三島由紀夫『憂国』あらすじと感想~後の割腹自殺を予感?三島のエキスが詰まったおすすめの名作!

三島由紀夫と日本文学

三島由紀夫『憂国』あらすじと感想~後の割腹自殺を予感?軍人の自刃と妻との愛を恐るべき美に昇華した名作

今回ご紹介するのは1961年に新潮社より発行された三島由紀夫著『憂国』です。

早速この本について見ていきましょう。

【新装版、新・三島由紀夫】
「今夜腹を切る」「お供をさせていただきとうございます」――。〔新解説〕佐藤秀明


二・二六事件で逆賊と断じられた親友を討たねばならぬ懊悩(おうのう)に、武山中尉は自刃を決意する。夫の覚悟に添う夫人との濃厚極まる情交と壮絶な最期を描く、エロスと死の真骨頂「憂国」。16歳の実質的デビュー作「花ざかりの森」、著者の生涯にわたる文学的テーマを内包した「中世に於ける一殺人常習者の遺せる哲学的日記の抜萃」等13編。
多彩な魅力の自選短編集。三島自身の解説を付す。

Amazon商品紹介ページより
三島由紀夫(1925-1970)Wikipediaより

上の本紹介にありますように、この作品は2.26事件に際し親友を討たねばならなくなった中尉が「今夜腹を切る」と妻に告げ、そのまま命を絶つという衝撃的な物語です。ページ数にしてわずか30ページほどの短編ですが恐るべき濃密さです。

三島自身、この作品について次のように述べています。

『憂国』は、物語自体は単なるニ・二六事件外伝であるが、ここに描かれた愛と死の光景、エロスと大義との完全な融合と相乗作用は、私がこの人生に期待する唯一の至福であると云ってよい。しかし、悲しいことに、このような至福は、ついに書物の紙の上にしか実現されえないのかもしれず、それならそれで、私は小説家として、『憂国』一編を書きえたことを以て、満足すべきかもしれない。かつて私は、「もし、忙しい人が、三島の小説の中から一編だけ、三島のよいところ悪いところすべてを凝縮したエキスのような小説を読みたいと求めたら、『憂国』の一編を読んでもらえばよい」と書いたことがあるが、この気持には今も変りはない。

新潮社。三島由紀夫『花ざかりの森・憂国―自選短編集―』P331

「もし、忙しい人が、三島の小説の中から一編だけ、三島のよいところ悪いところすべてを凝縮したエキスのような小説を読みたいと求めたら、『憂国』の一編を読んでもらえばよい」

三島自身がこう述べるほどの作品が『憂国』です。私自身、最初の三島体験となった『金閣寺』の次にこの作品を読んだのですが、この『憂国』を読んで私はいよいよ三島の魔力に取り憑かれてしまったのでした。

この作品について『文豪ナビ 三島由紀夫』の花村萬月氏の解説では次のように述べられています。

〈憂国〉は、あるユートピア小説でもある。過日、私は黒澤明監督が戦時中に撮った〈一番美しく〉という映画を観て、ユートピアはある極限状態にしか現出しないという思いを強くした。私たちの生きる現代日本にはユートピアなど微塵も存在せず、だから〈憂国〉の立ちあらわれる隙もない。私も含めて性と暴力を描く小説家のなんと多いことか。けれどその双方の切実さを描ききったことにおいて〈憂国〉に比肩すべき作品は、未だ出現していない。

まずは短篇〈憂国〉を読んでみるべきだ。性的昂奮でもいい。切腹という暴力描写に生唾を呑んだのでもいい。根元的なイデオロギーの問題に胸が高鳴ったのでもいい。なんでもいいのだが、それら総てが生と死という主題に収斂することを肌で感じとって慾しい。ただし論理にだけは堕落しないように。

生と死―。これほど親切な整理のしかたもあるまい。そして〈憂国〉を気に入ったならば三島を読む資格、いや資質をもっているということであるから、臆せずに他の作品に進もう。

新潮社、『文豪ナビ 三島由紀夫』P112-113

「生と死―。これほど親切な整理のしかたもあるまい。」

『憂国』には濃厚な死の気配があります。

幸福な夫婦生活が目の前にあるにも関わらず、中尉は高潔な死を自ら選び取ります。そしてそれに迷いなく殉じる妻・・・。

もしこの小説が中尉一人の自刃であったならばこの作品はここまでの迫力を持っていなかったことでしょう。

と言いますのも、この二人の強い愛はまさに死の対置である生を強調し、その生がまた死を強調するのです。

また、三島自身が「ここに描かれた愛と死の光景、エロスと大義との完全な融合と相乗作用は、私がこの人生に期待する唯一の至福である」と述べるようにこの作品における三島の官能的な描写は飛び抜けています。しかも単に官能的に優れているのではなく、死という存在があるからこそ、生が燃えるような輝きを以て我々の前に現れてくることを示したのでした。

この「死」を強く意識した「生」は次の記事で紹介する『葉隠入門』でも三島が強く主張していたことであります。2020年代を生きる私たちは「死」を見ないように見ないように生きている時代と言えるかもしれません。その私たちより50年以上も前からそんな日本を憂いていたのが三島由紀夫だったのです。三島が現代においてさらに強い意味を持つであろうことをこの作品から私は感じたのでありました。

そして、それにしても中尉の自刃の描写はあまりに強烈です。そしてその壮絶な死の過程を妻が目の前で見届けるのです。このシーンは息を呑まずにはいられません。なぜそこまでして大義に奉ずることができるのか。命を懸けることができるのか。

現代を生きる軟弱な私には想像を絶する世界です。いや、三島が生きた当時の人もきっとそこまでの覚悟を持てる人はほとんどいなかったのではないでしょうか。だからこそ三島の自決はあまりに衝撃的だったのでしょう。

三島はこの小説を発表した9年後の1970年に自刃しています。自らの身体に刀を突き刺し、さらにそこから腹部を割いてゆく・・・まさにこの小説通りの死に様、生き様を見せたのが三島由紀夫という男だったのでした。

「もし、忙しい人が、三島の小説の中から一編だけ、三島のよいところ悪いところすべてを凝縮したエキスのような小説を読みたいと求めたら、『憂国』の一編を読んでもらえばよい」

三島のこの言葉が私の中に強烈に響いています。『憂国』はまさに三島の人生への覚悟が詰まった恐るべき作品です。

また、この『憂国』が収録された『花ざかりの森・憂国―自選短編集―』では、彼のデビュー作『花ざかりの森』も収録されています。この小説はなんと、三島由紀夫16歳の作品です。16歳でこれを書けてしまうのかという衝撃をこの本で味わうことができます。

ただ、その出来栄えといいますか、文体についてはやはりまだまだ16歳。ものすごく背伸びした文学青年という雰囲気です。後の三島を思わせるような片鱗も見せますが、その年で洗練された完璧な美文を書けと期待する方が酷というものです。ですが「16歳でこれを発表した恐ろしく早熟な天才」を目の当たりにする面白さは間違いなくあります。

『憂国』は三島作品の中でも特におすすめしたい作品です。30ページほどの物語の中に三島由紀夫のエッセンスが凝縮されています。

「三島由紀夫をもっと読みたい!」

私はこの作品で間違いなく三島沼にはまることになりました。

ぜひ皆さんもこの作品で三島沼にはまってみてはいかがでしょうか。

以上、「三島由紀夫『憂国』あらすじと感想~後の割腹自殺を予感?三島のエキスが詰まったおすすめの名作!」でした。

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