ミケランジェロ作品の特徴とその魅力とは!古代ローマ芸術とのつながり イタリア・バチカン編③

イタリア・バチカン編

ミケランジェロのここがすごい!彼の圧倒的な才能の源泉を解説!僧侶上田隆弘の世界一周記―イタリア・バチカン編③

前回までの記事でバチカン美術館とシスティーナ礼拝堂を紹介したが、みなさんの中にはこのように思われた方もおられるかもしれない。

「そもそもシスティーナ礼拝堂って何?何がすごいの?」

「ミケランジェロが有名なのはよく聞くけど、なぜそんなに有名なの?」

かくいうぼくもそれがずっと疑問だった。

現地に着いてからもそれをわからないまま鑑賞し、それでも圧倒的な美しさに心を奪われてしまったものだ。

ぼくは朝食後に見た静寂のシスティーナ礼拝堂での感動をきっかけに、もっとこの礼拝堂やミケランジェロについて知りたいと思うようになった。

そこで、その日の昼間、美術館内のショップでガイドブックを購入し、その場で読んでみることにしたのだ。

現地で買ったガイドブック

今回はこの本で学んだことや帰国後に集めた資料等を参考にしてシスティーナ礼拝堂とミケランジェロについてざっくりお話ししていこうと思う。

システィーナ礼拝堂

システィーナ礼拝堂は当時の教皇シクストゥス4世の要請で作られ、1477年に着工し1481年に完成した建物だ。

システィーナ礼拝堂という名も、教皇シクストゥス4世の名にちなんでつけられたものだ。

当時のバチカンでは芸術振興を通して信仰の力を示そうという流れが存在していた。

そう。この時代はルネッサンス芸術が花開いていた時代。

芸術の都フィレンツェであのレオナルド・ダ・ヴィンチやボッティチェリが活躍していた時代だ。

そのような時代にあってこのシクストゥス4世は、「バチカンにも最高峰の芸術を」という熱意に燃えてこの礼拝堂を建築したのであった。

完成後、多くの著名画家がこの礼拝堂の壁画や天井画を完成させていくが、実はこの時はまだミケランジェロの出番ではない。

ミケランジェロが登場するのは、礼拝堂完成のおよそ30年も後のことであった。

ミケランジェロに白羽の矢が立ったのは1508年。

当時の教皇ユリウス2世による依頼だった。

というのも、最初に描かれた天井画が早くも傷みだし、これを機に当時から名声が轟いていたミケランジェロによって新たに天井画を書き直すというプランが教皇の脳裏に閃いたからであった。

