもそのように自分の功績や戦闘の経緯を雄弁を用いて語るかと思いきやものすごく淡々と語るのです。

しかも主語を「私」ではなく「カエサルは」という書き方をしており、あくまで第三者による「報告書」のスタイルを取ります。

これでは淡々とした単なる報告書になってしまうのではないかと思ってしまったのですが、読み進めている内に不思議な変化が起きてきます。

いつの間にか読んでるこちらが「カエサル・・・すごいな・・・!」という気持ちに支配されるようになっていくのです。

文体はあくまでシンプル。余計な形容はありません。ですがなぜかその戦闘の経緯や戦士たちの武勇が臨場感たっぷりに伝わってくるのです。そしてそのガリア遠征を冷静に指揮していくカエサル。カエサルの卓越した指揮や全体を見渡し、正確に分析する力があるからこそこの戦いは勝ち続けているという印象が湧いてくるのです。これは読んでわかるすごさです。

2000年以上後の時代を生きている私ですらこうなのですから、当時今か今かとハラハラしながら戦況を待ち望んでいたローマ人に対しどれほどの熱狂の与えたかは想像を絶します。

あのキケロが絶賛するしかなかったカエサルの『ガリア戦記』。ぜひその名著を読んでみたいと手に取ってみたのですがこれは大正解。「こんな作品が古代ローマにあったのか」と驚くことになりました。英雄カエサルは文才も超一流でした。

フィリップ・マティザック『古代ローマの日常生活』

この本は紀元137年、ハドリアヌス帝治世下のローマの一般庶民の生活について語られた作品です。

「彼らにとって人生とは、帝国の栄華を称えることではなく、家賃を稼ぐこと、世話が焼ける親戚、家や仕事で生じる日々の課題に対処することなのだ。ローマはこの世で最も偉大な都市かもしれないが、それでもやはり、ここで暮らす人々は往来を通り抜け、隣人とうまく付き合い、市場で手頃な価格の美味しい食べ物を見つけなければならない。」

この文章を読んで私はハッとしました。

ローマ帝国の歴史を学ぼうとするとどうしてもハンニバルやカエサルなどの英雄や、カリグラやネロなどの壮絶な暴君、強力なローマ帝国を築き上げた五賢帝などの大いなる人物たちの歴史にどうしてもフォーカスしてしまいがちですし、コロッセオやパンテオンなどの壮麗な建築物にも目を奪われてしまいます。

ですが上で述べられたように、実際に古代ローマを生きていたほとんどの人たちにとってはそんな巨大な歴史は関係なく、今を生きる私たちと同じような日常生活を送っていたのです。

これは意外と盲点ですよね。

歴史の大きな流れを読み取ろうとすると、そこに生きる一人一人の人生が見えなくなってくる。

ですがその一人一人の人生の集合が大きな歴史でもあるわけです。

理論的に大きな流れを頭で考えていくと世界観がすっきりします。ですが実際にそこで生活している人たちはそれこそ千差万別。歴史書に出てくる英雄だけで世界が動いているわけではありません。ここが歴史を学ぶ上で難しいポイントであり、同時に面白さが溢れてくる場面でもあります。

大きな流れを見つつも、一人一人の人生も想像する・・・これは歴史の醍醐味ですね。

この本はまさにそんな醍醐味を味わえる作品です。

ウェルギリウス『アエネーイス』

ウェルギリウスは古代ローマの詩人です。彼については以前「ウェルギリウス『牧歌』あらすじと感想~過去の理想郷アルカディアとは」の記事でも紹介しました。

ウェルギリウスはこの作品でローマでの地位を確固たるものとし、皇帝アウグストゥスからも一目を置かれるほどでした。

そんなウェルギリウスが晩年の10年で書き続けていたのが今作『アエネーイス』になります。完成の前にウェルギリウスは亡くなってしまったのですがそれでもなお彼が遺したこの作品はローマの、いやヨーロッパの精神的な源として愛されることになりました。

私がこの作品を読んで最も驚いたのは古代ギリシアとの関係性でした。

古代ギリシアの神話といえばホメロスの『イリアス』『オデュッセイア』が有名ですが、『アエネーイス』はまさにこれらに直結した物語になります。

主人公のアエネーアースはトロイア人です。つまり『イリアス』で語られたトロイア戦争の敗者側になります。

トロイア戦争は戦いの終盤、ギリシア軍(アカーイア勢)によるトロイの木馬作戦によって決着した戦いでした。

『トロイアの木馬の行進』、ジョヴァンニ・ドメニコ・ティエポロ英語版)画Wikipediaより

『イリアス』本編ではトロイの木馬については語られませんが、この『アエネーイス』ではその顛末が詳しく語られます。ギリシア軍のだまし討ちによって決着したこの戦い。それに破れた無念のトロイア軍。そしてその中にいたのがアエネーアースという武将だったのです。

『アエネーイス』はこの敗戦から始まります。ギリシア軍に徹底的に破壊され、虐殺されたトロイア。そこから逃げ延びたアエネーアースが最終的にローマに行き着き、ローマの祖となるのがこの物語の大筋になります。

『アエネーイス』を読めば、ウェルギリウスがギリシアを強烈に意識して書いているのがはっきりわかります。

特にトロイの木馬作戦の首謀者であり、トロイア滅亡の原因となったオデュッセウスに対する批判(悪口と言ってもいいかもしれません)はかなりのものです。本書を読めばわかるのですが、思わず笑ってしまうほど露骨にカリカチュア化しています。

私がこの作品を楽しめたのは『イリアス』、『オデュッセイア』を読んでからこの作品を読んだのも大きかったと思います。この三作はある意味一つに繋がった作品であると思います。ぜひ三冊セットで読まれることをおすすめします。

オウィディウス『変身物語』

オウィディウス(前43-後17)Wikipediaより

オウィディウスは上で紹介したウェルギリウスより一世代後のローマ詩人です。

『変身物語』は古代ギリシア・ローマの神話を集めた作品です。

こちらが上巻の目次の前半なのですが、見てわかりますようにものすごい数の項目が書かれています。このひとつひとつがギリシア・ローマの神話です。この作品はこれら大量の神話を順に見ていくという流れになります。ページ数を見て頂けるとわかりますようにひとつひとつのお話はかなりコンパクトです。ですので興味のある神話だけ選んでさくさく進んでいくという読み方も全然ありだと思います。

