荒井克弥『ディズニーランドの社会学 脱ディズニー化するTDR』~日本的なディズニー受容を考察する刺激的な一冊!

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荒井克弥『ディズニーランドの社会学 脱ディズニー化するTDR』概要と感想~日本的なディズニー受容を考察する刺激的な一冊!

今回ご紹介するのは2016年に青弓社より発行された新井克弥著『ディズニーランドの社会学 脱ディズニー化するTDR』です。

早速この本について見ていきましょう。

日本の現代社会全体をテーマパーク化させた「夢と魔法の王国」東京ディズニーランドは、同時に、この国の歌舞伎などの伝統文化に吸収されていくという不思議なプロセスにも巻き込まれている。その過程を、ディズニーランドと日本文化に関わる歴史的な文脈をたどって確認し、構造を分析して、現代社会の発展とディズニーランドの変容との関連性・相同性についてディズニー化/脱ディズニー化の視点から実像を描き出す。そこから導き出されるのは、創始者のウォルト・ディズニーが掲げたウォルト主義が東京ディズニーランドから希薄化していき、ジャパン・オリジナルのディズニーランドが創造されていく現実である。ディズニーランドを媒介にして、日本の現代社会の変容過程を解析する現代社会論・メディア論の刺激的な一冊。

Amazon商品紹介ページより

この本は夢と魔法の国ディズニーランドを一風変わった視点から見ていける非常に刺激的な作品です。

この本について著者は冒頭で次のように述べています。

僕は一九六〇年に生まれた。子どもの頃からディズニーに親しみ、東京ディズニーランド(以下、TDLと略記)がオープンする一年前の八ニ年からは千葉県浦安市に住み、パーク(ディズニーでは運営する遊戯施設空間をパークと呼ぶ)を頻繁に訪れ、その変容を見守ってきた。八三年の開園時にはパークでオープニング・キャスト(ディズニーでは従業員のことをキャストと呼ぶ)として働いた経験もある。しかし九〇年代後半以降、とりわけ二十一世紀に入ってからのTDLに対してずっと感じている違和感がある。それを一言で表現すれば……

「最近のディズニーランド、ちょっとへン?」となる。

そう感じるのはパーク、そしてここを訪れるゲスト(ディズニーではパークへの入場者をゲストと呼ぶ)の両方についてだ。こうした内容をブログに書き込むと、賛同してコメントを送ってくれる人もいる(そのうちの一定数が元キャスト=パーク就業経験者だ)。寄せてくれたコメントに共通してみられるのは「あそこはもう、自分たちが知っているパークではない」というもの。つまり、かつてのTDLを知っている人間ほど、現在のパークに違和感を覚えているようなのだ。

「へン」と感じる最も顕著な点は、TDLや東京ディズニーシー(以下、TDSと略記)が、生みの親であるウォルト・ディズニーの理念からどんどん離れていってしまっていることだ(以下、ウォルト・ディズニー本人について述べる場合にはウォルトと略記)。ウォルトの理念は「テーマパーク」と「ファミリー・エンターテインメント」に集約されるのだが、このウォルトが考えていたイメージが東京ディズニーリゾート(TDLやTDSを含む、浦安・舞浜エリアにあるオリエンタルランドが運営する施設の総称。以下、TDRと略記)からは消えつつある。そこはいまやテーマパークというより、何でもありのごちゃまぜの空間になっていて、ファミリーというよりDヲタと呼ばれるディズニー・オタク、子ども、そして若者のほうが目立っているのである。これは、家族連れが圧倒的な比率を占めるアメリカのディズニーランドとは好対照をなしている。

この現状はいったいどういうわけなのだろうか。そこで、このTDRの変容をメディア論的視点から考えてみようと思い付き、本を書くことにした。

青弓社、新井克弥『ディズニーランドの社会学 脱ディズニー化するTDR』P9-10

本書ではまずここで述べられたウォルトの理念に基づいたディズニーランドとは何かということを見ていきます。

1963年当時のカリフォルニアのディズニーランド Wikipediaより

1955年にカリフォルニア、アナハイムにオープンしたディズニーランド。ここからディズニーランドの歴史は始まっていきます。世界でも類を見ない程の大成功を収めたテーマパーク。その秘密は何なのかということをまずはざっくりと見ていきます。

そしてその理念を受け継いで作られたのが東京ディズニーランドになるのですが、時を経るにつれて大きな変化が起こっていきます。それが上で述べられたようなDオタの存在なのでした。

このDオタとは一体どのような人を指すのか、そしてなぜこのような人たちが生まれ、どのような影響をランドに与えているのかということをじっくりと見ていくことになります。

この本は「ここがすごいよディズニーランド」的なことを述べていく本とは違います。あくまで社会学的に、ディズニーランドという現象を見ていきます。

なぜ東京ディズニーランドは本家本元とは違う独自の路線を取るようになったのか。そしてなぜ別路線を取ったにも関わらず営業利益が伸び続けているのかということを様々な視点から考察していきます。これは面白い!

特に、ダッフィー誕生のエピソードは必見です。私もずっとダッフィーの存在が謎だったのですが、この本を読んで「おぉ!なるほど!」と思わず唸ってしまいました。まさかこんな背景があったなんてと驚きました。まさにここにも日本独自の事情があったことに驚かされます。

「なぜ私たちはディズニーランドに魅了されるのか」

「日本独自のディズニー受容とは何なのか。何が海外と違うのか。そしてそこから見えてくる日本人のメンタリティーとは」

こうしたことを考えさせられる非常に刺激的な一冊です。これは面白い!

そして本書巻末ではディズニーについて学ぶためのおすすめ参考書が多数掲載されています。当ブログでも紹介したクリストファー・フィンチ著『ディズニーの芸術』やニール・ゲイブラー著『創造の狂気 ウォルト・ディズニー』もまさにここで紹介されていました。私も大いに参考にしています。この本のおかげで勉強の道筋を立てやすくなりました。ディズニーをもっと知りたいという方にぜひおすすめしたい一冊です。

以上、「荒井克弥『ディズニーランドの社会学 脱ディズニー化するTDR』~日本的なディズニー受容を考察する刺激的な一冊!」でした。

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