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ドストエフスキーおすすめ作品7選!ロシア文学の面白さが詰まった珠玉の名作をご紹介!

ドストエフスキー
目次

ドストエフスキーおすすめ作品7選!ロシア文学の面白さが詰まった珠玉の名作をご紹介!

今回の記事ではロシアの文豪ドストエフスキーのおすすめ作品を紹介していきます。

フョードル・ドストエフスキー(1821-1881)Wikipediaより

あのトルストイと並ぶロシアの文豪、ドストエフスキー。

ドストエフスキーといえば『罪と罰』や『カラマーゾフの兄弟』など文学界では知らぬ者のない名作を残した圧倒的巨人です。彼の作品は人間心理の深層をえぐり出し、重厚で混沌とした世界を私達の前に開いてみせます。そして彼の独特な語り口とあくの強い個性的な人物達が織りなす物語には何とも言えない黒魔術的な魅力があります。私もその黒魔術に魅せられた一人です。

私は2019年よりほぼ4年間「親鸞とドストエフスキー」をテーマにブログを更新してきました。私がなぜここまでドストエフスキーに心惹かれたかについては「なぜ僧侶の私がドストエフスキーや世界文学を?」記事一覧~親鸞とドストエフスキーの驚くべき共通点」のまとめ記事でお話ししていますのでこちらを参照して頂きたいのですが、やはり私にとっては『カラマーゾフの兄弟』との出会いが大きかったです。

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『カラマーゾフの兄弟』大審問官の衝撃!宗教とは一体何なのか!私とドストエフスキーの出会い⑵ 『カラマーゾフの兄弟』を読んで、「宗教とは何か」「オウムと私は何が違うのか」と悩んでいた私の上にドストエフスキーの稲妻が落ちます。 私は知ってしまいました。もう後戻りすることはできません。 これまで漠然と「宗教とは何か」「オウムと私は何が違うのか」と悩んでいた私に明確に道が作られた瞬間でした。 私はこの問題を乗り越えていけるのだろうか。 宗教は本当に大審問官が言うようなものなのだろうか。 これが私の宗教に対する学びの第二の原点となったのでした。

私はドストエフスキーの稲妻に撃ち抜かれてしまいました。それ以来私の中でドストエフスキーはあまりに大きな位置を占めるようになったのでした。まさに私の僧侶としてのあり方の根本にドストエフスキーがいるのです。だからこそ私はドストエフスキーを学び続けたのでありました。

さて、前置きはここまでにしてドストエフスキーに魅せられたそんな私がおすすめする作品をこれより紹介していきたいと思います。

『死の家の記録』(1860-1862)~シベリア流刑での極限生活を描いた傑作!

1850年1月、聖書一冊を懐中にしてドストエフスキーはオムスク要塞監獄に着いた。
そして4年間の服役に――。


思想犯として逮捕され、死刑を宣告されながら、刑の執行直前に恩赦によりシベリア流刑に処せられた著者の、四年間にわたる貴重な獄中の体験と見聞の記録。地獄さながらの獄内の生活、悽惨目を覆う笞刑、野獣的な状態に陥った犯罪者の心理などを、深く鋭い観察と正確な描写によって芸術的に再現、苦悩をテーマとする芸術家の成熟を示し、ドストエフスキーの名を世界的にした作品。

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『死の家の記録』はドストエフスキー作品の中で私が最もおすすめしたい作品です。入り口としてはこの本が読みやすさ、分量、ドストエフスキーらしさを感じる上でベストなのではないかと思います。

ドストエフスキーは1849年に社会主義思想サークルに出入りしていたため思想犯として逮捕され、極寒のシベリア、オムスク監獄へ流刑となってしまいました。

彼は12月24日、氷点下40度にもなる極寒の中、馬車で連行されていきました。オムスク監獄に着いたのはなんとそのおよそ1カ月後の1月23日でした。

上の本紹介の通り、この作品はシベリアのオムスク監獄での体験を詳細に描いています。

ドストエフスキーといえば、心の奥深くのドロドロをえぐり出すような心理描写をイメージしますが、この作品ではそのような内面描写よりも、主人公の目を通して周囲の状況や他の囚人たちの心理を冷静に分析しているような文体で進んで行きます。

その出来栄えはあの文豪トルストイやツルゲーネフも絶賛するほどでした。

そうした意味で、この小説は他のドストエフスキー作品よりも非常に読みやすい作品と言うことができます。

この作品は心理探究の怪物であるドストエフスキーが、シベリアの監獄という極限状況の中、常人ならざる囚人たちと共に生活し、間近で彼らを観察した手記です。つまり、面白くないわけがありません。

あのトルストイやツルゲーネフが絶賛するように、今作の情景描写はまるで映画を見ているかのようにリアルに、そして臨場感たっぷりで描かれています。読んでいてまるで自分もそこにいるかのような、それほどの迫力をもって描かれています。

