仏教書データベース

古代中世スリランカスリランカ、ネパール、東南アジアの仏教

藪内聡子『古代中世スリランカの王権と佛教』~宗教は宗教だけにあらず。国の歴史と歩んだスリランカ仏教の変遷を学ぶ

王は仏教を保護し、仏教は王の正統性を保証する。

こうした相互関係がスリランカでは特に強く見られたことを本書では順を追って見ていくことになります。

この本を読んでいるとまさに宗教は宗教にだけにあらずということを考えさせられます。宗教も時代時代においてその時の政治状況と無縁ではいられません。単に思想や教義だけを追っていても見えないものがあります。そうしたことを丁寧に学んでいける本書は非常に貴重です。

なかなか手に入れにくい状況となっている本書ですが、スリランカ仏教についてより深く学びたいという方にぜひおすすめしたい作品です。

蜜の味をもたらすものスリランカ、ネパール、東南アジアの仏教

及川真介訳『蜜の味をもたらすもの 古代インド・スリランカの仏教説話集』~スリランカの民衆仏教を知るためにおすすめ

本書『蜜の味をもたらすもの 古代インド・スリランカの仏教説話集』は、今なおスリランカをはじめとした上座部仏教圏で親しまれている仏教説話だそうです。

仏教説話といえばブッダの前世物語であるジヤータカが有名ですが本書ではそれとは一味違った物語を目の当たりにすることになります。

『この蜜の味をもたらすもの 古代インド・スリランカの仏教説話集』はジャータカのような見返りを考えない献身や慈悲とは明らかに雰囲気が違います。

釈宗演スリランカ、ネパール、東南アジアの仏教

中島美千代『釈宗演と明治 ZEN初めて海を渡る』~スリランカを訪れた禅の名僧のおすすめ伝記

本書の主人公釈宗演は鈴木大拙や西田幾多郎らビッグネームの師匠であり、若き日には福沢諭吉に師事していたという驚異の禅僧です。

私は今、スリランカに強烈に惹きつけられています。

そのスリランカを今から150年も前に訪ねた禅僧がいた。

そのことに私はやはり興味を禁じ得ません。

本書ではそんな釈宗演の生涯がドラマチックに語られていきます。釈宗演という巨大な人物の生涯をドラマチックに見ていける本書はとてもおすすめです。

心霊の文化史スリランカ、ネパール、東南アジアの仏教

吉村正和『心霊の文化史 スピリチュアルな英国時代』~スリランカ仏教に影響を与えた神智学協会についても知れる一冊!

心霊主義といいますとオカルトチックで怪しいイメージもありましたが、実は産業革命や世界的な合理主義の流れから生まれてきたという興味深い背景を知ることができる本書は非常に刺激的です。スリランカを学ぶ上でも非常にありがたい作品でした。スリランカの仏教者ダルマパーラと神智学協会について知りたかった私にとって非常に有益な情報が満載でした。

単にオカルトと侮るなかれ。ものすごく現実的な問題が目の前に迫ってきます。これは面白いです。

パニワラルスリランカ、ネパール、東南アジアの仏教

D・G・ディサーナーヤカ『パニワラル―駐日スリランカ大使が見たニッポンー』~スリランカ人から見た日本とは!

本作はスリランカ人から見た日本を知れる刺激的な一冊です。

私は今スリランカについて様々な本を読んで学び、様々なことを考えているわけですが、それは逆も然り。スリランカ側からも日本は見られています。

同じ仏教徒であるスリランカと日本では仏教のスタイルも生活文化も全く異なります。同じ仏教徒でありながらまるで違うスリランカ人が見た日本とはどのようなものなのか、これは興味深いテーマです。

スリランカを知るためスリランカ、ネパール、東南アジアの仏教

『スリランカを知るための58章』~政治、宗教、生活、現代スリランカを様々な視点から見ていくおすすめ参考書!

