中村元、三枝充悳『バウッダ[佛教]』~阿含経とは何か、大乗経典の成立伝播の過程を学ぶのにおすすめの参考書

パウッダ インドにおける仏教

中村元、三枝充悳『バウッダ[佛教]』概要と感想~阿含経とは何か、大乗経典の成立伝播の過程を学ぶのにおすすめの参考書

今回ご紹介するのは2009年に講談社より発行された中村元、三枝充悳著『バウッダ[佛教]』です。

早速この本について見ていきましょう。

原始仏教の発生から大乗仏教へ

釈尊の教えの真実とは何か–真の仏教学が解明する。壮大な仏教思想の全貌バウッダ–サンスクリット語で「仏の教えを信奉する人」の意である。二千五百年におよぶ歴史の中で、誤解と偏見に満ちた教学により誤伝されてきた釈尊の思想の壮大な全貌と、初期仏教の発生から大乗仏教、密教へと展開する過程を、膨大な経典群から探究。単なる宗教の枠を超え、思想としての仏教の実像を鮮やかに描き出した、日本仏教学の達成。

原始経典アーガマ(阿含経典)に釈尊の真の教えをさぐり、その根底をなす苦、無常、無我、法、涅槃を考察、さらに釈迦入滅数百年後に登場する部派仏教や大乗仏教、そこに現れる仏・菩薩に、日本仏教の源流を見る。膨大な経典群に探究する釈迦の教え、仏教の歴史と哲学。思想としての仏教と、日本仏教の独自性を解明した真の意味の仏教入門書。

Amazon商品紹介ページより

この本は日本ではあまり馴染みのない阿含経典についてや大乗仏教の成立伝播の過程を学べる参考書となっています。

私も阿含経典とはどのようなものなのか、いつどのようにして日本に入りどのように読まれてきたのかということに興味があったのでこの本は非常にありがたいものがありました。詳しいながらもわかりやすい解説ですので仏教をより深く学びたい方にも読み応え抜群だと思います。

大乗仏教についてもその成立と伝播の過程がわかりやすく解説されます。日本に伝わってきた仏教がどのようなものだったのか、また日本で信仰されてきた仏教とインドの原始仏教との違いがこの本で明らかにされます。

仏教とは何かを考える上で素晴らしい参考書であるのは間違いありません。僧侶にとってもこれは必読と言ってもいいほどの本だと思います。

ただ、この本を読み私が気になったのは三枝充悳先生の言葉の厳しさです。

日本人一般に漠然と、わが国に伝来して継承されてきた仏教がそのままゴータマ・ブッダ(釈尊)の教えであり、読誦され、尊重された諸経典に書かれている一語一句がすべてゴータマ・ブッダ(釈尊)のことば、と信じられてきており、現にまたそのように信じられているからである。この根本的に誤り歪められた日本人の仏教観を正し、ひるがえって、日本人が受容した仏教とはいったい何であったかを明らかにするためには、何よりもまず「阿含経」に関する正確な把握を必要とし、ついでインド仏教史の概略から大乗仏教についての概観がなされなければならない。

講談社、中村元、三枝充悳『バウッダ[佛教]』P52-53

「根本的に誤り歪められた日本人の仏教観を正し、ひるがえって、日本人が受容した仏教とはいったい何であったかを明らかにする」

三枝先生の「根本的に誤り歪められた日本人の仏教観」という言葉は少し厳しすぎるのではないかと思いましたが、先生自身の仏教に対する期待があるからこその叱咤激励であると恐縮しました。

原始仏教の教えを学んだ上で私達日本仏教側がどう答えていくのか。これは待ったなしの切実な問題だと思います。私達は一体何者なのか。当たり前のように僧侶として生きていますが、はたしてそもそも私たちは何をもって僧侶として生きているのでしょう。特にこれは戒律を離れた浄土真宗においてはさらに難しい問題です。この本は改めて自分自身のあり方を問う恐るべき一冊です。三枝先生の厳しい言葉はまさに明王のようです。ですがそうした率直なお叱りほどありがたいものはありません。私自身気を引き締めて仏教に向き合いたいと強く感じました。

以上、「中村元、三枝充悳『バウッダ[佛教]』~阿含経とは何か、大乗経典の成立伝播の過程を学ぶのにおすすめの参考書」でした。

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