ドストエフスキーの青年期に着目 高橋誠一郎『ロシアの近代化と若きドストエフスキー「祖国戦争」からクリミア戦争へ』

ドストエフスキー論

本日は成文社出版の高橋誠一郎『ロシアの近代化と若きドストエフスキー「祖国戦争」からクリミア戦争へ』をご紹介します。

著者の高橋誠一郎氏は1949年福島県二本松生まれのロシア文学者です。

この著作の特徴は若き頃のドストエフスキーの作品と生涯にスポットを当てて論じているところにあります。

ドストエフスキーに関する参考書はそれこそ無数に存在しますが、その多くはやはり『罪と罰』や『悪霊』『カラマーゾフの兄弟』などドストエフスキー後期の長編を題材にしていることがほとんどです。

そんな中、高橋氏のこの著作ではドストエフスキーの若かりし時、特にドストエフスキーが流罪になる1849年までの作品を主に論じています。

しかも単にドストエフスキー作品の解説をするのではなく、当時の混沌としたロシア情勢やドストエフスキーがどのようにして作家としての道を歩んでいったのかが詳しく書かれています。

私たちはドストエフスキーを『罪と罰』以降の壮大な長編小説を書き上げた文豪というイメージでまず見てしまいがちですが、実はそうなるまでにはかなりの紆余曲折があり、様々な思想や文学スタイルを経ているのだということがよくわかります。

特にこの本の前半に書かれているドストエフスキーの幼少期からの教育については非常に興味深いことが書かれています。当時のロシア社会がどのような空気の下教育を行っていたのか、そしてドストエフスキーがそこから何を吸収して育っていったのか。

思想的な視点から語られることは多くとも、ドストエフスキーが育ったロシアの時代精神を切り口に語っている本は実は数少ないです。

さらに、この本の終章では「日本の近代化とドストエフスキーの受容」というテーマで論は展開していきます。

1853年に勃発したクリミア戦争や、日本への黒船来襲。黒船といえばペリーがすぐに思い浮かびますがロシアも日本に開国を迫っているという歴史も見逃すことはできません。

ドストエフスキーが生きていた時代とその当時の日本の動きを同時に見ることが出来てぞくぞくするような感覚を覚えました。日本が幕末や明治維新で大混乱だった時期に、まさしくドストエフスキーは憑りつかれたように執筆を続けていたわけであります。

坂本龍馬や徳川慶喜などが同時代人というのは、当たり前のようで意外とイメージが付いていなかったなと実感しました。

また日露戦争とトルストイの関係や、日本の軍事帝国化についての言及など、ロシア文学と戦前の日本の関係も知ることができ、非常に興味深かったです。

若き日のドストエフスキーとロシア情勢を学ぶ際にとてもおすすめな1冊です。

以上、高橋誠一郎『ロシアの近代化と若きドストエフスキー「祖国戦争」からクリミア戦争へ』でした。

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