本書は現代スリランカの大枠を掴むのに非常におすすめです。国レベルの政治経済、歴史の概略を知れるだけでなく、現地の人々の生活の模様も詳しく語られます。どちらか一方だけではなく、両者を見ていくことでよりスリランカの姿を知ることができます。スリランカ特有の宗教事情も生活と絡めてわかりやすく学べるのも非常にありがたいです。

現地の社会問題や今後の課題も本書では語られるのですが、それはスリランカだけの問題ではなく私達日本人のありかたについての問いかけにもなっています。スリランカという他者を通して私達自身についても考えさせられます。

現代スリランカの入門書として本書は最適です。しかも入門書でありながらかなり深い所まで私達を連れて行ってくれます。

蓮の道スリランカ、ネパール、東南アジアの仏教

M・ウィクラマシンハ『蓮の道』あらすじと感想~繊細、あまりに繊細なスリランカ文学の傑作

この作品を読みながら私の中に浮かんできたのは「あぁ・・・!文学だなぁ・・・!」という念です。

文学です。THE 文学です。

何を以て文学を文学と考えるのは人それぞれだと思いますが、私はこのあまりに繊細で世に馴染めない気弱な主人公にそれを感じたのでありました。

ま~じれったい!そこを一歩踏み出せばよいではないか!と発破をかけたくなるのですがそこはお約束。どうしても主人公は動かず、悩み続けます。

あまりに繊細で、あまりに世間離れしている価値観の持ち主であるのに、世の中も捨てきれない。そんな自分を理解していながらどこかでその世の中にほんの少しの期待もしてしまう。実に繊細。実にナイーブな主人公です。

時の終焉スリランカ、ネパール、東南アジアの仏教

M・ウィクラマシンハ『時の終焉』あらすじと感想~マルクス主義と階級闘争に揺れるスリランカを活写した名作!

労働者を搾取して成り上がった大資本家サウィマンに強く反抗する息子マーリン。彼は「あの二人はもうすでに精神的に腐敗している。今さら両親の心を改悛させる人間は周りに誰もいないからね!」と親友の医者アラウィンダに打ち明けます。彼の反抗はもはや家庭内だけの問題ではなく、コロンボ市民を巻き込む政治運動へと展開していきます。

本作ではこうした資本家と労働者のせめぎ合いや暴動も描かれます。当時コロンボで何が起きていたのかをかつてジャーナリストであったウィクラマシンハが物語にして具現化したのがこの小説です。これまで彼の三部作を読んできて感じたように、この作品でも彼の繊細な心理描写は精彩を放っています。

ウィクラマシンハの小説はスリランカの姿を知るのに最高の手引きとなります。

変革の時代スリランカ、ネパール、東南アジアの仏教

M・ウィクラマシンハ『変革の時代』あらすじと感想~スリランカ新興商人の実態をリアルに描写。ゾラを彷彿とさせる名著

まさにこの小説は20世紀前半のスリランカを知るための絶好の資料となります。遠く離れた日本に住む私たちにとってこれほどありがたいスリランカ絵巻はありません。

『変革の時代』では新興商人が金や地位に溺れる虚飾の世界や、それに反発を覚える息子世代の心情、旧社会の伝統を捨てきれない村の人々とのずれなど様々な立場からスリランカ社会を見ていくことになります。

これは見事な作品です。前作に引き続きウィクラマシンハの恐るべき描写力を本作でも感じることになりました。

変わりゆく村スリランカ、ネパール、東南アジアの仏教

M・ウィクラマシンハ『変わりゆく村』あらすじと感想~スリランカの傑作長編!ドストエフスキーやチェーホフとの関連も!

日本ではあまり知られていない作品ですが、世界的にも評価されている素晴らしい小説です。私も実際に読んでみてその素晴らしさを堪能することとなりました。

スリランカでの生活が目の前に現れるかのような、没入感ある小説です。ドストエフスキーやチェーホフが好きな人には特にフィットする作品だと思います。

これからこの三部作全てを読んでいきますが、そのスタートからして圧倒的なクオリティを感じた一冊でした。