物語も展開が早く、次々と場面が動いていくのでページをめくる手が止まりません。

しかもドストエフスキーはそんな中で随所に驚くほどの人間分析をやってのけます。

人間の本質に迫るドストエフスキーの目は、監獄という極限状況の中でさらに研ぎ澄まされているように感じます。

そういう点でこの本はフランクルの『夜と霧』に近い作品と言えるかもしれません。

それほどこの作品は人間の奥底にまで沈んでいく作品であると私は思います。ドストエフスキー作品の中でも特異な位置を占める作品です。後の五大長編の原点ともなる体験をしたのがこのシベリア流刑であり、『死の家の記録』になります。ドストエフスキーの特徴を知る上でも非常に重要な作品です。

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『賭博者』(1866年)~ギャンブル中毒の心理を実体験からリアルに描写 

賭博者

19歳年下の女性・アポリナーリヤとの被虐的な旅、
その最中、文豪は狂ったように賭博に興じた。実話をベースに生まれた作品。


ドイツの観光地に滞在する将軍家の家庭教師アレクセイは、ルーレットの魅力にとりつかれ、女性たちに翻弄されて、やがて破滅への道を歩んでいく――。ドストエフスキーは、本書に描かれたのとほぼ同一の体験をしており、己れ自身の経験に裏打ちされた叙述は、賭博という行為を通じて人間の深層心理を鋭く照射していく。ドストエフスキーの全著作の中でも特異な位置を占める作品になっている。

本文より
玉が溝にとびこんだ。
「ゼロ!」ディーラーが叫んだ。
「どうだえ!!!」狂ったような勝ち誇った様子で、お祖母さんはわたしをふり返った。
わたし自身、賭博狂だった。まさにこの瞬間、わたしはそのことを感じた。手足がふるえ、頭ががんとなった。もちろん、十回かそこらのうちにゼロが三度出るなどというのは、めったにないケースである。しかし、この場合、特におどろくほどのことは何もないのだ……。(第十章)

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ドストエフスキーの長編作品に入る前にこの中編小説もおすすめです。

この作品はドイツの保養地を舞台に、家庭教師の青年と将軍家の令嬢との病的な恋や、ギャンブルにのめり込む人間の心理をリアルに描いた物語です。

上のあらすじにもありますように、この作品はドストエフスキーが実際に体験した出来事が色濃く反映されています。

その中でも将軍家の大金持ちのおばあさんがギャンブルにはまっていき財産をほとんど失ってしまう有り様や、主人公が異常なツキの下勝ちまくり、圧倒的な興奮で精神がおかしくなる過程は特に印象に残るシーンです。

なぜ人間はギャンブルにはまってしまうのか、そしてギャンブルにはまった人間の心理は一体どのようなものなのか。それをこの作品で知ることができます。この作品はなかなかにえげつないです。

また、この作品の執筆がきっかけとなってドストエフスキーはアンナ・グリゴリーエウナと知り合い、後に結婚することになります。

1871年のアンナ夫人 Wikipediaより

ちなみにアンナ夫人に対してはドストエフスキーは一切浮気もせず、生涯妻を溺愛していました。晩年になってもドストエフスキーは読んでるこっちが恥ずかしくなるほど奥様に対して愛の言葉を手紙に書き連ねています。

そしてドストエフスキーは結婚後もギャンブル中毒に苦しみますが最後はそれも克服します。こうしたドストエフスキーの私生活の面ともリンクする作品がこの『賭博者』になります。

詳しくは以下の記事リンクで述べていますので興味のある方はぜひご覧ください。

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『地下室の手記』(1864年)~ドストエフスキーらしさ全開の作品!超絶ひねくれ人間の魂の叫び

誰にも愛されたことがない。人を愛したこともない。
社会から隔離された暗闇の部屋で綴られる、どす黒き魂の軌跡。
この作品を通過せずして、『罪と罰』『白痴』『カラマーゾフの兄弟』等の後年の大作は生れなかった。


極端な自意識過剰から一般社会との関係を絶ち、地下の小世界に閉じこもった小官吏の独白を通して、理性による社会改造の可能性を否定し、人間の本性は非合理的なものであることを主張する。人間の行動と無為を規定する黒い実存の流れを見つめた本書は、初期の人道主義的作品から後期の大作群への転換点をなし、ジッドによって「ドストエフスキーの全作品を解く鍵」と評された。

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この作品は文庫本でおよそ200ページ少々と、ドストエフスキー作品にしては少なめの分量です。ですので手に取りやすい本であるのは間違いないと思います。

そしてドストエフスキーらしさ全開の語り口を堪能できるという点でもこの本は一際存在感を放っています。

人間の心の奥底のどろどろな部分、何が飛び出してくるかわからぬ混沌が地下室人の自意識過剰でひねくれた言葉を通して現れてきます。

たしかに、初めてこの作品を読むと、あまりに独特で奇妙な語り口に度肝を抜かれるかもしれません。しかしなぜか彼の術中に引き込まれてしまうのです。

地下室人は決して世の中の勝者ではありません。彼は世間的には人好きのしないダメな人間です。自分の殻に閉じこもり、周りと合わせることができない孤独な人間です。

でも、だから何だというのです、おれにだって叫びたいことはあるんだと、地下室人は言っているかのようです。

そういう、敗者の哲学、虐げられた人間の反抗とでも言うべき訴えがこの作品には込められているのではないでしょうか。

そう言うと、なんだか難しそうな本かなと思われるかもしれませんが、この小説は難解な哲学書というわけではありません。地下室人のひねくれっぷりがとてつもないだけで、難解というわけではありませんのでご安心を。