『変身物語』では他にも有名な神話が多数収録されています。古代ギリシャ・ローマ神話をギリシャ語ではなくローマの言葉であるラテン語で歌い上げたというのもこの作品の大きなポイントです。

上で紹介したウェルギリウスの『アエネーイス』はローマの建国神話でした。オウィディウスも彼に倣いローマの精神、文化をこの作品でまとめ上げています。ウェルギリウスとオウィディウスという二人のローマ詩人の存在は後のヨーロッパ文化に凄まじい影響を与えることになりました。まさにヨーロッパ芸術の源泉たる二人です。その二人の作品を読むことができてとても興味深い体験になりました。

『アエネーイス』も『変身物語』も日本語訳では散文体に直されているので非常に読みやすく、そこまで肩肘張る必要もありません。かなり読みやすいです。特に『変身物語』はすいすい読めます。

これを読めばヨーロッパの絵画や彫刻、文学と接した時に「あ、これか!」となる機会が増えること間違いなしです。すでにわたしはそんな場面にどんどん遭遇しています。これは面白いです。

ルクレーティウス『物の本質について』

ルクレーティウス(BC94頃〜55)Wikipediaより

ルクレーティウスは古代ローマのエピクロス派の哲学者です。同時代人にはあのカエサル(前100-44)やキケロ(前106-43)がいます。

私はこのルクレーティウスの『物の本質について』を読み衝撃を受けました。

「2000年以上も前にすでにこんなことを言っていた人がいたのか!」とそれこそ度肝を抜かれました。

上の本紹介に「エピクロス哲学の原子論的自然観を詳述した科学的啓蒙書として現在無二の史料的価値をもつ作品である」と述べられていたように、この作品は科学的思考が書かれた作品です。2000年以上も前の科学的思考とはいかなるものかということをこの本では知ることができます。

人は科学的思考をしないがゆえに「神意」を持ち出し自ら恐怖に落ち込んでいるのだとルクレーティウスは述べます。

そして「もうやめてあげて!」と言いたくなるほどルクレーティウスは自然現象を冷静に見ていきます。彼はこれら自然現象を「神意」として理解することを徹底的に拒みます。科学的に見ていけばわかるはずだと、この本ではひたすら冷静にその自然現象を見ていきます。この徹底した姿勢は驚くべきものがあります。

はっきりと「神意はない」「無からものは生まれない」と言い切るルクレーティウス。

恐るべき人物が古代ローマにいました。

古代ローマの文化水準の高さに改めて驚いた読書になりました。

中野孝次『ローマの哲人 セネカの言葉』

ルキウス・アンナエウス・セネカ(前1頃-65)Wikipediaより

セネカはローマ帝国を代表する哲学者で、あの暴君ネロの教師を務めていたという驚きの経歴の持ち主です。

意外なことにあの暴君ネロも皇帝となってすぐの5年間は善政を行い、良き君主としてローマ帝国を治めていたのでした。その善政の背後にセネカの教育があったと言われています。

しかしネロが実の母親を殺害するという事態に発生してからはまさに暴君としての顔が表に出てくるようになります。その時からセネカはネロから距離を置くようになったのでした。そして最終的にセネカはネロによって自殺を強要されるという悲劇的な最期を迎えたのでありました。

そんなセネカについての格好の入門書が本書『ローマの哲人 セネカの言葉』になります。

この本の前半ではセネカの生涯が簡単に語られ、彼がどんな人生を生きたのかを知ることができます。

そしてその上でセネカの作品から著者が選んだ名句を一緒に読んでいくことになります。

著者は現代日本に対してかなり思う所があるようで、セネカの言葉と共に現代人のあり方を厳しく批判していきます。

これから先日本はどうなってしまうのかと憂いていることが本気で伝わってきます。

最近こうした言論が大っぴらに語られることはかなり少なくなってきたような気もしますが、古代の偉人の言葉から私達現代人の生き方を問い直すというのは実に大切なことだと私は思います。

セネカや著者の主張に同意するかどうかは人それぞれですが、真っ向からその言葉と向き合うこと。そのこと自体が非常に大切な読書体験になるのではないでしょうか。

セネカ『生の短さについて』

この作品が書かれたのはまさにネロの家庭教師を務め、さらには様々な官職に任命され多忙な日々を過ごしていた時期でした。『生の短さについて』はそんなセネカの境遇から生まれた作品でもあります。

セネカは一貫して「今を生きよ」と述べます。そして自分の外のことに時間を奪われてはならないと主張します。

時間を浪費している場合ではない。あなたはあなたの人生をどう生きるのかとセネカは問いかけてきます。

この作品を読んで感じたのはセネカはブッダなのかというくらい、仏教的な要素があるという点でした。教えそのものだけでなく、ひとりひとりの読者に問いかけてくるかのような文体も似ています。

このことは中野孝次著『ローマの哲人 セネカの言葉』でも説かれていて、セネカの言葉は『論語』や仏教で語られることとも非常に近いものがあることが指摘されていました。

ローマのストア派哲学と仏教との類似性というのは私としても非常に興味深いものがありました。

エピクテトス『人生談義』

エピクテトスの想像画(55頃-136頃)Wikipediaより

エピクテトスは古代ローマのストア派哲学者で、奴隷出身という驚きの出自を持つ人物です。彼の思想は後のローマ皇帝マルクス・アウレリウスにも大きな影響を与えたことでも知られています。

この『哲学談義』そのものはエピクテトスによるものではなく、弟子アリアノスが彼の言葉を書き記して出来上がったものとされています。

この上下巻それぞれの巻末ではエピクテトスについて詳しい解説が付されていますので、彼の生涯やその思想の特徴についても初学者でもわかりやすく読んでいくことができます

本書『人生談義』はかなり硬派な哲学書です。次に紹介しますマルクス・アウレリウスの『自省録』は非常に読みやすい作品でありましたが、この作品は正直かなり苦戦しました。まさに哲学談義です。セネカの著作も読みやすさは抜群でしたがこのエピクテトスに関してはかなり毛色が違います。

