R・スノー『ディズニーランド 世界最強のエンターテインメントが生まれるまで』~夢の国誕生の裏側を知れるおすすめ本!

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リチャード・スノー『ディズニーランド 世界最強のエンターテインメントが生まれるまで』概要と感想~夢の国誕生の裏側を知れるおすすめ本!

今回ご紹介するのは2021年に株式会社ハーパーコリンズ・ジャパンより発行されたリチャード・スノー著、井上舞訳の『ディズニーランド 世界最強のエンターテインメントが生まれるまで』です。

早速この本について見ていきましょう。

世界を変えたいなら、目の前の常識を覆せ――

世間からの批判、嘲笑、度重なる挫折に底をつく資金。
それでも諦めなかった者の熱狂ドラマがここにある!


今こそ読みたい壮大ノンフィクション。
夢の国をつくったのは、リアルで泥臭い、
人間の挑戦のストーリーだった――



リスクを顧みない直感と決断力、そして優れた芸術性とディテールにこだわる緻密さを兼ね備えた天才ウォルト・ディズニー。世紀のアミューズメントパークをこの世に生み出したひとりの男と、彼によって見出された、何十、何百という優秀な人々の知られざる闘いとは――。綿密な調査と取材で明かされる、ディズニーランド誕生の裏側。

今を生きるイノベーターたちに贈りたい、話題の書!

Amazon商品紹介ページより
1963年のディズニーランド Wikipediaより

本書『ディズニーランド 世界最強のエンターテインメントが生まれるまで』は1955年に開業したアメリカ、カリフォルニア・アナハイムのディズニーランドの歴史を知れるおすすめの参考書です。

ディズニーランドと言えば誰もが知る夢の国でありますが、その起源となると意外とわからない!私もその一人でした。

1983年に開業した東京ディズニーランドから遡ること28年。(1990年生まれの私にとって、東京ディズニーランドの開業年ですらよくわかっていませんでした)

カリフォルニアのオレンジ畑や荒野の中に突如出現したディズニーランド。本書はこの前代未聞の巨大テーマパークはいかにして誕生したのか、そしてなぜ私たちはこんなにもディズニーランドに惹かれてしまうのかがよくわかる一冊です。

ウォルト・ディズニー(1901-1966)Wikipediaより

そして上の本紹介にもありますように、このディズニーランドの誕生にはウォルト・ディズニーという驚異の天才の存在は欠かせません。前回の記事で紹介したクリストファー・フィンチ著『ディズニーの芸術』やニール・ゲイブラー著『創造の狂気 ウォルト・ディズニー』でもそのことについて詳しく解説されていましたが、本書ではさらにディズニーランドに特化してその内幕を知ることができます。

ディズニーランドの歴史については、これまで大本営発表的な礼賛やビジネスや接客の手本として語られることが多いですが、この本は一味違います。

この本は単にディズニーを礼賛するのでもなく、その逆に暴露や誹謗中傷するものでもありません。帯に「今こそ読みたい壮大ノンフィクション」と謳われるように、ディズニーランド誕生と開業後の展開をドキュメンタリー風に見ていくことになります。

ウォルト・ディズニーの超人的な想像力、働きぶりはもちろん、彼の無謀な挑戦を現実化させた数多くの人々の奮闘がこの本では描かれます。正直申しまして、ウォルトをはじめこの本で語られるディズニーランド建設の現場は常軌を逸しています。信じられないほどの仕事量です。現代から見るととんでもない超過労働ですが、この猛烈な働きっぷりがなければとてもではありませんがディズニーランドは成立しなかったことが明らかにされます。しかも笑ってしまうほどのドタバタ、無茶な計画でこのテーマパークは作られていました。

工事は難航し、完成は絶望かと思われましたがなんとか予定されていたオープンの日1955年7月17日には客を迎えられる状態にまでこぎつけました。

しかしここからが本番です。オープンと同時にこのテーマパークをアメリカ全土に生放送するというこれまた前代未聞の試みをウォルトは計画していたのでした。

当時のアメリカの人口は1億6900万。そのうち9000万人がディズニーの番組を視聴したそうです。これだけの注目度の中、失敗は許されません。

多くのディズニーの伝記や映像ではこの生中継ではある程度の成功、いや、感動的な大成功として紹介されているのですが(私もディズニープラスの映像で観ました)、実はその裏ですさまじい大混乱も起こっていたのでした。

今の感覚で見ればそれこそ信じられないのですが、あの蒸気船マークトウェイン号は人を乗せすぎてあわや沈没、別の場所では突貫工事の反動でガス漏れ事件が発生し、さらにはカートが事故を起こし子供の前歯が折れ、ダンボのアトラクションからは油がまき散らされるという始末。

