日本

潮騒三島由紀夫と日本文学

三島由紀夫『潮騒』あらすじと感想~古代ギリシャをモチーフに書かれた恋愛小説。三島らしからぬディズニー的物語がここに

『潮騒』は「平和で静穏な小説であり、この作家としては例外的に、犯罪も血の匂いも閉め出された世界なのである」と解説されるほど三島らしからぬ異質な作品です。

舞台は伊勢の海に浮かぶ歌島という孤島。本土から隔たれたこの美しい島で、二人の若者の清らかな恋が語られます。

三島由紀夫といえば『金閣寺』や『仮面の告白』のえげつない内面描写や『憂国』の血のしたたりというイメージがあります。しかし、彼は『潮騒』のような純粋無垢なディズニー的な作品も書けてしまうのです。

「あの三島由紀夫がディズニー的な作品を書いていた」

私にとってはこれはかなりの衝撃でした。

三島由紀夫三島由紀夫と日本文学

三島由紀夫、芥正彦他『三島由紀夫VS東大全共闘 1969-2000』~あの伝説の討論は何だったのか。学生達の思想、関係性も知れるおすすめ作品!

結局、あの東大全共闘は何だったのか・・・安田講堂に立てこもり火炎瓶を投げつけた学生達や内ゲバを繰り返したセクトたちと何が違うのか・・・。

私にはこれがどうしてもわからなかったのです。三島由紀夫と討論した彼らは一体何者だったのか。彼らも内ゲバや暴力をしていたのだろうか・・・。

そんな疑問を抱えていた私にとって本書はあまりにありがたい作品となりました。

いや~ものすごい本です。計15時間にも及ぶ濃密な討論がこの本で文字化されています。東大全共闘とは何だったのか、三島由紀夫との対談は何だったのかということを知るのにこの本は最高の資料になります。この時代の雰囲気を感じるためにもぜひぜひこの本はおすすめしたいです。

仮面の告白三島由紀夫と日本文学

三島由紀夫『仮面の告白』あらすじと感想~三島の自伝的小説。幸福を求めあがいても絶対に得られないという絶望がここに…

今作『仮面の告白』は三島由紀夫の初の長編となった作品です。しかもそうした「始まりの作品」でありながらこの小説はかなりどぎついです。後の三島を予感させる内面の苦悩、葛藤、嵐がすでにここに描かれています。

本作の主人公は同性愛的傾向を持ち、さらには若い男の流す血に性的興奮を持ってしまうという、特異な少年です。ですが、彼はそのことに煩悶し、世間一般の幸福を望んでもいました。

しかし、やはり彼にはそのような平穏は許されていなかった・・・

この作品は三島由紀夫の自伝的な小説と呼ばれています。三島自身は妻を持ち子もいますので完全には小説そのままではありませんが、彼の抱えていた悩みやその生育過程が今作に大きな影響を与えたとされています。

不道徳教育講座三島由紀夫と日本文学

三島由紀夫『不道徳教育講座』~逆説とユーモア溢れる名エッセイ集!三島節の真骨頂を体感!

本書に収録されているエッセイには三島由紀夫のユーモアが溢れています。

『金閣寺』や『憂国』を読んだ後にこのエッセイを読んだ私ですが、三島由紀夫ってこんなに面白い人なんだ!と新鮮な驚きを感じながらの読書となりました。

また、本書の後半には三島由紀夫の筋肉論が掲載されています。

三島は30代に入ってから肉体改造に取り組み、ボディ・ビルに勤しんでいました。その三島の筋肉論を聴けるのも本書の醍醐味でもあります。この三島の筋肉の美学には痺れます!近年の筋肉ブームを考えると、この三島の筋肉論が一種のムーブメントに発展してもおかしくありません。

葉隠入門三島由紀夫と日本文学

三島由紀夫『葉隠入門』あらすじと感想~「武士道といふは、死ぬ事と見付けたり」の真意とは。三島思想の支柱を知れる作品

「武士道といふは、死ぬ事と見付けたり」

誰もが知るこの言葉の元となった『葉隠』を三島由紀夫は生涯愛しました。そして彼自身この作品を発表した3年後にまさに武士のように自刃しています。この本が三島に与えた影響が並々ならぬことは間違いありません。

特に『「武士道といふは、死ぬ事と見付けたり」というその一句自体が、この本全体を象徴する逆説なのである。わたしはそこに、この本から生きる力を与えられる最大の理由を見いだした。』という言葉は三島がこの書から受け取った真髄が現れていると思われます。

三島由紀夫のあまりに壮絶な人生の秘密がこの本には記されています。『憂国』と合わせてぜひこの『葉隠入門』はおすすめしたいです。

憂国三島由紀夫と日本文学

三島由紀夫『憂国』あらすじと感想~後の割腹自殺を予感?三島のエキスが詰まったおすすめの名作!