この作品はエピクテトスが読者を想定して書いたものではなく、あくまで弟子が師との対話を聞き書きした作品になります。ですので当時彼らがしていた哲学談義の様子がそのまま収められている形になります。まさしく問答形式で展開される箇所もあり、彼らの日常が垣間見れるのもこの作品の特徴かと思います。

こうした師と弟子の率直な問答というのは親鸞の弟子唯円による『歎異抄』を連想してしまいます。

この作品は気軽に読むのには少し厳しいかもしれませんが、古代ローマの超一級の哲学者の思想書であることは間違いありません。現代人にとっても大きな意味がある作品だと思います。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

マルクス・アウレーリウス『自省録』

アウレリウス胸像(メトロポリタン美術館所蔵)Wikipediaより

マルクス・アウレーリウスは161年から180年にローマ皇帝に在位した人物です。彼はローマに全盛期をもたらした五賢帝の最後の一人として知られ、また、ストア派の哲学者としても名高い人物でありました。

上で紹介したエピクテトスの著書『哲学談義』はかなり哲学的な内容も含んでおり、正直読むのにはかなり難儀します。

しかしマルクス帝の『自省録』はそのような哲学的議論は抑制され、とことん現実生活に即して説いていくので驚くほど読みやすい作品となっています。

「ストア思想も、一度マルクスの魂に乗り移ると、なんという魅力と生命とを帯びることであろう。それは彼がこの思想を身をもって生きたからである。生かしたからである。」

『自省録』のポイントはまさにここにあります。マルクス・アウレーリウスという一人の人間の血が、生命がそこに流れています。単なる抽象的哲学理論ではなく、それを現にどう生きるかという彼自身の闘いがそこに刻まれています。

これは読めばわかります。

その中でも私が最も感銘を受けた言葉を一つだけここで紹介したいと思います。

思い起せ、君はどれほど前からこれらのことを延期しているか、またいくたび神々から機会を与えて頂いておきながらこれを利用しなかったか。しかし今こそ自覚しなくてはならない、君がいかなる宇宙の一部分であるか、その宇宙のいかなる支配者の放射物であるかということを。そして君には一定の時の制限が加えられており、その時を用いて心に光明をとり入れないなら、時は過ぎ去り、君も過ぎ去り、機会は二度と再び君のものとならないであろうことを。

岩波書店、マルクス・アウレーリウス、神谷美恵子訳『自省録』2020年第23刷版P26

宇宙規模で世界を捉え、それに対置して自らが「今、ここ」で何をしているのかを問いかけるこの圧倒的なスケール!

でかい!でかすぎる!!あまりに巨大な人間観に私は度肝を抜かれました。これが古代ローマの哲人皇帝です。

今から1900年以上も前に、これほどの偉人がいたのです。これはぜひおすすめしたい名著です。

フランソワ・シャムー『ギリシア文明』

この本はヨーロッパ、特にローマ帝国に巨大な影響を与えたギリシア文明について幅広く学べる素晴らしい参考書です。

古代ギリシアの象徴、アテナイのアクロポリス Wikipediaより

古代ギリシアといえばアテネのパルテノン神殿などが有名ですよね。また、オリンピックの発祥地ということで平和や文化・芸術のイメージもあるかと思います。

ですがこの古代ギリシアの歴史を辿っていくと意外な事実がどんどん出てきます。

この作品はそもそもギリシア文明がどのように出来上がっていったのかということを気候や地形から見ていきます。

地形がその地の人びとにどのような影響を与えていくかというのは非常に興味深いものがありました。この作品はとにかく視野が広いです。

古代ギリシアを様々な視点から総合的に見ていけるのでローマとギリシアのつながりを知りたかった私にとって非常にありがたいものがありました。古代ローマに興味のある方にもぜひおすすめしたい作品です。

フランソワ・シャムー『ヘレニズム文明』

ヘレニズム文明はギリシア文明の後、アレクサンドロス王の治世(前336年)からローマ帝国のアウグストゥス帝の治世開始(前31年)までのおよそ300年間の地中海・西アジア世界に広がった文明のことを指します。

ヘレニズム文明で有名なものといえば次のものがあります。

ルーブル美術館所蔵の『ミロのビーナス』や『サモトラケのニケ』など、美を極めた彫刻が生まれたのがこのヘレニズム文明になります。

ヘレニズム文明は仏教にも影響を与えたことでも知られており、ガンダーラ仏はその代表例として有名です。


ガンダーラ仏(紀元1~2世紀)Wikipediaより

このように世界の文明に大きな影響を与えたヘレニズム文明。

ですがその名前を聞いたことはあっても、実際にヘレニズム文明とはどんな文明なのか、いつどこでどのように生まれてきた文明だったのかということになるとほとんどわからないというのが実際の所ではないでしょうか。私もその一人でした。

そんな私にとって今作『ヘレニズム文明』は最高に刺激的で興味深い作品となりました。

ピエール・グリマル『ローマ文明』

この作品はこれまで紹介してきた『ギリシア文明』『ヘレニズム文明』と同じく、文明の起こってきた背景やその内容について詳しく解説してくれる貴重な参考書となっています。

この本ではローマの起源から繁栄までの流れや、帝国を支えた高度な文明がいかにして出来上がったかが解説されます。特に書名にもありますように「ローマ文明」の基本となるローマ法や建築技術、文化、芸術などはかなり詳しく語られます。

古代ローマの入門書としては正直厳しいと思いますが、もっとローマのことを知りたいという方にはぜひおすすめしたい作品です。

ジャック・ル・ゴフ『中世西欧文明』

この本はこれまで当ブログでも紹介してきた『ギリシア文明』『ヘレニズム文明』『ローマ文明』と同シリーズの作品で、今作は中世ヨーロッパの全体像を概観するのにおすすめの参考書です。

中世ヨーロッパというとローマ帝国滅亡からルネサンスの夜明けまでの暗黒時代というイメージが根強いですが、はたしてそのイメージは正しいのか。この時代のヨーロッパはどのようなもので、どのようにしてルネサンスに繋がっていったのかということを考える上でもこの本は非常にありがたい作品でした。

