ソ連

スターリンとヒトラーの虐殺・ホロコースト

(2)ナチスとソ連、隠蔽された犯行現場~歴史は様々な視点から見なければ把握できない

一つの国の歴史だけを見ても、そこで起きた出来事の全貌を知ることはできない。

これは非常に重要な指摘です。著者はこの時代に起こった個々の出来事を様々な角度から見ていきます。歴史的な出来事を点として見るのではなく、当時の複雑な世界情勢、つまり面として見ていきます。

ホロコーストを研究した著作は数多くあれど、ソ連との覇権争いの過程や国際情勢と絡めて多角的に論じた本はほとんどありません。

いくら一つのことに対してどれほど知識を持とうともそれだけでは歴史は理解することはできないのです。

これはスターリンやヒトラーの大量虐殺だけではなく、歴史、思想、文化、宗教、あらゆるものにおいてもそうだと思います。

著者のこの指摘は非常に重要なものであると私は思います。

スターリンとヒトラーの虐殺・ホロコースト

(1)ナチスとソ連による1400万人の虐殺の犠牲者~あまりに巨大な独ソ戦の惨禍

『ブラッドランド ヒトラーとスターリン 大虐殺の真実』では独ソ戦で起きた大量虐殺の悲劇はナチス、ソ連の相互関係によってより悲惨なものになったことを明かしていきます。ナチスの残虐行為だけが世界史においてはクローズアップされがちですが、それだけではナチスの行動の全貌を知ることはできません。

ナチスとソ連というもっと大きな視点でホロコーストの実態を見ていくことがこの本の特徴です。

「ナチスは異常で残虐で悪い人間だった」と単に片付けるのではなく、もっと大きな視点からなぜ人間はそのようなことを行ってしまったのかということに迫っていくのが本書の素晴らしい点です。

スターリンとヒトラーの虐殺・ホロコースト

ティモシー・スナイダー『ブラッドランド ヒトラーとスターリン 大虐殺の真実』~独ソ戦の実態を知るのにおすすめの衝撃の一冊!

スターリンはなぜ自国民を大量に餓死させ、あるいは銃殺したのか。なぜ同じソビエト人なのに人間を人間と思わないような残虐な方法で殺すことができたのかということが私にとって非常に大きな謎でした。

その疑問に対してこの上ない回答をしてくれたのがこの『ブラッドランド ヒトラーとスターリン 大虐殺の真実』でした。

訳者が「読むのはつらい」と言いたくなるほどこの本には衝撃的なことが書かれています。しかし、だからこそ歴史を学ぶためにもこの本を読む必要があるのではないかと思います。

スターリンとヒトラーの虐殺・ホロコースト

C・アングラオ『ナチスの知識人部隊』~虐殺を肯定する理論ーなぜ高学歴のインテリがナチスにとって重要だったのか

この本は虐殺に突き進んでいった青年知識人たちにスポットを当てた作品でした。彼らがいかにしてホロコーストを行ったのか、そしてそれを正当化していったのか、その過程をじっくり見ていくことになります。 この本で印象に残ったのはやはり、戦前のドイツがいかに第一次世界大戦をトラウマに思っていたのかということでした。 そうした恐怖が、その後信じられないほどの攻撃性となって現れてくるというのは非常に興味深かったです。

スターリンとヒトラーの虐殺・ホロコースト

M・ベーレンバウム『ホロコースト全史』~ナチスのユダヤ人政策の歴史をより深く学ぶためのおすすめ参考書

この本ではナチスによるホロコーストが試行錯誤の末進められていったその過程がかなり詳しく語られます。そしてアメリカをはじめとした連合国がホロコーストの事実を知っていながらそれを無視したという驚きの事実もこの本では語られます。

そして何よりこの本で私の印象に残っているのは掲載されているたくさんの写真でした。

この本は写真資料が豊富です。しかもその写真がかなりショッキングなものばかりです。

ガリガリに痩せほとり、服を着ていない無数の遺体が巨大な穴の中に折り重なっている写真など、他の本ではあまり掲載されないようなものも多々あります。ホロコーストの悲惨さがストレートに伝わってきます・・・

