(42)キャンディの仏歯寺でプージャを体験~スリランカの伝統的な仏教とは何なのかについて考えてみた

仏教コラム・法話

【インド・スリランカ仏跡紀行】(42)
キャンディの仏歯寺でプージャを体験~スリランカの伝統的な仏教とは何なのかについて考えてみた

前回の記事「(41)スリランカの古都キャンディへ~散歩に最高な遊歩道を発見!緑と湖、歴史ある美しい街並みを堪能」ではキャンディの街並みをご紹介したが、今回の記事ではいよいよこの街の象徴仏歯寺についてお話していきたい。

キャンディの仏歯寺 Wikipediaより

仏歯寺とはその名の通り、ブッダの歯が収められたお寺である。このキャンディの仏歯寺について、まずは『新アジア仏教史04 スリランカ・東南アジア 静と動の仏教』の解説を見ていこう。

キャンディーといえぱ、シンハラ王朝最後の都、そして、巡礼地としては最も神聖な場所として崇められている「ダラダー・マーリガーワ」(仏歯の宮殿:仏歯寺)がある所である。仏歯(犬歯)は四世紀にインドからもたらされたものだが、以後王権の象徴としても引き継がれてきた。王の在住する所には必ずこの仏歯のための建物(仏歯宮殿)が建立された。

シンハラ王朝がキャンディーに樹立されると、この仏歯もキャンディーに移され奉納された。爾来、キャンディーは「仏歯寺」の町として仏教聖地になり、今でも多くの巡礼者が訪れる。この仏歯の公開が年に一回アサラ月(七~八月)に挙行されるが、「ペラハラ祭」というその祭りに、背に仏歯を安置する特別な容器を乗せて、キャンディ市内を練り歩く象の雄姿は、圧巻である。

※スマホ等でも読みやすいように一部改行した

佼成出版社、奈良康明、下田正弘編集『新アジア仏教史04 スリランカ・東南アジア 静と動の仏教』P155-156

ペラヘラ祭については前回の記事でも紹介したこちらの映像がわかりやすくておすすめだ。

この祭りの根本にあるのも仏歯である。

アヌラーダプラ時代から受け継がれた仏歯は王権の象徴となった。現在はこうしてキャンディに仏歯寺があるものの、かつてはポロンナルワにも仏歯寺があったのである。

王権ある所に仏歯あり。これは逆に言えばスリランカ仏教は王権あってこその仏教なのであるということでもある。

そもそも、この国の仏教はティッサ王がマヒンダ長老と出会ったことから始まっている。つまり、その歴史の始まりから王権との繋がりが極めて強いのである。これがインドとの違いである。インドにおける仏教も王侯貴族や大商人からの寄進が中心だったが、国の統治と一体化していたわけではなかった。これは次の記事でお話しする近代仏教(プロテスタント仏教)とも関係することなのでぜひ頭に入れておいてほしい。

では、これより実際に仏歯寺を見ていくことにしよう。

境内に入ると、真っすぐその先に仏歯寺がある。

白を基調とした外壁のその奥に仏歯を保管するお堂がある。

私は18時半からの夜のお祈り(プージャ)を見るのと同時に堂内を見学することにした。

煌々と輝く仏歯寺を目の前にすると自然と気分が高揚してくる。

では、これより堂内に入ることにしよう。

仏歯が保管されているお堂の目の前にやって来た。お堂の目の前に立てられている象牙が印象的だ。

そしてここに来て驚いたのだが、この仏歯が納められているお堂、なんと屋外にあったのである。このお堂を囲むようにして建物や白い外壁が建てられていたのである。これは予想外。

時間が近づくとお堂前に待機していた楽隊が太鼓と笛を鳴らし始めた。この時点でお堂は超満員。最近はあまりの人気で早めの予約が必須だそう。元々現地の人だけでもかなり多くの人がやって来ていたそうだが最近はそこに外国人観光客が加わったとのこと。それは超満員になるのも納得だ。京都と一緒である。

僧侶たちがやって来た。これから堂内でお経が始まるのだが、外にいる私達はその様子を見ることができない。以下は私が撮影した映像である。

仏歯自体はこのお堂の2階に安置されている。

2階の仏堂前はこの後に御開帳される仏歯を見るために皆が待機するので大混雑である。

この先が仏歯が安置されている部屋である。

VIPや特別参拝の人々が参拝を終えた後、ここの扉が開かれ一般参詣にも門戸が開かれる。

この扉の先で黄金色に輝く物体が仏歯を保管する仏器である。巨大な王冠のような形をしたこの仏器にブッダの犬歯が収められているのである。堂内はもちろん撮影厳禁。ここが限界である。この黄金の仏器がどのようなものか気になる方はぜひキャンディに来て実物を見ることをおすすめする。

私も間近に見たのだが、あまりの輝きぶりやその大きさ、多種多様な装飾にただただ圧倒されるのみだった。圧倒的な光を放つ権威そのもの・・・宗教的信仰だけではなく王権の証としても崇拝されてきた歴史を感じさせられた。

