仏教コラム+α

音楽 三島由紀夫三島由紀夫と日本文学

三島由紀夫『音楽』あらすじと感想~フロイトの精神分析への批判的な挑戦が込められた名作!

「女性心理と性の深淵をドラマチックに描く異色作」

本紹介では「女性心理と性」という怪しげな作品のように感じてしまうかもしれませんが、実はこの作品は三島によるフロイト的な精神分析への挑戦が書き込まれた小説でもあります。私が本書を読んだのもまさにこのフロイトへの挑戦に関心があったからでした。

本作の主人公は精神科医です。この中年の精神科医の手記という形で物語が進んでいきます。

彼は自身の精神分析をふんだんにこの手記の中で披露していくのですが、いかんせん相手が悪かった!彼のもっともらしい解釈は美女の謎の行動や言葉に次々と覆されていくことになります。ここに三島のフロイトへの挑戦が込められています。

宴のあと 三島由紀夫三島由紀夫と日本文学

三島由紀夫『宴のあと』あらすじと感想~海外でも高い評価!プライバシー訴訟にも発展した問題作

『鏡子の家』で「時代」を描こうとした三島でありましたが、今作『宴のあと』は実際の政治家有田八郎の都知事選を題材に執筆しました。

ですがこの小説の発表後有田氏に三島は訴えられてしまいます。これが日本初のプライバシー裁判として世間を賑わすことになり、三島は『鏡子の家』の家に続き精神的なショックを受けることになりました。

ただ、徳岡氏とドナルド・キーン氏が述べるようにこの作品自体は非常に優れた作品であることは間違いありません。この作品は海外でも高く評価されているようです。

鏡子の家三島由紀夫と日本文学

三島由紀夫『鏡子の家』あらすじと感想~三島の失敗作?彼の転換点となった長編を考える

本作『鏡子の家』は1959年に発表された長編小説です。三島由紀夫は1954年に『潮騒』で新潮社文学賞、56年に『金閣寺』で読売文学賞を受賞し、プライベートでも58年に瑤子夫人と結婚するなどまさに飛ぶ鳥を落とす勢いでした。

そんな三島が精魂込めて書き下ろした『鏡子の家』。この作品の大きな主題は「時代」であると三島自身が述べています。

三島はこの小説で鏡子の家に集まる4人の青年に時代を投影し三島流の「戦後は終わった」文学を表現しようとしました。これは三島にとっても初めての試みで野心的な挑戦でした。

しかし500日をかけ精魂込めて書き下ろした『鏡子の家』は批評家に酷評され、失敗作の烙印を押されてしまいます。三島はこのことに深い傷を負うことになりました。

河童三島由紀夫と日本文学

芥川龍之介『河童』あらすじと感想~河童の国へ迷い込むとそこには?奇妙な異世界を通して近代日本を風刺した名作

芥川は「河童の世界」を通じて痛烈に日本のありさまを問うてきます。

ひとりひとり(一匹一匹?)の河童がなんと個性的でユーモラスなことか。そして、なんと不気味なことか・・・。

これが芥川龍之介の決死の抗議、人生最後の警告の意味も込めての作品だったかと思うとぞっとします。彼はこの作品の発表後一年も経たずして自殺してしまいます。

芥川龍之介の死から間もなく100年になります。ですが100年経っても芥川の作品は決して色あせません。文学の力は連綿と今を生きる私たちに受け継がれています。

地獄変・偸盗三島由紀夫と日本文学

芥川龍之介『地獄変』あらすじと感想~地獄絵の完成には地獄を見ねばならぬ…天才画家の狂気を描いた傑作!

この作品を読んでいると、まるでサスペンス映画を観ているかのような緊張感に自分が包まれていることを感じます。天才画家良秀が弟子を鎖で縛ったりミミズクをけしかけるくらいまではまだいいのです。「また始まったよ良秀の奇行が」くらいのものです。ですがそこから段々妙な予感が私達の中に生まれ、次第に不気味に思えてきます。「まさか、良秀がやろうとしていることって・・・」とついハラハラしてしまいます。この徐々に徐々に恐怖や不安を煽っていくスタイルは、ミステリーのお手本とも言うべき実に鮮やかなストーリーテリングです。さすが芥川龍之介です。

この作品には「完璧な絵を描き上げんとする狂気の画家を、言葉の芸術家が完全に描き切るのだ」という芥川の野心すら感じさせられます。

この作品が芥川文学の中でも傑作として評価されている理由がよくわかります。

羅生門・鼻三島由紀夫と日本文学

芥川龍之介『羅生門・鼻』あらすじと感想~大人になった今だからこそ読みたい!悪へと進むその決定的瞬間を捉えた名作!

