三島由紀夫と日本文学

蜘蛛の糸三島由紀夫と日本文学

芥川龍之介『蜘蛛の糸』あらすじと感想~仏教童話として有名な名作短編!地獄に垂らされた救いの糸!

『蜘蛛の糸』は芥川龍之介が初めて書いた児童向け文学で、仏教説話としても有名な名作短編です。私も僧侶という仕事柄、この『蜘蛛の糸』のお話を法話や仏教書で見聞きすることは数多くありますが、このお話はお寺関係という枠を超えて日本人全体に親しまれてきた作品ではないでしょうか。

そして本書巻末解説では『蜘蛛の糸』制作についての詳しい解説が説かれていたのですが、これが私にとってかなりの驚きでした。簡単に要点をまとめると、⑴『蜘蛛の糸』が元々仏教由来なのかどうかはわからないということ、⑵この作品がドストエフスキーやトルストイとも関係があるという2点があげられます。この記事ではこのことについても詳しく見ていきます。

砂の女三島由紀夫と日本文学

阿部公房『砂の女』あらすじと感想~国際的にも高く評価された名作!カフカ的な世界観と国際的な文学とは

本作『砂の女』は20カ国以上の国に翻訳された国際的にも高く評価された名作です。

ストーリー自体はあくまでシンプル!ふと迷い込んだ砂丘で、理不尽にも穴の中の家に閉じ込められた主人公。砂の壁に囲まれた穴から脱出すべく奮闘するも・・・という物語です。

前回の記事で紹介した『箱男』はストーリーが難解で、問題作と言われるほどの奇作でしたが今作『砂の女』は非常に読みやすいです。

ただ、阿部公房らしい不条理な世界観は健在です。

文学の国際性ということを考えることになったこの作品は私にとっても貴重な読書となりました。これは楽しい読書でした。

箱男三島由紀夫と日本文学

阿部公房『箱男』あらすじと感想~箱をかぶればめくるめく世界?MGSの小島秀夫監督にも大きな影響!

今作『箱男』は何とも形容しがたい刺激的な作品です。

まず、そもそもタイトルが謎です。『箱男』って何だ?

私は阿部公房の『箱男』という作品について、これまで名前だけは知ってはいたのでありますが今回いよいよ実際に読んでみることになりました。

私はてっきりチェーホフの『箱にはいった男』のイメージで、何か観念的な物語かと思っていたのですが読んでみてびっくり、物理的に本当に箱をかぶった男の話だったとは!

ぜひぜひおすすめしたい作品です。三島由紀夫を学ぶ流れで読んでみた作品でしたが、その作風の違いなども感じられてとても楽しい読書になりました。

人間失格三島由紀夫と日本文学

太宰治『人間失格』あらすじと感想~ドストエフスキーは罪と罰を対義語として書いたのか?太宰最期の問いに思う

前回の記事で紹介した『斜陽』のように、『人間失格』も読者に強烈な影響を与えることになりました。太宰の文章は読者ひとりひとりに「これこそ私だ!」と思わせる独特の魔力があります。主人公のナイーブなあり方に共感する若者が太宰文学に心酔することになりました。そんな彼らを指した「斜陽族」という言葉が生まれたほどです。

そんな感化力の強い太宰作品の中でもとりわけ魔術的な力が強い作品こそこの『人間失格』です。

そして私個人としてはやはりドストエフスキーと『人間失格』とのつながりがとても興味深かったです。

と言いますのも、この作品の後半ではまさにドストエフスキーに関する議論が挿入され、そこで『罪と罰』について語られていたからでありました。

斜陽三島由紀夫と日本文学

太宰治『斜陽』あらすじと感想~破滅の美学。斜陽族を生んだ名作。三島由紀夫の太宰嫌いを決定づけた作品

本作『斜陽』は太宰治の代表作であり、彼の作品に心酔する若者を指した「斜陽族」という言葉が生まれるほどの社会現象ともなりました。

「『斜陽』は戦争前に裕福だった人々の戦後の没落を描いたものだが、美しく滅びる姿への感動がそこはかとなく伝わってくる」と『文豪ナビ 太宰治』に書かれているように、本作は太宰治らしい破滅の文学です。

また、本書巻末の解説でもロシアの文豪チェーホフの『桜の園』とも関係が深いことが指摘されていましたが、まさにその通り。特に主要人物の一人かず子とその母をめぐる物語はまさに没落貴族の悲哀がこもっています。

ただ、私にとってこの小説は太宰の代表作ということやチェーホフとの関係よりも、三島由紀夫との因縁という点から非常に興味深く読むことになりました。この記事ではその三島との関係をお話ししていきます。

走れメロス三島由紀夫と日本文学

太宰治『走れメロス』あらすじと感想~教科書でもお馴染みの名作を大人になってから読んでみると・・・!

