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フランス人作家エミール・ゾラとドストエフスキー ゾラを知ればドストエフスキーも知れる!
前回の記事『デパートはここから始まった!フランス第二帝政期と「ボン・マルシェ」』ではデパートが私たちの消費資本主義社会の成立に多大な影響を与えたことをお話ししました。
欲望を刺激し、人々の「欲しい」という感情を意図的に作り出していくという商業スタイルが確立していったのがこの時代でした。
第二帝政期は私たちの生活と直結する非常に重要な時代です。
そしてドストエフスキーはそのようなフランスに対して、色々と物申していたのです。
と、いうことは、ひょっとするとドストエフスキーは現代人たる私たちの生活にも物申しているということになりはしないでしょうか。
なぜなら当時のフランスが私たちのライフスタイルの原点になっているからです。
そう考えてみると、シベリア流刑後のドストエフスキーが数多くの作品でヨーロッパを批判した箇所というのは、そのまま私たちの生き方についての批判でもあるということになるのではないでしょうか。
「君たちはそれでいいのかい?本当にその生き方でいいのかい?」
ドストエフスキーはそんな問いかけを私たちにしているのかもしれません。
となるとやはりこの時代のフランスの社会情勢、思想、文化を知ることはドストエフスキーのことをより深く知るためにも非常に重要であると思いました。
第二帝政期のフランスをさらに深く知るには何を読めばいいだろうか…
そう考えていた時に私が出会ったのがフランスの偉大なる作家エミール・ゾラだったのです。
エミール・ゾラとの出会い
ここまでフランスの歴史や文化を学んできましたが、その際に非常にお世話になったのがフランス文学者の鹿島茂氏の本たちでした。
ドストエフスキーが青年期に憧れた19世紀前半のフランスの文化をはじめ、第二帝政やパリ万博についての著作も多数あり、ここまでのブログでも何度も何度も紹介させて頂きました。
フランス文化を学ぶなら鹿島氏の著作がとにかくおすすめです。
さて、その鹿島氏の著作を片っ端から読み込んでいく中で、度々エミール・ゾラという作家についての言及がありました。
特に、前回のデパートの記事で紹介した 『デパートを発明した夫婦』 ではエミール・ゾラの『ボヌール・デ・ダム百貨店』という小説を重要視していました。
鹿島氏の『デパートを発明した夫婦』がそもそもとても面白い本だったのですが、その参考書として用いられていた エミール・ゾラの『ボヌール・デ・ダム百貨店 』とは一体どんな小説なのだろうと私は興味が湧いてくるのでした。
そして他の本でもゾラの『ナナ』という小説は近代資本主義や第二帝政末期の腐敗を学ぶには最高の本であるということが述べられており、ますますエミール・ゾラという作家に興味を持つことになったのです。
エミール・ゾラとはどんな作家か
エミール・ゾラは1840年に土木技師の子としてパリで生まれました。
ゾラが作家として確固たる地位を得たのは1877年の『居酒屋』という小説の大ヒットがきっかけで、その後も1880年の『ナナ』、1885年の『ジェルミナール』も空前の大ヒットとなり、彼の代表作として今もなお世界中で親しまれています。
ドストエフスキーが生きたのは1821-1881年です。
エミール・ゾラは1840ー1902年の生涯ですので、ドストエフスキーより20歳ほど年下になります。
ドストエフスキーの記録では直接このエミール・ゾラとの関わりがあったかは正確にはわかりませんが、直接強い影響を受けたということはあまりなさそうです。
しかし、ゾラが描いたのはまさしく第二帝政の時代です。
バルザックが19世紀前半のフランスを詳細に描いたとするなら、ゾラは第二帝政期を誰よりも細かく描写したと言うことができるでしょう。
また、面白いことにゾラはロシアの文豪ツルゲーネフと深い関係がありました。
ツルゲーネフはトルストイ、ドストエフスキーと同時代に活躍したロシアの文豪です。
当時はドストエフスキーよりもツルゲーネフの方が世界的に有名であったほどです。
ツルゲーネフはヨーロッパ思想どっぷりの作家で、個人的な因縁もあり、ドストエフスキーのライバルであり宿敵でもありました。
この辺の顛末はどのドストエフスキー伝記にも書かれていますので興味のある方はぜひ一読ください。
さて、ゾラは社会環境を精密に描写し、社会が人間に対してどのような影響を与えるのかという作風を持つ作家です。科学的に、そして合理的にものを見ていくというまさしくヨーロッパ的な思考法が感じられます。
となるとこれはドストエフスキーを学ぶ上で最高の機会になるのではないかと私はふと思ったのです。
なぜなら、第二帝政期のフランスを余すことなく描いていて、なおかつドストエフスキーとは反対のヨーロッパ的立場で書かれているということは、ゾラの作品はドストエフスキーとの比較対象として最もわかりやすいものになるのではないか、そう思ったのです。
こうなったらもうまずは読んでみるしかありません。
私は彼の代表作、『居酒屋』から手始めに読んでみることにしたのでありました。
続く
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