井上ひさし『ムサシ』あらすじと感想~人は報復の連鎖を断ち切れるのか。蜷川幸雄演出舞台の戯曲

名作の宝庫・シェイクスピア

井上ひさし『ムサシ』あらすじと感想~人は報復の連鎖を断ち切れるのか。蜷川幸雄演出舞台の戯曲

今回ご紹介するのは2009年に集英社より発行された井上やすし著『ムサシ』です。

早速この本について見ていきましょう。

武蔵と小次郎、ふたたび相まみえる!
「巌流島の決闘」から6年。じつは生きていた佐々木小次郎が、宮本武蔵に再び果たし状をたたきつけた。人間は報復の連鎖を断ち切ることができるかを、笑いと感動の中に問う井上戯曲の最高傑作。

Amazon商品紹介ページより

私がこの本を手に取ったのは蜷川幸雄さんの舞台がきっかけでした。

前回の記事「蜷川幸雄演出『ムサシ』あらすじと感想~武蔵、小次郎の舟島の決闘の後日談を描いた衝撃の舞台!圧倒的面白さ!」でもお話ししましたが、私は蜷川幸雄さんのドキュメンタリー目的でこの舞台DVDを観たのでありますが、その面白さにびっくり!「ものすごいものを観てしまった!」と感動してしまいました。

そしてその舞台の脚本を書いた井上ひさしさんにものすごく興味が湧き、私はこの本を手に取ったのでありました。

読んでみてやはり思いました。舞台上で生身の人間が演じたものと活字は違うのだということを。

DVDで観たあの舞台では笑ってしまうシーンが何度もありました。ですが本を読んでも、同じように笑うことはできませんでした。先に映像を観てしまったということを割り引いてもこれは唸らざるをえませんでした。

私はこの本が面白くないと言っているわけではありません。むしろ素晴らしい本だなと何度も何度も噛みしめながら読んでいました。

シェイクスピアもチェーホフも、活字で残っているのは戯曲です。そしてこの戯曲を基に演出家は舞台を作り上げていきます。戯曲には舞台装置も、登場人物たちの動きや表情も必要最低限しか書かれていません。

ですので戯曲に書かれているのは主にセリフがメインになります。しかもそのセリフですら「どう読むのか」というのは書かれていません。

となると真っ新な状態で戯曲を読んだ場合、読み手の想像力がフル活動されない限りその舞台世界がはっきりとは浮かび上がってこないのです。私がこの本を読んで笑えなかったのは、私にこの戯曲から笑いを生み出す能力、センスが足りていないからなのです。セリフをどのように発するのか、どんな動きをするのか、それを創造できないから笑えないのです。

ですが蜷川幸雄さん演出の『ムサシ』はどうでしょう。コミカルなシーンの面白さは最高でした。井上ひさしさんの戯曲の面白さをあんなに引き出す蜷川さんと役者さんたち。「あぁ・・・やはり超一流の人たちは違うなあ・・・」とこの本を読みながら何度も感じたものでした。「ここをあの舞台ではあんなに面白く演じていたのか」と感嘆するばかりでした。

そして井上さんがこの戯曲を藤原竜也さん、小栗旬さんたち出演者をイメージして書いていたことがドキュメンタリーでも語られていました。つまり井上さんもこの舞台が面白くなることをリアルにイメージして戯曲を書いていたわけです。

このブログにお付き合い頂いている皆さんなら薄々お気づきかと思いますが、私は昔からよく「クソ真面目」と言われます。お笑いは好きです。でも、やはり根がクソ真面目なのです。

蜷川さんのシェイクスピア舞台のDVDも最近観ているのですが、悲劇作品の中でも笑いが生まれるシーンがあるということに大きな衝撃を受けました。

そんな私がこの戯曲から喜劇的側面を創造しえないのは当然なのかもしれません。

改めて強調しますが、この戯曲が本として面白くないというのでは決してありません。

私はDVDを観た上でこの戯曲がどのように書かれていたのかに着目して読んだということなのです。あの喜劇的面白さが活字だとどう表現されているかに興味があったのです。

クソ真面目な私はやはりこの戯曲に笑いよりも、井上さんの抜群なストーリー展開や武蔵、小次郎の心の動きに感嘆してしまうのでした。

それにしてもこの物語の見事さたるや・・・!

まず日本人の誰もが知る宮本武蔵と佐々木小次郎の決闘の後日譚を書くという大胆さ。そしてこの勇ましい二人をどう戦わせないかという真逆の発想!普通なら血沸き肉躍る再戦を書きたくなるでしょう。いやあすごい!

最後の大団円もまたいいんですよね。ものすごくぐっと来ました。ネタバレになるのでここでお話しできないのが口惜しいです。

私はこの作品が大好きです。自分のクソ真面目さを再認識できたのもいい機会になりました笑 

ぜひぜひおすすめしたい一冊です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

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