野口恒『「夢の王国」の光と影 東京ディズニーランドを創った男たち』~最高に刺激的な傑作ノンフィクション!

「夢の王国」の光と影 夢の国ディズニーランド研究

野口恒『「夢の王国」の光と影 東京ディズニーランドを創った男たち』概要と感想~最高に刺激的な傑作ノンフィクション!

今回ご紹介するのは1991年に株式会社CCCメディアハウスより発行された野口恒著『「夢の王国」の光と影 東京ディズニーランドを創った男たち』です。私が読んだのはKindle、2013年発行版です。

早速この本について見ていきましょう。

数々の挫折と葛藤、失敗を乗り越えてとてつもない夢を実現させた、熱き男たちのドラマ。東京ディズニーランド誕生までの23年間を克明に描いた書き下しノンフィクション。

Amazon商品紹介ページより

私がこの本を手に取ったのは前回の記事で紹介した有馬哲夫著『ディズニーランド物語 LA-フロリダ-東京-パリ』がきっかけでした。

この本では1955年にカリフォルニアにオープンした最初のディズニーランドから、フロリダ、東京、パリに至る流れが解説されていましたが、その中で本書『「夢の王国」の光と影 東京ディズニーランドを創った男たち』が紹介されていたのです。

この本で語られた東京ディズニーランド誘致の裏側があまりに面白く、もっとこの物語を詳しく知りたいと思い私は本書を手に取ったのでした。

そしてそれは大当たり!とてつもなく面白い大傑作でした。

本書について著者は冒頭で次のように述べています。

東京ディズニーランドといえば、とかく天地人に恵まれて華やかに光り輝く表舞台のみに目が奪われやすい。しかし、この事業の核心はむしろ舞台裏で演じられた当事者同士の真剣かつ激しい数々の人間ドラマの中にある。

反対が多く、難産の末に生まれた事業ほど逞しく育つというが、このプロジェクトの後半部はそのことをはっきりと示している。

東京ディズニーランドはディズニー側にとっても初めての海外進出であり、同時に日本にとっても最初の本格的なテーマパークの建設であった。そのことの意義はきわめて大きい。

また、東京ディズニーランドは日本の既存の遊園地やレジャー産業に画期的な変化をもたらしただけでなく、日本人のライフスタイルや消費文化にも大きな影響を与えたのである。一九八三年は、「レジャー元年」と呼ばれた。この頃から多くの日本人は「仕事に生きがいを求める」働きバチから、自分たちの余暇をもっと活用して「生活を楽しむ」余暇重視のライフスタイルを大切にするようになった。

一九八三年四月一五日の東京ディズニーランドの開園はそうした本格的な余暇時代の到来を先取りした象徴的な事件でもあったのだ。

本書は東京ディズニーランドの建設計画がもち上がり、実際に完成するまでの一三年間に及ぶ紆余曲折に富んだ、ドラマチックな経緯を関係者の取材・証言を中心に構成してまとめたドキュメントである。日本がまだ高度経済成長のスタートをきったばかりの時に、既にもう本格的な余暇時代の到来を予見してディズニーランドの誘致建設を進めようとするプロジェクトがあった、というその事実に大変興味を覚え、取材を開始した。しかし、取材を進めていくうちにこの事業の面白さはプロジェクトの内容もさることながら、ディズニーランドの誘致・建設にかけた多くの人たちの夢と情熱、挫折と失敗、葛藤と対立、勇気と決断そして幸運と成功をめぐる人間ドラマにあると考え、その点に本書のねらいを置いた。

株式会社CCCメディアハウス、野口恒『「夢の王国」の光と影 東京ディズニーランドを創った男たち』Kindle、2013年発行版P2-5

「この事業の核心はむしろ舞台裏で演じられた当事者同士の真剣かつ激しい数々の人間ドラマの中にある」

まさにこれです。東京ディズニーランド開業にはとてつもない人間ドラマがありました。私も本書を読んで驚き通しでした。

そして上の引用にもありますように、当時の日本は高度経済成長の結果、余暇(レジャー)の概念が生まれ始めた時期でした。こうした時代風潮について知ることができるのも本書の魅力です。