あらすじにもありましたようにこの作品は「ドストエフスキー全作品を解く鍵」と言われるほどドストエフスキーの根っこに迫る作品です。

ドストエフスキーらしさを実感するにはうってつけの作品です。

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地下室の手記(新潮文庫)

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『罪と罰』(1866年)~ドストエフスキーの黒魔術を体感するならこの作品

鋭敏な頭脳をもつ貧しい大学生ラスコーリニコフは、一つの微細な罪悪は百の善行に償われるという理論のもとに、強欲非道な高利貸の老婆を殺害し、その財産を有効に転用しようと企てるが、偶然その場に来合せたその妹まで殺してしまう。この予期しなかった第二の殺人が、ラスコーリニコフの心に重くのしかかり、彼は罪の意識におびえるみじめな自分を発見しなければならなかった。

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『罪と罰』は言わずと知れたドストエフスキーの代表作です。こちらもやはりドストエフスキーの入り口としておすすめしやすい作品であります。

この作品は推理小説的要素、社会風俗画的要素、愛の要素、思想の要素、心理的要素など、とにかく盛りだくさんな小説です。

しかもただ単に様々な要素があるだけではなく、そのひとつひとつがまた深いこと深いこと・・・!

訳者の工藤氏も述べますように「読み進むうちに異常な熱気に感染し、ひきこまれて読み終ると、思わず考えこませられてしまう」、これに尽きます。

主人公ラスコーリニコフの苦悩や様々な登場人物が織りなす物語が尋常ではない迫力で描かれます。

ドストエフスキーがこの小説を書き上げた時、彼の生活はどん底状態でした。

ここでは詳しくお話し出来ませんが、「まるで熱病のようなものに焼かれながら」精神的にも肉体的にも極限状態で朝から晩まで部屋に閉じこもって執筆していたそうです。

もはや狂気の領域。

そんな怪物ドストエフスキーが一気に書き上げたこの作品は黒魔術的な魔力を持っています。

この魔力をなんと説明したらよいのかわからないのですが、とりあえず、読めばわかります。百聞は一見に如かずです。騙されたと思ってまずは読んでみてください。それだけの価値はあります。黒魔術の意味もきっとわかると思います。これはなかなかない読書体験になると思います。

ただ、読書初心者がいきなりこの作品を読むと面を食らうかもしれません。登場人物の名前がややこしかったり、ドストエフスキー独特の語り口に戸惑う方も多いかもしれません。ここから紹介する作品は全てそういう要素があります。

ですが、全く太刀打ちできないような難書かというと決してそうではありません。現代小説と同じような感覚で読み進めることができます。ある程度本を読むことに抵抗のない方でしたら問題なく読めると思います。ぜひドストエフスキーの黒魔術を体感してみてください。

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罪と罰(上)(新潮文庫)
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『白痴』(1868年)~あのトルストイも絶賛!ドン・キホーテやレミゼとの深い関係も

世界の文豪・ドストエフスキーが描きたかった「無条件に美しい人間」とは。

スイスの精神療養所で成人したムイシュキン公爵は、ロシアの現実についで何の知識も持たずに故郷に帰ってくる。純真で無垢な心を持った公爵は、すべての人から愛され、彼らの魂をゆさぶるが、ロシア的因習のなかにある人々は、そのためにかえって混乱し騒動の渦をまき起す。この騒動は、汚辱のなかにあっても誇りを失わない美貌の女性ナスターシャをめぐってさらに深まっていくのだった。

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『白痴』は私も大好きな作品です。個人的には『罪と罰』よりも好きかもしれません。

何が面白いかいうと、登場人物ひとりひとりのちょっとした表情やしぐさの描写が驚くほど繊細で、読んでいるこっちの精神にまで何か入り込んでくるような不思議な感覚になります。

また、この作品には次に何が飛び出してくるかわからない緊張感があります。登場人物が皆謎を抱えていて、突発的に状況が動いていくというハラハラな展開です。

そして何よりもムイシュキンという主人公の魅力がこの作品で際立っています。

ムイシュキンはとにかく善良な人間です。そして相手の心の底を見透かし、いつの間にか心を開かせてしまう不思議な力を持っています。

そんな不思議な魅力を持つ彼は作中人物からもキリスト侯爵と言われるほど、美しい人間です。

ですが彼は同時に「白痴」と馬鹿にされたりする癲癇病みの人間でもあります。また、長い間スイスの山奥で療養していたためロシアの人間社会のルールや細かい機微には驚くほど無知です。