この作品は単なる歴史書ではありません。歴史の流れだけでなく、その背後にある人々の生活や文化を深く深く掘り下げていきます。

中世ヨーロッパの人々の生活や信仰を知ることができる本書は非常に貴重です。

特に煉獄や天使の観念や、人間と森の関係性などの話は刺激的でした。「おぉ~なるほど!」と膝を打ちたくなる解説がどんどん出てきます。

古代ローマやルネサンスと比べて明らかにマイナーな中世ヨーロッパ。ですがこの狭間の時代があるからこそ後のヨーロッパができてくると考えればやはりこの時代も見逃せません。

ヨーロッパ史を大きな視点で観ていくためにもこの作品は大きな助けになること間違いなしです。ぜひおすすめしたい作品です。

菊池良生『傭兵の二千年史』

この作品の素晴らしいところは傭兵のそもそもの始まりから歴史を見ていける点にあります。

古代ギリシャからの歴史の変遷を「傭兵」という観点から見ていく本書は非常に刺激的です。

この本を読んでしまうと歴史の見え方がそれまでと全く変わってしまいます。

人間ははるか昔から戦争を繰り返してきました。しかしその戦争を戦っていたのは誰だったのか。

もちろん、その主役は王侯貴族だったかもしれません。しかしひとりひとりの兵士はどこからやって来たのか。そしてどのようなシステムで戦争は行われてきたのか。

興味深いことにこの本で語られる傭兵の歴史は日本の歴史ともリンクしてきます。

日本の歴史を考える上でもこの本は非常に重要な示唆を与えてくれます。

この本を読んだおかげでサッコ・ディ・ローマ事件についての見方がまた変わりました。私にとっても非常にありがたい作品でした。

ジェラール・クーロン、ジャン=クロード・ゴルヴァン『古代ローマ軍の土木技術 街道・水道・運河などの建築技術をイラストで再現』

この作品は古代ローマ時代の驚異の建築技術について知ることができる作品です。タイトルにもありますようにイラストが多数掲載されていますので視覚的にもイメージしやすく、とてもわかりやすい作品となっています。

古代ローマの建築といえばコロッセオやパンテオン、水道橋など様々なものが思いつくと思います。

およそ2000年も前の時代にどうやってこんな巨大な建物を作れたのか本当に不思議ですよね。この本はその不思議に迫れるありがたい本です。

その中でも私が特に驚いたのはクレーンの存在です。人力ではありますが巨大なクレーンを設置して石を高く吊り上げたり、重しをつけてハンマーとして使っていたというのには驚きました。この記事では掲載できませんがこの本のイラストを見ればびっくりすると思います。建物の最上部ほどの高い位置に足場を作り、そこにクレーンを設置して石を運び上げているのです。こんな大作業が2000年前にしてすでに行われていたということに呆然とするしかありません。

また橋の建設の仕組みなども「えっ!そうやって作っていたの!?」と度肝を抜かれました。ローマ人の技術力の高さには驚くしかありません。

ローマの驚異的な建築物がどのようにして作られたのか、またそれらを担った人的システムはどうなっていたのかを知れるおすすめの作品です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

ローマの芸術、文学についてのおすすめ参考書

中島俊郎『英国流 旅の作法 グランド・ツアーから庭園文化まで』

この本はイギリスやフランス、ドイツの上流階級にとってローマという街がどのような存在だったのかがよくわかる参考書です。

ローマの古代遺跡は18世紀や19世紀の貴族たちを惹きつけてやみませんでした。

あのゲーテやアンデルセン、メンデルスゾーンなども皆ローマを愛し、その芸術に反映させています。

なぜヨーロッパの上流階級は皆ローマを目指したのか。古代遺跡のクオリティが高いから?いやいや、そこには知られざる様々な背景が隠されていたのでありました。

この本は知的好奇心がものすごく刺激される作品です。とにかく面白い!目から鱗の事実がどんどん出てきます。

『もっと知りたいラファエッロ 生涯と作品』

ラファエロ・サンティ(1483-1520)Wikipediaより

ラファエロは言わずもがなですが、ミケランジェロ、レオナルド・ダ・ヴィンチと並ぶルネッサンスの巨匠です。

『システィーナの聖母』Wikipediaより

ラファエロの代表作『システィーナの聖母』はあのドストエフスキーも愛していた作品です。

この本では一枚一枚の絵を解説付きでじっくりと見ていくことになります。ラファエロの生涯を辿りながら時代順に作品を見ていくので作風の変化なども感じることができます。

バチカン美術館にもラファエロ作品は数多く展示されていますので、そのガイドとしてもこの作品はとても便利です。

宮下規久朗『闇の美術史 カラヴァッジョの水脈』

「闇に灯る光は、人に厳粛で宗教的な雰囲気を呼び起こす」

「こうした夜の恐怖の中から様々な宗教や信仰が生じたのは自然であり、そこに灯火が重要な役割を果たしたのも当然であった。それは人を暗く恐ろしい闇の世界から解放し、救いに導くように思われるのだ。」

著者がこう語るように「光と闇」の感覚は人間にとって根源的なものではないでしょうか。

ですが、現代を生きる私たちは電気の光に囲まれているため、闇を感じることが少なくなりました。闇を感じることが少なくなると人間はどうなってしまうのか。これは非常に重大な問題です。私達は明るい世界に慣れきっていますが、実は闇を感じないが故に失ってしまったものもあるのかもしれません。

この本ではそんな「闇と光」の関係を絵画を通して深く考察していく作品になります。カラヴァッジョについての理解を深める上でもこの本はとてもおすすめです。

僧侶としてもこの作品は非常に興味深いものがありました。

石鍋真澄『カラヴァッジョ ほんとうはどんな画家だったのか』

この作品はローマ美術の研究者石鍋真澄氏によって書かれたカラヴァッジョの評伝になります。書名にもありますようにこの作品の特徴は「カラヴァッジョがほんとうはどんな画家だったのか」ということにスポットを当てている点にあります。

「カラヴァッジョに関しては、事実と推測や仮説とが節操なく語られているのが実情だ」という著者の指摘はドキッとするものがありました。と言いますのも、これまで私もいくつかカラヴァッジョについての本を読んできたからです。

