ドストエフスキーが愛したウォルター・スコットの代表作『アイヴァンホー』

Sir Walter Scott, 1771 - 1832. Novelist and poet
イギリス・ドイツとドストエフスキー

ドストエフスキーとスコットランド人作家ウォルター・スコット

ウォルター・スコットは1771年、スコットランドのエディンバラで生まれた作家です。

もともとは弁護士業をしていましたが詩人として一躍名声を博し、後に歴史小説を書くようになり、1819年に今回紹介する『アイヴァンホー』が記録的な売り上げとなるなど、スコットランドを代表する作家です。

ドストエフスキーも子供の頃から彼の作品を読んでおり、その魅力にとりつかれた一人です。

そして晩年も子どもの教育に何を読ませたらかよいかを悩む手紙に対して返事を書いています。その一部を紹介します。

 十二歳のとき、小生は休暇中に田舎でウォルター・スコットの作品をぜんぶ読破しましたが、よしんばそれが小生の空想と感受性を発達させたにもせよ、そのかわり、決して悪いほうでなく、よい方面に発達させました。とくに、そうしたいっさいの読書から、数え切れないほどの美しい、高遠な印象を得て、生涯それを心に秘めていたので、それが小生の心に、誘惑と、情欲と、腐敗に充ちた印象と戦うための、大きな力を形成してくれたのですから、なおさら小生は自分の言葉の真実さを信じます。

 小生はご令嬢にいまウォルター・スコットをお読ませになるよう勧告します。まして、スコットはいまロシヤで完全に忘れられているから、なおのこと必要です。後日、ご令嬢がすでに独立の生活を営まれるようになったら、ご自分でこの偉大な作家と親しもうなどということは、不可能でもあるし、そうした要求も感じられないでしょう。そういうわけですから、ご令嬢が両親の家におられるあいだに、スコットと親しませる時機をお捕えになるといいです。ウォルター・スコットは、高い教育的な価値を持っています。

河出書房新社 米川正夫訳『ドストエーフスキイ全集18 書簡下』 P430

子どもの教育にはスコットが最適!ドストエフスキーはこの手紙でお墨付きを与えています。

ウォルター・スコットは日本ではあまり知られていませんが、ドストエフスキーにとってはとても大切な作家であったことがこの手紙からもうかがわれることでしょう。

そんなスコットの代表作こそ今回紹介する『アイヴァンホー』という歴史物語です。タイトルを見ただけではどんな小説なのかさっぱりわかりませんが、世界の文学史上非常に重要な役割を果たした作品として名を馳せている作品です。

ウォルター・スコット『アイヴァンホー』とは

J・G・ロックハートの『ウォルター・スコット伝』では『アイヴァンホー』は次のように述べられています。

一芸術作品として『アイヴァンホー』は散文であれ韻文であれ、スコットがあらゆる総力を尽くした中で最も重要な作品である。彼の想像力の力と輝きが、この小説の場面のいくつかに一番よく示されている。

彩流社 J・G・ロックハート 佐藤猛郎、内田市五郎、佐藤豊、原田祐貨訳『ヴォルター・スコット伝』P402

やはりこの作品はスコットの代表作と呼ぶにふさわしい作品であるようです。

では、続いてあらすじを見ていきましょう。

武勇並びなき騎士アイヴァンホーとロウィーナ姫とのロマンスを中心に、獅子王リチャードが変装した黒衣の騎士や義賊ロビンフッドが縦横に活躍する痛快無比の歴史小説。たくみなプロット、美しい自然描写、広範囲な取材により全ヨーロッパ文学に大きな影響を与えたウォルター・スコット(1771‐1832)の代表作である。(上巻)

黒衣の騎士たちの奮戦で囚われの人々は救出された。だが、傷ついたアイヴァンホーを献身的に介抱してくれたユダヤ人の美少女レベッカだけは、敵に拉致され、魔女として処刑されようとしている。アイヴァンホーは彼女を救い出すために決闘に臨む。…1819年刊行当時、記録的な売れゆきで人気を博したイギリスロマン主義の傑作。(下巻)

