(55)AFP通信社コロンボ支局長にスリランカ内戦や今後のスリランカ情勢についてお聞きしました

仏教聖地スリランカ紀行

【インド・スリランカ仏跡紀行】(55)
AFP通信社コロンボ支局長にスリランカ内戦や今後のスリランカ情勢についてお聞きしました

コロンボ滞在の中で私が特に楽しみにしていたことがある。

それがAFP通信社コロンボ支局長との面会である。

AFP通信社はフランスに本拠地がある世界的なメディアだが、あるご縁からそのコロンボ支局長とお会いすることになったのだ。

私はこの旅に出る前にスリランカについて様々な本を読んだのであるが、どうしてもわからないことがあった。それが近年の政治経済状況だったのである。「(52)中国の「債務の罠」の象徴ハンバントタ港を遠望~スリランカの中心都市コロンボへ向けて出発」の記事でもお話ししたが、スリランカの最新の政治経済状況を解説した本というのは日本ではほとんど手に入らない。

ネットなどで調べることも可能ではあったのだが、やはり現地の専門家の方から直接お話を伺ってみたいと思っていた所、このようなご縁に恵まれたのである。繋いで下さった皆様には感謝しかない。

AFP通信社のコロンボ支局は市内のオフィス街にある。私はその面会時間の開始を今か今かと待ちわびていた。緊張と興奮で心臓がものすごい速さで脈打っていた。

そして、いよいよその時が来た!

私達は指定された場所に向かい、オフィスへと向かった。

玄関で係のスタッフに迎えられた私達は局長室へと通される。廊下や階段には数多くの写真が飾られていた。スリランカで撮影されたかつての特ダネの数々なのだろう。新聞社らしいジャーナリスティックな雰囲気を感じる。私はこの空気に興奮せずにはいられなかった。

そしていよいよ支局長との対面である。

局長室に入室した私達を支局長は笑顔で迎えてくださった。

こちらがAFP通信社コロンボ支局長アマル・ジャヤシンハ(Amal Jayasinghe)さんだ。すらっとした長身でシャツがとても似合う、知的でオープンな雰囲気の男性だった。私は恐縮仕切りでまたもや頭が真っ白になってしまっていた。

だが、こんなこともあろうかと私は前もって準備していた。あらかじめノートに英語で質問リストを作って来ていたのである。

質問は全部で13個用意してきた。面会時間は2時間ということでかなりぎりぎりのところだろう。

早速私はノートを取り出し、それをアマルさんにお見せして質疑応答が始まった。

ここからの時間はまるで夢のようだった。こんな刺激的な時間は滅多に体験できるものではない。文字通りあっという間の2時間だった。しかもこの2時間の異常な濃さたるや・・・!

実は私はこの面会の前にひとつ心配していたことがあった。2時間も英語を聞きっぱなしで頭が疲れてもたないのではないかという懸念である。しかしその心配は全くの杞憂だった。驚いたことに全く疲れることがなかったのである。

これはおそらくアマルさんによるものが大きい。アマルさんの英語は驚くほど聞きやすい。スリランカの英語は聞き取りやすいということは聞いていたのが、それにしてもわかりやすい。しかもその説明の上手さも尋常ではなかった。論理も明快でこちらの理解度合いに応じて様々な角度から解説して下さるのだ。まるで大学教授からマンツーマンでレクチャーを受けているような気分であった。こんなに刺激的で楽しい時間はない!