つまりロシアにおいて彼は完全に異質な人間であり、月世界の住人のように思えてしまうほどなのです。

ムイシュキン自身もそのことに悩みますがどうしようもありません。

現実世界に馴染めない善良な主人公。それが『白痴』におけるムイシュキンなのです。

キリスト侯爵ムイシュキンがロシア社会に現れたことによって、物語の歯車は動き出します。

彼を中心に繰り広げられる人間の愛や憎しみ、精神の混乱、生きる意味を求めるドラマ。

ここではあらゆるものが複雑に絡み合った物語が進んで行きます。

人間の心の混沌、不確かさ、次に何をしでかすか自分でもわからぬほどの激情。

そして『白痴』のラストは文学史上に残る芸術的なシーンで幕を閉じます。

あの文豪トルストイもこの作品を絶賛し、主人公のムイシュキンについて、

「これはダイヤモンドだ。その値打ちを知っている者にとっては何千というダイヤモンドに匹敵する」と称賛しています。

「無条件に美しい人間」キリストを描くことを目指したこの作品ですが、キリスト教の知識がなくとも十分すぎるほど楽しむことができます。(もちろん、知っていた方がより深く味わうことができますが)

それほど小説として、芸術として優れた作品となっています。

また、この小説の中に登場する『墓の中の死せるキリスト』という強烈な絵画も印象的です。ドストエフスキーは実際にスイスのバーゼルでその絵を見て強いショックを受けています。この絵の恐るべきリアルさは作品中でも大きな鍵となっています。私も2022年にこの絵を実際に見に行きました。その時の体験を以下の記事でお話ししていますのでぜひご参照頂けたらと思います。

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『白痴』は『罪と罰』の影に隠れてあまり表には出てこない作品ですが、ドストエフスキーの代表作として非常に高い評価を受けている作品です。これは面白いです。私も強くおすすめします。

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『悪霊』(1871-1872年)~革命家達の陰惨な現実を暴露したドストエフスキーの代表作

悪霊

どうあがいてもわだちは見えぬ、
道踏み迷うたぞなんとしょう……。
『カラマーゾフの兄弟』と並び、文豪の思想的、文学的探求の頂点に位置する代表作。


1861年の農奴解放令によっていっさいの旧価値が崩壊し、動揺と混乱を深める過渡期ロシア。青年たちは、無政府主義や無神論に走り秘密結社を組織してロシア社会の転覆を企てる。――聖書に、悪霊に憑かれた豚の群れが湖に飛び込んで溺死するという記述があるが、本書は、無神論的革命思想を悪霊に見たて、それに憑かれた人々とその破滅を、実在の事件をもとに描いた歴史的大長編である。

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『悪霊』はドストエフスキーのヨーロッパ外遊が終わりに近づく1870年から執筆が始められ、1871年7月にペテルブルクに帰還した後も書き続けられた作品です。

4年にわたり祖国を離れヨーロッパに滞在していたドストエフスキーは、改めてヨーロッパ思想に対してその行く先を案じることとなりました。

このままでは祖国ロシアも危ない。愛するロシアがヨーロッパ思想に呑み込まれてしまっては国は破滅に突き進んでしまう。

ドストエフスキーはそんな危機感を募らせたのでありました。

そしてそんな時に実際に起こったネチャーエフ事件という、革命思想を狂信する集団が内ゲバを起こし、メンバーをリンチして殺してしまう惨劇が起こってしまいます。

ドストエフスキーはこの事件と聖書の「悪霊に憑かれた豚が湖に飛び込み溺死する」というイメージを重ね合わせ『悪霊』を執筆していきます。

『悪霊』は『罪と罰』や『カラマーゾフの兄弟』と並ぶドストエフスキーの代表作として知られている作品です。

そしてこの作品が抱えている思想問題の深刻さは彼の作品の中でも明らかにトップクラスとなっています。

私が初めてこの作品を読んだ時も、そのあまりの盛りだくさんぶりに体調が悪くなりぐったりしてしまうほどでありました。

ただ、『悪霊』はたしかに重厚な作品ではありますが、決して読みにくいとか難しすぎるというわけではありません。

むしろ、この作品を入口としてドストエフスキーにはまったという方もたくさんいるほどです。

中にはこの作品がきっかけでドストエフスキーに打たれ、その影響で牧師さんになった方もおられます。

この作品が持つ魔力は計り知れません。異様な力を秘めた作品です。

ドストエフスキー作品の最高峰『悪霊』、おすすめです。ぜひこの作品と格闘してみてはいかがでしょうか。

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『カラマーゾフの兄弟』(1879-1880年)~ドストエフスキーの最高傑作!!神とは?人生とは?自由とは?

