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オウィディウス『変身物語』あらすじと感想~ヨーロッパ芸術に巨大な影響を与えた古代ギリシア・ローマ神話の短編集!

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オウィディウス『変身物語』あらすじと感想~ヨーロッパ芸術に巨大な影響を与えた古代ギリシア・ローマ神話の短編集!ベルニーニ、ドストエフスキーとのつながりも

今回ご紹介するのは古代ローマの詩人オウィディウス(前43-後17)によって書かれた『変身物語』です。私が読んだのは2009年に岩波書店より発行された中村善也訳の『変身物語(上下)ワイド版岩波文庫313』です。

早速この本について見ていきましょう。

古代ローマの天成の詩人オウィディウスが、ストーリーテラーとしての手腕を存分に発揮したこの作品には、「ナルキッソスとエコー」など変身を主要モチーフとする物語が大小あわせて250もふくまれている。さながらそれはギリシア・ローマの神話と伝説の一大集成である。ラテン語原典の語り口をみごとに移しえた散文訳。(上巻)

Amazon商品紹介ページより
オウィディウス(前43-後17)Wikipediaより

オウィディウスは前回の記事「ウェルギリウス『アエネーイス』あらすじと感想~古代ローマの建国神話!ギリシアとの関係性も知れるラテン文学の傑作!」で紹介したウェルギリウスより一世代後のローマ詩人です。

そんな彼の代表作『変身物語』について巻末の訳者解説では次のように述べられています。

『変身物語』は、作者にとっても最大作であり、ただにローマ文学にとどまらず、西洋文学史上でも、名だたる雄作であることをやめない。後世の文学や美術に与えた絶大な影響は、いうを待たないであろう。全十五巻、約一万三千行のこの大作は、「変身」というモチーフで貫かれた、ギリシア・ローマ神話の集大成となっている。

岩波書店、オウィディウス、中村善也訳『変身物語(下)ワイド版岩波文庫313』P366

ここで述べられますように『変身物語』は古代ギリシア・ローマの神話を集めた作品です。

こちらが上巻の目次の前半なのですが、見てわかりますようにものすごい数の項目が書かれています。このひとつひとつがギリシア・ローマの神話です。この作品はこれら大量の神話を順に見ていくという流れになります。ページ数を見て頂けるとわかりますようにひとつひとつのお話はかなりコンパクトです。ですので興味のある神話だけ選んでさくさく進んでいくという読み方も全然ありだと思います。

上の解説にもありましたように『変身物語』は後のヨーロッパ芸術に絶大な影響を与えました。

その代表例として有名なのがローマバロックの王ベルニーニです。

ベルニーニ(1598-1680)Wikipediaより

ベルニーニと言えばサンピエトロ大聖堂の内装やサンピエトロ広場の設計、ローマ市内の様々な噴水を手掛けた人物として有名で、ミケランジェロと並ぶ天才として知られています。

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そして以下の画像、左が『アポロとダフネ』、右が『プロセルピナの略奪』という作品なのですが、これらはベルニーニが20代前半で製作したという驚異の彫刻です。

この2つの彫刻はまさしくオウィディウスの『変身物語』で説かれた神話をモチーフに作られています。(これらの像については「(17)ベルニーニ『プロセルピナの略奪』~驚異の肉感!信じられない超絶技巧に驚愕!ボルゲーゼ美術館所蔵の初期の傑作!」「(18)ベルニーニ『アポロとダフネ』~初期の最高傑作!芸術の奇跡と称えられたボルゲーゼ美術館の至宝!」の記事をご参照ください。私の現地での実体験を記しています)

また、ドストエフスキーを学んでいる私にとってやはり見逃せないのはドレスデンの絵画館に所蔵されているクロード・ロラン作『アキスとガラテイアのいる風景』です。

クロード・ロラン『アキスとガラテイアのいる風景』Wikipediaより

ドストエフスキーはこの作品を愛し、強いインスピレーションを受けたことが知られています。特に晩年の大作『悪霊』『未成年』でその影響は顕著なものとなっています。(「(10)ドストエフスキー夫妻のドレスデン滞在~『システィーナの聖母』や『アキスとガラテイア』などの名画を堪能」の記事参照)

そしてこの作品の題材こそ『変身物語』に収められた『ガラテイアとアキス ポリュペモス』になります。本当はその全文をここでご紹介したいのですが少し長いのでそれもかないません。ただ、この本で9ページほどですので物語としてはかなりコンパクトです。

お話の流れとしては美しきガラテイアと美青年アキスは一つ目の巨人ポリュペモスの目を盗んで逢引をします。なぜ巨人の目を盗んでの逢引かというと、この巨人も美しきガラテイアに熱烈に恋していたからでした。

