(44)スリランカ上座部仏教のシャム派両管長に謁見~仏教について質問させて頂きました

キャンディ 仏教コラム・法話

【インド・スリランカ仏跡紀行】(44)
スリランカ上座部仏教のシャム派両管長に謁見~仏教について質問させて頂きました

今回のスリランカ滞在では私も驚くような素晴らしい体験を何度もすることになったが、その中でも特に驚いたのがキャンディでのシャム派両管長との謁見が叶ったことだった。

これは私も全く予想していなかったことで、現地に着いてから急に実現することになったのである。3週間にわたった私のスリランカ滞在において最も興奮した1日だったことは間違いない。

今回の記事ではそんな私の両管長との謁見についてお話していくのだが、その前にスリランカ上座部仏教のシャム派について少しだけ解説したい。

スリランカ上座部仏教には現在、大きく分けると3つの宗派がある。それがシャム派とアマラプラ派とラーマンニャ派である。

「(32)スリランカの植民地時代の歴史についてざっくりと解説~ダルマパーラ登場の時代背景とは」の記事の中でもお話ししたが、18世紀中頃、スリランカでは植民地統治の影響で仏教が衰退して教団存続が不可能になってしまった。

そこでシャム(タイ)から正式な出家僧を招いて教団を再生させたことからシャム派と呼ばれる宗派が生まれることになった。ちなみにアマラプラ派とラーマンニャ派もこのシャム派から分派してできた宗派である。

そしてこのスリランカ最大の宗派であるシャム派の中にもいくつか宗派があり、マルワッタ派(村住派)とアスギリヤ派(林住派)が二大宗派となっていて、私がこれからお会いする管長はこの両派の僧侶である。

この両派について極ざっくりと言うならば、マルワッタ派は村住派と呼ばれるように、街や村の中のお寺で民衆とともに仏教を信仰する宗派で、アスギリヤ派は村から離れた場所で瞑想に勤しみ、仏道修行を主とする宗派である。このそれぞれ異なる特徴を持った宗派が両輪となってシャム派スリランカ仏教を支えてきたのだ。

そしてこのシャム派両派の重要なポイントはスリランカ仏教の聖地であるキャンディの仏歯寺の管理を共同で行っているという点である。

仏歯寺

マルワッタ派とアスギリヤ派はこの寺院の管理と護持も重要な職務なのだ。

マルワッタ派の僧院はキャンディの中心部にある。僧院からキャンディ湖を眺めるとちょうど正面に仏歯寺が見えるという位置だ。村住派と呼ばれるように、人々の生活の近い場所にあるこの宗派らしい立地である。

境内に到着。境内と言ってもお寺という雰囲気ではなく事務所的な雰囲気。実際問題、お寺自体は各地域に存在するし、さらにはすぐ近くの仏歯寺の護持が任務ということでここは教団運営の拠点ということなのだろう。

エージェントに案内され、先へと進んでいく。

そしてこちらの寺務所に案内されたのだがここで私は衝撃の事実を知ることになる。

「もう少しで管長がここに来られますのでもう少々お待ちください。」

この言葉を聞いて私はひっくり返りそうになった。

「え!?これから管長に会うだって!?」

実を言うと、私はそんなこと聞いていなかったのである。私が旅行会社さんに依頼したのはあくまでマルワッタ僧院とアスギリヤ僧院の中を見てお参りさせて頂くことだった。管長様にお会いするなど想像もしていなかったのである!これは大変なことになった!

親切にも、僧院の方がミルクコーヒーをお出ししてくれた。しかし気が動転していた私はスプーンを掴み損ね、その衝撃でコーヒーを床にこぼしてしまったのである。何たる失態!平常心だ。平常心を忘れるな!

そしてしばらくすると、「中へどうぞ」と奥の部屋へと案内されることになった。

横長の広い部屋はまさに謁見室と言ってよい綺麗な部屋だった。赤いカーペットが敷かれた部屋の奥に大きなソファと椅子が置かれていた。

「間もなく管長様が来れられますのでそちらの椅子でお待ちください」と職員に勧められる。

いよいよだ・・・なぜこうなったのかよくわからないがこの幸運をしかと受け止めよう。

そして管長様がやって来られた。

オレンジ色の衣を着ておられた管長様はご高齢でマスクをしておられた。このお方がマルワッタ派の管長Tibbatuwawe Sri Siddhartha Sumangalabidana師である。

そのまなざしは穏やかで、優しい空気を醸し出している。さすが村住派の管長様。思わず心を開きたくなるような柔らかい雰囲気の方である。

私はひれ伏して挨拶をし、再び席に着いた。

ガイドさんが私のことを紹介してくれ色々と話してくれたのだが、情けないことに私はすっかり頭が空っぽになってしまい何を言っていいのかもわからなくなってしまった。

そんな私を察してくれたのか、管長様の方から日本についての思い出を語って下さった。

「私も日本へ行きました。素晴らしい国でした。

日本に来た時、子供達のために飴をたくさん買ってお盆に盛ってプレゼントしようとしたのですが、子供達は最初なかなか取ろうとしませんでした。取ってよいのかわからなかったようなのです。そこで説明してあげると、子供達は一つずつ取っていきました。取り合いにもならずにです。そして飴を包んでいた包装をその場に捨てずちゃんとポケットに入れて持って帰っていきました。これは素晴らしいことです。」

