日本

三島由紀夫と楯の会事件三島由紀夫と日本文学

保阪正康『三島由紀夫と楯の会事件』~1970年自衛隊市ヶ谷駐屯地での自決に至るまでの詳しい過程を知れるおすすめ参考書

1970年11月25日、三島由紀夫と楯の会メンバー4人が自衛隊市ヶ谷駐屯地に立てこもり、バルコニーから自衛隊決起を促す演説をした後、三島と森田必勝両氏がそのまま切腹し自殺するという衝撃的な事件が起こりました。本書はこの衝撃的な事件の背景とその経緯を知るのに最高の一冊です。

この本では三島が自決に至る過程をかなり詳しく見ていくことができます。特に楯の会の結成やその進展、そして三島と自衛隊とのつながりについての解説は非常に興味深いものがありました。

その内容についてはここではご紹介できませんが、私も「えっ!」と驚くようなことがどんどん出てきました。この本を読む前と後では三島に対する見方がまた変わったように思えます。

宴のあと 三島由紀夫三島由紀夫と日本文学

三島由紀夫『宴のあと』あらすじと感想~海外でも高い評価!プライバシー訴訟にも発展した問題作

『鏡子の家』で「時代」を描こうとした三島でありましたが、今作『宴のあと』は実際の政治家有田八郎の都知事選を題材に執筆しました。

ですがこの小説の発表後有田氏に三島は訴えられてしまいます。これが日本初のプライバシー裁判として世間を賑わすことになり、三島は『鏡子の家』の家に続き精神的なショックを受けることになりました。

ただ、徳岡氏とドナルド・キーン氏が述べるようにこの作品自体は非常に優れた作品であることは間違いありません。この作品は海外でも高く評価されているようです。

鏡子の家三島由紀夫と日本文学

三島由紀夫『鏡子の家』あらすじと感想~三島の失敗作?彼の転換点となった長編を考える

本作『鏡子の家』は1959年に発表された長編小説です。三島由紀夫は1954年に『潮騒』で新潮社文学賞、56年に『金閣寺』で読売文学賞を受賞し、プライベートでも58年に瑤子夫人と結婚するなどまさに飛ぶ鳥を落とす勢いでした。

そんな三島が精魂込めて書き下ろした『鏡子の家』。この作品の大きな主題は「時代」であると三島自身が述べています。

三島はこの小説で鏡子の家に集まる4人の青年に時代を投影し三島流の「戦後は終わった」文学を表現しようとしました。これは三島にとっても初めての試みで野心的な挑戦でした。

しかし500日をかけ精魂込めて書き下ろした『鏡子の家』は批評家に酷評され、失敗作の烙印を押されてしまいます。三島はこのことに深い傷を負うことになりました。

河童三島由紀夫と日本文学

芥川龍之介『河童』あらすじと感想~河童の国へ迷い込むとそこには?奇妙な異世界を通して近代日本を風刺した名作

芥川は「河童の世界」を通じて痛烈に日本のありさまを問うてきます。

ひとりひとり(一匹一匹?)の河童がなんと個性的でユーモラスなことか。そして、なんと不気味なことか・・・。

これが芥川龍之介の決死の抗議、人生最後の警告の意味も込めての作品だったかと思うとぞっとします。彼はこの作品の発表後一年も経たずして自殺してしまいます。

芥川龍之介の死から間もなく100年になります。ですが100年経っても芥川の作品は決して色あせません。文学の力は連綿と今を生きる私たちに受け継がれています。

地獄変・偸盗三島由紀夫と日本文学

芥川龍之介『地獄変』あらすじと感想~地獄絵の完成には地獄を見ねばならぬ…天才画家の狂気を描いた傑作!

この作品を読んでいると、まるでサスペンス映画を観ているかのような緊張感に自分が包まれていることを感じます。天才画家良秀が弟子を鎖で縛ったりミミズクをけしかけるくらいまではまだいいのです。「また始まったよ良秀の奇行が」くらいのものです。ですがそこから段々妙な予感が私達の中に生まれ、次第に不気味に思えてきます。「まさか、良秀がやろうとしていることって・・・」とついハラハラしてしまいます。この徐々に徐々に恐怖や不安を煽っていくスタイルは、ミステリーのお手本とも言うべき実に鮮やかなストーリーテリングです。さすが芥川龍之介です。

この作品には「完璧な絵を描き上げんとする狂気の画家を、言葉の芸術家が完全に描き切るのだ」という芥川の野心すら感じさせられます。

この作品が芥川文学の中でも傑作として評価されている理由がよくわかります。

「夢の王国」の光と影夢の国ディズニーランド研究

野口恒『「夢の王国」の光と影 東京ディズニーランドを創った男たち』~最高に刺激的な傑作ノンフィクション!