案の定、この本では「え!?そうなの!?」という事実がどんどん出てきます。

著者は近年発見された新資料や最新の学説を基に丁寧にカラヴァッジョの生涯や時代背景を追っていきます。「作品を見て考えるだけでは、われわれは恣意的な理解に陥りがちだ。そこから救ってくれるのは、結局のところ、そうしたささいな事実であるに違いない、と考えるからである。」と著者が述べるように、証明された細かい事実をベースにこれまでの誤解を解いていきます。

その中でも特に印象に残ったのは有名なカラヴァッジョの殺人事件の真相についてのお話でした。カラヴァッジョは怒りに任せて殺人を犯し、その後逃亡しながら悲惨な最期を迎えたというように語られがちですが、これが時代背景やその他の資料を綿密に見ていくと全く違った事情が見えてくるようになります。

わかりやすくて単純で刺激的なエピソードはたしかに面白いです。ゴシップ的に語られるカラヴァッジョ像はたしかに私たちにとって魅力的です。ですが本当はどうだったのか。こうした事実と神話のずれを著者は私たちの前に示してくれます。これは目から鱗。思わず声が出てしまうほどの読書になりました。

高階秀爾『バロックの光と闇』

この本ではじっくりとバロック芸術の特徴を見ていきます。ダ・ヴィンチやミケランジェロ、ラファエロなどのルネッサンス全盛期の芸術とバロックは何が違うのか、どのようにしてバロックの技術が生まれてきたのかということもわかりやすく説かれます。

特にベルニーニの解説はまさに珠玉です。これを読めばベルニーニ巡礼をしたくなること間違いなしです。

バロック芸術そのものだけではなく、その時代背景まで知れるこの作品はぜひぜひおすすめしたい逸品です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

高階秀爾『日本人にとって美しさとは何か』

この本は西洋美術と日本美術を比較することで、普段私たちがなかなか意識することのない「日本人にとっての美しさとは何か」を考えていく作品です。

「人は自分の顔を直接見ることはできない。鏡に映してはじめて、その特徴を捉えることができる。鏡のなかの姿は、自分であると同時に、外からの、他者の視点からの姿である。美術(建築、絵画、工芸)や文学(物語、詩歌、演劇)などの芸術表現も、異文化(例えば西欧文化)の視点を受け入れ、それと対比することによって、いっそうよくその特質を明らかにすることができるであろう」

まさに、異質なものと比べてみることではじめて見えてくるものがある。この本ではたくさんの写真や絵画などを用いて西洋と日本を比べていきます。

読んでいると思わず「おぉ~!」と唸ってしまうような発見がどんどん出てきます。

近藤昭『絵画の父プッサン』

今回紹介するニコラ・プッサンは上の「中島俊郎『英国流 旅の作法 グランド・ツアーから庭園文化まで』貴族の必須教養としての世界旅行を解説するおすすめ作品!」の記事でも出てきましたが、17世紀以降のヨーロッパ絵画史に非常に大きな影響を与えたのがこの人物になります。

ニコラ・プッサン(1594-1665)Wikipediaより

プッサンの特徴は「単純に目だけを楽しませるような作品ではなく、知性と理性に訴えて感動させる作品を描くこと」にあります。

ニコラ・プッサン『アルカディアの牧人たち』Wikipediaより

17世紀に一世を風靡したプッサンの絵画には「寓意」がふんだんに散りばめられています。プッサンの絵は見た瞬間にわかる美しさも圧倒的ですが、古典の知識や絵画における高度な理解がなければわからない「寓意」というものも大きなウエイトを占めています。

この高度な教養と審美眼が求められる奥深さが当時の上流階級に非常に好まれることになったそうです。

『絵画の父プッサン』はそんな作品を生み出したプッサンの生涯を追っていきます。帯にも書かれていましたがプッサンの伝記は非常に貴重です。

1600年代のイタリア絵画のことを知れる本すらそもそも貴重な中で、プッサンの生涯と時代背景も学ぶことができるこの本は非常に興味深かったです。

小針由紀隆『クロード・ロラン 十七世紀ローマと理想風景画』

この本は17世紀以降のヨーロッパの絵画界に巨大な影響を与えた巨匠クロード・ロランの作品の魅力に迫る作品です。

クロード・ロランは17世紀にイタリアで活躍した画家で、後のヨーロッパ美術界に決定的な影響を与えた存在です。

クロード・ロラン(1600-1682)Wikipediaより
ロード・ロラン『アキスとガラテイアのいる風景』Wikipediaより

クロード・ロランの理想風景画(過去の理想郷 アルカディアを題材)はイタリア旅行に来たヨーロッパ人を魅了しました。その影響はその後も絶大で、あのドストエフスキーもクロード・ロランの絵に強い関心を抱いていました。その影響は特に彼の晩年の長編『未成年』に見ることができます。

この本はクロード・ロランの生涯を細かく追っていくのではなく、彼の理想風景画がどのように生まれていったのか、どこにその特徴があるのかということを解説していきます。

クロード・ロランの美しい風景画の源泉はどこにあったのかということを先人の絵なども参考にしながら見ていくのはとても興味深かったです。やはり先人の切り開いた道があったからこそ、新たな道が生まれてくるということを感じることができました。

クロード・ロランの画集的な本ではないので入門書としてはおすすめしにくいですが、もっと彼のことを知りたいという時にこの本はおすすめです。

ゲーテ『イタリア紀行』

ゲーテの『イタリア紀行』はヨーロッパの文化人に絶大な影響を与えました。

この作品が「旅行記もの」の傑作と言えることは間違いないです。

そして『イタリア紀行』を読んで感じたのは、やはりゲーテは詩人であるということ。

あまりに豊かで繊細な感受性。

彼は目に見たもの、聞こえてくるもの、感じられるもの全てに開かれています。普通の人なら気づきもしないようなことに熱心に感じ入り、美しくも情感たっぷりな言葉でそれを歌い上げます。

詩人の心、感受性豊かな心というのはこういうことなのだなということを感じさせられます。

この旅行記はある意味芸術家の心構えを知ることができる書と言えるかもしれません。目の前にある世界をどのように感じていくのか、その奥底に潜む秘密にいかに分け入っていくのか、その過程を記した書物がこの『イタリア紀行』なのではないかと思います。

ゲーテの『イタリア紀行』に憧れたヨーロッパ人が、彼のように思索しようと旅に出たのも頷けます。ヨーロッパ最大の文学者、詩人であるゲーテの影響力の源泉をこの作品で感じられたように思います。