冒頭「作者の言葉」で「続けて現代編を描く」と宣言していた著者の、
すなわち未完にして最後の作品。
言うまでもなく、時代を越えて各界絶賛の累計170万部。
最近では「東大教師が新入生にすすめる本、第1位!」にも。


物欲の権化のような父フョードル・カラマーゾフの血を、それぞれ相異なりながらも色濃く引いた三人の兄弟。放蕩無頼な情熱漢ドミートリイ、冷徹な知性人イワン、敬虔な修道者で物語の主人公であるアリョーシャ。そして、フョードルの私生児と噂されるスメルジャコフ。これらの人物の交錯が作り出す愛憎の地獄図絵の中に、神と人間という根本問題を据え置いた世界文学屈指の名作。

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『カラマーゾフの兄弟』はドストエフスキーの晩年に書かれた生涯最後の作品です。

上のあらすじにもありますように、ドストエフスキーは生涯変わらず抱き続けてきた「神と人間」という根本問題を描き、この作品は彼の世界観を集大成したものとなっています。

この作品の最大の山場は上巻の終盤に現れる「大審問官の章」です。一度読んだら絶対に忘れることができないほどの衝撃があります。

『カラマーゾフの兄弟』はドストエフスキー作品の中でも私が最も好きな、そして思い入れのある作品です。

ただ、この作品も万人におすすめできる作品ではありません。分量も上中下巻合わせて1900ページ以上の大作であり、難解な箇所もあります。しかもよく言われるように上巻の冒頭部分がとにかく読みにくいという問題があります。

上巻の前半は忍耐が必要になります。正直に申しまして、前半はプロローグといいますか、中盤からの盛り上がりのための前準備のような内容です。

もしかしたら、ここで挫折してしまう人が大半なのかもしれません。

ですがここを辛抱すると上巻の後半から一気にエンジンがかかってきます。

ここまで辛抱強く読んできた方なら、これまで溜めていたエネルギーが爆発するがごとく一気にドストエフスキーの筆の勢いに呑み込まれていくことになるでしょう。

中巻下巻に入ってもその勢いは止まることはありません。きっと抜け出せなくなるほど没頭すること請け合いです。それほどすごいです。この作品は。

上巻の前半部分さえ突破すれば後はもう怒涛のごとしです。

以下の記事でこの作品についてより深く考察していきますのでぜひご覧になって頂ければと思います。「難しい」「読みにくい」と言われることの多いこの作品ですが、なぜそのように感じてしまうのか、その理由にも迫っていきます。

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この作品の背景を知ると、『カラマーゾフの兄弟』がまた違って見えてきます。

『カラマーゾフの兄弟』はドストエフスキー作品の中でも私が最も好きな、そして思い入れのある作品です。

長編小説ということでなかなか手に取りにくい作品ではありますが、心の底からおすすめしたい作品です。

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ドストエフスキーはおすすめできない?私個人の思いを正直に告白します

さて、ここまでドストエフスキーのおすすめ作品7選をご紹介しました。「親鸞とドストエフスキー」をテーマに4年間学び続けてきた私が自信を持っておすすめする7作品です。

ただ、これまで当ブログにお付き合い頂いた皆さんの中にはトルストイやチェーホフ、シェイクスピアなどのおすすめ作品記事はすでにあったのに、なぜドストエフスキーの「おすすめ作品の記事」を今になって書いたのだろうかと不思議に思われた方もおられたかもしれません。

なぜドストエフスキーを愛する私が「おすすめ作品の記事」をこれまで書かなかったのかというと、実は私はドストエフスキーを愛するがゆえに、気軽に人におすすめすることができないという矛盾に苦しんでいたのでありました。

正直に白状しましょう。私はドストエフスキーをおすすめできません。

「ドストエフスキーおすすめ作品をご紹介!」とここまで話しておきながら何たる暴論!とお思いになられた方もおられるかもしれませんが、少々お待ちください。

正確には、「私は誰しもに気軽にドストエフスキーをおすすめすることはできない」と言いたいのです。

これはどういうことかといいますと、シンプルに述べるならばドストエフスキーは難しいということに尽きます。

読書初心者の方や重厚な長編小説に慣れていない方がいきなりドストエフスキー作品を手に取るとその分量や難解な言葉、物語にめまいを起こしかねません。最悪、読書が嫌いになってしまうかもしれません。私はそれを恐れるのです。しかもドストエフスキーの作品には彼の思想が詰まっています。それをどう捉えるかによって作品の見え方がかなり変わってきます。同じ作品でも人によっては全く違う主題を読み取ることも大いにありえるのです。

読者によって受け取るものが違うというのはある意味その作品の奥行ともいえるかもしれません。それは長所たりうるものです。この奥行き、読者の思考の余地もドストエフスキー作品の魅力のひとつだと間違いなく言えるのですが読書初心者には正直おすすめできません。わけが分からないまま挫折してしまう可能性もやはり高いのです。

ですが、それでもなおドストエフスキーを読んでみたいという方にはぜひドストエフスキー作品を読むのをおすすめします。もちろん、読書に慣れた方でしたら問題なく読むことができるのがドストエフスキーです。ぜひドストエフスキー独特の世界観を堪能して頂けたらと思います。

以下の記事でドストエフスキー作品を読んでいく上で私自身が実感したことをお話ししています。ぜひ参考にして頂けましたら幸いです。

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どの翻訳、出版社がおすすめ?

