ドイツ

スターリンとヒトラーの虐殺・ホロコースト

(5)ソ連兵たちは犠牲者を人間とみなさなかった~戦時下の兵士の心理と性暴力の悲劇

彼らが目指すはヒトラーの本拠地ベルリン。ソ連兵たちはその行く先々で暴虐の限りを尽くしました。

たしかに侵攻してきたナチスの残虐行為は悲惨なものでした。それに対し目には目をとばかりにソ連兵は侵攻した先々で略奪、殺人、レイプを繰り返したのです。

この内容はブログに書こうかどうかも迷ったほどです。ここから述べていく内容もそうです。この本では目を背けたくなるような事実が明らかにされます。

ただ、注意したいのはこうした行為がソ連兵だけのことで、私達には全く関係ないと思ってしまうことです。「ソ連兵が異常なだけだ」というように見てしまうと、この本の意味はまったく異なるものになってしまいます。戦争という極限状態では人間は誰しもこうなりうるということを忘れてはいけません。

スターリンとヒトラーの虐殺・ホロコースト

(4)スターリンによる戦争神話の創造と歴史管理~現実を覆い隠す英雄物語の効用とは

1943年になるとソ連がついに優勢に立ちます。ここから政治家たちはさらに国民の士気を高めるために戦争神話を作り出していきます。

ソヴィエト政府にとって都合のいいように事実は解釈され神話は作られていきました。それに合致しないものはすべて黙殺されていったのです。

そしてそうした歴史管理は戦後もずっと続くことになります。

見たくないものに蓋をする。これは誰しもがそうしたくなるものです。戦争という極限状態で自分が犯してしまったことに対しては特にそう言えるでしょう。スターリンはそうした人間の弱さに付け込んだのでした。

スターリンとヒトラーの虐殺・ホロコースト

(2)立派なソ連人を生み出すプロパガンダ教育~オーウェル『1984年』の世界が現実に

ソ連のプロパガンダ教育は若い世代に確実に浸透していました。「二十年に及ぶ学校教育とプロパガンダが効果を発揮していた」という言葉は不気味ですよね。教育やプロパガンダはそれだけ長い期間を用いて人々の世界観に多大な影響をもたらすのでした。その教育を受けた人間とそうではない人間ではそもそも世界の見え方が違うのです。これは非常に重要な点です。

ですがいくらこうしたプロパガンダ教育をしても、完全には人間をコントロールなどできません。それぞれの内心ではやはり反発したい心もあります。ですがそれを表に出しては生きてはいけません。であるからこそ、自分を変えねばならなくなるのです。そうです。まさしくオーウェルの『1984年』の世界がそこにあったのでした。

スターリンとヒトラーの虐殺・ホロコースト

(1)なぜ独ソ戦では大量の犠牲者が出たのか~絶滅戦争・イデオロギーの戦いとしての戦争とは

独ソ戦の独特なところは、この戦争が絶滅戦争であり、イデオロギーの戦いだったところにあります。もちろん領土問題や経済利権のために戦ったのでもありますが、戦争を戦う兵士たちを動かすために指導部が利用したのは「自分たちは正義であり、敵は人間以下の最低な奴らだ。敵を絶滅しなければならない」という思想だったのです。

この記事ではそんな悲惨な戦争の実態を見ていきます。

スターリンとヒトラーの虐殺・ホロコースト

C・メリデール『イワンの戦争 赤軍兵士の記録1939-45』~ソ連兵は何を信じ、なぜ戦い続けたのか?

この本では一人一人の兵士がどんな状況に置かれ、なぜ戦い続けたかが明らかにされます。

彼ら一人一人は私たちと変わらぬ普通の人間です。

しかし彼らが育った環境、ソ連のプロパガンダ、ナチスの侵略、悲惨を極めた暴力の現場、やらねばやられてしまう、戦争という極限状況が彼らを動かしていました。

人は何にでもなりうる可能性がある。置かれた状況によっては人はいとも簡単に残虐な行為をすることができる。自分が善人だと思っていても、何をしでかすかわからない。そのことをこの本で考えさせられます。

スターリンとヒトラーの虐殺・ホロコースト

(5)ソ連の粛清とナチスのホロコーストの流れをざっくりと解説

今回の記事ではこの本の巻末に著者によって書かれた「要旨」を紹介していくこととします。

この箇所にはスターリンによる粛清とヒトラーによるホロコーストの流れが説かれています。

また、独ソ戦の経緯もわかりやすく解説されているため、両者の立場から見た独ソ戦も学ぶことができます。

スターリンとヒトラーの虐殺・ホロコースト

(2)ナチスとソ連、隠蔽された犯行現場~歴史は様々な視点から見なければ把握できない

一つの国の歴史だけを見ても、そこで起きた出来事の全貌を知ることはできない。

これは非常に重要な指摘です。著者はこの時代に起こった個々の出来事を様々な角度から見ていきます。歴史的な出来事を点として見るのではなく、当時の複雑な世界情勢、つまり面として見ていきます。

ホロコーストを研究した著作は数多くあれど、ソ連との覇権争いの過程や国際情勢と絡めて多角的に論じた本はほとんどありません。

いくら一つのことに対してどれほど知識を持とうともそれだけでは歴史は理解することはできないのです。

これはスターリンやヒトラーの大量虐殺だけではなく、歴史、思想、文化、宗教、あらゆるものにおいてもそうだと思います。

著者のこの指摘は非常に重要なものであると私は思います。

スターリンとヒトラーの虐殺・ホロコースト

ティモシー・スナイダー『ブラッドランド ヒトラーとスターリン 大虐殺の真実』~独ソ戦の実態を知るのにおすすめの衝撃の一冊!

スターリンはなぜ自国民を大量に餓死させ、あるいは銃殺したのか。なぜ同じソビエト人なのに人間を人間と思わないような残虐な方法で殺すことができたのかということが私にとって非常に大きな謎でした。

その疑問に対してこの上ない回答をしてくれたのがこの『ブラッドランド ヒトラーとスターリン 大虐殺の真実』でした。

訳者が「読むのはつらい」と言いたくなるほどこの本には衝撃的なことが書かれています。しかし、だからこそ歴史を学ぶためにもこの本を読む必要があるのではないかと思います。

スターリンとヒトラーの虐殺・ホロコースト

C・アングラオ『ナチスの知識人部隊』~虐殺を肯定する理論ーなぜ高学歴のインテリがナチスにとって重要だったのか

この本は虐殺に突き進んでいった青年知識人たちにスポットを当てた作品でした。彼らがいかにしてホロコーストを行ったのか、そしてそれを正当化していったのか、その過程をじっくり見ていくことになります。 この本で印象に残ったのはやはり、戦前のドイツがいかに第一次世界大戦をトラウマに思っていたのかということでした。 そうした恐怖が、その後信じられないほどの攻撃性となって現れてくるというのは非常に興味深かったです。

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フランクル『夜と霧』あらすじと感想~生きるとは何かを問うた傑作!ドストエフスキーとのつながりも

この作品は心理学者フランクルがアウシュヴィッツやミュンヘンのダッハウ収容所での経験を綴ったものです。

前回の記事でご紹介したワシーリー・グロスマンの『トレブリンカ収容所の地獄』では絶滅収容所の悲惨さが描かれたのに対し、『夜と霧』では強制収容所という極限状態においてどのように生き抜いたのか、そしてそこでなされた人間分析について語られていきます。

この本は絶望的な状況下でも人間らしく生き抜くことができるという話が語られます。収容所という極限状態だけではなく、今を生きる私たちにとっても大きな力を与えてくれる本です。

この本がもっともっと多くの人に広がることを願っています。