しかしミケランジェロはその依頼に困惑した。

「私は彫刻家であって画家ではない。不慣れな天井画は私には書けない」と直訴するも教皇に押し切られ結局依頼を受けることになったのだった。

このエピソードを知るまで、ぼくのイメージではミケランジェロは画家だった。

しかしミケランジェロ自身は彫刻家こそが自分の天分だと考えていたし、実際に生涯にわたってその通りだった。

ミケランジェロの傑作 ピエタ像 サンピエトロ大聖堂

ではなぜミケランジェロは彫刻家にも関わらずこれだけの傑作を描けてしまったのか。

その秘密はミケランジェロが持つ並外れたデッサンの才能によるものだとされている。

彫刻家になるためには、デッサンの能力が不可欠だ。

デッサンの能力とは世界の認識能力とその表現能力に他ならない。

ミケランジェロは若かりし頃からその能力がずば抜けて高かったと伝記にも記されている。

そしてミケランジェロの天井画や壁画に大きな影響を与えたのが、実は古代ローマの彫刻群だったと言われている。

ベルヴェデーレのトルソ バチカン美術館

これは紀元前1世紀に製作されたベルヴェデーレのトルソという彫刻だ。

ミケランジェロはこの像を見て絶賛したという。

彫刻家は筋肉の動きに精通していなければならない。

レオナルド・ダ・ヴィンチもそのために人体の解剖図を精緻に描き、人体の構造に精通していた。

同じようにミケランジェロはこの像の筋肉の盛り上がり方、肉感の表現に強いインスピレーションを受けた。

そしてぼくはこの像を見た後、天井画のある部分を見て度肝を抜かれた。

それをぜひ紹介したい。

これは天井画の最も目立つ位置に描かれている預言者ヨナの絵。

最後の審判の真上に描かれた絵だ。

どうだろうか。2枚の写真を見比べてほしい。

みなさんはお気づきだろうか。

そう。太ももの筋肉の描き方が驚くほどトルソにそっくりだ。

上半身の筋肉の描き方もぼくには共通点を感じる。

ミケランジェロは明らかに古代ローマ彫刻からインスピレーションを受けている。

ミケランジェロの描く人間の特徴はその筋肉の描写にあるとされている。

もう一枚天井画からその描写を覗いてみよう。

先程のヨナの絵のすぐ右側にある「リビアの巫女」の絵だ。

お土産のポストカードを写真に収めたものなので見にくいかもしれないが、いかがだろうか。

こちらの絵も肩周りの筋肉の描き方もミケランジェロ特有の描き方と言われている。

そして爪先の描写にも注目したい。

なんと絶妙な力加減だろうか。全身の力を支える爪先の絶妙なバランス。

脚の筋肉の描き方からも力の流れを感じられるかのようだ。

ミケランジェロの絵には動きがある。

この絵も巫女が今にも本を閉じ、立ち上がろうかという動きが感じられる。

絵というものはもちろん、静止画だ。

しかしミケランジェロはその一瞬の静止点を通して、動きを表現することに成功した。

ここにミケランジェロの偉大な点がある。

そしてその技術を駆使した最高傑作こそ、ここシスティーナ礼拝堂の壁画『最後の審判』なのだ。

この壁画は天井画の完成の24年後の1536年、今度は教皇パウルス3世の強い依頼で作業に着手。

このときミケランジェロはすでに60歳を迎えようとしていた。

当時ではかなりの老齢だ。

それでもなお5年の歳月をかけこの大作は完成された。

この絵を見る際のポイントは中央上部に位置するイエスの姿勢だ。

右手を上に掲げ、体に若干のひねりが見られる。

この右手と体のひねりによって、絵全体が時計回りに回転するかのような動きが生まれる。

絵の左側は、墓地から天国に引き上げられる人々。

そして右側は地獄へと引きずり込まれる悪人たち。

イエスの右手と体のひねりによって絵全体が動き出すという劇的な効果をミケランジェロは描き出したのだった。

この効果もミケランジェロは古代ローマの彫像からインスピレーションを受けている。

バチカン美術館所蔵のラオコーン像だ。これも古代ローマ時代のもの。

これが発見された1500年初頭では、ヨーロッパ世界の絵画や彫像では体にひねりを入れたり動きを表現することはほとんどなかった。

そんな時代にこんなに躍動感のある像が発見されたというのは非常なショックを世の中に与えたことだろう。

歴史とは不思議なものだ。

ミケランジェロがローマに来たころ、ちょうどこれらの彫像が発掘され、バチカンで保存され展示されるようになった。

これがバチカン美術館の始まりと言われている。

ミケランジェロという偉大な天才がたまたまこの時代に生まれ、そしてたまたま同時代に古代ローマ時代の作品が発掘され、偉大な天才との出会いを果たした。

偶然とはわかっていても偶然を超えた何かを感じずにはいられない。

古いものを単に古臭いものとあしらうのではなく、そこからインスピレーションを得て現在に生かすという偉業をミケランジェロは成し遂げた。

過去を現在に蘇らせ、さらにかつてより生き生きとした生命力を与えるというのは並大抵の人間にできることではない。

だからこそミケランジェロは世界史上最高峰の天才と呼ばれるのではないだろうか。

さて、長々とシスティーナ礼拝堂とミケランジェロについてお話ししてきたが、書いていて実感することがある。

「システィーナ礼拝堂とミケランジェロを一つの記事で簡潔に述べるなどというのはあまりにも無謀な話であった」と。

システィーナ礼拝堂の歴史や神学的意味を取り扱うだけでも本来膨大な量の記事になる。

ましてミケランジェロの作品まで言及しようとなるともうこれは収拾がつかないことになる。大惨事としかいいようがない。

システィーナ礼拝堂に描かれた天井画や壁画は見る者を魅了する。

そしてそれだけではなく、キリスト教神学の神髄がそこには語られている。

ぼくはあえて今回の記事では宗教的に意味するところの解説はしなかった。

もし興味のある方がいれば様々な書籍が出ているのでそちらを読んでいただければ幸いだ。

最後に、バチカンの公式ホームページで面白いものを発見したのでそちらを紹介してこの記事を終えようと思う。

システィーナ礼拝堂は写真撮影厳禁なため、中の様子はポストカードの写真でしかご紹介できなかった。

しかし、このページではまるで自分がシスティーナ礼拝堂に入って見学しているかのような視点で堂内の様子を見ることができる。

ぼくの記事で伝えきれなかった礼拝堂の迫力と美しさをそこで感じて頂けたらと思う。

システィーナ礼拝堂は本当に素晴らしい。

ここには圧倒的な体験がある。

ぜひ機会のある方はゆっくりとこの空間を味わってほしい。

続く

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