ドストエフスキー作品は岩波書店や新潮社、光文社など数多くの出版社から発行されています。

その中で私がおすすめしたいのは新潮社版のドストエフスキー作品です。

特に五大長編においてはぜひ新潮社版をというのが私の個人的な思いです。

訳も素晴らしく、ドストエフスキーの原典に忠実かつ、現代人の私たちにも読みやすい訳となっています。

その中でも『カラマーゾフの兄弟』はぜひぜひ原卓也訳の新潮社版を手に取って頂けたらと思います。

また、近年新たに翻訳された水声社、杉里直人訳の『詳注版 カラマーゾフの兄弟』もおすすめです。解説が非常に充実していて、私も「『カラマーゾフの兄弟』はなぜ難しい?何をテーマに書かれ、どのような背景で書かれたのか~ドストエフスキーがこの小説で伝えたかったこととは」の記事で参考にさせて頂きました。

ドストエフスキー作品を気軽に手に取るのであれば新潮社版が一番おすすめです。私も基本的には新潮社版で作品を読んでいます。

ドストエフスキー作品は何から読むべき?

ドストエフスキーを読んでみたいけど、一体何から読み始めるべきなのか。おすすめの順番はあるのだろうか。

これは多くの方が悩む問題なのではないでしょうか。

たしかにこれは難しい問題です。

「有名な作品だし」ということで『罪と罰』や『カラマーゾフの兄弟』を読んでみたはいいものの早い段階で挫折してしまった方も多いのではないでしょうか。

最近私も学生から『罪と罰』は読みやすいですか?何から読めばいいでしょうか?私でもドストエフスキーを読むことができますか?と質問されましたが、これはなかなか難しい問題です。

先ほども述べましたように、読書初心者の方がいきなり『罪と罰』や『カラマーゾフの兄弟』を読むのはかなり難易度が高いです。読書慣れしている方であれば何から読んでも大丈夫ですよと答えるのですが、そうでない方がドストエフスキーを読むならば、私はまず『死の家の記録』をおすすめします。

上の「おすすめ作品7選」でも紹介しましたが『死の家の記録』はとにかく読みやすいです。しかも話が章ごとに分かれているのでテンポもいいです。登場人物の名前や物語の筋も五大長編と比べると圧倒的にすっきりしていてわかりやすいのもその特徴です。

後の五大長編のベースとなったのもこの小説です。ですのでドストエフスキーとはどんな作家なのだろうかと知る上でこの作品はうってつけと言うことができるでしょう。

そしてできればでありますが『罪と罰』や『白痴』、『悪霊』、『カラマーゾフの兄弟』などの長編に入る前にいくつか解説書を読むのがおすすめです。ただ単に読むより圧倒的にその作品を楽しく読むことができます。

私のおすすめは高橋保行著『ギリシャ正教』やフーデリ著『ドストエフスキイの遺産』、佐藤清郎著『観る者と求める者 ツルゲーネフとドストエフスキー』です。

高橋保行著『ギリシャ正教』ではドストエフスキーとキリスト教の関係を知ることができます。私たちはキリスト教というとローマカトリックやプロテスタントをイメージしてしまいがちですが、ドストエフスキーはロシア正教を信仰していました。このロシア正教についての知識がないとドストエフスキー作品で説かれる宗教の話がなかなか見えてきません。特に『カラマーゾフの兄弟』ではそれが顕著です。最大の山場「大審問官の章」はまさにドストエフスキーの宗教論の核心になります。『罪と罰』にも宗教的要素が大きく絡んできますので、この『ギリシャ正教』を入門書として読むことを強くおすすめします。

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次のフーデリ著『ドストエフスキイの遺産』ではドストエフスキーの生涯に沿って作品を論じていきます。作品理解を深めるという意味でも非常に懇切丁寧でわかりやすいです。伝記のように読める作品ですので彼の生涯を知る上でも非常に便利です。

ロシア正教の宗教者としてのドストエフスキー像を知るにはこの上ない一冊です。

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そして佐藤清郎著『観る者と求める者 ツルゲーネフとドストエフスキー』ですね。これも名著中の名著です。私の大好きな参考書です。

この本はタイトルにもありますように「観る者」ツルゲーネフと「求める者」ドストエフスキーの気質、個性に着目して2人の文学スタイルを改めて見ていこうという試みがなされています。

この本の特徴は何より、ツルゲーネフとドストエフスキーの違いを彼らの生涯や作品を通して明らかにしていく点にあります。

冷静で中道的な観察者ツルゲーネフ、激情的で何事も徹底的にやらなければ気が済まない求道者ドストエフスキー。

なぜ二人はこうも違った道を進んだのか、そしてその作風の違いはどこからやってきたのかを著者は語っていきます。ドストエフスキーとツルゲーネフ、二人の作品を読んでからこの参考書を読むのがベストですが、全く読んだことがなくても二人の違いを知ることができて非常に面白いです。これからドストエフスキーを読んでみたいという方にも素晴らしい羅針盤になる解説書です。