ま~それにしても芥川の短編技術の見事なこと!羅生門を上り、夜の闇に現れる不気味な気配。そこに何がいるのかと大人になっても変わらず夢中になって読んでしまいます。まるで映画的な手法と言いますか、臨場感がとてつもないです。

この作品である一人の男が悪の道へと踏み出すその瞬間を決定的に捉えた芥川。その微妙な心理状態を絶妙にえぐり出したラストは絶品です。

『羅生門』は厳しい。厳しい厳しい世の有り様をこれでもかと見せつけます。悪の道へ踏み出すというのはどういうことなのか、まさにそこへと通じていきます。実に素晴らしい作品です。

また、この記事では芥川龍之介とロシア文学、特にゴーゴリとのつながりについてもお話ししていきます。

美女と野獣夢の国ディズニーランド研究

ディズニーの原作『美女と野獣』あらすじと感想~ディズニー版との違いはどこに?その違いから見るディズニー版の魅力とは

原作を読んでみることでディズニー版の『美女と野獣』の素晴らしさがもっともっと見えてくることになりました。

私たちはすでに出来上がった完成品の『美女と野獣』を観てきたわけですが、この作品が出来上がるまでには並々ならぬ苦労があったことでしょう。そのことに思いを馳せながら観る『美女と野獣』はきっとこれまでとは違った味わいが感じられるのではないでしょうか。私もいよいよこの作品が自分にとって大きな存在となっていることを感じています。

実に興味深い読書となりました。

ピーターパン夢の国ディズニーランド研究

J・M・バリ『ピーターパン』あらすじと感想~ディズニーの原作は想像以上に切なくて、バイオレンスな作品だった

私がこの『ピーター・パン』の原作を読もうと思ったのは何と言ってもディズニー映画の影響です。ウォルト・ディズニーは童話からアニメ映画を多数制作しています。そしてその映画化にあたり、ディズニーは大幅なアレンジを加えています。原作と映画の違いがわかればディズニーのオリジナル部分が見えてきます。

そして原作を読んでみるとそこで語られる彼の性格や物語に私は驚くことになりました。

まず、ピーター・パンの性格がとにかくどうしようもない!ディズニー映画でも彼は自由人過ぎますし抜けてる部分もありましたがまだ愛嬌があります。ですが原作のピーター・パンはもはや恐ろしさすら感じます。

ピノッキオの冒険夢の国ディズニーランド研究

『ピノキオ』の原作は残酷?ジミニーを殺すピノキオ…ディズニー映画の見事な改変について考えてみた

『白雪姫』でもそうでしたがやはり原作はバイオレンスで残酷です。

なんと、『ピノキオ』の原作ではあのジミニー・クリケットがピノキオに木槌で叩き殺されるという衝撃の展開が繰り広げられます。

その他にもディズニー映画とはまるで違うピノキオの世界が原作では描かれています。

ディズニーがいかにこのバイオレンスな世界を家族で安心して見られる映画に改変したのかは非常に興味深いです。

グリム童話 白雪姫夢の国ディズニーランド研究

グリム童話『白雪姫』あらすじと感想~ディズニーの原作!原作との違いからわかるディズニーの驚くべき改変とは

あのお妃は三度も白雪姫を殺そうとした?

死体愛の王子様?

今回ご紹介するグリム童話の『白雪姫』は私たちが想像する『白雪姫』に比べると明らかに暗く、ブラックな展開となっています。

このブラックな展開を知ることでディズニー映画がいかに物語を改変したかがよくわかります。

そしてこの改変にこそディズニーの特徴を知る鍵があります。この記事ではそのことについて考えていきます。