おぉ!この子供達に幸あれである!何と素晴らしい子供達だろう!私も嬉しくなるエピソードであった。

そして面白いことに、なんとこの管長様、ディズニーランドも訪れたそうなのだ。

「とても面白い場所でした。夜のパレードがまるでペラヘラ祭りのようでした。それに、警備の人もいないのに皆礼儀正しく見ていることに驚きました」

ディズニーランドのエレクトリカルパレードをペラヘラ祭りのように感じたというのはスリランカの方らしい感想だなと私もほっこりしてしまった。

この映像の、特に3分30秒辺りからはまさにその雰囲気を感じることができるだろう。たしかにエレクトリカルパレードである。

管長様はゆっくりと穏やかにお話しして下さる。お会いする前は緊張でガチガチだった私であったが、いつの間にかこの場が和やかな雰囲気に変わっていた。さすが村住派の管長様だなぁとつくづく頭が下がる思いだった。

そしてここで管長様が何やらスタッフに合図を送った。なんと、私にプレゼントがあるそうだ!

管長様の近くに行くように職員さんに案内された私は恐る恐るひざまずく。

そして管長様から直々に仏像を頂いたのである。これには感激だった!

この仏像は今も大切にお寺に安置させて頂いている。まさか謁見させて頂くのみならず仏像まで頂けるとは思ってもみなかった。しかも手渡しでである!こんなことになろうとは想像もしていなかった。

謁見の時間はあっという間に過ぎ、私達は深く感謝しながらこの部屋から退室した。

何という時間だったことだろう。まさかこんなことになるとは・・・!

興奮冷めやらぬまま私はこの僧院を後にしたのであった。

さて、次なる目的地アスギリヤ僧院に到着だ。こちらは林住派ということだけあって少しだけキャンディ中心部から離れている。

そしてここでも私は管長様に謁見できることになった。さすがに今回は僧院に入る前にそのことを知らされていたので心の準備をすることができた。

エージェントの方の先導で事務室に案内され、私達はそのまま謁見室で待機することに。僧院のスタッフの方によれば、こちらの管長様はつい先日まで日本にいたそうだ。日本にスリランカ仏教のお寺がオープンするようでその指導のために訪れていたそうだ。しかも今回はそれを急遽切り上げてスリランカに帰って来たとのこと。アルヴィハーラの管長が亡くなられたため予定を切り上げて帰ってきたのだそうだ。

アルヴィハーラといえばつい先日私も訪れたあのお寺ではないか!たしかにオレンジの旗が大量に張られていたのを覚えている。(「(40)アルヴィハーラ~仏典が初めて書写された歴史的な寺院!文字化が後の大乗仏教を生み出した?」の記事参照)

少し待つと、管長様がやって来られた。柔らかな雰囲気のマルワッタ派の管長と異なり、重々しく、威厳がある。堂々とした体躯に鋭いまなざし・・・ただならぬ雰囲気を感じる。口調は多くないがその一言一言に重みがある。まさに瞑想修行をされてきたお方という雰囲気である。このお方がアスギリヤ派の管長Warakagoda Sri Gnanarathana師である。

そして今回もガイドさんの方からお話をして頂いた。

会話の流れの中で日本の話題になり、この管長様も東大寺の大仏を見たということをお話になられた。やはり外国の僧侶の方がまず案内されるのは東大寺大仏なのだろうか。仏像好きの私としてはぜひ同じ東大寺でも法華堂や戒壇院の仏像を見ていただきたいなと思うのだが、スケジュールの都合上、なかなか他のお寺や仏像までは見れないのが現実なようだ。

そして何か質問や聞きたいことはありますかと聞かれたのだが、まさにこの管長様の鋭く重みのあるまなざしを見てふと浮かんだ問いをぶつけてみた。

「仏教を学ぶ上で大切なことは何でしょうか」

それに対し管長様は「仏教は世界を平和にすると信じることだ」と仰られた。

これには少し驚いた。

私自身、この問いに対しては「謙虚でいること」という答えが浮かぶ。

だがしかし、上座部仏教という自身の悟りを目指す仏教においてその管長様が「仏教が世界を平和にすると信じること」と仰られたのは驚きだった。

仏教が世界の平和につながるという信念。それが自身の学びのためにも大切になってくる。

瞑想はそれを実現する心を作るためにも非常に重要であると。

う~む、これはすごい。本当に納得。上座部仏教が自分ひとりだけの悟りを求めているというのは誤りだ。上座部仏教のことを学んでいて私もかつて思ったのだが、大乗仏教側はかつて上座部を小乗仏教と呼び「仏教教団が一般民衆の救いに無関心で学問や瞑想にばかり打ち込んだからダメになった」と批判したが、これは完全に誤りだと思う。「小乗仏教」という呼び方は不適切にもほどがある。そう言わなければならなかった時代背景も理解できるがやはり大変失礼なことだったと思う。

