インドにおける仏教

大乗仏教の誕生インドにおける仏教

『シリーズ大乗仏教 第二巻 大乗仏教の誕生』~大乗仏塔起源を批判したショペンの説の概略を知れるおすすめ参考書

今作『シリーズ大乗仏教 第二巻 大乗仏教の誕生』は前作『シリーズ大乗仏教 第一巻 大乗仏教とは何か』に引き続き、最新の仏教研究の成果が盛り込まれた論集となっています。

この本の中で私が特にありがたいなと感じたのは下田正弘氏による第二章「経典を創出する—大乗世界の出現」の章の存在です。

この章の中でこれまで当ブログでも紹介したグレゴリー・ショペンの説がわかりやすくまとめられています。現代における仏教学においてとてつもない影響をもたらしたショペンの説の概略を学べるのは非常にありがたいものがありました。

インド大乗仏教の虚像と断片インドにおける仏教

G・ショーペン『インド大乗仏教の虚像と断片』~インド仏教研究に革命を起こした泰斗による最新の論文集!

今作もショペン節全開で刺激的な読書になること間違いなしです。

私の中で特に印象に残っているのが第3章の「ブッダの遺骨と比丘の仕事」と第8章の「クシャーナ期阿弥陀仏像碑文とインド初期大乗の特質」です。

「原始仏教は葬式をしない。遺骨への供養も存在しない。それなのに日本仏教は葬式や先祖供養をする。これは仏教として間違っている」

このような批判が今も根強く残っていますが、実はこの批判そのものがもはや学術的に成立しないことがショペンの説から明らかになります。当時のインド仏教徒にとっても遺骨の存在は大切なものだったということが考古学的な証拠から明らかにされつつあります。これは刺激的な論稿でした。

また真宗僧侶である私にとって阿弥陀仏像の碑文のエピソードは非常に興味深いものがありました。

インドの僧院生活インドにおける仏教

G・ショペン『大乗仏教興起時代 インドの僧院生活』~定説だった大乗仏塔起源説を覆した衝撃の説!インド仏教の実際の姿とは!

大乗仏教は紀元後から小乗仏教を批判する形で生まれ、大きな勢力となりやがては中国を経由して日本にやって来た。私たちはそうしたイメージで大乗仏教を考えてしまいがちですが、大乗仏教教団そのものが5、6世紀になるまで存在していた形跡がないというのは驚くべき事実です。大乗経典自体は紀元一世紀頃から生まれてはいるものの、小乗教団と別の形で大乗教団が存在していたわけではないとショペンは言うのです。

「経典があるのに教団がないってどういうこと?」と皆さんも不思議に思うかもしれません。私もそうでした。

ですがショペンはこの本の中で鮮やかにその仕組みを解き明かします。正直、衝撃としか言いようがありません。

大乗仏教とは何かインドにおける仏教

『シリーズ大乗仏教 第一巻 大乗仏教とは何か』~最新の研究を基に様々な視点から大乗を考察する参考書

『シリーズ大乗仏教』は最新の研究成果が反映されているところにその特徴があります。

出版されたのが2011年と、今から十年以上前ではないかと思われるかもしれませんが1900年代の仏教学と比べるとその学説は大いに変化したものがあります。

その変化については以前当ブログでも紹介した『新アジア仏教史02インドⅡ 仏教の形成と展開』でも紹介されていて本書とも重なる内容も多いのですが、『新アジア仏教史』シリーズとは違う執筆陣による論集になりますので、さらに広い視野をこの本で得ることができます。

この本では仏教学の現在についてや参考書なども豊富に掲載されています。ですのでここで述べられるように、これから大乗仏教を学びたいという方への「確かな道標」となる作品です。

新アジア仏教史03インドにおける仏教

『新アジア仏教史03 インドⅢ 仏典からみた仏教世界』~仏伝や経典に説かれる史実はどこまで史実たりえるのだろうか!

