嶋本隆光『イスラーム革命の精神』~1979年イラン・イスラ―ム革命とは何だったのか

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嶋本隆光『イスラーム革命の精神』概要と感想~1979年イラン・イスラ―ム革命とは何だったのか

今回ご紹介するのは2011年に京都大学出版会より発行された嶋本隆光著『イスラーム革命の精神』です。

早速この本について見ていきましょう。

1979年のイラン・イスラーム革命については、新聞紙上の喧しい報道にもかかわらず、革命後の今日においても定まった評価は得られていない。イスラーム革命の精神を支える思想的基盤を確立したのは、ホメイニー師の愛弟子で凶弾に倒れたモルタザー・モタッハリー(1920-79)である。イランでは英雄視されながらわが国ではまったく無名である哲学者の思想を紹介しながら、イスラーム主義の本質を明らかにする。

Amazon商品紹介ページより

この本は1979年にイランで起こったイスラーム革命について語られた作品です。

1990年生まれの私はこの出来事をほとんど知らず、何があったのか全く分かっていませんでしたが、この本で語られることを知り、それこそ仰天してしまいました。

革命が起きて新しい政府が誕生する。

これくらいなら歴史上何度も起こってきたことですのでそれほど驚きはしません。しかし、この革命がすごいのはそれがイスラームの宗教者の主導で行われ、その後の政府もイスラーム学者が中心として動いていく点にありました。1979年という時代にあって宗教者が国家を運営するというのは私にとって、とてつもない驚きでありました。日本で言うならこれからお坊さんが革命を主導して国を作ってしまうということですから、これがどれだけものすごい事件だったか想像できると思います。

この本ではなぜイスラーム革命が起こったのか、どうして宗教者がそれほど社会に対して影響力があったのか、そしてそもそもイランのイスラム教の教えはどのように説かれていたのかということを解説していきます。特にその思想的基盤となったモルタザー・モタッハリーという宗教学者の思想をじっくりと追っていきます。私にとってもこの人物は非常に大きな存在です。

モルタザー・モタッハリー(1919-1979)Wikipediaより

この人物が偉大なのは単に自分の思想を独善的に語るのではなく、西欧思想に非常に通暁していて、そこに対して的確に「イスラームとしてはこういう立場である」ということを明確に述べる点にあります。

相手の思想を熟知した上で、その問題点を指摘し、自分達の思想をしっかりと聴衆に伝える。

そして若者をはじめとした多くの人々にイスラームの教えを説き広め、今こそ動くときだと働きかけた。これは日本では考えられないほどの大事件でした。

ここまでこの本についてお話ししてきましたが、実は著者の嶋本隆光先生とは、個人的なつながりがあります。

私はかつて京都の大谷大学の大学院で僧侶になるために学んでいました。その時に私は「宗教学」という授業を受講していました。そしてその授業を担当されていたのが嶋本先生でした。

嶋本先生はイランのシーア派の研究をされていて、その授業のメインテーマがまさしくこのイラン・イスラーム革命だったのです。

私は嶋本先生の講義が大好きで、単位を取得した後も毎回先生の授業を受けに通っていました。

イスラームというと私達日本人にはあまりなじみがなく、恐いイメージがあるかもしれませんが、それはまったくの偏見です。イスラームとは何なのか、宗教と世界はどのように繋がっているかを嶋本先生はこの授業で教えて下さりました。

この本では宗教が世間から離れて存在するものではなく、世界と密接に結びついていることを知ることができます。

また、シーア派イスラームが西欧思想に対してどのような意見を述べているかも知ることができます。

宗教は宗教だけにあらず。政治や経済、文化、歴史、国際情勢、あらゆるものが関わっています。

逆に言えば政治や経済、文化、歴史、国際情勢などあらゆるものには宗教が関わっている。

宗教は宗教だけで単体で扱えるものではない。もっと幅広い視点から見ていかなければならない。そのことを嶋本先生から教わりました。このことは宗教というものを考えていく上で今も私が大切にしている考え方です。そうしたことも学べるのもこの本の素晴らしいところです。