ホロコーストについてより深く学ぶにはこの本はとてもおすすめです。資料集として利用するのにも抜群だと思います。

スターリンとヒトラーの虐殺・ホロコースト

芝健介『ホロコースト』ホロコーストの歴史を学び始めるのにおすすめな1冊

中公新書、芝健介『ホロコースト』ーナチスによるユダヤ人大量虐殺の全貌 今回ご紹介するのは中公新書より2008年に出版された芝健介著『ホロコースト』という本です。 早速この本について見ていきましょう。 ヒトラー政権下、ナチ…

スターリンとヒトラーの虐殺・ホロコースト

ワシーリー・グロスマン『トレブリンカの地獄』~ナチスの絶滅収容所の惨劇を赤軍ユダヤ人記者が告発

グロスマンの描いたトレブリンカは絶滅収容所といわれる収容所です。ここはそもそも大勢の人を殺害するために作られた場所です。そこに移送された者で生存者はほとんどいません。移送された人々は騙され、強制され、追い立てられ、次第に自分の運命を悟ることになります。そして圧倒的な暴力の前で無力なまま殺害されていきます。これはまさにフランクルの言う地獄絵図です。グロスマンはフランクルの描かなかった地獄を圧倒的な筆で再現していきます。『夜と霧』と一緒に読むと、よりホロコーストの恐ろしさを体感することになります。

ホロコーストを学ぶ上でこの本がもっとフォーカスされてもいいのではないかと心から思います。

独ソ戦~ソ連とナチスの絶滅戦争

ワシーリー・グロスマン『万物は流転する』あらすじと解説~スターリン死後も続くソ連抑圧時代の苦悩を描く傑作小説

訳者は「多くの人に、とくに若い人たちにグロスマンの作品を読んでもらいたい」、「全体主義の問題は今日でも大きな問題ですし、いつの時代にも権力と個人の問題は誰も避けては通れません。そして、そうしたものに対するグロスマンの投げかけた問いは、今日でも色あせてはいないのです。」と述べます。

『人生と運命』もそうでしたがこの小説も読むのがつらかったです。ですがその分衝撃もものすごかったです。よくぞこんなにえげつないものが書けるものだなとため息しかありません。読んでいてその厳しさに何度も固まってしまいました。「じゃあいったいどうすればいいんだ・・・」と呻くしかなくなってしまいます・・・

そうした状況に実際に当時の人たちは置かれていたのかと思うと戦慄してしまいます。

独ソ戦~ソ連とナチスの絶滅戦争

ワシーリー・グロスマン『人生と運命』あらすじと感想~独ソ戦を生きた人々の運命を描いたロシア文学の傑作!

『人生と運命』はグロスマンの命がけの告発の書です。

ソ連において体制批判はタブー中のタブーです。強制収容所送りや死刑を覚悟しなければなりません。グロスマンはこの作品を書き上げるもKGBの家宅捜索を受け没収されてしまいます。そして当局から危険書物扱いをされ「今後2~300年、発表は不可」と宣告されます。

「今後2~300年、発表は不可」という宣告のものすごさ。この小説がどれだけソ連当局にとって危険なものだったかがうかがえます。逆に言えば、それだけソ連にとって都合の悪い真実を映し出していたということができるかもしれません。

日本ではワシーリー・グロスマンの存在はあまり知られていませんが、それは残念なことだと私は思います。戦争の悲惨さや全体主義の抑圧の恐怖を伝える偉大な作家の一人がこのワシーリー・グロスマンです。

独ソ戦~ソ連とナチスの絶滅戦争

『赤軍記者グロースマン 独ソ戦取材ノート1941-45』~ソ連のユダヤ人従軍記者が見た独ソ戦の現実

この本で何より印象的だったが、ナチスのホロコーストの現場を取材した部分です。ホロコーストというと、私たちはアウシュヴィッツを想像してしまいますが、トレブリーンカという絶滅収容所についてこの本では述べられています。そこでは80万人以上の人が殺害されています。その凄惨な殺害の手法は読んでいて寒気がするほどです。それを現地で取材したグロースマンはどれほど衝撃を受けたのか想像することもできません。

独ソ戦という世界の歴史上未曽有の絶滅戦争を最前線で取材した彼の記録は必見です。とてもおすすめな1冊です。