そもそも予定されていた招待客は1万人ほどでした。しかしこの日ランドに詰めかけたのはなんと公式集計によれば2万8154人という圧倒的キャパオーバー。しかもこれは正確な数字とは到底言えず、あるスタッフは5万人ほどいたのではないかと証言しているほどです。開園初日に客慣れもしていないランド側にとってこれは悪夢のような事態でした。なぜこんなことになってしまったのか、その理由もぶっ飛んでいます。本書では次のように書かれていました。

オープン当日、早い段階で問題が明らかになっていた。ウォルトが行った10カ月の広告キャンペーンの結果、とんでもない数の人が集まっていたのだ。その日は「プレス・プレビュー・デイ」で、招待客だけが中に入れるよう、入念に計画していたはずだった。1万1000人を招待し、それぞれのグループに3時間ずつパークで過ごしてもらい、最後のグループを5時半に入園させるという、時差入場の予定だった。だがみな、ほとんど時間を気にしなかった。そしてチケットの多くが、ゲスト本人と「お連れ様」が入場できるようになっていた。門番を務めたスタッフはこう語っている。「大きなバスに『連れ』を山ほど乗せてやってきたゲストもいた。チケットは1枚しかないのに」さらには、チケットを早々に送付していたせいで、それを基につくった偽のチケットが大量に出回るはめになったのだった。

中には、偽物であれ本物であれ、チケット自体を持たずに入場する輩もいた。ウッドは言っている。「はしごを立てかけ、有刺鉄線を張った柵を乗り越えて、厩舎のある辺りに飛び降りるやつもいた。そこから簡単に出入りできるんだ。そいつはひとり5ドルの金を取って人を中に入れていた」

株式会社ハーパーコリンズ・ジャパン、リチャード・スノー著、井上舞訳『ディズニーランド 世界最強のエンターテインメントが生まれるまで』P393

「大きなバスに『連れ』を山ほど乗せてやってきたゲストもいた」というのは傑作ですよね。私も度肝を抜かれました。

現代日本に生きていればどこに行っても順番を守って整列するのが当たり前の風景ですが、もしキャパ1万人のところにこんな群衆が押し寄せたらどうなるでしょうか。案の定、ランド内は大パニックになっていたそうです。しかもトイレも足りず、水も食べ物も手に入れられないという状況。ですが現場の混乱をよそに、テレビの生中継はなんとかこの大混乱を乗り切り、楽しいディズニーランドを紹介することに成功したとのこと。視聴者はこの夢の国に熱狂することになりましたが、その舞台裏はまさに壮絶そのものでした。ディズニーランド開業という栄光の一日はディズニー側にとって「暗黒の日曜日」でもあったのでした。この日のエピソードは本書のハイライトと言ってもよいでしょう。ものすごく面白いです。

「暗黒の日曜日」を終えたランドには故障した大量のアトラクションが残され、オペレーションの問題も山積みでした。こんな状態でどうやって次の日から営業するのか。読んでいてほとほと疑問になりましたが彼らはそれをやってのけたのです。開業前の鬼のような猛烈労働と困難を解決する想像力、機転がここでも発揮されるのです。

そしてそうこうしている内に9月末頃にはかなり安定した営業ができるまでになっていたそうです。アンビリーバボー。

いや~面白い!ぜひぜひこのディズニーの恐るべき底力を読んで頂きたいです。

そして本書と合わせて2023年に出版された『ウォルト・ディズニー・ワールドの肖像 魔法の国の50年』という作品もおすすめです。

こちらはフロリダに作られた二番目のディズニーランドについて書かれた作品で、ある種本作の続編のように読むことができる一冊です。本作で語られたディズニーランドとの違いを感じながら読むのは非常に刺激的です。

私はディズニーランドが大好きです。ですが正直これまでディズニーランドについて学ぶことはあえて自分に禁じてきました。この国の裏側を知ってしまったら、夢から覚めてもはや二度と楽しめなくなってしまうのではないかと恐れていたからです。

ですがその心配も杞憂でした。ディズニーランドに込められた思いやその技術を知れば知るほど驚異の念に満たされるようになっていきました。私はディズニーを学ぶ以前よりもずっとずっとディズニーのことが好きになっています。

何も恐れる必要はありません。なぜディズニーランドがこんなにも楽しいのか、知れば知るほどその楽しみが増してきます。私も次にディズニーランドに行ける日が楽しみでなりません。

これは面白い読書になりました。ぜひぜひおすすめしたい作品です。

以上、「R・スノー『ディズニーランド 世界最強のエンターテインメントが生まれるまで』~夢の国誕生の裏側を知れるおすすめ本!」でした。

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