18世紀末、19世紀以降においてのイタリア旅行はもはやゲーテと切り離すことはできなくなりました。それほどゲーテの『イタリア紀行』はヨーロッパに影響を与えたのでした。

この作品はゲーテの感受性の秘密も知れるおすすめな作品です。また、記事内でも紹介しましたがカニを見て喜ぶゲーテという意外な素顔も観ることができます。人間ゲーテを知れるのもこの作品の嬉しいところです。

牧野宣彦『ゲーテ『イタリア紀行』を旅する』

この本の特徴は何と言ってもその豊富な写真にあります。ゲーテが見た景色を私たちも写真で追体験することができます。

この本の最初ではゲーテの生涯や人となり、そしてイタリア旅行出発の背景もわかりやすく解説してくれます。

ですので肩肘張らずにゲーテの『イタリア紀行』を楽しめる最良のガイドブックとなっています。

私は先にゲーテの『イタリア紀行』を読んでからこの本を読んだのですが、「おぉ!あそこで書かれていたのはこういう景色なのか!」という形でこの本を楽しむことができました。きっと逆のパターンでもお互いの本を楽しむことができるでしょう。

この本はゲーテゆかりの地を著者の牧野氏と共に歩いていく感覚で読み進めることができます。これは楽しい1冊です。

アンデルセン『即興詩人』

ハンス・クリスチャン・アンデルセン(1805-1879)Wikipediaより

アンデルセンはデンマーク出身の童話作家です。ディズニー映画の原作となった『人魚姫』や『雪の女王』、『親指姫』など数々の名作を生み出してきました。

この作品はアンデルセンの出世作として知られています。そしてその出世作にして「アンデルセンらしさ」がすでに爆発している作品となっています。どういうことかと言いますと、この作品では美しい女性に恋する真面目で繊細な青年の悲哀が描かれているからです。後の童話でも何度も繰り返される真面目で繊細な心優しい主人公の型がすでにこの作品で完成されているのです。

歌姫アヌンツィアータに恋した主人公アントーニオ。彼の人物造形は後の童話の原型と言っていいほどアンデルセンらしさ全開です。

「デビュー作にはその作家のすべてがある」とよく言われますよね。私は彼の童話を読んだ後にこの『即興詩人』を読んだわけですが、「あぁ、アンデルセンらしいな~!」と何度も唸ることになりました。それほどこの作品はアンデルセンの作家人生に大きな影響を与えています。

そしてこの『即興詩人』は何より、アンデルセンのイタリア紀行がもとになって生まれた作品です。「イタリア紀行」といえばゲーテの『イタリア紀行』が有名ですが、まさにアンデルセンもこの永遠の都ローマやフィレンツェなどから多大なインスピレーションを受けていたのでした。

『即興詩人』は美しきイタリアの姿がどんどん出てきます。むしろ、その美しきイタリアこそ主人公とすら言えるかもしれません。

モンテーニュ『旅日記』

モンテーニュ(1533-1592)Wikipediaより

モンテーニュは16世紀フランスに生きた哲学者で、主著『エセー』が特に有名です。

そんな彼のイタリア旅行の記録が今回ご紹介する『旅日記』になります。16世紀末のローマを知る上でこの作品は非常に貴重な資料となります。

モンテーニュがローマに旅をしたのは一七世紀の末。後年同じようにローマに憧れてやって来たのがあのゲーテであり、そこから生み出されたのが上でも紹介した『イタリア紀行』でした。

モンテーニュは素朴に、率直にローマの印象を綴っていきます。と言うのも、元々は出版の意図はなく、まさしく自分のための日記としてこれを書いていたからです。この作品が世に出たのはなんと彼の没後182年を経た1774年だったそうです。

こうした出版意図のない書き物ということで、モンテーニュの飾らない素の言葉を私達は目の当たりにすることになります。

とはいえ、ヨーロッパを代表する思想家モンテーニュの筆はさすがの一言。彼の観察眼は並大抵のものではありません。世界の首都ローマを彼はどのように見たのか。そして16世紀末のローマの様子はどんなものだったのかを彼は語っていきます。

シェイクスピア『ジュリアス・シーザー』

「賽は投げられた」、「ルビコン川を渡る」、「来た、見た、勝った」、「ブルータス、お前もか」

これらを見てピンとくる方もおられると思います。

私自身、ジュリアス・シーザーという名ではピンと来なかったのですが、この人物のローマ式の本名はと言いますと、ガイウス・ユリウス・カエサルとなります。ローマ字表記ですと、JULIUS CAESAR。これの読み方の違いがジュリアス・シーザーとユリウス・カエサルという違いなのですね。

なるほど、カエサルと聞くと「あぁ、そういうことか」となる方も多いかもしれません。

『ジュリアス・シーザー』は私の中でも強烈な印象を残した作品でした。あらすじや背景を知ってから読むと最高に面白い作品でした。非常におすすめです。

シェイクスピア『アントニーとクレオパトラ』

『アントニーとクレオパトラ』は上で紹介した『ジュリアス・シーザー』の続編にあたる作品です。

シーザー(カエサル)を暗殺したブルータスと、そのブルータスを名演説によって倒したアントニーを巡る物語が前作『ジュリアス・シーザー』になります。

前作でのアントニーの活躍は凄まじいものがありました。彼の名演説は聴く者を熱狂させる圧倒的なものでした。彼の有能な政治家ぶりがまざまざと感じられるシーンで、これは私にとっても非常に印象に残ったのでありました。

そして今作『アントニーとクレオパトラ』はそんな有能な政治家アントニーが主役の物語なのですが、前回とは打って変わってダメダメなアントニーを目の当たりにすることになります。

