「第四部 プリュメ通りの牧歌とサン・ドニ通りの叙事詩」あらすじと感想~大迫力のバリケード戦!物語は一気に佳境へ

『レ・ミゼラブル』をもっと楽しむために

ユゴー『レ・ミゼラブル㈣ 第四部 プリュメ通りの牧歌とサン・ドニ通りの叙事詩』の概要とあらすじ

『レ・ミゼラブル』は1862年に発表されたヴィクトル・ユゴーの代表作です。

今回私が読んだのは新潮社版、佐藤朔訳の『レ・ミゼラブル』です。

今回は5巻ある『レ・ミゼラブル』の4巻目を紹介していきます。

早速裏表紙のあらすじを見ていきます。

第四部「プリュメ通りの牧歌とサン・ドニ通りの叙事詩」。パリはわきたっていた。陰謀がうずまき、共和主義者は〝ABC(下層の者)〟という秘密結社を作っていた。この混乱の中にあってマリユスは可憐なコゼットとの愛を育てていく。王党派からボナパルチスト、共和派へと立場を変え時の政府に反逆するマリユスは、亡命生活の中で執筆を続ける老大家ユゴーの若き日の姿の投影である。

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あらすじにもありますように、パリには不穏な空気が漂っています。

時は1832年6月。

フランスは1830年の七月革命を経て、その革命後の政府をめぐる大きな争いを迎えていました。

七月革命の結果生まれた政府はブルジョワが大きな力を占めていました。

この頃には産業革命の影響で工場も増え、多くの労働者がパリに暮らしていました。

しかし労働者の待遇は劣悪で、搾取者ブルジョワと被搾取者たる労働者の対立は強まっていくばかりでした。

こうした状態を打破しようと考え、政府を国王と一部の有力者が牛耳るのではなく、国民が政治に参加できるようにと考えたのが共和派であり、その過激集団があらすじに出てくる〝ABC(下層の者)〟という秘密結社です。

そして純真なマリユスは人々のために立ち上がろうという彼らの意志に影響され、彼もその秘密結社に参加し、バリケード戦に身を投じることとなっていくのです。

さて、前回の記事『「第三部 マリユス」あらすじと感想~物語のキーパーソン、マリユスの登場』でもお話ししましたがこの巻ではマリユスとコゼットの恋が始まり、2人の絆が語られます。

しかし幸せだったのも束の間のことでした。

最近家の近くで何者かがうろついている。

捕まることを恐れるジャン・ヴァルジャンはついにこの秘密の家が警察に嗅ぎ付けられたと感じすぐにパリを脱出することに決めます。

目的地はロンドン。もう一刻の猶予もありません。

コゼットからすれば青天の霹靂です。それではもうマリユスに会えなくなってしまう。

コゼットはマリユスに手紙を書きます。

しかし偶然にもジャン・ヴァルジャンはその手紙の内容を知り、コゼットの恋の相手がマリユスであることを知ります。彼は愛する娘を失う恐怖に苦しみます。

その一方、マリユスは暴動のバリケード戦に参加していて、彼自身も「ここが死に場所になる」とコゼットに手紙を送っていました。

こちらの手紙も偶然ジャン・ヴァルジャンの手元に送られることになります。

ジャン・ヴァルジャンはそのバリケードが間もなく一斉攻撃され、反徒は皆殺しになるだろうことを知っていました。

彼は一瞬、コゼットの恋人が殺されてしまうだろうことを喜びました。

ですが、彼は歩き出します。彼はなんと、そのバリケードへ向かって行ったのです。

感想―ドストエフスキー的見地から

この巻は事件が盛りだくさんすぎてあらすじをまとめるのは本当に難しいです。

しかもユゴーは例のごとく、1830年の七月革命やその後の政府のことを長々と語り始めます。

ユゴーがわかりやすくまとめてくれているのはありがたいのですが、いかんせん長いです。ここに載せるには厳しいです。

ただ、実際に読んでみればわかりますが、ユゴーの解説のおかげでマリユスが参加した秘密結社がどのような組織で、パリが今どういう状態なのかがとてもわかりやすくなっています。

この巻では『レ・ミゼラブル』のクライマックスに向けて一気に展開が動いていきます。

1832年の6月暴動はこの物語の最大の見せ場です。

離れ離れになったコゼットとマリユス。

若き理想主義者たちが「正義、自由、平等」のために立ち上がり、命を賭して戦うバリケード戦。

最愛の娘が奪われてしまうかもしれないという絶望に苦しむジャン・ヴァルジャン。

主要人物たちそれぞれがこの巻の中で様々なドラマを演じることになります。

そしてそのいくつものドラマがバリケードで重なり、一堂に会していく。

これはもう見事としか言いようがありません。さすがユゴー。面白過ぎます!

そして健気なエポニーヌの存在。この巻では彼女の存在感が抜きんでています。

エポニーヌはあの悪徳夫妻テナルディエの娘でありながらものすごくいい子です。

映画でも彼女の天使っぷりは存分に描かれていますが原作でもやはり彼女は天使です。

もちろん、彼女も完全無欠ではありませんが、愛する男を救うために身を挺して守ろうとする姿には心打たれるものがありました。

また、ジャン・ヴァルジャンの宿敵ジャヴェール。

この男ももちろん登場します。

しかし今度は捕らえられる側の人間として。

彼は警察側のスパイとしてバリケード内に潜入していました。しかし正体がばれて逆に拘束されてしまうのでありました。

あの抜け目ないジャヴェールがこうもあっさりと捕まってしまうのは拍子抜けでしたが、これがまた後々最高に劇的なシーンの伏線になっていくのです。

もう伏線だらけですね『レ・ミゼラブル』は。にくい演出です。さすがユゴーです。劇的すぎます。

今回もドストエフスキー的見地と言いながらドストエフスキーのことはお話しできませんでした。

もうここまで来たら『レ・ミゼラブル』をとことん楽しむこと。それが1番大事なことのように思えてきました。

第4巻からクライマックスに向けて一気に物語は動いていきます。

第4巻、第5巻と続くバリケード戦の迫力は圧倒的です。まるでハリウッド映画のようです。映像ではなく言葉でこれを表現できるというのは驚くべきことだと思います。

同じフランスの代表的作家エミール・ゾラの映画的描写も素晴らしかったですが、ユゴーはまた違った印象を受ける映画的手法です。ゾラの映画的手法については以下の記事をご参照ください。

ゾラを静的とするならば、ユゴーはアクション映画的なダイナミックなタッチで世界を描写していきます。

カメラがぐーっと上空へ動いていき、舞台をあらゆる角度から動きをつけて捉えていく。ズームも引きも自由自在。そんなダイナミックな構図を感じることができます。

読んでいて本当に物語の世界観に没入させられます。こういう読書体験は一度体験すると病みつきにさせられてしまうほどです。

さて、いよいよ次で最終巻。ジャン・ヴァルジャンの物語もフィナーレを迎えます。

物語は最高潮の盛り上がりを見せて最終巻に突入します。

以上、「『レ・ミゼラブル㈣ 第四部 プリュメ通りの牧歌とサン・ドニ通りの叙事詩』あらすじ感想―大迫力のバリケード戦!物語は一気に佳境へ」でした。

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