岩波文庫 菊地武一訳『アイヴァンホー』表紙解説

あらすじでわかりますように、この小説は騎士道物語となっています。

騎士道物語といえば『ドン・キホーテ』が真っ先に浮かんできますがこの作品は『ドン・キホーテ』よりもかなり後に作られてはいるとはいえ、もっともっとこてこての騎士道物語となっています。

騎士道物語とは何か。

一言で言うのは難しいのですが、極簡潔に言うならば「中世の騎士が戦いを繰り広げ、美しい姫とのロマンスあり、悪を打ち倒す勧善懲悪ありのロマン溢れるストーリー」といったところになるでしょうか。

『アイヴァンホー』でもそのストーリーは忠実に騎士道物語の伝統に連なっており、勧善懲悪色がとても強いです。

悪役たちはもう気持ちがいいほどの悪人です。「THE 悪人」!

悪徳騎士たちの非道っぷりがこれでもかと描かれます。

それに対して主人公のアイヴァンホーや謎の黒騎士もこれまたこてこてのヒーローっぷりを発揮します。

主人公のピンチに突如現れる謎の黒騎士。この黒騎士がものすごく強い。そしてその謎な雰囲気がまた格好良さを引き立てます。

何でしょうか、どうして私たちはこういう戦いのピンチの時に現れる謎の救世主にこんなにもワクワクするのでしょう。

正義の騎士たちが悪党たちと命を懸けて戦い、そして激しい戦闘の末、勝利を得てハッピーエンドというのは何度見ても気持ちがいい。

ウルトラマンや仮面ライダー、はては水戸黄門もそうですね。絶対勝つのがわかっているのに全く飽きない。むしろ「待ってました!」と大喜びで期待してしまう。

そんな物語がこの『アイヴァンホー』で語られていくわけです。

そして高潔な騎士や悲劇に見舞われても誇り高い心を失わない姫。

悪に立ち向かう彼らの姿は読む者の心を震わせます。

スコットの研究者、大和資雄は『アイヴァンホー』の面白さについて次のように述べます。

スコットは天馬。空を行く。彼が小説を書いたのは、文化・文政のころ、馬琴の『八犬伝』と時を同じうする。古臭いものである。それだのに、世界中の大都で、今でも書店に彼の本が出ている。丸善なり紀国屋なりに行って見給え。彼の小説が必ず何かある。(中略)

なぜか?それはフォースターが、まことに明白に書いている。それは天馬空を行くスコットの話術である。原始的と言おうが何と言おうが、ぐんぐん読者を引きつけて、読み続けずにいられないように呪縛する力だ。(中略)

「読者は、つぎつぎと起こる事件に魅せられて、ただもう洞窟の原始人みたいに、口をあけて、うっとりしている」

『河出世界文学大系月報17 スコット』所収「スコットのために」P1

「読者は、つぎつぎと起こる事件に魅せられて、ただもう洞窟の原始人みたいに、口をあけて、うっとりしている」・・・ものすごい表現ですよね。

ですが、これほどずばりな言葉もないのかもしれません。

スコットの描く騎士道物語はまさしく読者をそのような状態に引きずり込みます。

これぞ作家の腕の見せ所。スコットの筆の魔力が抜群に冴えわたっているのがこの『アイヴァンホー』という作品なのです。

おわりに

ドストエフスキーが子供たちの教育に最適だと勧めるウォルター・スコット。

その代表作である『アイヴァンホー』は騎士道物語の王道であり、「THE 勧善懲悪物語」であります。

善は悪に勝つ!悪に負けない気高い心!そして強く生きること!悪と戦うこと!

こうしたメッセージがこの物語に込められています。

しかも純粋に小説として面白い!

これなら子どもたちもワクワクしながら読み進めることができることでしょう。

ドストエフスキーが子どもの教育に勧めるのもわかるような気がします。

以上、「ドストエフスキーが愛したウォルター・スコットの代表作『アイヴァンホー』」でした。

関連記事

HOME