イラン・イスラーム革命は私たち日本人には馴染みが薄いかもしれませんが、宗教というものを考える上で非常に大きな示唆を与えてくれる出来事です。その大事件を学べるこの本はぜひおすすめしたい1冊です。この本を読むことで中東でアメリカが何をしていたかというのもわかります。今現在の中東の混乱とも密接な関係があります。複雑な中東情勢を知る上でもこの本はとても有益であると思います。

また、皆さんにぜひおすすめしたい嶋本先生の著作が他にもありますのでここで紹介します。

嶋本隆光『シーア派イスラーム 神話と歴史』

中東における強大な勢力シーア派の思想を理解するためには、社会的、政治的事件にかかわる知識だけでは十分ではない。シーア派において決定的に重要な意味をもつのは、イマームと呼ばれるイスラーム共同体の指導者である。本書は、わが国ではこれまでほとんど研究されることのなかった指導者イマームを中心に、その生誕と歴史をたどりながら、現今のシーア派を取り巻く思想的状況を解明する。

京都大学学術出版会、嶋本隆光、『シーア派イスラーム 神話と歴史』裏表紙

中東関連のニュースを見ているとよく「スンニ派」や「シーア派」という言葉が出てきますよね。

同じイスラム教でもこれら二つはかなり考え方が違います。

この本では「シーア派」の歴史とその成立過程、教義をわかりやすく解説してくれますので、私たち日本人がなかなか知ることのないイスラム教の世界を知ることができます。

イスラム教のイメージがきっと変わると思います。宗教とは何かということを考える上で非常に興味深い内容満載です。おすすめです。

『イスラームの神秘主義 ハーフェズの智慧』

イスラームの神秘主義(スーフィズム)は、イスラームの智慧の本質を開示する。なかでも、独自の発展を遂げたぺルシアの神秘詩においてたくみに表現されている。この真実にいくらかでも肉薄することがなければ、イスラームの根本思想は理解できない。本書では、イラン(ぺルシア)を中心にイスラーム世界の人びとに愛される神秘詩人ハーフェズの詩を取り上げ、詩の裏に隠された宗教的メタファーを読み取り、平明な解説を加える。

京都大学学術出版会、嶋本隆光、『イスラームの神秘主義 ハーフェズの智慧』裏表紙

宗教は教義や宗教哲学のような理知的なものだけにあらず。

シーア派にはスーフィズムという独特な神秘思想があります。日常の世界のような合理的な体験ではなく、それらとは根本的に異なる神秘的な体験の中に神との合一を体感する。

イスラームにおける神秘思想とは一体どのようなものなのかをこの本では追っていきます。

こちらも宗教とは何かを考える上で新たな視点を与えてくれる素晴らしい一冊です。

おわりに

今回は1979年のイラン、イスラーム革命から嶋本隆光先生の『イスラーム革命の精神』を紹介させて頂きました。

この本は私も大好きで毎年一度は必ず読んでいます。

「宗教は宗教だけにあらず」

「相手の思想に通じた上で、自らの思想を同時代人にもしっかり伝わるように述べていく」

その大切さをこの本でいつも教えてもらっています。

イスラームのシーア派については日本人はほとんど知らないと思います。いや、イスラームそのものもほとんどの方にとっては未だに遠い存在だと思います。

ですがいざイスラームについて知ってみると、意外に親近感が湧いたり、これまでの偏見がなくなっていくことにすぐに気づくと思います。複雑な世界情勢の中、他の宗教や文化のことを知っておくことはこれからの時代もっと必要になってくると思います。特にアフガン問題やパレスチナ問題は待ったなしの危機的な状況です。その背景を知る上でも嶋本先生の著作は非常にありがたい作品だと私は思います。

ぜひ、おすすめしたい作品です。

以上、「嶋本隆光『イスラーム革命の精神』1979年イラン・イスラ―ム革命とは何だったのか」でした。

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