「もし、忙しい人が、三島の小説の中から一編だけ、三島のよいところ悪いところすべてを凝縮したエキスのような小説を読みたいと求めたら、『憂国』の一編を読んでもらえばよい」

三島自身がこう述べるほどの作品が『憂国』です。私自身、最初の三島体験となった『金閣寺』の次にこの作品を読んだのですが、この『憂国』を読んで私はいよいよ三島の魔力に取り憑かれてしまったのでした。

『憂国』は三島作品の中でも特におすすめしたい作品です。30ページほどの物語の中に三島由紀夫のエッセンスが凝縮されています。

金閣寺三島由紀夫と日本文学

三島由紀夫『金閣寺』あらすじと感想~「金閣寺を焼かねばならぬ」。ある青年僧の破滅と内面の渦

「金閣寺を焼かねばならぬ」

なぜ青年僧はそう思わねばならなかったのか。それを幼少期からその決行まで我々は見ていくことになります。

そしてこの作品を読んでいてふと思ったのは、『金閣寺』はドストエフスキーの『罪と罰』と対になる作品かもしれないということでした。

私は『罪と罰』をかつて「ドストエフスキーの黒魔術」と呼びました。ドストエフスキーの作品は私たちに異様な感化力を以て襲いかかってきます。

そしてまさに三島由紀夫の『金閣寺』もそのような作品だと確信しました。この文体。この熱量・・・!恐るべき作品です。これから三島由紀夫の作品を読んでいくのが楽しみになりました。

いや~ものすごい作品でした。

亡き人スリランカ、ネパール、東南アジアの仏教

E・サラッチャンドラ『亡き人』あらすじと感想~あのおしんに匹敵!日本を舞台にスリランカで絶大な人気を博した小説二部作!

あの「おしん」を超える影響力を持っていたスリランカ小説があったとは驚きでした。

著者のサラッチャンドラは実際に1955年に日本を訪れており、その時の強烈な体験が本書にも強く作用していることがうかがわれます。

特に第一部の「亡き人」では語りの主体がスリランカ人画家のデウェンドラにあります。異邦人の彼から見た当時の日本がどのようなものだったかが非常に鮮明に描かれています。その一端はすでに上の解説でも垣間見ることができますが、当時のスリランカ人はこの小説を読んで日本という国をイメージしていたわけです。

当時のスリランカ人が日本をどう見ていたのかということを知る上でもこの作品は貴重なものになるに違いない、そう思い私はこの本を手に取ったのでありました。

蜜の味をもたらすものスリランカ、ネパール、東南アジアの仏教

及川真介訳『蜜の味をもたらすもの 古代インド・スリランカの仏教説話集』~スリランカの民衆仏教を知るためにおすすめ

本書『蜜の味をもたらすもの 古代インド・スリランカの仏教説話集』は、今なおスリランカをはじめとした上座部仏教圏で親しまれている仏教説話だそうです。

仏教説話といえばブッダの前世物語であるジヤータカが有名ですが本書ではそれとは一味違った物語を目の当たりにすることになります。

『この蜜の味をもたらすもの 古代インド・スリランカの仏教説話集』はジャータカのような見返りを考えない献身や慈悲とは明らかに雰囲気が違います。

釈宗演スリランカ、ネパール、東南アジアの仏教

中島美千代『釈宗演と明治 ZEN初めて海を渡る』~スリランカを訪れた禅の名僧のおすすめ伝記

本書の主人公釈宗演は鈴木大拙や西田幾多郎らビッグネームの師匠であり、若き日には福沢諭吉に師事していたという驚異の禅僧です。

私は今、スリランカに強烈に惹きつけられています。

そのスリランカを今から150年も前に訪ねた禅僧がいた。

そのことに私はやはり興味を禁じ得ません。

本書ではそんな釈宗演の生涯がドラマチックに語られていきます。釈宗演という巨大な人物の生涯をドラマチックに見ていける本書はとてもおすすめです。