ゲーテ『若きウェルテルの悩み』あらすじ解説~恋の悩みから自殺する青年の物語

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ゲーテ『若きウェルテルの悩み』あらすじ解説~恋の悩みから自殺する青年の物語

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今回ご紹介するのはゲーテによって1774年に発表された『若きウェルテルの悩み』です。

私が読んだのは新潮社、昭和51年58刷版、高橋義孝訳の『若きウェルテルの悩み』です。

早速この作品について見ていきましょう。

ゲーテ白身の絶望的な恋の体験を作品化した書簡体小説で、ウェルテルの名が、恋する純情多感な青年の代名詞となっている古典的名作である。許婚者のいる美貌の女性ロッテを恋したウェルテルは、遂げられぬ恋であることを知って苦悩の果てに自殺する……。多くの人々が通過する青春の危機を心理的に深く追究し、人間の生き方そのものを描いた点で時代の制約をこえる普遍性をもつ。

新潮社、ゲーテ、昭和51年58刷版、高橋義孝訳『若きウェルテルの悩み』裏表紙

『若きウェルテルの悩み』といえば『ファウスト』と同じく、読んだことは無くとも名前だけは知っている作品の代表例の一つかもしれません。それほど有名な作品ですよね。私もこれまで読んだことがなく、今回初めて読むことになりました。

読んでみての感想は「思いのほか読みやすかった」というのがまず最初に浮かんできました。もっとややこしくて難解なものを想像していたのですがまったくそんなことはありませんでした。

そしてウェルテルの心の葛藤、絶望の苦しみ、半ば狂気のような恋の激情がリアルに伝わって来て、読んでいるこちらにも感染してくるような迫力がありました。徐々に歯止めが利かなくなり危ない精神状態になっていくその過程もかなりリアルです。

現代においてもこの作品はまったく古さを感じない作品です。

そんな『若きウェルテルの悩み』ですが実は文学史上とてつもなく画期的な作品であることを巻末の解説を読むことで知ることになりました。では、その解説を見ていきましょう。

ヴェッツラルにおけるシャルロッテ・プフとの恋愛体験をもとにして作られたこの小説が発表されるや否や(初稿は一七七四年に完成し、一七八四年に第二稿が成った。ここに訳出されたのは、この第二稿である)、読書界は深刻な衝撃を受け、賛否両論の渦が巻き起った。というのも、これはそれまでの小説の常識を完全に打破る作品だったからである。

十八世紀の小説は、恋愛小説にせよ、旅行小説にせよ、読者に娯楽を提供し教訓を与えることを目的としていた。すなわち十八世紀は芸術や文学の本質的機能を、人を「娯しませることと有益であること」(prodesse et delectate)に見ていたのに対して、『ウェルテル』は根源的に人間の生き方そのものを問題にしようとした。読者の思念は主人公がなぜ自殺しなければならなかったかという点に拘わりあわざるをえない。

従来の小説では、愛が人間の自由意志によって死に結びつくなどということは、考えられないことだった。たとえば、ルソーの『新エロイーズ』の女主人公にしても、夫との幸福な結婚生活を送ると同時に、魂の中では恋人と強い愛に結ばれてるが、ウェルテルにはそのような霊肉分離の愛に満足することはまったく不可能であった。

彼は全人的な愛を求めた。しかし彼の宿命的な恋人ロッテがやがて人妻となることは最初からわかっているし、また人妻に恋をすることは、浮世の掟が許さない。そういうどうにもならない状態から脱出して愛を永遠化するために彼に残された唯一の道は、すなわち死だったのである。

永遠の生命を信ずることなしには、死は単にあらゆる希望を閉ざすものでしかない。しかも、死へのあこがれは、ロッテと相知る前にすでに彼の心のうちに芽生えていた。現に彼は、「そういう人間はどんなに浮世の束縛を受けていたって、いつも胸の中には甘美な自由感情を持ち続けているんだ。自分の好む時に、現世という牢獄を去ることができるという自由感さ」(五月二十二日の手紙)と書いている。(中略)

十八世紀においては悲劇文学は戯曲の独占物であって、一般に散文小説には悲劇的素材を表現する能力はないと考えられていたが、『ウェルテル』はこの通念を打破し、また手紙という内的告白の手段を駆使した『ウェルテル』は、小説という文学ジャンルに一つの大きな可能性を切り開いた作品でもあった。
※適宜改行しました

新潮社、ゲーテ、昭和51年58刷版、高橋義孝訳『若きウェルテルの悩み』P197-199

現代では当たり前のように様々な小説やドラマ、映画、物語があり私たちはそれを楽しんでいます。

しかしこの作品が発表された時はそのような状況ではありませんでした。そんな中でゲーテはこの小説で新境地を開いたというのですから驚きです。

現代小説の一つのパターンを生み出したというのはものすごいことだと思います。

また、この小説は主人公ウェルテルが恋の病に苦しみ、絶望していく悲劇的な作品です。読んでいるとこちらもその苦しみに感染してしまうかのような作品です。ゲーテ自身もこの作品について『ゲーテとの対話』で次のように述べています。

話題は一転して、『ヴェルテル』に移った。「あれもやはり」とゲーテはいった、「私がぺリカンのように、私自身の心臓の血であれを育てた。あの中には、私自身の胸の内からほとばしり出たものがたくさんつまっているし、感情や思想がいっぱい入っている。だからたぶん、それだけでもあんな小さな小説の十冊分ほどの長篇小説にすることもできるだろうな。それはともかく、すでにたびたびいったように、あの本は出版以来たった一回しか読み返していないよ。そしてもう二度と読んだりしないよう用心している。あれは、まったく業火そのものだ!近づくのが気味悪いね。私は、あれを産み出した病的な状態を追体験するのが恐ろしいのさ。」

岩波書店、エッカーマン、山下肇訳『ゲーテとの対話』P50-51

著者自身が「もう二度と読んだりしないよう用心している。あれは、まったく業火そのものだ!近づくのが気味悪いね。私は、あれを産み出した病的な状態を追体験するのが恐ろしいのさ。」と述べるほど『ウェルテル』は黒魔術的な魔力を持った作品です。また、この少し後でゲーテはこうも述べています。

個人的な身辺の事情が、私を急き立て、私を悩ませ、私を『ヴェルテル』が生れたあの心理状態へひっぱりこんだのだ。私は生きた、愛した、ひどく悩んだ!―それがあの小説だ。

岩波書店、エッカーマン、山下肇訳『ゲーテとの対話』P52

『ウェルテル』は世界に衝撃を与え、この作品に影響を受けた青年が実際に自殺するという事態が続出するほどでした。それほどまでに感化力の強い小説だったのです。ゲーテが自分で「もう二度と読んだりしないよう用心している」と言うのもわかるような気がします。

リアルタイムで恋に悩んでいる人は気を付けた方がいいかもしれません。読むとこの作品の魔力に憑りつかれてしまう危険性があります。

そんな危険もありますが、世界文学界に衝撃をもたらした『ウェルテル』は一読する価値ありのおすすめの作品です。

以上、「ゲーテ『若きウェルテルの悩み』あらすじ解説~恋の悩みから自殺する青年の物語」でした。

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