「数々の挫折と葛藤、失敗を乗り越えてとてつもない夢を実現させた、熱き男たちのドラマ。東京ディズニーランド誕生までの23年間を克明に描いた書き下しノンフィクション。」

いや~それにしても刺激的です!ものすごく面白い!まるで映画を観ているかのような臨場感です。これはもうぜひ実写化して頂きたいです。

この本はディズニーに興味のある方だけではなく、何かを始めようとするビジネスマンの方にも刺さると思います。熱い思いと行動力、粘り強さと機転、一発逆転の舞台裏など、読んでいて思わず胸が熱くなる作品です。私も一気に読み切ってしまいました。非常に優れた作品です。これは間違いありません。

ディズニーランド物語夢の国ディズニーランド研究

有馬哲夫『ディズニーランド物語 LA-フロリダ-東京-パリ』~歴史と裏側を知れるおすすめディズニーランド通史!

本書は1955年にカリフォルニア、アナハイムで開業したディズニーランドからフロリダ、東京、パリ、香港とディズニーランドの歴史を概観できるおすすめの解説書です。

「テーマパーク・プロジェクトほど人間ドラマが浮き彫りになるものはない」

これぞ本書の面白さの真髄です。ディズニーランドの歴史そのものもものすごく面白いのですが、これがあるからこそ本書は一挙に刺激的な作品となっています。私も一気に読み込んでしまいました。

本書は文庫で気軽に手に取れる作品でありながら中身は非常に濃厚です。ディズニーファンだけでなく、ビジネスやノンフィクションに興味のある方にもぜひおすすめしたい一冊です。

ディズニーランドの社会学夢の国ディズニーランド研究

荒井克弥『ディズニーランドの社会学 脱ディズニー化するTDR』~日本的なディズニー受容を考察する刺激的な一冊!

この本は「ここがすごいよディズニーランド」的なことを述べていく本とは違います。あくまで社会学的に、ディズニーランドという現象を見ていきます。

なぜ東京ディズニーランドは本家本元とは違う独自の路線を取るようになったのか。そしてなぜ別路線を取ったにも関わらず営業利益が伸び続けているのかということを様々な視点から考察していきます。これは面白い!

特に、ダッフィー誕生のエピソードは必見です。私もずっとダッフィーの存在が謎だったのですが、この本を読んで「おぉ!なるほど!」と思わず唸ってしまいました。まさかこんな背景があったなんてと驚きました。まさにここにも日本独自の事情があったことに驚かされます。

蜘蛛の糸三島由紀夫と日本文学

芥川龍之介『蜘蛛の糸』あらすじと感想~仏教童話として有名な名作短編!地獄に垂らされた救いの糸!

『蜘蛛の糸』は芥川龍之介が初めて書いた児童向け文学で、仏教説話としても有名な名作短編です。私も僧侶という仕事柄、この『蜘蛛の糸』のお話を法話や仏教書で見聞きすることは数多くありますが、このお話はお寺関係という枠を超えて日本人全体に親しまれてきた作品ではないでしょうか。

そして本書巻末解説では『蜘蛛の糸』制作についての詳しい解説が説かれていたのですが、これが私にとってかなりの驚きでした。簡単に要点をまとめると、⑴『蜘蛛の糸』が元々仏教由来なのかどうかはわからないということ、⑵この作品がドストエフスキーやトルストイとも関係があるという2点があげられます。この記事ではこのことについても詳しく見ていきます。

砂の女三島由紀夫と日本文学

阿部公房『砂の女』あらすじと感想~国際的にも高く評価された名作!カフカ的な世界観と国際的な文学とは

本作『砂の女』は20カ国以上の国に翻訳された国際的にも高く評価された名作です。

ストーリー自体はあくまでシンプル!ふと迷い込んだ砂丘で、理不尽にも穴の中の家に閉じ込められた主人公。砂の壁に囲まれた穴から脱出すべく奮闘するも・・・という物語です。

前回の記事で紹介した『箱男』はストーリーが難解で、問題作と言われるほどの奇作でしたが今作『砂の女』は非常に読みやすいです。

ただ、阿部公房らしい不条理な世界観は健在です。

文学の国際性ということを考えることになったこの作品は私にとっても貴重な読書となりました。これは楽しい読書でした。