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これらの解説書を読み、ドストエフスキーの大枠を知ってから五大長編に突入することでより楽しく読むことができるのではないかと私は感じています。

まずは『死の家の記録』を読み、そこからいくつか解説書を読んでから好きな長編に突入する。これが私のおすすめの流れになります。

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ギリシャ正教 (講談社学術文庫 500)

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ドストエフスキイの遺産 (ロシア作家案内シリーズ 6)

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以下の記事でドストエフスキーのおすすめ参考書をまとめていますので参考にして頂ければ幸いです。

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ドストエフスキー小説よりも面白い!?ドストエフスキーの奥様による伝記『回想のドストエフスキー』

これまでドストエフスキーのおすすめ作品や参考書を紹介してきましたが、ここでぜひおすすめしたいのがドストエフスキーの奥様による伝記『回想のドストエフスキー』です。

私がドストエフスキーを学ぼうと思ったきっかけは『カラマーゾフの兄弟』でした。

ですが心の底からドストエフスキーを好きになったのはこの『回想のドストエフスキー』のおかげだったのです。

そしてこの本の中で説かれるドストエフスキーとアンナ夫人の西欧旅行。これが私の心を打ちました。新婚早々二人はロシアを離れてヨーロッパへと旅立ちました。そして4年に及ぶ西欧滞在で2人の運命は大きく変わることになります。この旅がなければ『白痴』以降の大作、つまり『悪霊』も『未成年』も『カラマーゾフの兄弟』も生まれることはなかったでしょう。それほどこの旅はドストエフスキーにとって大きなものがあったです。

そして何よりこの旅を通して2人は強く結ばれ、ドストエフスキーは苦しみ抜いた前半生と全く異なる幸福な家庭生活を過ごすことができました。ドストエフスキーといえば重く陰鬱なイメージがあるかもしれませんが、彼の晩年は幸福そのものだったのです。これは私にとっても大いに救いとなった事実でありました。

そしてドストエフスキーを学び始めてすでに4年以上が経った今、私は強く感じています。「私はアンナ夫人と共にいるドストエフスキーが好きなのだ」と。

ドストエフスキーの小説は面白いです。そして何より、深いです。私の僧侶人生にとてつもない影響を与えました。

ですがこのアンナ夫人の伝記もそれに劣らず私に巨大な影響を与えることになりました。ドストエフスキーその人を心の底から好きになったのはこの本のおかげです。私はこの伝記が好きで好きでたまらなく、昨年2022年にこの伝記で語られるゆかりの地巡りに出掛けたほどです。その旅の記録が『ドストエフスキー、妻と歩んだ運命の旅~狂気と愛の西欧旅行』という記事になります。

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アンナ夫人のこの伝記が世に広まることを私は強く願っています。正直申しまして、ドストエフスキー作品そのものよりもぜひこの伝記を読んで下さいと言いたくなるほど私はこの作品を愛しています。それほど素晴らしい作品です。ただ、残念ながらこの伝記はまだ文庫化されていません。アンナ夫人の『回想のドストエフスキー』が文庫化されることを祈るばかりです。

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回想のドストエフスキー〈1〉 (みすずライブラリー)

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※2023年8月19日追記

今週のNHK朝ドラ『らんまん』で借金取りを見事に追い返した寿恵子さんを見て、私はドストエフスキーの妻アンナ夫人を連想せずにはいられませんでした。

アンナ夫人も生活能力ゼロのドストエフスキーを支え、原稿の清書、出版まで手掛け、さらには借金取りも撃退しています。

正直、これまでも『らんまん』を見ていて寿恵子さんにアンナ夫人を感じることが何度もあったのですが、今回の放送でそれは確信に変わりました。

ドストエフスキーとアンナ夫人が初めて出会ったのは1866年の10月のこと。ドストエフスキー45歳、アンナはなんと20歳の年でした。この時彼女はまだ速記の講義に通う学生だったのでした。

この点も牧野夫妻と似ています。圧倒的な才能を持つ夫と、若い妻。そして寿恵子さんもアンナ夫人も文学好きであることも共通しています。

そして何より、結婚後の貧乏暮らしもそっくりで、そこから妻が腹をくくり実務的な仕事まで切り盛りするのもまさに重なっています。

この点については以下の「【ドイツ旅行記】(27)帰国後のアンナ夫人の無双ぶり!借金取りも撃退!ドストエフスキーも全幅の信頼を寄せるその姿!」の記事で詳しくお話ししているのでぜひ見て頂けたらと思います。寿恵子さんとのそっくり具合にきっとびっくりすると思います。

