保阪正康『三島由紀夫と楯の会事件』~1970年自衛隊市ヶ谷駐屯地での自決に至るまでの詳しい過程を知れるおすすめ参考書

三島由紀夫と楯の会事件 三島由紀夫と日本文学

保阪正康『三島由紀夫と楯の会事件』概要と感想~1970年の自衛隊市ヶ谷駐屯地での自決に至るまでの詳しい過程を知れるおすすめ参考書

今回ご紹介するのは2018年に筑摩書房より発行された保阪正康著『三島由紀夫と楯の会事件』です。

早速この本について見ていきましょう。

1970年11月25日、三島由紀夫と楯の会メンバーが陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地で人質を取り、憲法改正と自衛隊員の決起を訴えた。そして、三島は森田必勝とともに割腹自決を遂げた。60年代後半、ベトナム反戦、全国学園紛争など反体制運動が高揚した時代、何が彼らを決起に駆り立てたのか?関係者への綿密な取材を基に、事件の全貌を冷静な筆致で描いた傑作。

Amazon商品紹介ページより
バルコニーで演説する三島由紀夫 Wikipediaより

1970年11月25日、三島由紀夫と楯の会メンバー4人が自衛隊市ヶ谷駐屯地に立てこもり、バルコニーから自衛隊決起を促す演説をした後、三島と森田必勝両氏がそのまま切腹し自殺するという衝撃的な事件が起こりました。本書はこの衝撃的な事件の背景とその経緯を知るのに最高の一冊です。

本書執筆について著者は「文庫版まえがき」で次のように述べています。

本書を著したときの私の執筆意図は、この事件から十年を経て、事件そのものの経緯を書きのこしておこうと思ったためだった。事件がどのように企図され行われたのか、それをさぐるためにも、昭和四十年に入ってからの三島の発言や動き、それに三島自身がつくった楯の会という組織がどういう組織律をもっていたのか、日ごろはどういった訓練を行い、どのようなテーマで勉強会を開いていたか、それをできるだけ詳細に書きのこそうと考えたのである。そのために、元楯の会の会員の何人かに取材を行い、その胸中も合わせて聞いてみた。

筑摩書房、保阪正康『三島由紀夫と楯の会事件』P13

本書は、あの事件の経過や内実をできるだけ忠実に書きのこそうとした書だが、私としてはこうした事実を正確に把握してこそ、初めて事件の本質をつかむことができると考えている。事実の輪郭を抑えることなしに、どのような解説や評論も砂上の楼閣にすぎない。ともすれば、この事件の事実を抑えることなしに、一方的に賞揚したり、批判したりという論も多いように見受けられるが、私としてはまずは史実を正確に踏まえることが重要なことと思えてならない。

この事件は、どうあれ二十一世紀のいまも日本人の姿を解剖するための教材になるであろうし、またそうなるだけの本質もかかえているのである。

筑摩書房、保阪正康『三島由紀夫と楯の会事件』P15-16

「事実の輪郭を抑えることなしに、どのような解説や評論も砂上の楼閣にすぎない。」

三島由紀夫に関する本はそれこそ膨大で巻末の解説によれば2000年の段階で6千冊を超えるそうです。これに週刊誌などの記事などを加えれればそれこそ無数の三島言説が日本に存在することになります。

そして、それぞれがそれぞれなりに三島由紀夫について語る訳でありますが、その三島評は千差万別。本当に三島由紀夫という人物は一人だったのかと思うほどです。私もどの解説や評論を信じていいのやら困ってしまうほどでした。

ただ、上の著者の言葉のように、まずは事実をしっかり抑えていくことが重要なことには変わりはありません。三島の自決というショッキングで謎めいた事件においては特にそれが当てはまります。

この本では三島が自決に至る過程をかなり詳しく見ていくことができます。特に楯の会の結成やその進展、そして三島と自衛隊とのつながりについての解説は非常に興味深いものがありました。

その内容についてはここではご紹介できませんが、私も「えっ!」と驚くようなことがどんどん出てきました。この本を読む前と後では三島に対する見方がまた変わったように思えます。

三島由紀夫はなぜ死なねばならなかったのか。

そのことを考える上でも本書は非常に重要な示唆を与えてくれる作品です。

また、本書と合わせて徳岡孝夫著『五衰の人 三島由紀夫私記』と西法太郎著『三島由紀夫事件 50年目の証言—警察と自衛隊は何を知っていたのか、犬塚潔著『三島由紀夫と死んだ男 森田必勝の生涯』もおすすめします。

『五衰の人 三島由紀夫私記』の著者徳岡孝夫氏は三島由紀夫本人から事件当日市ヶ谷に来ることを依頼され、バルコニーでの演説を聞くことになった記者です。それほど三島由紀夫から信頼されていた記者でした。徳岡氏はこの事件の3年前に三島とバンコクで親交を深め、様々なインタビューを行っています。その中でも三島がインドについて語った箇所は僧侶である私にとっても非常に興味深いものがありました。他にも三島の自衛隊体験入隊直後の貴重なインタビューやその後の展開なども記者の目から詳しく描かれています。まさに知られざる三島由紀夫の姿をこの本では知ることができます。三島の壮大な遺作となった『豊饒の海』を理解する上でも本書は非常に貴重な一冊となっています。最高におすすめな一冊です。

次の『三島由紀夫事件 50年目の証言—警察と自衛隊は何を知っていたのか』では書名の通り、警察と自衛隊がこの事件をどのように捉えていたのか、そして事件当時どのような背景があったかを詳しく知ることができます。東大安田講堂事件やあさま山荘事件を指揮した佐々淳行氏へのインタビューでは衝撃の事実が語られます。そして公安が三島の決起を把握していたこと、そしてそれに対して上層部がどのような判断を下したかなど想像もつかないような事実を本書で知ることになります。あまりのことに私はこの本を読み呆然としました・・・。ぜひこの本もおすすめしたいです。

そしてもう一冊、『三島由紀夫と死んだ男 森田必勝の生涯』では三島と共に自決した楯の会の森田必勝氏について詳しく知ることができます。この本の最大の特徴は森田氏や楯の会の写真が豊富に掲載されている点にあります。事件の当事者となった彼らの様々な姿を知れる本書は非常に貴重です。

これらの本も合わせて保阪正康著『三島由紀夫と楯の会事件』はぜひぜひおすすめしたい一冊となっています。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「保阪正康『三島由紀夫と楯の会事件』~1970年の自衛隊市ヶ谷駐屯地での自決に至るまでの詳しい過程を知れるおすすめ参考書」でした。

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