アマルさんへの質問は先ほども少し述べたように、内戦のことや現在の政治経済情勢を中心としたものなのでその全てをここで紹介することはできない。特に内戦に関しては込み入ったことを質問したので、それをここで解説することは私の手に余る。そのため、この記事ではこの面会時間の中でも特に印象に残ったお話をご紹介するに留めたいと思う。

質問① 内戦中、スリランカの人々は互いにどう考えていたのでしょうか。お互い憎しみあっていたのでしょうか。

「スリランカにおける一般人レベルではそもそも相互の敵意はありませんでした。時々事件が起きて対立感情が沸き上がる時もありましたが全体としてはありませんでした。相互に結婚もしています。

それに、タミル人の多いスリランカ北部の住民たちも分離独立したいとは思っていませんでしたがLTTEによってそれを強制させられました。(※LTTEは北部スリランカの独立を主張した武装組織。)

内戦はあくまで北部と東部のタミル人が多い地域においてLTTEがシンハラ人とイスラム教徒をエスニッククレンジングしようとしたことに起因します。LTTEは独立のためにタミル人だけの居住地を作ろうとしました。そしてシンハラ人とイスラム教徒を攻撃し、その地から追い出そうとしました。それを防ぐためにスリランカ政府軍がLTTEと戦ったのです。

つまりスリランカ全島を巻き込んでの民族紛争ではなかったのです。コロンボなど、スリランカの西部地域などでは時折テロがあったものの大規模な戦闘はありませんでした。あくまで内戦の戦闘は北部と東部で行われていたのです。スリランカ国民の多くが相互に敵意はなかったのはこういう背景があります。

ですが、悪いのはLTTEだけではありません。政府も経済やその他多くの問題から国民の目をそらさせるために戦いを煽りました。どちらか一方だけの問題ではありません。」

質問② スリランカでは宗教とナショナリズムが結び付き、対立が煽られましたが、仏教側はこれから何をすべきでしょうか。

「これは最重要問題です!

政治に関わる僧侶、ナショナリズムを煽る僧侶こそ問題です。

ダルマパーラは民族主義者でした。ボイコットや差別、暴力を訴えました。これは許されません。

大事なことは僧侶がもっと仏教的であるべきということです。

他宗教や民族をリスペクトするべきです。

迷信やナショナリズムを説く仏教は危険です。

もっとPhilosophy(哲学)を学び、それを教育すべきです。それはタミル人も同じです。

1983年の内戦開始でスリランカは全ての機会を失いました。ビジネスも観光も、それまではうまくいきそうだったのです。しかしそれも全て失ってしまいました。未だに私達は復興税を払わされています。」

「大事なことは僧侶がもっと仏教的であるべきということです」という言葉には現地にいた我々一同も大いに沸いた。アマルさんの言い方も実に皮肉に富んでいて、この国の歴史を知る者ならば皆私達と同じリアクションになることだろう。それほど政治的な僧侶による煽動は激しかったのである。平和を説く仏教がなぜ「タミル人を殺せ」という言説になるのか、そのことは私達も大いに考えなければならない。

質問③ ラージャパクサ大統領と中国の関係は?

「ラージャパクサと中国の関係はGood Friendです。

建設プロジェクトと賄賂の関係は今やスリランカ国民皆が怒っています。コロンボ市内の電波塔を見ましたか?

あれもラージャパクサと中国の建設プロジェクトですが、これも電波塔としては使用不可能です。電波塔として作られましたが電波を送れないという欠陥建築でした。ただの展望台にしかなりません。」

質問④ 中国に渡ったハンバントタ港はどうなるのでしょう。

「ハンバントタを取り戻すのはかなり難しいでしょう。国際的合意を覆すのは厳しいものがあります。できなくはないですが世界の目がそれをどう見るかということです。感情的になって急激に行うのはよくないです」

さすが記者さん。冷静な分析だ。やはり一度国際的な同意がなされてしまったならば難しいのか・・・。

質問⑤ ラージャパクサ前大統領がいなくなりましたが、これからスリランカはどうなるのでしょう。

「ラージャパクサは強いリーダーです。強力なオーガナイザーである彼は年寄りや保守層から根強い人気がありました。息子や親類を政府要職に就けましたがそれは彼だからこそできたことです。彼がいなくなった後、彼の代わりをできる者はいません。これまでとは違ったスリランカ情勢になると思います。」

質問⑥ イギリスについてどう思いますか。

「昔はナショナリズム的な考え方をする人もいましたが、今の若者たちはイギリスや世界各国に行きたいと考えているようです。」

質問⑦ 上座部仏教の世界では輪廻を信じているそうですが、もしあなたの愛する人、例えば妻や子、両親などと来世で会いたいと願いますか?