なぜあんなにも有能だったアントニーが運命の坂道を転がり続けるのか、その原因が何を隠そう、クレオパトラなのです。

アントニーはクレオパトラに夢中です。彼は愛に溺れ、政治や軍事に向けるべきエネルギーがどんどん枯渇していきます。

クレオパトラはフランス文学風に言うならばまさに「ファム・ファタル」、男を破滅させる魔性の女に他なりません。

ですがこの作品では面白いことに、クレオパトラもアントニーに夢中なのです。

アントニーにとってクレオパトラはどうしても抗いがたい恋の相手であり、クレオパトラにとってもそれは同じだったのです。

ですが二人はローマ、エジプトの政治の決定権を持つ立場です。そんな二人が愛で結ばれてめでたしめでたしという単純な恋物語で終わることなど許されるはずもありません。

ローマはローマで様々な陰謀が渦巻き、エジプトも国家の存亡をかけた政治上の駆け引きが繰り広げられています。そんな時にアントニーは恋に溺れ政治上の失策を繰り返し、最後には破滅してしまいます。

あのシーザーを倒したブルータス。そしてそんなブルータスをさえ打ち負かした「あのアントニー」がこうも没落していくのか、そんな思いに駆られます。

この作品は『ジュリアス・シーザー』からの流れで読んでいくと、ローマ帝国の壮大な栄枯盛衰を感じられて非常に面白い作品となっています。

シェイクスピア『タイタス・アンドロニカス』

今作『タイタス・アンドロニカス』はシェイクスピアの初期の作品です。つまり彼にとっての最初の古代ローマの劇が本作品になります。そして興味深いのは上の『ジュリアス・シーザー』、『アントニーとクレオパトラ』2作品が史実を題材に作られたのに対し、この作品は史実上の人物が全く出てこないという点です。

作品を読んでみると、時代的にはおそらく2世紀末以降のローマだと思われます。と言いますのもゴート族による反乱の多発や、皇帝が次々と変わっていくような状況がこの作品の時代背景として描かれているからです。紀元2世紀はローマ五賢帝という偉大な皇帝たちの時代であり、ローマ帝国が最も繁栄した時代です。しかし五賢帝の最後の人物、マルクス・アウレリウス帝の後はどんどん国が衰退していきます。ちなみにマルクス・アウレリウス帝というのはあの『自省録』を書いたことでも知られる人物です。

さて、前置きが長くなってしまいましたが、今作『タイタス・アンドロニカス』はそんな衰退期のローマ帝国を舞台にした史劇になります。

主人公はタイトルにもなっている勇将タイタス・アンドロニカス。彼はローマのために命を懸けて戦い、忠実に国家に仕えてきた人物でした。

そのタイタスが武勲を上げてローマに帰国するところから物語は始まります。

ローマでは前皇帝の長男サターナイナスとその弟バシェイナスが「次なる皇帝は私だ」と争っていました。そこに国民の人気者タイタスが帰還し、この争いをなんとか調停してほしいという流れになります。ですが事は単にそれでは収まらず、タイタスこそ皇帝になるべきであるという方向に進んでいくことになったのでした。

しかし国家の忠臣として生きてきたタイタスはその話を丁重に辞退します。そして「皇帝の長男サターナイナスこそ皇帝にふさわしい」と、いとも簡単に国家の全権を彼に明け渡すことになったのでした。お人よしのタイタスのこの軽率な判断が全ての悲劇の始まりになります。

これまで地位も名誉もあった人間がよからぬ人間に権力を与えてしまったがゆえに起こる悲劇。

これはあの『リア王』を連想してしまいますよね。『リア王』もまさに邪悪な娘たちの甘言を簡単に信じ込んでしまった老王の悲劇から始まります。

たしかにこの作品を読めば後期悲劇につながるものを明らかに感じることになります。その中でも『リア王』とのつながりは特に大きいのではないかと思われました。

ですがこの作品はとにかくむごい!ちょっと想像を絶するむごさです。読んでいてかなり辛くなります。

『リア王』もかなり悲惨な劇ではありますがそれをはるかに超える残虐さ、非道ぶりです。

「どいつもこいつも復讐の餌食になるがいい!」

Kindle版、新潮社、『タイタス・アンドロニカス』、シェイクスピア、福田恆存訳、位置No1426

これは悪事を企んだエアロンというイアーゴー的な男が捕らえられた時に苦し紛れに叫ぶ言葉であるのですがまさにこの言葉通り、この作品では復讐が復讐を呼び、互いに残虐な仕返しを繰り返すことになります。

そして最終的にその憎しみの声は主人公タイタスの次のような恐るべき言葉で表されることになります。

聞け、悪党共、俺は貴様等の骨をいて粉にし、それを貴様等の血でね、その練り粉を延し、見るも穢はしいその貴様等の頭を叩き潰した奴を中身にパイを二つ作って、あの淫売に、さうよ、貴様等の忌はしい母親に食はせてやるのだ、大地が自ら生み落したものを、再び呑込む様にな。

Kindle版、新潮社、『タイタス・アンドロニカス』、シェイクスピア、福田恆存訳、位置No1621

初期シェイクスピアにしてすでにこのような恐るべき言葉がすでに現れているのです。ちょっと常軌を逸していますよね。私もこの箇所を読んだ時はさすがにぞっとしました。

ですがこのタイタスの怒りも正当といえば正当です。それだけのことをこの母(敵役のタマル)とその子たち(ここでは貴様等と呼ばれている)にされてきたのです。(娘の夫を目の前で殺害し、娘をそのまま強姦。さらにその罪がばれないように娘の舌と両手首を切り落とし、さらにはタイタスの息子たちに濡れ衣を着せて処刑しました。なんと恐ろしい!)

とにかくこの作品は異常に残酷です。このことについての若干の解説も解題ではなされています。このことについてはこれ以上は触れませんが、これまで述べてきたようにこの作品は後期悲劇作品につながるものを感じることができます。

そして登場人物の圧倒的個性、人物の巨大さですね。これも見逃せません。

先ほども出てきたイアーゴー格のエアロンという男。悪の権化のような人物ですがこの男の巨大さ、そして一筋縄ではいかない複雑さたるや!これはすさまじい人物造形だと思います。よくもまあこんなにも強烈な人物を生み出したなと驚くほどです。現代風に言うなら、ものすごくキャラが立っています。その存在感は主人公タイタスを完全に圧倒しています。

ですがそうは言っても先ほど見た驚くべき言葉を発したタイタスも負けたとは言えません。あれほどの言葉が出てくる人物はそうそういません。ただいかんせんエアロンが特殊すぎるのです。

