R.ザフランスキー『ニーチェ その思考の伝記』ニーチェの思想はいかにして生まれたのか

ニーチェとドストエフスキー

ニーチェの思想はいかにして生まれたのか R.ザフランスキー『ニーチェ その思考の伝記』

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今回ご紹介するのは2001年に法政大学出版局より発行されたリュディガー・ザフランスキー著、山本尤訳『ニーチェ その思考の伝記』です。

まず、本の内容に入る前に著者のプロフィールを見ていきましょう。

リュディガー・ザフランスキー
1945年生まれ。フランクフルト大学でドイツ文学,哲学,歴史を学び,べルリン自由大学のドイツ文学科の助手,講師を経て「べルリナー.へフト」誌の編集者として,ジャーナリズムで活躍。広く成人教育や市民大学にかかわる。カール・ハンザー社の『ドイツ文学の社会史』〔邦訳・法政大学出版局〕やアテネーウム社の『ドイツ文学史』の企画にも携わり,現在は思想家・作家についての独特な評伝の領野を切り拓いて活動している。最新刊の本書『ニーチェ』のほかに『E.T.A.ホフマン』(1984),『ショーぺンハウアー』(87),『人間にはいくつの真理が必要か』(90),『ハイデガー』(94),『悪 あるいは自由のドラマ』(97)などが邦訳〔いずれも法政大学出版局〕

法政大学出版局、リュディガー・ザフランスキー、山本尤訳『ニーチェ その思考の伝記』表紙裏

著者のザフランスキーはドイツ生まれの評伝作家で、ジャーナリスト、学者としての経歴もあります。

『E.T.A.ホフマン』(1984)、『ショーぺンハウアー』(87)、『ハイデガー』(94)は特に人気のある作品で彼の代表作となっています。ではこの作品の特徴を訳者解説から見ていきましょう。

ザフランスキーの筆名を高めたのは、上記三冊の著書による伝記作家としてのもので、いずれの場合も、綿密な考証による偉人の生涯の畏敬の念に満ちた再現とはいささか違って、その研究史や作品解釈にはあまりとらわれずに、一人の人間がいかにその文学あるいは哲学に至り着いたか、そしてその文学ないし哲学が一人の人間をどのように変えていったかを縦糸に、主人公の生きた時代の社会史、文化史的状況を横糸にして立体的に、それも小説もどきの絶妙の語り口で死者たちを一冊の本の枠内に生き生きと甦らせたものであったが、そして今、ニーチェである。(中略)

文献学者たちによって二ーチェの著述の改竄や誤読が正され、歴史史家たちによってニーチェの生活の跡が洗い出され、それをもとにすでに多くのニーチェ伝、ニーチェ論が出ているのだが、ザフランスキーもそうした資料をもとに彼の流儀で新しいニーチェ伝を書こうとしたのだろうか。

ザフランスキーのこれまでの伝記を知る者にとっては、この『ニーチェ』もこれまで同様にニーチェの複雑で前提の多い思考を生活史の枠内で辿ろうとするものと思うだろう。

ところが今回はまず「その思考の伝記」という副題からして、いささか怪訝に思うのではなかろうか。ここにはこれまでになかった形のものが提示される。つまりこれは年代記的な生の伝記ではなく思考の伝記なのである。そこではニーチェの思考そのもののプロセス、その思考の冒険の跡を辿ることに重点が置かれ、ニーチェの伝記的要素は、それが思考の歩みを知るのに役立つときにのみ取り上げられ、他のニーチェ伝に細々と延べられる事情は省かれている。ニーチェにあっては思考こそが本来の生であり、生は著作の中に組み込まれていると考えるからである。
※適宜改行しました

法政大学出版局、リュディガー・ザフランスキー、山本尤訳『ニーチェ その思考の伝記』P424-426

この本の特徴は何と言っても、単なる伝記ではなく、「思考の伝記」であるという点にあります。ニーチェの生涯を辿りながらその思考のプロセスをこの本では見ていくことになります。

しかも難解な哲学者の代表とも言えるニーチェの思想を小難しい言葉をなるべく使わずに解説してくれる点もありがたいです。

訳者のあとがきではこの本について次のような太鼓判を押しています。

ザフランスキーの本書はいずれにせよ、ニーチェとの出会いへと読者を誘うものであって、いまだニーチェをほとんど読んでいない者にとっては信頼できる入門書であり、ニーチェの主要な作品をすでに知っている者にとっては、より深くニーチェの思想を考えるための前提となりうるものであろう。

ザフランスキーは、読者がニーチェとともに世界を新しい目で眺め、新しい発見の旅に出かけることを望んでいる。文体はいささか雑文風ともいえるところが多く、硬い哲学書に親しんでいる者には気になるかもしれない。

ザフランスキーはあるインタービューで「どのような読者を想定して書いていますか」との問いに、「私自身と同じすべての人です。私は本を読むとき何かを理解し、何かを学ぼうとします。私の著書は判り易いと褒めてくれる人がたくさんいます。私は私自身がよく理解できるように書いていて、そうすれば読者も私を理解してくれると思うわけですが、そのためもあって十三か国語に訳されて、広く読んでもらっています」と答えている。誰にでも分かるようにということを第一に考えているところからのものである。
※適宜改行しました

法政大学出版局、リュディガー・ザフランスキー、山本尤訳『ニーチェ その思考の伝記』P430

この本はわかりやすくも、その本質をしっかりと押さえた参考書になっています。難解なものをわかりやすい言葉で説明するというのはある意味危険を伴います。簡単に表現することで本来のものからかけ離れてしまう危険があるのです。しかしこの本ではそうしたことにならないよう、著者は細心の注意を払っていることがうかがわれます。

ニーチェを学ぶ上の入門書としても、さらに深く知るための参考書としてもこの本はとてもおすすめなように私は感じました。読んでいてニーチェの思考過程が伝わって来て非常に興味深かったです。

以上、「R.ザフランスキー『ニーチェ その思考の伝記』ニーチェの思想はいかにして生まれたのか」でした。

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