高木徹『大仏破壊』~タリバンとはそもそも何なのか。バーミアンの大仏破壊の裏側

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高木徹『大仏破壊 ビンラディン、9.11へのプレリュード』概要と感想~タリバンとはそもそも何なのか~バーミアンの大仏破壊の裏側

今回ご紹介するのは2007年に文藝春秋より発行された高木徹著『 大仏破壊 ビンラディン、9.11へのプレリュード』 です。

早速この本について見ていきましょう。

2001年3月、アフガニスタンのバーミアン大仏がタリバン政権によって爆破された。その裏には半年後の「9・11」、そしてテロ戦争へ突き進むビンラディンとアルカイダの策謀が蠢いていた!綿密な取材、壮大なスケールで9・11の前奏曲「大仏破壊」の真実が明らかに!大宅壮一賞受賞の力作ノンフィクション。解説・関川夏央

Amazon商品紹介ページより

2021年現在、アフガニスタンは米軍撤退によって非常に緊迫した状況にあります。そして、今その政権を担っているのがまさしくタリバンです。

ですがそのタリバンというのはそもそもどのような存在なのでしょうか。

私たちが目にするタリバンはニュースで知る姿でしかありません。実際に彼らがどのような存在で、どんな背景から生まれてきたのかというのはほとんど知る機会がありません。

私もタリバンとは何者なのかということはほとんど知りませんでした。しかし、この本を読んだことで複雑な中東情勢、そしてタリバンとはどのような存在なのかを知ることができました。

もちろん、この本が出版されたのは2007年ですので2021年のタリバンそのものを解説したものではありません。

ですがタリバンの源流を知る上でこの本は非常に重要な参考書であると思います。

バーミアンの大仏破壊の映像

さて、この本のタイトルにもありますように、この本では2001年のバーミアン大仏の破壊にスポットを当ててタリバンについて語っていきます。

実はこの大仏破壊は9・11同時多発テロ事件の半年前に行われています。この大仏破壊こそ9.11につながる序章だったと著者は述べていきます。

すべての出発点は、二十世紀の終末から二十一世紀の冒頭にかけて数年間のアフガニスタン―タリバンが支配し、オサマ・ビンラディンがその力を蓄え、計画を練った場所と時間―に存在する。しかし、いわば「鎖国状態」にあったアフガニスタンの実情は当時からほとんど知られず、現在も、その主役たちのほとんどが死亡あるいは逃亡してしまったために、歴史のブラックボックスとなっている。

「9.11」の半年前に起きたバーミアンの「大仏破壊」はその謎を解く最も重要な鍵である。タリバンと最高指導者オマルは、なぜこのとき突如「破壊」へと走ったのか?そこに当蒔アフガニスタンにいたオサマ・ビンラディンはどのように関わったのか?そして半年後の同時多発テロへどのようにつながっていったのか?

文藝春秋、高木徹著『 大仏破壊 ビンラディン、9.11へのプレリュード』 P16-17

そして著者はこの本はなぜ書かれたのか、そして本書の内容について次のように述べます。少し長くなりますが重要な箇所なのでじっくり読んでいきます。

私がバーミアン大仏破壊の裏側で何が起きたのかを知ろうと考え、取材を始めたのは、二〇〇一年三月に起きた大仏爆破の直後である。そう思い立ったのは、まず第一に、千数百年もの時を経た遺跡の破壊という行為に心からの憤りを覚え、その愚行の理由を知りたいと熱望したためだ。

それだけでなく、どうしても心に引っかかる疑問が二つあった。国際社会からさらなる非難を呼ぶだけで何の利益もないと思われる大仏破壊に、なぜタリバンは及んだのか、その動機が宗教上の「偶像破壊」だけではどうしても説明がつかないと思ったこと。そして、大仏を破壊するという問題は以前にも持ち上がり、そのときタリバンは「大仏は保護する」と言って破壊は未然に防がれたのに、なぜ今回は実行されてしまったのか。その間に何が変わったのかを知りたかった。

