Yahoo!ニュース「百貨店はついに「大閉店時代」に突入、東京商工リサーチが解説」を読んで

ブログ筆者イチオシの作家エミール・ゾラ

2020年10月16日に見たニュース。

「百貨店はついに「大閉店時代」に突入、東京商工リサーチが解説」という記事で、地方の百貨店がいよいよ本格的に姿を消していくという悲しいニュースでした。

これは私の住む函館も他人事ではありません。

かつては函館もとても活気のある街だったそうで多くの百貨店や商店が軒を並べていたそうです。

ですが私が物心つき、そして大人になる頃にはその頃の面影はすでになく、これから函館はどうなってしまうのかと不安な気持ちでいっぱいになってしまう状況にありました。

ですのでこのニュースはまったく他人事には感じられなかったのです。

このニュースを読む数日前、こんな記事も見ました。

同じくYahoo!ニュースの『百貨店撃沈…コロナで客が気づいた「考えてみれば当然の事実」』という記事です。(※リンク先のページが無くなってしまったので記事は見れなくなっています)

決定的なダメージを与えたのはコロナかもしれませんが、そもそも時代の流れが百貨店という仕組みと相容れなくなってきているのではないかという記事です。

たしかにこの記事はなるほどなと思わされることも多かったです。

さらに面白かったことにこの記事についてのコメント欄に鋭い意見がたくさん寄せられていて興味深かったです。時代の流れや現在抱えているインバウンドの問題など日本人が百貨店とどのように関わってきたかが見えてくるようでした。

百貨店と言えば私たち日本人にも非常に馴染み深い存在として身近にありました。

ですが今やその百貨店もその勢いを失い存亡の危機に立たされています。

では私たちはかつてこの百貨店の何に惹かれ、何を求めていたのでしょうか?

なぜかつてあんなにも繁栄したのに今は衰退へと進んでいるのでしょうか。かつてと同じように「もの」を売っているはずなのに。

それを考えるのもこれからの時代を生きていく上で重要なのではないかと私はこの記事を読んで改めて感じました。

くしくも以前私はフランスの文豪エミール・ゾラの作品を読みこのブログでも紹介してきました。

エミール・ゾラはフランス第二帝政期(1852-1870)のフランス社会を描きだした作家です。

第二帝政期は私たちの生活と直結する非常に重要な時代です。

欲望を刺激し、人々の「欲しい」という感情を意図的に作り出していくという商業スタイルが確立していったのがこの時代でした。

フランス第二帝政期に出来上がった商業スタイルが世界中に拡散され、日本にも影響を与えることになったのです。

そして今私たちが親しんでいるような百貨店が出来上がってきたのもまさにこの時代なのです。

ゾラはその過程を『ボヌール・デ・ダム百貨店』という小説で驚くほど詳しく描いています。百貨店という巨大な商業施設がなぜ誕生し、なぜ多くの人を惹き付けるのかという秘密がこれでもかと登場します。

これは読んでいてとてつもなく好奇心が刺激される作品です。時代はたしかに今から150年ほど前ですが、何一つ古くさく感じるものはありません。ここで描かれるデパートや人間は私達と何一つ変わりません。ゾラは社会と人間の本質を描こうとしました。

社会や人間の本質はそうそう変わるようなものではありません。いや、変わらないこそ本質と言うのでしょう。

百貨店がどのように生れ、何が人を惹き付け繁栄したのかを知ることは現代を生きる私たちと直結する問題です。

時代が変わり百貨店が廃れていってしまうのはなぜかを知るにはそもそも百貨店とは何かを知ることが必要です。

そもそも百貨店が人々のどんな欲求に応えていたかを知ることで、今なぜそれが上手くいかないのかがより鮮明に見えてきます。過去を知ることで今の状況がよりはっきりと見ることができます。

小説を読むのがちょっと億劫だという方にはこちら、

鹿島茂氏の 『デパートを発明した夫婦』 という本が非常におすすめです。この本はデパートの発祥である「ボン・マルシェ」という百貨店を題材にフランス文学者の鹿島茂氏が軽妙な語り口で解説してくれます。

この本の主要な資料として使われているのが前出の『ボヌール・デ・ダム百貨店』になります。

この作品ではデパート誕生の前段階から全盛期までひとつひとつ丁寧に解説されていますのでこれ1冊を読めば「ボン・マルシェ」がいかにすごかったのかが一目瞭然です。ですので興味のある方はぜひこれを読んで下さいとしか言いようがないのですが、なんとか「ボン・マルシェ」の特徴をここではいくつか紹介していきたいと思います。

ボンマルシェの特徴をざっくりと挙げていきますと、

  • 薄利多売
  • 現金販売(手形を用いない取引)
  • バーゲンセールの発明
  • 目玉商品というコンセプト
  • 商品の返品可能
  • 巨大な店舗、売り場面積
  • 客の度肝を抜く商品ディスプレイ、売り場空間
  • ライフスタイルの提唱、教育
  • 贅沢品に対する罪悪感の消滅
  • 子供の夢の国としてのデパート
  • 広告の利用
  • カタログによる通信販売

といったものが主に「ボン・マルシェ」の特徴と言うことができるでしょう。

私たちがよく行くバーゲンセールも、「ボン・マルシェ」の発明だったのです。どうしても売り上げが少なくなってしまう時期にお客さんを集めるために目玉商品を用意し、大売り出しをすることで年中コンスタントに利益を確保する方法を編み出したのです。

薄利多売も今では当たり前になってはいますが、これもこの時代に鉄道網の拡充によって大量の物資を迅速に運べるようになったからこそ可能になったのです。そこにいち早く目をつけ、システム化したのが「ボン・マルシェ」だったのです。

いかがでしょうか。これらはもはや私たちの生きる現代と全く変わらないのではないでしょうか。

ゾラの『ボヌール・デ・ダム百貨店』と鹿島茂氏の『デパートを発明した夫婦』を読めば百貨店誕生の過程やその繁栄の秘密をかなり詳しく知ることができます。

私は経済学者でもビジネスの専門家でもありませんのでこうしたことを言うのは僭越なこととは思いますが、文学、思想、社会という視点から百貨店を見ていくのも非常に興味深いことなのではないかと思います。

ニュースを見て改めてゾラの視点というのは現代にも必ず生きてくると感じた今日この頃でありました。

以上、「Yahoo!ニュース「百貨店はついに「大閉店時代」に突入、東京商工リサーチが解説」を読んで」でした。

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