『スターリングラードー運命の攻囲戦1942-1943』戦争ノンフィクションの金字塔

ソ連とドストエフスキー

独ソ戦最大級の市街戦 戦争ノンフィクションの金字塔 アントニー・ビーヴァ―『スターリングラードー運命の攻囲戦1942-1943』

今回ご紹介するのは2002年に朝日新聞社より出版されたアントニー・ビーヴァー著、堀たほ子訳『スターリングラードー運命の攻囲戦1942-1943』という本です。

スターリングラードの攻囲戦は独ソ戦の勝敗に大きな影響を与えた最大級の戦闘の一つです。

モスクワ攻防戦が郊外での防衛戦であり、レニングラードの戦いは包囲戦でした。それに対しこの戦闘はスターリングラード周辺地域だけでなく大規模な市街戦となったのが特徴です。空爆と砲撃で廃墟となった街の中で互いに隠れ、騙し合い、壮絶な戦闘を繰り広げたのがこの戦いでした。スターリングラードの死者はソ連側だけで80万人を超えると言われています。

では、巻末の解説より、この本の内容を見ていきましょう。

本書は、イギリスの戦史作家アントニー・ビーヴァーが一九九八年に発表した話題の戦争ノンフイクション Stalingrad の全訳である。

第二次世界大戦の転回点となったスターリングラードの戦いを独ソの新資料をもとに丹念に描いた本書は、発表と同時に大きな反響を呼び、ハードカバー版とペーパーバック版の両方がイギリスのべストセラー第一位に輝いた。これは戦争ノンフィクションとしては異例のことである。

M・R・D・フット、ジョン・キーガン、マックス・へイスティングズといったイギリスの一流戦史家たちも《タイムズ》や《デイリー・テレグラフ》などの高級紙の書評で、本書に惜しみない賛辞を送った。

第二次世界大戦を左右した有名な激戦として、すでに語りつくされたかと思われたスターリングラード戦のノンフィクションが、なぜこれほどまでに注目を集めたのだろう。もちろんソ連邦の崩壊によって新たに西側に公開された資料を利用していることも理由の一つだが、書評が軒並み称賛しているのは、本書の語り口のすばらしさである。

著者ビーヴァーは元英国陸軍の機甲部隊将校で、著作活動に入るために陸軍を除隊後、戦争ノンフィクションのほかに四冊の小説を発表している。つまり、軍事の知識と物語作者としての才能をあわせ持っているということだ。

そのおかげで、本書は、部隊の動きや死傷者を羅列するだけの無味乾燥な戦況分析に終わっていないし、また出典の定かではない逸話をまとめただけの戦記読み物にも堕していない。

著者は膨大な資料や独ソの記録庫に眠る資料に丹念に目を通し、軍事の専門家としてその真贋を見極めて、疑いようのない証拠として読者にそれを提示する。まるで練達の弁護士のように事実を効果的に積み重ねながら、スターリングラードの戦いの真の恐怖を浮かび上がらせていくのである。
※適宜改行しました

朝日新聞社、アントニー・ビーヴァー著、堀たほ子訳『スターリングラードー運命の攻囲戦1942-1943』P529-530

この引用にもありますように、この本の臨場感はものすごいです。そして戦闘の経緯もかなり詳しく語られ、まるで小説を読んでいるかのように舞台が展開していきます。

ビーヴァーの語り口のなかでもとくに印象的なのは、効果的に挿入される両軍の兵士たちの肉声だろう。(中略)

ビーヴァーは本書執筆のために独ソ両軍の数多くの関係者から直接話を聞いており、そうした証言が各所にちりばめられている。また、戦後間もない時期に刊行された手記や回想録からの引用も効果的に用いられて臨場感を高めている。

しかし、本書でとりわけ印象的なのは、スターリングラード戦当時に書かれた日記や兵士の手紙などが使われている点である。前線でまさに死に直面している独ソ両軍兵士たちの手による生々しい言葉は、戦場での恐怖とその裏返しの楽天主義、一縷の希望といったものを読む者の心に強烈に焼きつけずにはおかない。(中略)

著者は、こうした肉声で作品に血を通わせながら、スターリングラードをめぐる独ソ両統帥部の動きや戦術を、神話や潤色を極力廃しながら冷静に描いていく。プロパガンダ的なソ連側資料には疑いの目を向け、ユダヤ人虐殺に関与していないというドイツ国防軍の主張には証拠を示して反論する。

そこで明らかになるのは、ドイツとソ連という、どちらも独裁者を戴くニつの国における人命の驚くべき軽視の実態である。批判的な言葉をロにしたソ連兵は政治将校によって情け容赦なく銃殺され、スターリングラード死守を命じられたドイツ兵は、満足な食糧も防寒具も与えられず、飢えと寒さでぼろ切れのように死んでいく。

歴史小説の著作もあるミステリー作家のアントニア・フレーザーは、「真夏に読んでいたのに、骨の髄まで震えあがった」と本書を評した。
※適宜改行しました

朝日新聞社、アントニー・ビーヴァー著、堀たほ子訳『スターリングラードー運命の攻囲戦1942-1943』P530-531

単なる戦況分析や出来事の羅列ではなく、そこにいた人々の肉声を組み込むことで血肉の具わった物語が浮かび上がってきます。ここがこの本の特徴となっています。

著者はさすが元機甲部隊将校だけあって、ときに複雑きわまりない戦術的状況を正しく把握し、作家としての才能を生かして一般の読者にもわかりやすい言葉で説明している。そのリーダビリティーの高さが、英米で多くの読者を獲得した大きな理由だろう。

本書はスターリングラード戦を描いたノンフィクションの決定版であるだけでなく、ニ〇世紀の最後を飾る戦争ノンフィクションの金字塔といって過言でない。戦史に関心のある読者だけでなく、ふだん戦史などめったに手にされない方々にもぜひ読んでいただきたい一冊である。
※適宜改行しました

朝日新聞社、アントニー・ビーヴァー著、堀たほ子訳『スターリングラードー運命の攻囲戦1942-1943』P531

訳者解説でも絶賛された本書ですが、この本はたしかに面白かったです。一気に読み込んでしまいました。

独ソ戦の流れを決したスターリングラードの戦いをこの本では余すことなく知ることができます。

この戦いを境にナチスドイツ軍は敗北への道を一気に転げ落ちていくことになります。

モスクワ攻防戦では郊外での巨大な戦闘と冬将軍の到来を。

レニングラード包囲戦では信じられないほどの餓死者を出した惨劇を。

スターリングラードの戦いでは史上最大規模の市街戦を目撃することになります。

独ソ戦ではそれぞれの戦いでそれぞれの戦闘がありました。しかもそのどれもが常軌を逸した巨大な戦いです。

独ソ戦のあまりの規模に衝撃を受けることになった最近の読書でした。

この本も非常におすすめです。たった数メートルの陣地をめぐり死闘が繰り広げられた市街戦の恐ろしさを知ることになります。ぜひ手に取って頂けたらなと思います。

以上、「『スターリングラードー運命の攻囲戦1942-1943』戦争ノンフィクションの金字塔」でした。

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