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フスト・ゴンサレス『キリスト教史』あらすじと感想~キリスト教の歴史の大枠を学ぶのにおすすめの参考書!

キリスト教
目次

フスト・ゴンサレス『キリスト教史』概要と感想~キリスト教史を学ぶならこれ!

本日は新教出版社の石田学、岩橋常久訳、フスト・ゴンサレス『キリスト教史』をご紹介します。

著者のフスト・ゴンサレスは1937年にキューバの首都ハバナに生まれ、ハバナ大学で哲学を学び、合同神学校を卒業後キューバで合同メソジスト教会の牧師を務め、57年にアメリカへ移住しています。

これまでこのブログではドストエフスキーとキリスト教、特にロシア正教に関する本を紹介してきましたが、今回はキリスト教全体の歴史を学ぶための本をご紹介します。

アメリカで出版されたこの本はキリスト教史の教科書として最も広く用いられているようです。訳者あとがきでは次のように述べられています。

本書はアメリカで出版された当初から注目され、その記述の明快さ、平易さ、そして歴史的・神学的視点の明確さのゆえに、きわめて高い評価を受けている。現在、少なくとも英語圏の神学大学、神学校におけるキリスト教史の教科書としては、本書が最も広く用いられているようである。

新教出版社 石田学、岩橋常久訳、フスト・ゴンサレス『キリスト教史』上巻P453

この本の最大の特徴として訳者は次のように述べます。

なんと言っても本書の最大の特徴は、勝利主義的歴史観に立っていないことである。(中略)

ゴンサレスは、たとえば十字軍を、キリスト教世界の視点に基づいた「成功」「失敗」といった意識で評価しようとはしない。

彼は、十字軍がもたらした最も明白な事態は、イスラムとキリスト教の相互不信と敵意であったと明言している。このような解釈は、イスラムの人々にとっても深い共感を呼び起こすであろうし、(たとえば、アミン・マアルーフ『イスラムが見た十字軍ーちくま書房、二〇〇一年)、それと同時に、現代の西欧世界とイスラム世界の置かれている現実を理解するうえでも大きな手がかりとなるであろう。

同様の視点は、コンスタンティヌス大帝とそれ以後のキリスト教についての記述や植民地主義時代のキリスト教の記述など、随所にはっきりと表明されている。そのため、いわゆるキリスト教世界ではない日本に住んでいる人々にとって、ゴンサレスの歴史観はたいへん理解しやすく、また共感できるはずである。
※適宜改行しました

新教出版社の石田学、岩橋常久訳、フスト・ゴンサレス『キリスト教史』下巻P386

訳者が述べますように、この本では「キリスト教こそ絶対に正しくて、異教徒は間違っている」というニュアンスはまず存在していません。歴史的にその出来事はなぜ起こったのかということをできるだけ客観的に見ていこうという視点が感じられます。

また、この本はそもそも読み物としてとても面白いです。キリスト教史の教科書というと、固くて難しい本をイメージしてしまいがちですが、フスト・ゴンサレス『キリスト教史』は一味も二味も違います。訳者解説を見ていきましょう。

本書はとても読みやすい。おかげで、学術書や教科書は難解なものだという先入観のある人にとっては、この分かりやすさが逆に気にかかる場合もあるようである。

しかし注意深い読者は、ゴンサレスがただ面白さを求めて物語風のエピソードを用しているのではないことに気づくはずである。本書で物語られている出来事や人物のエピソードは、どれもが例外なく、その時代と社会、その当時の教会の現実をみごとに具現化したものなのである。

そこで表わされているのは、歴史と時代と精神の象徴にほかならない。エピソードの一つ一つが実に雄弁に、しかも具体的に歴史全体を指し示しているので、一つの章を読み終わるごとに、その時代がどのような特徴を持っていたかを要約したかたちで把握していることに気づくはずである。

同時に、人物の物語に満ちているということは、歴史は人のものであり、人が形づくるのだということをわたしたちに思い起こさせてくれる。

歴史の中で教会の陥ってきた問題を本書がかなり率直に、批判的に描写しているにもかかわらず、励ましと感動に満ちている理由は、まさにこの点にある。

人が歴史を形成してきたのだとすれば、これからどのような歴史を形づくってゆくかもまた、わたしたち人間に委ねられているのだと信じることができるからである。

これからの歴史をどう物語ってゆくかは、わたしたちが問われるべきことであり、わたしたちに委ねられていることなのである。その意味で、本書は「歴史をする」(doing history)ことを教えていると言えるであろう。
※適宜改行しました

新教出版社の石田学、岩橋常久訳、フスト・ゴンサレス『キリスト教史』下巻P388-389

こういう、教科書的な歴史の本はどうしても難しくてだんだん読むのが苦痛になり挫折してしまいがちです。しかし訳者解説にもありますように、この本についてはその心配は無用です。

どんどん興味がかき立てられて次へ次へとどんどんページをめくってしまいます。

特にキリスト教団の成り立ちやルターの宗教改革の経緯などは興味深くすいすい進んでいけました。

私の世界一周記のキリスト教についての記述もこの本を参考にして書きました。

キリスト教の歴史を学ぶならこの本は非常におすすめです。肩肘張らずに読めるとても面白い物語です。

以上、「フスト・ゴンサレス『キリスト教史』~キリスト教の歴史の大枠を学ぶのにおすすめの参考書!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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