『走れメロス』はたしかに明るい作品です。しかし、後の太宰の人生を考えるとどこかその明るさに悲しさを感じてしまう私がいます。『走れメロス』の理想的な世界観があまりに美しいが故に、太宰の破滅がそこに予感されるような気がするのです。

これは大人になってから人生の色々なことを知っていくにつれてもっと感じていくようなものなのかもしれません。人生の酸いも甘いも知った上でこの明るい名作が投げかけてくるものを感じていく。これは実に贅沢な読書体験です。大人だからこそ楽しめる『走れメロス』なのかもしれません。

走れメロス三島由紀夫と日本文学

太宰治『駆込み訴え』あらすじと感想~ユダの裏切りを太宰流に翻案!人間の弱さ、ずるさ、いじらしさの極致!

この物語は「申し上げます。申し上げます。旦那さま。あの人は、酷い。酷い」というまさに「駆込み訴え」から始まります。誰が何を訴えのか。それこそまさにユダがイエス・キリストを売ったというあの有名な聖書の出来事なのです。

ユダの裏切りはレオナルド・ダ・ヴィンチの絵画で有名な最後の晩餐でもモチーフとなっています。この最後の晩餐でイエスは「12使徒の中の一人がが私を裏切る」と予言し、一同大慌てという図がこの絵で描かれています。

その裏切り者こそユダであり、そのユダがどのように裏切りを働いたかを太宰流に描いたのが本作『駆込み訴え』になります。

「なぜこんなものが書けるのだ!一体どうなっているのだ太宰は!」と思わざるをえないほどよどみのない真っすぐなユダの告発です。ものすごい作品です。

走れメロス三島由紀夫と日本文学

太宰治『富嶽百景』あらすじと感想~「富士には、月見草がよく似合う」の名言で有名な名作短編

本作では破滅から立ち上がらんとする一人の男と美しい富士山が見事に描かれています。

私はこの本を手に取るまでこの作品を知りませんでしたが、一番最初の太宰作品としてとても良い出会いだったなと思います。太宰と三島、両者の文体の違いを鮮明に感じることができました。

ページ数も30頁ほどと、とても読みやすい分量です。

太宰入門としてもこの作品は適役と言えるかもしれません。

ぜひぜひおすすめしたい好短編です。

美しい星三島由紀夫と日本文学

三島由紀夫『美しい星』あらすじと感想~あの三島がSF小説を書いていた!カラマーゾフの兄弟とのつながりも!

あの三島由紀夫が本格SF小説を書いていた!

しかもこの作品はものすごく読みやすいです。作者名が伏せられていたら三島由紀夫だとわからないくらいの読みやすさです。さらに、ものすごく没入感が強く、気づけば小説の世界にすっかり入り込んでしまいます。大杉家の面々が宇宙人であること、そしてそれとは別の宇宙人の存在も物語途中から現れるのですが、どこからどこまでがリアルかSFかわからなくなるほど絶妙な匙加減です。私達は知らぬ間に計算に計算を重ねた三島文学の術中にどっぷりはまることになります。これは面白い。シンプルに面白い!

いやあ、見事な作品でした。

アポロの杯三島由紀夫と日本文学

三島由紀夫『アポロの杯』あらすじと感想~初の世界一周旅行とギリシャ体験を綴った旅行記!三島の芸術観を知るのにおすすめ!

三島由紀夫は朝日新聞の特別通信員という形で1951年末から世界一周の旅に出かけました。この旅の旅行記が『アポロの杯』になります。

三島はアテネやデルフォイの遺跡や芸術を堪能し、その思いを旅行記にしたためます。彼はこの世界一周旅行で様々な地を巡りましたが、この地に対する感動は明らかに突出しています。

そして三島がギリシャの芸術についてどう思うのか、そして自身の文学観、人生観にどのような影響を与えたのかが率直に書かれていますのでこれは非常に興味深いです。

『アポロの杯』には三島の原体験とも言えるギリシャ・ローマ体験がこれでもかと詰まっています。彼の文学や生き方を知る上でも非常に参考になる作品です。