仏歯寺でのプージャは実に興味深い体験であった。インドのハリドワールのプージャとはまるで違う。

ハリドワールはカオスと熱気で満ち溢れていた。それに対しスリランカ仏歯寺は南国のような笛と太鼓の音楽はあるものの全体の空気は至って控えめで穏やかなものだった。整然としているのである。

ヒンドゥー教と仏教との違い、あるいはインド人とシンハラ人の違いもそこに反映されているのかもしれない。やはり比べてみると面白い。

仏歯寺の正面出入口

さて、ここまで仏歯寺のプージャについてお話してきたが、ここでこの仏歯寺についての興味深い事実をお伝えしたい。

ここは仏歯寺の境内にあるお堂である。ここで何が祀られているのか、それがこちらである。

なんと、お寺の境内にヒンドゥー教の女神パッティニが祀られているのである。

また、そのすぐ近くにはナータ神という土着の神様を祀った神殿もある。

スリランカ仏教の聖地たる仏歯寺になぜヒンドゥー教や土着の神様の神殿があるのだろうか。

それはスリランカ仏教においてブッダと他の神々は共存するものと考えられていたからなのである。

つまり、ヒンドゥー教や土着の神様はブッダの教えに敬服し、ブッダの教えを守る存在としてスリランカ仏教と共存し続けてきたのである。これはまさに日本の神仏習合とそっくりである。

これがいわゆるスリランカの仏教パンテオンと呼ばれる信仰形態なのだ。

そしてここからが重要なのだが、ブッダは確かにパンテオン(ピラミッド階層)のトップにいるのだが、俗世を超越してしまっているので「お金が欲しい」「もっと出世したい」など信者の素朴な願望をお祈りするのには残念ながら適さない。そこで人々はヒンドゥー教の神々や土着の神々にお祈りするのである。こうして役割分担がなされることになったのだ。

このように、スリランカでは仏教と他の神様が融合しながら信仰されてきたのである。

また、一般の在家信者の信仰については以前「(30)スリランカの上座部仏教とはどのような仏教なのかざっくり解説~日本仏教との違いについても一言」の記事でもお話ししたが、ここでさらに付け加えたいことがある。

伝統的なスリランカ仏教ではピリット儀礼というものを行う。

これは日本でいう法事のようなものだ。人生の節目節目に僧侶を呼びお経を唱え、説法を聞くのである。葬儀の時はもちろん、命日の日にも盛大にピリット儀礼を行う。死者への供養がこちらの仏教でも大切に行われているのだ。

こちらはアヌラーダプラのトゥーパラーマというスリランカ最古とされる仏塔だ。ここはブッダの右鎖骨が納められているという非常に重要な聖地なのだが、実はここで私もピリット儀礼を体験したのである。

アヌラーダプラ僧院の僧侶にお経を読んでもらい、私も祈りを捧げた。スリランカに文脈のない私であっても、この時は胸を打つものがあった。

こうしたピリット儀礼を通して出家教団と在家者が強く結びついていたのである。これはまさに日本とも似ているのではないだろうか。国や文化が違えどやはり似ているものは似ているのである。このピリット儀礼について興味のある方は入門書としてぜひ青木保編著『聖地スリランカ—生きた仏教の儀礼と実践』をおすすめしたい。

そして最後にもう一点。スリランカの民衆信仰において重要なポイントを忘れてはならない。

それが悪魔祓いである。

こちらの記事でもお話ししたが、スリランカにおいて悪魔祓いは村人に深く浸透していた存在だった。

なまはげのような仮面をかぶり、踊る悪魔。この悪魔はギャグや下ネタも連発し村人を笑わせるトリックスターでもある。こうした悪魔の踊りが村の人々を癒してきた歴史が確かにあるのである。そしてそれは村の仏教とも共存してきたのだ。

この悪魔祓いの儀式は現在、キャンディアンダンスの一部に組み込まれている。悪魔祓いの儀式を知らない人には「ぽかん」かもしれないが、上田紀行先生の著作を読んでからこの悪魔祓いのパフォーマンスを見ると興味深いことこの上なしである。キャンディに来たらキャンディアンダンスは必見だ。太鼓の熱いビートと生身で音を奏でるその技術に私もすっかり夢中になってしまった。

スリランカの上座部仏教というと私たちは厳格な仏教をイメージしてしまいがちだが、実際の生活レベルの信仰はとても幅があるのである。厳格な生活を守るのはあくまで出家者のみであって、在家信者には様々な層の信仰があったのだ。神々とも共存し、悪魔祓いも行われていた。それに対し仏教側も強いて拒絶するのではなく共存する道を選んでいたのである。

スリランカ仏教の信仰も様々である。厳格な仏教だけが全てではない。

ここでスリランカの伝統的な仏教をお話ししたところで、いよいよ次の記事でダルマパーラの「プロテスタント仏教」についてお話ししていく。

次の記事も皆さんにとって驚きの事実が満載の記事になるだろう。

※以下、この旅行記で参考にしたインド・スリランカの参考書をまとめた記事になります。ぜひご参照ください。

「インドの歴史・宗教・文化について知るのにおすすめの参考書一覧」
「インド仏教をもっと知りたい方へのおすすめ本一覧」
「仏教国スリランカを知るためのおすすめ本一覧」

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