これらの疑問への答えを知るためには、事件当時、表面的なニュースは入ってきたにせよ、アフガニスタンの社会の深層で何が起きているのか、あまりに情報が少なかった。だからこそ、逆にここには何か解くべき謎があるのではないか、と感じた。

そういう発想をもつだけでは、現地への渡航取材のための時間も資材も得られるわけではなかったが、田中と連絡をとったり、日本でも得られる情報を収集しているうちに9・11が起こり、「大仏破壊」が、この新たな巨大な破壊の真相を解く重要な鍵として私の前に立ち現れてきた。そして世界に広がった9・11の衝撃が一段落したころ、幸い私は、所属するNHKの番組制作でこの謎に挑戦することを許され、インタビューや資料集めに奔走し、貴重な情報と証言を得た。ある者は「大仏破壊は9・11へのプレリュードだった」と答え、またある者は「国際社会がもっとアフガニスタンに関心を寄せていれば、大仏破壊もニューヨークへの攻撃も防ぐことができた」と叫び、「自分たちのアフガニスタンへのアプローチは失敗だったと言わざるを得ない」と悔いる者もいた。その成果は二〇〇三年六月にBSプライムタイム「大仏はなぜ破壊されたのか―タリバン・変貌の内幕」、そして同年九月にNHKスペシャル「バーミアン―大仏はなぜ破壊されたのか」という二つのノンフィクション番組に結実させることができた。その取材をもとに、番組の中では時間やさまざまな制約から割愛したことも含めて新たに書き下ろしたのが本書である。

文藝春秋、高木徹著『 大仏破壊 ビンラディン、9.11へのプレリュード』 P 17-18

そしてこの本の第一章では早速タリバンの重要人物、ホタクとのインタビューが始まっていきます。

これが非常に興味深く、この本をもっと読みたいという気持ちが高まります。

緊張の中で、インタビューは始まった。

「タリバンは、なぜ大仏を破壊したのですか?」

私の質問に、思いのほか甲高い声のホタクは意外な答えをロにした。

「大仏の破壊は、タリバンの本来の意志でも、方針でもありませんでした。私たちの大部分は破壊に心から反対だったのです」

タリバンは、大仏の破壊に反対だった、というその答えは予想外だった。確かに、あの大仏破壊には説明のつかない謎があると考えたからこそ取材を始めたのだが、最後に仏像を破壊したこと自体については、タリバンの堅い意志は間違いないものと思っていた。世界中のメディアも、学者もそう信じている。

ホタク自らが破壊に至った論理を、

「イスラムは完全な一神教であり、すべての偶像は、異心の表れとして固く禁じられています。大仏像はその偶像にあたり、だから破壊しなくてはならない、という解釈がとられました」

と説明している。イスラム原理主義の権化であるタリバンは、その過激な論理を心から信じていた。だからこそ、世界各地からのあらゆる説得を頑としてはねつけたのではなかったのか?そして、そういう狂信的な過激主義者たちだからこそ、オサマ・ビンラディンをかくまいつづけてアメリカの攻撃をうけ、一蓮托生の運命をたどっているのではないのか。

「それなら、なぜ大仏を破壊したのか?」

私の問いかけに、

「話を少し前に戻させてください」

といったホタクは、タリバンがこの世に登場したころの話を始めた。

大仏破壊の謎を解くには、タリバン誕生の九四年からアフガニスタンを覆った激動を理解する必要がある、というのである。

文藝春秋、高木徹著『 大仏破壊 ビンラディン、9.11へのプレリュード』 P 28-29

こうしてこの本はタリバンの誕生から話を遡り、大仏破壊へと向かって行く過程を追っていくことになります。

著者の高木徹氏の語り口も絶妙でぐいぐい引き込まれてしまいます。私達がほとんど知らないアフガニスタンの姿を知ることができます。

複雑な世界情勢を知る上でもタリバンとはそもそも何者なのかということを改めて考えることは非常に重要なことではないかと私は思います。

非常に刺激的で面白い作品です!とてもおすすめです!

以上、「高木徹『大仏破壊』タリバンとはそもそも何なのか~バーミアンの大仏破壊の裏側」でした。

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