「現在われわれの手元にある経典の記述を鵜呑みにして今から二五〇〇年前の仏教の実像に迫ることは不可能であるし、また客観的・批判的研究のフィルターを通しても、その作業は困難を極める。」

私たちはブッダの生涯をこれまで様々なところで見聞きしたことがあると思います。ですが、ここで語られるように実はブッダの歴史的な事実というのはわかっていないことも多々あります。

それをこの本では経典や資料を用いて丁寧に見ていくことになります。特に本書前半の仏伝に関する解説は私にとっても非常に刺激的なものとなりました。

この「新アジア仏教史」シリーズは読む度に新たな驚きがあります。しかも参考資料なども掲載されているのでこれからの学びの指針も与えてくれます。これもとてもありがたいポイントです。

新アジア仏教史02インドにおける仏教

『新アジア仏教史02インドⅡ 仏教の形成と展開』~仏教のイメージが覆る?仏教学そのものの歴史を問う参考書

私達が当たり前だと思って享受していた〈仏教学〉が日本の仏教思想や文化とは全く無関係に生まれたものだった。

この本を読めば〈仏教学〉というものがどんな流れで生まれてきたのか、そしてそれがどのように日本にもたらされ、適用されることになったのかがよくわかります。

日本仏教に対する批判で多いのは「原始仏教と比べればなんと日本仏教は堕落しているのか」というものなのですが、こうした批判がなぜ生まれてきたのかも考えることになります。そして同時にこの批判の問題点についても私達読者は気づくことになるでしょう。

この本は改めて〈仏教学〉という学問そのものを俯瞰で見ることができる素晴らしい作品です。

新アジア仏教史01インドにおける仏教

『新アジア仏教史01インドⅠ 仏教出現の背景』~仏教とカースト制の関係や時代背景を学ぶのにおすすめ!

この本は仏教教団が生まれた当時のインド社会を知るのにおすすめの作品です。

仏教もゴータマ・ブッダという偉大な人物が突然生まれたわけではなく、古代より続くインド世界の文脈の中で生まれてきたことがよくわかります。

当時の社会事情を見ていくことで思想や理論だけでは見えてこない仏教教団の姿が見えてきます。これは刺激的でした。やはりインドは一筋縄ではいかない存在だなと改めて実感することになりました。

『新アジア仏教史』シリーズは2010年段階最新の研究が反映されています。その点もこのシリーズのおすすめポイントとなっています。

大乗仏教の思想インドにおける仏教

中村元選集第21巻『大乗仏教の思想』~原始仏教と初期大乗について考えるのに刺激的なおすすめ参考書

今作では日本仏教にも直接関わってくる大乗仏教の思想やその成立・発展過程を知ることができます。中村元先生の特徴は単に思想だけでなく当時の時代背景と絡めて語る点にあります。この本でも当時の時代背景や当地の気候風土、民族性など幅広い視点から仏教を見ていきます。

この本では冒頭からいきなりドキッとする指摘がなされます。記事タイトルにありますように仏教とは何かを考える上で非常に興味深い指摘満載の名著です。

パウッダインドにおける仏教

中村元、三枝充悳『バウッダ[佛教]』~阿含経とは何か、大乗経典の成立伝播の過程を学ぶのにおすすめの参考書

この本は日本ではあまり馴染みのない阿含経典についてや大乗仏教の成立伝播の過程を学べる参考書となっています。

私も阿含経典とはどのようなものなのか、いつどのようにして日本に入りどのように読まれてきたのかということに興味があったのでこの本は非常にありがたいものがありました。詳しいながらもわかりやすい解説ですので仏教をより深く学びたい方にも読み応え抜群だと思います。

大乗仏教についてもその成立と伝播の過程がわかりやすく解説されます。日本に伝わってきた仏教がどのようなものだったのか、また日本で信仰されてきた仏教とインドの原始仏教との違いがこの本で明らかにされます。

仏教とは何かを考える上で素晴らしい参考書であるのは間違いありません。

原始仏教から大乗仏教へインドにおける仏教

中村元選集第20巻『原始仏教から大乗仏教へ』~仏教史の転換点!日本仏教を考える上でも重要な示唆が満載の名著

今作ではこの時代の仏教思想の豊かさや当時の時代背景とのつながりを学ぶことができます。

また、大乗仏教が生まれてくる萌芽もこの本では詳しく見ていくことになります。大乗仏教は民衆を無視した既存教団への反発から生まれたという単純な構図で語られがちですが、実際はそう簡単な話ではありません。もちろん、そうした側面もあったかもしれませんが、そこには様々な社会要因も絡んでいたこともこの本では学べます。

入門書としてはかなり厳しい内容ですがより詳しく仏教を学びたい方にはとてつもなく読み応えのある大作です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。