そして本書の「結び」では興味深い予言が説かれていました。

川崎千春や菅谷隆介はディズニーランドを誘致するに当たって、「そっくりそのままの、デッドコピーでよい。デッドコピーなら成功する」といった。そして彼らの見通しはみごとに的中した。独自の、本物のエンターテイメント文化をもたない日本に、へたにアレンジするよりも、本場米国の本物のエンターテイメント文化(ディズニー文化)をそっくり輸入し、それらを体験して、吸収する方が大切であると考えたからである。

ただ、日本の消費者がこのままいつまでもデイズニーのコピー文化に満足しているとは思えない。日本人はこれまで異質なものや文化を積極的に体験し、それらを貪欲に吸収(消費)して、新しいもの、独自のものをつくり出してきた。特に現在の、日本の若者はそうしたエネルギーや能力をもっている。その意味で、彼らがデッドコピーで直輸入した東京ディズニーランドをどう貪欲に吸収して、自分たらのレジャーライフや消費文化に合った新しいエンターテイメント文化を創り出していくか、大変興味がある。

東京ディズニーランドも今後変わっていくのではないだろうか。ディズニーという普遍的なカルチャーをべースにして日本の消費文化や日本人のライフスタイルに合った「日本のディズニーランド」に変わっていくように思われる。

ウォルト・ディズニーは「ディズニーランドは永遠に完成することのないもの、つねに発展させ、プラスアルファを加えつづけていけるもの、要するに生き物なんだ」といっている。その意味で、日本の消費社会や日本人のライフスタイルの変化に合わせて、日本人の手による東京ディズニーランドをつくっていく本当のドラマはこれから始まっていくのである。これから本場米国とは違ったディズニー文化、エンターテイメント文化が日本で創造されていくのである。

株式会社CCCメディアハウス、野口恒『「夢の王国」の光と影 東京ディズニーランドを創った男たち』Kindle、2013年発行版P292-293

「東京ディズニーランドも今後変わっていくのではないだろうか」

この本は1991年に出版されたものですが、この予言はまさに的中することになります。

東京ディズニーランドは本場アメリカとは異なる独特な変化を見せ、もはや脱ディズニー化と言われるほどの日本化が進んでいます。このことについて書かれたのが以前当ブログでも紹介した荒井克弥著『ディズニーランドの社会学 脱ディズニー化するTDR』(2016年発刊)です。

この本ではなぜ東京ディズニーランドは本家本元とは違う独自の路線を取るようになったのか、そしてなぜ別路線を取ったにも関わらず営業利益が伸び続けているのかということを様々な視点から考察していきます。これは面白い!

特に、ダッフィー誕生のエピソードは必見です。私もずっとダッフィーの存在が謎だったのですが、この本を読んで「おぉ!なるほど!」と思わず唸ってしまいました。まさかこんな背景があったなんてと驚きました。まさにここにも日本独自の事情があったことに驚かされます。

まさに野口恒氏が予言していたことがこの本で説かれていますのでぜひセットで読むことをおすすめします。

いや~それにしても『「夢の王国」の光と影 東京ディズニーランドを創った男たち』は刺激的です。ものすごく面白い!まるで映画を観ているかのような臨場感です。これはもうぜひ実写化して頂きたいです。最近はディズニー映画も興行的に苦戦しているようですが、東京ディズニーランド誘致の舞台裏を描いたこのドラマを完璧に再現すればかなり多くの人が関心を持つのではないでしょうか。それほど面白いです。『半沢直樹』的な作風にすればさらに完璧だと思います。その世界観でも全く違和感なく語れてしまうほどこのノンフィクションは波乱万丈でスリリングです。

この本はディズニーに興味のある方だけではなく、何かを始めようとするビジネスマンの方にも刺さると思います。熱い思いと行動力、粘り強さと機転、一発逆転の舞台裏など、読んでいて思わず胸が熱くなる作品です。私も一気に読み切ってしまいました。非常に優れた作品です。これは間違いありません。

ぜひぜひおすすめしたい作品です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「野口恒『「夢の王国」の光と影 東京ディズニーランドを創った男たち』~最高に刺激的な傑作ノンフィクション!」でした。

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