『レーニン 権力と愛』レーニンのおすすめ伝記!レーニンはいかにして権力を掌握したのか

レーニンとスターリン~ソ連を学ぶ

ヴィクター・セベスチェン『レーニン 権力と愛』

ヴィクター・セベスチェン著、三浦元博、横山司訳『レーニン 権力と愛』は2017年、白水社より出版されました。

先に申し上げておきますが、この本はものすごく面白いです。ロシア革命やレーニンに関心がなくても、人類の歴史や人間そのものを知るのに最高の参考書です。

本の内容に入る前に著者のプロフィールを見ていきます。

本書は Victor Sebestyen “LENIN THE DICTATOR An Intimate Portrait” (Weidenfeld & Nicolson, London, 2017)の全訳である。セべスチェン氏はハンガリー出身の英国のジャーナリスト・歴史作家で、東欧と旧ソ連を関心領域としている。邦訳では”Revolution 1989 The Fall of the Soviet Empire”(『東欧革命1 9 8 9ーソ連帝国の崩壊』白水社二〇〇八年)と、母国ハンガリーの一九五六年の動乱を扱った”Twelve Days”(『ハンガリー革命1956』一白水社、ニ〇〇八年)がある。

白水社、ヴィクター・セベスチェン著、三浦元博、横山司訳『レーニン 権力と愛』P351

引き続き、この本の内容を見ていきましょう。

本書はロシア革命から一〇〇年の節目に、指導者レーニンの人間像に迫ろうとする試みである。マルクス主義は歴史一般を必然の発展過程としてとらえ、イデオロギー上は個人の果たす役割をあまり問題にしないのだが、マルクス・レーニン主義を標榜するロシアは、レーニンを神格化していた。レーニンの死の報に、トロツキーでさえ「レーニンはいないが、レーニン主義は存在している」と言い放っている。このときすでにレーニン崇拝が始まっていたとみられるが、それだけの存在感をもつ人物、レーニンとはいったい何者だったのか。

ソ連時代にモスクワの赤の広場にあるレーニン廟を訪れると、結婚式当日の新婚カップルの姿をよく見かけた。それは、結婚をレーニンに報告し、加護を祈っているかのような光景だった。レーニン廟は建前では無神論であるはずの国家の祭壇、「レーニン主義」はソ連の宗教だったのだ。これはいったいどういうことなのか。

歴史家のA・トインビーが指摘していることだが、ロシア人のメンタリティーの底流には、ビザンチン文明と一体になったスラヴ思想があるらしい。進んだ西欧への警戒心と憧憬の一方で、キリスト教世界を救う正統としてのロシアー蛮族と異教徒に滅ぼされたローマとビザンチンに続く「第三のローマ」としてのモスクワという複雑な意識。

レーニンがロシアにおける資本主義の発展をいくら強調しようと、ニ〇世紀初頭のロシアは広大な農業国だった。だから、帝政打倒を目指す革命運動は、農村共同体を理想化した「人民の中へヴ・ナロード」運動から始まった。ところが、西欧からの輸入思想であるマルクス主義は、それが西欧資本主義の打倒を目指しているがゆえに、ロシアの伝統的メンタリティーに容易に接合される構造があった。マルクスは成熟した資本主義の先に社会主義を構想したのだが、マルクス主義を後進国ロシアに接ぎ木する役割を果たしたのがレー二ンだった。
※適宜改行しました

白水社、ヴィクター・セベスチェン著、三浦元博、横山司訳『レーニン 権力と愛』P351ー352

レーニンという人物はロシア革命の立役者であり、その後のソ連世界の道筋を決定づけた人物です。上の解説を読むだけでもレーニンがいかに不思議な人物であるかなんとなく伝わるかと思います。

この本はそんなレーニンに密着してその生涯や人柄を探っていきます。

本書の構成について。本書は一個の人間としてのレーニンに的を絞った歴史読み物になっている。膨大な分量ながらストーリーの展開は軽快だ。多くのレーニン伝が、ロシア革命前後の政治・経済の文脈の中にレーニンを位置づけるという正統的手法を使っているのに対し、本書はレーニンを取り巻く日常の範囲内での出来事や人物模様を描くことに力点を置いている。「密着ポートレート」とでも訳せそうな副題が示すとおり、さまざまなエピソードを通して素顔のレーニンを描き出そうとしている。ロシア革命の鳥瞰図を期待すると物足りないかもしれないが、著者の意図はあくまで人間像を描き出すことにある。

五四項に分かれた各項では、レーニンの人生行路が時系列的に展開していく。幼年時代の裕福な生活と兄アレクサンドルへの憧憬。その兄の処刑をきっかけとする帝政への憎悪の芽生え。社会主義運動への関与と、ヨーロッパ各地を転々とする生活。第一次世界大戦の勃発と封印列車での帰国と権力掌握。国際情勢を絡めながらも、レーニンの身辺の出来事に焦点を合わせ、関係者の声を集めて叙述が進んでいく。

著者が全編の通奏低音にしているのは、妻クループスカヤと愛人イネッサ・アルマンドとの三人の共棲だ。レーニンの「遺言」に見られるように、スターリンばかりかトロツキーも含め、革命同志のだれにも信を置いていなかったレーニンも、この二人の女性にだけは心を許していたらしい。クループスカヤとイネッサは同志的信頼関係で結ばれ、実際、イネッサの死後は娘を引き取っているものの、時には一抹の寂しさを吐露するクループスカヤ。イネッサとの関係を断とうとしてもなかなか断てないレーニン。生身のレーニンを描き出そうとするなら、三人の関係はもっともな着眼点だろう。

とはいえ、独裁者レーニンを生んだのは、ロシアの政治環境であり、彼が建設した国家と後継指導者たちの専制的性格は、今日のロシアにも生き続けている。その象徴が冒頭で触れたレーニン廟だ。その今日的メッセージは「ロシアは過去に常にそうであったように今も、圧倒的で情け容赦ない独裁的な指導者、ロシア語のヴォシチ、つまりボスを必要としているという観念、歴史的な連続性を示すことにある」と著者は指摘する。

また、レーニンは「彼よりも一世紀後の評論家が言う『ポスト真実の政治』の生みの親なのだ」とも。いささかジャーナリスティックな視点ではあるが、複雑な問題を単純化してみせ(「パン、平和、土地」)、反対派を「人民の敵」に仕立て上げ、国内外に「敵」をつくり、危機感をあおり、これと戦う強い指導者としての幻影を作り上げて世論を操る。そんな例は、日本を含めいたる所に見出すことができる。著者はレーニンにその原型を見ている。
※適宜改行しました

白水社、ヴィクター・セベスチェン著、三浦元博、横山司訳『レーニン 権力と愛』P353-355

タイトルにあります「権力と愛」はここから来ています。ロシア革命という権力奪取、そしてレーニンが愛した2人の女性。この2つを軸にレーニンに密着取材していきます。

この本ではソ連によって神格化されたレーニン像とは違った姿のレーニンを知ることができます。

そして何より、この伝記はとにかく面白いです!なぜロシアで革命は起こったのか、どうやってレーニンは権力を掌握していったのかということがとてもわかりやすく、刺激的に描かれています。筆者の語りがあまりに見事で小説のように読めてしまいます。

この本はとにかくおすすめです。

というわけで次の記事からこの本で気になった箇所を紹介していきます。

以上、「『レーニン 権力と愛』レーニンのおすすめ伝記!レーニンはいかにして権力を掌握したのか」でした。

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