この質問には少し補足がいるだろう。

上座部仏教を信仰する東南アジアでは輪廻転生を重んじる。つまり、死んだら来世で生まれ変わるという思想である。(※詳しくは「(30)スリランカの上座部仏教とはどのような仏教なのかざっくり解説~日本仏教との違いについても一言」の記事参照)

しかし、その来世で自分が何になるかはわからない。人間かもしれないし他の動物かもしれない。さらに言えば、我々に前世の記憶がない以上、来世で今世の記憶があるのかも確信できない。

つまり、「来世で会おうね」ということが極めて成立不可能に近いのである。

「あの世でまた会いましょう」や「天国で会おう」という考え方はそもそも、今と来世が連続した自分であることを前提としている。日本仏教の死生観もそれに近いものがある。そしてその直線的な死生観とは異なるのが東南アジアの輪廻転生観なのだ。来世は全く違う生を生きるのである。

となると、愛する人とまた再会したいという希望が叶わなくなる。それをスリランカの方はどう思うのかということを聞きたかったのである。キャンディの管長たちにはこの質問はできなかった。きっと教義的にはこうした私の考え方はナンセンスであろうと私自身思ってしまったのである。だが、僧侶ではないスリランカ人が生活レベルでどう思っているのかというのはものすごく気になることであったのだ。だからこそ私はアマルさんに思い切って聞いてみたのである。

そしてそのアマルさんは次のように答えてくださった。

「来世でも愛する人に会いたいです。それがスリランカ人の願いです。」

私はその答えを聞いて心底嬉しかった。スリランカの人たちはその辺がドライなのではないかと不安でもあったのだが、やはり愛する人とまた会いたいという気持ちになるのだ。上座部仏教の輪廻観とは厳密には異なるかもしれないが、こういう思いを抱くのはやはり私達とも共通するものがあるのだと思ったのである。

2時間があっという間に過ぎてしまった。先ほども述べたが、あまりに夢中になってしまって疲れなど微塵も感じなかったのである。

そして最後にスリランカ内戦を学ぶためにおすすめの本はありますかと聞いてみたところ、2冊の本を紹介して下さった。スリランカ内戦を学ぶ上で最も評価されている本だそう。

私はこれらの本をAmazonで注文し海外から取り寄せたのだが、読んでみて驚いた。右の『INSIDE AN ELUSIVE MIND』にアマルさんがスリランカ内戦の「best mind(最高の専門家という意味合い?)」の一人として紹介されていたのである。やはりアマルさんはものすごい方だったのだ。そんな方に2時間もレクチャーして頂いたなんて私はなんと幸運なのだろう。

この2冊は残念ながら邦訳されていない。スリランカ内戦についての本は需要も少なく商業的に厳しいかもしれないがぜひこれらの本が翻訳出版されることを願っている。

アマルさんとの面談は私のスリランカ滞在の最高の思い出である。ご縁を繋いで頂いた全ての方に感謝したい。本当にありがとうございます。そしてご多忙の中時間を割き、お話しして下さったアマル・ジャヤシンハさんにはなんとお礼の言葉を尽くしてよいのかもわかりません。本当にありがとうございました。

※以下、この旅行記で参考にしたインド・スリランカの参考書をまとめた記事になります。ぜひご参照ください。

「インドの歴史・宗教・文化について知るのにおすすめの参考書一覧」
「インド仏教をもっと知りたい方へのおすすめ本一覧」
「仏教国スリランカを知るためのおすすめ本一覧」

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