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おわりに

さて、ここまで私のおすすめするドストエフスキー作品とその参考書、読むべき順番についてお話ししてきました。

ただ、実はひとつ言わなければならないことがあります。

これまで見てきた7作品の中でも実は『地下室の手記』と『悪霊』は私個人としては少し苦手な作品なのです。

この2作品がドストエフスキーにおいて名作であることは疑いようがありません。ただ、私個人としては苦手と言いますか、その暗さにどうしてもメンタルがやられてしまう作品なのです。『悪霊』に関しては特にそれが顕著で、読む度に私は体調が悪くなります。ドストエフスキーの黒魔術、憑依の術中にまさしくかかってしまったのでしょう。

ですがだからと言って『悪霊』や『地下室の手記』が作品として劣っているわけでは決してありません。『悪霊』が大好きだという方も知人におりますし、『地下室の手記』を高く評価する人も世に多くおられることを知っております。

問題は同じドストエフスキー作品といっても、作品によっては好みが分かれることもあるということです。これは村上春樹作品においてもそうですよね。私は『ダンス・ダンス・ダンス』や『ハードボイルド・ワンダーランド』が好きですが、他の人からすると全くそうは思わないということも往々にしてありえるわけです。

そして同時に気軽にはおすすめはできないけれども私個人として好きな作品も実は存在しています。その筆頭がドストエフスキー初期の中篇小説『二重人格(分身)』です。

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私自身この作品を読んでとても心打たれるものがありました。個人的にも『二重人格』はドストエフスキー作品の中でも上位にくるくらい大好きな作品です。

周りとうまくなじめない。なじみたいとは思うのだけれどもやはりなじみたくもない。自分って何なんだ。何でこんな自分になってしまったんだ。どうしたらいい。なんで自分はこんな卑屈なんだ。自分がおかしいのか?どうしたら私は生きていけるのか。なんでこんなに苦しまなければならないのだろう。

そんな悩みを抱えている人にはぜひ読んでほしい作品です。ここに同じ悩みを抱えた人間のドラマがあるのです。ドストエフスキーはそうした人間の味方です。

私はこの作品を読んで、そうした人間の苦しむ姿に共感し共に苦しみながらも、同じ苦しみを耐えている人が他にもいるのだという不思議な安心感を感じたのを覚えています。

もちろん、この作品はハッピーエンドではありません。

ですが何か心にずっしり来るものを私達に残してくれる作品です。若干読みにくい作品ではあるので気軽にはおすすめできませんが個人的に大好きな作品です。

そしてもう一つ紹介したいのがドストエフスキーの書簡です。「(28)ドイツの温泉地バート・エムスのドストエフスキーゆかりの地を訪ねて~結婚後10年経っても夫人に熱烈なラブレターを送るドストエフスキー」の記事の中でもお話ししたのですが、ドストエフスキーの書簡がこれまた面白いのです。

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(28)温泉地バート・エムスのドストエフスキーゆかりの地を訪ねて~結婚後10年経っても夫人に熱烈なラ... 私にとってバート・エムスはドストエフスキーのアンナ夫人への愛を感じられる象徴的な場所です。 結婚後10年経っても妻を熱愛したドストエフスキー。 彼はエムスからアンナ夫人に熱烈なラブレターを送り続けます。 あの『悪霊』を書いた文豪とは思えぬほどのデレデレぶりをぜひ皆さんにお目にかけたいと思います。 愛妻家としてのドストエフスキーを知るならここを超える場所はないのではないだろうかと私は感じています。

ドイツの温泉保養地バート・エムスからのドストエフスキーの手紙は現地での日々の出来事とアンナ夫人への愛が綴られています。これがほとんど毎日のように書かれるのでもはやドストエフスキーの日記のようにも読めてきます。そしてこれがとにかく面白いのです。ドストエフスキーは重厚な小説作品をたくさん生み出してきましたが、もし気楽な旅行記や日記文学を出版したらそれこそそっち方面でも大ブレイクしたのではないかと思うほど面白いのです。

ジャーナリスティックなセンスもあるドストエフスキーのことです。日々の何気ない出来事や、見知らぬ町での体験から面白い記事を書くのはお手の物でしょう。現にドストエフスキーはこれらの手紙でエムスでの日々を事細かにアンナ夫人に語っています。その語りがまるで現地の様子が目の前に浮かんでくるようなのです。その臨場感たるや!もしこの手紙をすべてまとめて本の形にしたらものすごく面白いものになるのではないでしょうか。詳しくは上の記事で実際の手紙の内容なども紹介しているのでぜひそちらをご参照願いたいのですが、アンナ夫人の『ドストエフスキーの回想』と合わせてぜひこの書簡も文庫化を願っております。

さて、長々とお話ししてきましたがドストエフスキー作品を読む上で少しでもお役に立てましたら何よりでございます。

「ドストエフスキーはおすすめできない」と言ったり、アンナ夫人の『回想』がおすすめだと言ったり、皆さんを混乱させてしまったかもしれませんが、ドストエフスキーを愛する私の正直な気持ちをここに述べさせて頂いた次第であります。ここまでお付き合い頂きありがとうございました。

以上、「ドストエフスキーおすすめ作品7選!ロシア文学の面白さが詰まった珠玉の名作をご紹介!」でした。

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ドストエフスキー

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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