というわけで二人が仲睦まじくしているところを見られてしまったら万事休す、恋敵のアキスは殺されてしまうだろうと二人は考えたのです。

ですが案の定、二人は見つかってしまい、嫉妬の激情に狂う巨人によってアキスは殺されてしまいます。

そして面白いことに、この巨人ポリュペモスはあの『オデュッセイア』に出てくる一つ目の巨人と同一人物です。

ヤーコブ・ヨルダーンスの絵画『ポリュフェモスの洞窟のオデュッセウス』(17世紀初頭)。プーシキン美術館所蔵。オデュッセウスと彼の部下たちが、羊の腹の下に隠れて逃げようとしている。Wikipediaより
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やはりホメロスの『イリアス』『オデュッセイア』はギリシア・ローマの神話を考える上で切っても切れない関係です。『アキスとガラテイアのいる風景』という絵画しか知らなかった私にとって、その元ネタとなったこの神話にまさか『オデュッセイア』が絡んでいたとはと驚くばかりでした。

そしてもう一つこの『変身物語』で紹介したい神話があります。

ジャン=レオン・ジェロームの1890年の絵画『ピグマリオンとガラテア』。メトロポリタン美術館所蔵。Wikipediaより

それがこの絵画のインスピレーション源となった『ピュグマリオン』という神話です。

この絵画は西欧絵画の本などもよく紹介される有名な絵画ですが、やはり強烈なインパクトがありますよね。この絵画と神話については『Pen BOOKS 美の起源、古代ギリシャ・ローマ』でわかりやすく解説されていましたのでそちらをここで紹介します。

彫刻家のアトリエと思われる部屋で、口づけを受ける彫像。室内にはギリシャ彫刻やギリシャ悲喜劇の仮面が置かれている。まだ石像のままの下半身から血の通った上半身へと変わる部分の描写が見どころだ。バーナード・ショーの舞台劇『ピュグマリオン』や映画『マイ・フェア・レディ』は、この物語がもとになっている。

新古典主義者か信奉、自然を超える芸術。

キプロス島の王ピュグマリオンは、潔癖症で生身の女性に幻滅していた。

あるとき、手すさびに象牙で女性像をつくったところ、そのあまりの美しさに彼は恋に落ちてしまう。ピュグマリオンは女神ヴィーナスに、彫像に似た乙女を授けてくれるよう祈った。ピュグマリオンが口づけすると、彫像はしだいに人間に変わっていった。

彼女はガラテイアと呼ばれるようになり、2人は結婚する。

彫像が本物の乙女に変わるという物語は、「究極の芸術は自然を超越する」と考える新古典主義の芸術家に好まれたモチーフ。また、「真の芸は芸を隠す」というラテン語の成句にも通じるとされた。芸術を究めるとそれが芸術であることもわからなくなる、という意味だ。

まるで生きているような彫像をつくることは作り手の理想のひとつであり、その意味でも芸術家の興味を引いた。

阪急コミュニケーションズ、『Pen BOOKS 美の起源、古代ギリシャ・ローマ』P204-205

芸術への究極の理想や愛をモチーフにした神話がすでに古代ギリシャにはあったのです。しかもそれが19世紀末の芸術家にもインスピレーションを与え続けているというのは何と驚異的なことでしょう!

『変身物語』では他にも有名な神話が多数収録されています。古代ギリシャ・ローマ神話をギリシャ語ではなくローマの言葉であるラテン語で歌い上げたというのもこの作品の大きなポイントです。

前回の記事で紹介したウェルギリウスの『アエネーイス』はローマの建国神話でした。オウィディウスも彼に倣いローマの精神、文化をこの作品でまとめ上げています。ウェルギリウスとオウィディウスという二人のローマ詩人の存在は後のヨーロッパ文化に凄まじい影響を与えることになりました。まさにヨーロッパ芸術の源泉たる二人です。その二人の作品を読むことができてとても興味深い体験になりました。

『アエネーイス』も『変身物語』も日本語訳では散文体に直されているので非常に読みやすく、そこまで肩肘張る必要もありません。かなり読みやすいです。特に『変身物語』はすいすい読めます。

これを読めばヨーロッパの絵画や彫刻、文学と接した時に「あ、これか!」となる機会が増えること間違いなしです。すでにわたしはそんな場面にどんどん遭遇しています。これは面白いです。

ぜひぜひおすすめしたい作品です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「オウィディウス『変身物語』あらすじと感想~ヨーロッパ芸術に巨大な影響を与えた古代ギリシア・ローマ神話の短編集!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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