またタマルという、敵方の女王の曲者ぶりも見逃せません。タイタスにあれほどの言葉を吐かせたのもこの女王がいたためです。しかも単なる悪女ではなくて、戦争で自分の息子がタイタスに殺された恨みから始まっているというのも物語をより複雑で深いものに変えています。やはり、子を失った母親の悲しみは「凄まじい」という言葉では表現しきれないものがあります。

いずれにせよ、『タイタス・アンドロニカス』は初期にしてすでに後期の悲劇作品の片鱗が見える隠れた名作なのではないかと私は思います。

私にとっても衝撃の作品でした。

シェイクスピア『コリオレイナス』

上で紹介した『タイタス・アンドロニカス』に引き続き『コリオレイナス』も古代ローマを舞台にした作品になります。

今作の主人公コリオレイナスは紀元前519年頃に生まれた実在の人物です。これはカエサルが生まれる400年以上も前ですからかなり昔のお話です。古代ローマが大国として繁栄する前の時代です。

ただ、この頃にはすでに古代ギリシャと同じようにある程度民主制の仕組みは整っていたようです。この物語はそんな民主制がはらむ問題と貴族と民衆の対立、迎合が語られていくことになります。

主人公のコリオレイナスは勇敢な武将でローマに幾度となく勝利をもたらした英雄でした。しかし彼は頑固一徹。自分の思ったことは意地でも曲げない、ある意味真っすぐすぎる男でありました。

そしてそんな彼がどうしても我慢ならないのが民衆たちの自分勝手な要求だったのです。彼ら民衆はもっと食べ物を安くしろと暴動を起こそうとしています。彼らの言い分もたしかに理解はできるものの、他国から必死の思いで国を守ってきたコリオレイナスからすれば「なぜお前たちは全く国のために尽くそうともせず、自分たちの要求ばかり主張するのか」とこれまた正当な思いを抱きます。

コリオレイナスは民衆を全く信用しません。そんな彼の主張は物語冒頭で次のように語られます。

一体、何が欲しいのだ、この野良犬め、平和も厭だ、戦争も厭だと喚き放す手合ひの癖に?戦争となれば縮み上り、平和となるといい気にふんぞり返る。貴様等を信じたら万事休すだ(中略)

畜生め等!貴様等を信じるだと?猫の目のように気が変り、今の今まで憎んでゐた奴を褒めそやすかと思ふと、檞の冠を戴いた勝利者を忽ち悪党呼ばはりする。(中略)

奴等は暖炉の前に腰を降し、知ったかぶりに議事堂で何があったのなかったのと口から出まかせを言ってゐるだけだ、誰が偉くなりさうだの、誰が幅をきかせ、誰が落ち目だのと、そんな話ばかりさ、さうかと思ふと、あれこれの派閥に身方したり、誰と誰とが結婚するなどと当てずっぽうの噂を流したり、お気に入りの党派を強くするのには力を貸すが、虫の好かぬ党派ときたら、自分達の破れ靴で踏み躙って顧みない。穀物は十分余ってゐるだと!貴族達が憫みの情を捨て、この俺の剣を使はせてくれさへすれば、こいつら何千もの奴隷共を八つ斬りにし、槍を以てしても貫き通せぬ程の堆高い死人の山を築いてやるのだが。

Kindle版、新潮社、『コリオレイナス』、シェイクスピア、福田恆存訳、位置No113-135

コリオレイナスは最後の最後までこうした民衆への敵意を捨て去りません。

もし彼がこの後少しでも態度を軟化して妥協することができたなら・・・。

彼を案ずる者は皆それを忠告し、必死で彼をなだめようとします。でもだめなのです。彼はそれをするにはあまりに高潔直情すぎたのでありました。

この物語はそんな真っすぐすぎる男が破滅していく悲劇です。この作品はシェイクスピア悲劇時代の最後の作品で、これを最後に次からは『ペリクリーズ』『シンベリン』『冬物語』『あらし』と浪漫喜劇へと向かっていくことになります。

シェイクスピア最後の悲劇作品としてもこの作品は注目すべき一作と言えるかもしれません。

・・・それにしても、この作品で説かれる民主制の弱点とポピュリズムのなんと鋭いことか・・・!

シェイクスピアはやはり化け物です。

この作品を読んで今を生きる私たち自身のことを思い浮かべない人はおそらくいないと思います。

そして私はここ2ヵ月ほどローマについて学んできました。

ローマは知れば知るほど奥が深い。

そしてその中でもやはり思うのは「あれほどの繁栄を誇ったローマも、ついには滅びてしまったのだ」ということです。

なぜこれほどまでの技術を誇った大国が滅びてしまったのか。

「蛮族が侵入したから」と単純に解説されることもありますが事はそんなに簡単ではありません。

なぜ「蛮族の侵入」が起こったのか。それはそもそも蛮族から国を守ることもできないくらい帝国が自壊していたという背景もあるでしょう。ではなぜ帝国が自壊していたのか、そもそも帝国が自壊するとはどういうことか。いや、そもそも蛮族蛮族と言われがちですが彼らとローマ帝国の関係はどのようなものだったのかなどなど、考えだせばきりがありません。

ですがやはり私が思うのは古代ローマは完全に民主主義による弱点がもろに出たのではないかということです。「パンとサーカス」のことばかり考えていた市民。政治の腐敗。そして大国を維持するための莫大なコスト、戦争と平和のバランス・・・

考え出せばこれも複雑極まりなく、言葉にしてしまえばその時点で単純化の罠にかかってしまうのは自分でも承知です。ですがこの作品で説かれていたことは少なくともローマ滅亡の大きな要因となっていたように私には思えます。

おわりに

以上、たくさんの本を紹介してきましたがいかがでしたでしょうか。

ローマはあまりに奥が深い。そして知れば知るほどはまってしまう底なし沼のような存在です。私もこのローマの浪漫にすっかりとりつかれてしまいました。

壮麗なローマカトリック文化に触れるもよし、古代ローマに思いを馳せるもよし、芸術や文学にのめり込むもよし、実に幅の広い魅力があるのがローマです。

この記事が皆様のお役に立てましたら私としては幸いでございます。

以上、「ローマおすすめ参考書一覧~歴史、文化、宗教、芸術!これを読めばもっとローマが面白くなる!」でした。

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