ベン・ステイル『マーシャル・プラン 新世界秩序の誕生』~戦後ヨーロッパ復興の裏側を知れる刺激的な作品

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ベン・ステイル『マーシャル・プラン 新世界秩序の誕生』概要と感想~戦後ヨーロッパ復興の裏側を知れる刺激的な作品

今回ご紹介するのは2020年にみすず書房より出版されたベン・ステイル著、小坂恵理訳『マーシャル・プラン 新世界秩序の誕生』です。

早速この本について見ていきましょう。

「本書は新たに始まった冷戦の中心にマーシャル・プランを大胆に位置づけ、ソ連が苦労のすえに勝ち取った中欧と東欧の緩衝地帯にこのプランが脅威をおよぼす可能性について、スターリンがいかに真剣に考えていたかに焦点を当てる…プラハでのクーデターやべルリンの封鎖など、冷戦初期の劇的なエピソードのほとんどは、マーシャル・プランを挫折させ、欧州全域におけるアメリカの影響力弱体化を狙うスターリンの強い決意が原動力だった」

「マーシャル・プランがアメリカ外交の最大の成果のひとつとして記憶されるのは、先見の明があったからだが、実際に効果を発揮したからでもある…政治的手腕が素晴らしい成果を発揮するためには、高い理想を掲げながらも現実に目を向けなければならない。私たちは、それを教訓として再び学ぶ必要がある」(本文より)

この巨額かつ野心的な欧州復興イニシアティブは、いかにして冷戦という世界秩序を形作り、アメリカの戦後の大戦略に資したのか。アメリカ、ロシア、ドイツ、チェコの新資料を駆使して、その全貌を描いた決定版。

Amazon商品紹介ページより

この本は2020年の8月に日本で出版された本ということでかなり新しい本になります。本屋さんでふと目が留まり、思わず衝動買いした1冊です。

西ベルリン復興工事の様子。背後の看板には「マーシャル・プラン援助による」とある Wikipediaより

「マーシャルプラン」と言いますと、皆さん聞いたことはあるとは思いますが実際これがどういうものだったかというとなかなかわからないということが多いのではないでしょうか?

マーシャルプランとは、アメリカによるヨーロッパ戦後復興のための莫大な経済援助のこと。この経済援助によって戦後荒廃したヨーロッパが復活を果たしたというのは歴史の教科書でも述べられます。

私も冷戦を学ぶまではせいぜいそれくらいの知識しかありませんでした。「アメリカのマーシャルプランというのが戦後あったんだな。ふ~ん・・・」くらいなものです。具体的にこれがどういうものだったのかということは考えたこともありませんでした。

しかしこの本を読んでマーシャルプランというものがいかに入り組み、混沌としていたのかがわかりました。

「荒廃した戦後ヨーロッパがアメリカのおかげで経済復活を果たした」と言葉で言うのは簡単ですが、これがどれだけ山あり谷あり、大国同士の老獪な駆け引きありのとてつもないやり取りのもとなされていたというのは驚きでした。

単にアメリカが莫大な資金を援助したで済む話ではなかったのです。

敵対するソ連がそれに反発するのはもちろんですが、資金を受け取る側のヨーロッパ諸国も「はいはい、そうですかありがたく頂戴します」とはならないというのが妙味です。特にかつての覇権国家イギリスとフランスの対応はかなり老獪です。正直、読んでいてあまり気持ちのいいものではありません。さすがそれまで世界を支配していたというだけあり外交的な駆け引きの強さは並大抵ではありません。

イギリス、フランスもアメリカを信用していたわけでもなく、かといってソ連も怖い。さらにそれぞれの国の内部にいる共産党勢力の勢いも強く国内政治も不安定。

そんな中で第三次世界大戦を起こさないためにアメリカは奮闘します。第二次世界大戦の終了後は平和が訪れたと私たちは思ってしまいがちですが、この本を読んでわかるのは、戦後直後の世界は一触即発の危険な状態にあったということです。第三次世界大戦の脅威がリアルなものとして戦後直後にあったというのがこの本では感じられます。

そんな 『マーシャル・プラン 新世界秩序の誕生』 ですが、この本は各方面から絶賛され、次のように評されています。

これまでで最高の研究だ。
——ポール・ケネディ(イェール大学教授。『大国の興亡』)

外交、経済、大戦略を鋭敏に把握し、
冷戦とポスト冷戦時代を理解する新標準を打ち立てている。
——ジョン・ルイス・ギャディス(イェール大学教授。『大戦略論』)

70年後の今、経済的・軍事的にまったく異なった環境で…われわれのリーダーたちが、70年前の実際的な知恵とアイデアから恩恵を受けられんことを願う。
——ポール・ボルカー(第12代連邦準備制度理事会議長)

リーダーと識者たちは今も世界中で新たな「マーシャル・プラン」を求め続けているが、現実のそれがどのようなもので、どのように形成され、何を成し遂げたのかを真に理解している者はどれほどいるだろうか? 目と心を開かせてくれる一冊だ。
——アラン・グリーンスパン(第13代連邦準備制度理事会議長)

みすす書房HPより

かなりの大絶賛ぶりですよね。

ですが実際私も読んでいてこの本はものすごく刺激的で面白かったです。戦後ヨーロッパがいかに混沌としていたのかがよくわかります。前回の記事で紹介したトニー・ジャット著『ヨーロッパ戦後史』と合わせて非常におすすめです。

きっと皆さんも読んでみれば驚くと思います。これまでのヨーロッパ観が変わってしまうかもしれません。日本人のヨーロッパ観はおそらく、「憧れの観光地」的なものがほとんどを占めていると思います。しかしそこでは私たちが普段目にしないヨーロッパの実情が見逃されているのだということに気づくことになります。

そうした意味でもこの本を読むことは世界の歴史を知る上でも非常に興味深いものになると私は思います。

この本もぜひおすすめしたい1冊です。

以上、「ベン・ステイル『マーシャル・プラン 新世界秩序の誕生』~戦後ヨーロッパ復興の裏側」でした。

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