瞑想修行を主とするアスギリヤ派管長のお言葉は非常に重いものがあった。

そしてこうしたやり取りをしている最中、さらにもう一人の僧侶が謁見室にやって来た。

入って来た瞬間わかった。この方も只者ではないと。

このお方はスリランカ中南部に位置するアスギリヤ派ムティヤンガナ・ラジャ・マハー僧院の管長Murundeniye Dhammarathana師である。

眼鏡をかけた気さくな雰囲気であるが、知的なオーラがある。それもそのはず、師はデリー大学卒業後ケラニヤ大学で博士号を取得した学者でもあるのだ。

師は日本から若い僧侶が来ているということを聞き、わざわざここに立ち寄ってくれたそうだ。なんとありがたい!

ガイドさんが例のごとく私のことを紹介してくれた後、何か質問はありますかと振ってくれた。先ほどと同じ質問をするわけにもいかないので、思い切って聞いてみた。

「スリランカ仏教から見て大乗仏教はどう思いますか?批判も多いですが」と。

この質問が師に火をつけてしまった。

そこから30分近くずっと語って下さったのではないだろうか。手ぶりも交えて抑揚豊かに語る語る!才気煥発とはまさにこのこと!アスギリヤ派管長の寡黙な雰囲気とは全く異なる。よくよく考えてみるとマルワッタ派管長ともまるでタイプが違う。本当に個性豊かなトップ陣である。

師は英語でお話しして下さったので私にもそのお話の大筋は理解することができた。しかも学者さんらしい理路整然としたお話であっという間に時が経ってしまった。その全てをここで紹介することはできないが、極簡潔にまとめると次のようなことをお話しして下さったのである。

「上座部仏教も大乗仏教も目指すところは一緒。国によって伝播の仕方が違うし、その国独自の文化と必ず混じる。だから違って当たり前。それをどれが正しいかと言うからおかしくなる。

仏教の伝統として、悩んでいる人や苦しんでいる人にはまずわかりやすい方法を見せる。こうしたやり方は上座部も大乗も一緒。そしてそこから少しずつ上に上がっていって最後は一緒のところに行きつく。

大乗だから、妻帯しているから即ダメと卑下する必要はない。私達は一緒の仲間である。」と。

師はスリランカ仏教にとって大乗仏教は批判すべき対象ではなく、同じところを目指す仲間なのだと熱弁して下さった。

私は師のお話を聞き確信した。私達仏教徒はその姿や教えが異なろうと互いに批判する必要など全くないのだ。それぞれにそれぞれの背景があり、文化があるのだ。そこに優劣はない。どちらが正しいかと争うからおかしなことになるのだ。

だが、現実には上座部仏教の名を借りて大乗仏教を批判する言説は後を絶たない。

けれども、よくよく考えてみよう。はたして、それを言っているのは誰なのかと。

その最大の例はダルマパーラだった。その彼は政治的な背景から排他的な言説を取るようになった。彼の言う「ブッダに帰れ」という純粋仏教の中身も実際には伝統の名を借りた全く新しい仏教だったことは前回の「(43)ダルマパーラのプロテスタント仏教とは~スリランカの伝統仏教とも異なる新仏教の存在とその影響」の記事で見てきた通りだ。

同じように、ネットで溢れている言説についても、「何を言っているか」よりも「誰がそれを言っているか」に気を配ってみよう。そうすればその正体や意図が見えてくるはずである。私達はそうした分断や利権を狙う声に惑わされてはならないのである。

いや~、コーヒーが美味い!なんて刺激的で充実した1日だったことだろう。

この日の感動は忘れられない。ものすごい体験をさせて頂いた。旅行会社のアショカツアーズさんや現地のコーディネーターさんには大感謝である。お寺にお参りさせて頂くのみだったはずがまさかこんな刺激的なことになるなんて!

たった1日でスリランカ仏教のトップ2人に会い、才気煥発の管長にも会ったのである。私は本当に幸運だ。今回謁見した2人の管長については仏歯寺の公式HPでそのプロフィールも載っているのでここに掲載する。

夜になっても私の興奮は収まることがなかった。私はこの日のことを忘れることはないだろう。

※以下、この旅行記で参考にしたインド・スリランカの参考書をまとめた記事になります。ぜひご参照ください。

「インドの歴史・宗教・文化について知るのにおすすめの参考書一覧」
「インド仏教をもっと知りたい方へのおすすめ本一覧」
「仏教国スリランカを知るためのおすすめ本一覧」

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