ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー 』概要と感想~人間は不合理な存在であることを学べるおすすめ作品!

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ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー あなたの意志はどのように決まるか?』概要と感想~人間は不合理な存在であることを学べるおすすめ作品!

前回の記事では行動経済学の歴史を紹介した本、リチャード・セイラ―の『行動経済学の逆襲』をご紹介しましたが、今回はその本の中でも中心的な役割を果たしていたノーベル経済学賞受賞者ダニエル・カーネマンの代表作、早川書房、村井章子訳の『 ファスト&スロー あなたの意志はどのように決まるか?』 をご紹介します。

早速この本について見ていきましょう。

整理整頓好きの青年が図書館司書である確率は高い? 30ドルを確実にもらうか、80%の確率で45ドルの方がよいか?はたしてあなたは合理的に正しい判断を行なっているか、本書の設問はそれを意識するきっかけとなる。人が判断エラーに陥るパターンや理由を、行動経済学・認知心理学的実験で徹底解明。心理学者にしてノーべル経済学賞受賞の著者が、幸福の感じ方から投資家・起業家の心理までわかりやすく伝える。(上巻)

私たちは日々どのように意思決定を行なっているのだろうか?カーネマンによると、直感的で感情に根ざす「速い思考」と合理的で努力を要する「遅い思考」の相互作用だという。ニつの思考の特徴を分析し、人がいかに錯覚に陥りやすく不合理な決定を行なうかを浮彫りにする。プライべートやビジネス、政治における、よりよい決断への道筋を示し、あなたの人間観、世界観を一変させる21世紀の新たな古典。解説/友野典男

Amazon商品紹介ページより
ダニエル・カーネマン Wikipediaより

この本は行動経済学とは何かを知る上でとてもおすすめな1冊です。

上の本紹介に、

私たちは日々どのように意思決定を行なっているのだろうか?カーネマンによると、直感的で感情に根ざす「速い思考」と合理的で努力を要する「遅い思考」の相互作用だという。ニつの思考の特徴を分析し、人がいかに錯覚に陥りやすく不合理な決定を行なうかを浮彫りにする

とありますように、カーネマンは私達の意思決定や行動がどのように行われているかを分析していきます。

前回の記事でもありましたように、私達人間は合理的な存在ではなく、不合理な行動を取ってしまうことが多々あります。

そしてさらに厄介なことに私たちはその不合理に気づいていない、さらに言えば私たちは世界を錯覚してさえいるということがこの本で語られます。

私達は「現実の世界」を見ているつもりになっていますが、はたしてそれは本当に「ありのままの世界」なのか。つまり、個々人の無意識の「バイアス」がかかってはいないだろうかということをカーネマンは指摘します。

世界は私達一人一人の認識によって見え方が変わる。

その認識は意識的に作っていくものもあれば、無意識下で作られるものもあります。

こうした一人一人のバイアスが錯覚をもたらし、不合理な行動をもたらすということをカーネマンは様々な実験やデータを用いて解説していきます。

この本の詳しい内容や要約はすでに多くの方がネット上で語っていますのでここで改めて取り上げることはしません。

ですが、私がこの本に魅力を感じたのは、「人間は世界をありのままには見ていない」のであり、「不合理な存在である」という行動経済学の理念でした。

そしてこの本で語られた事例の一つ一つがどこか仏教で語られる世界の見方にどうも似ているなという感覚を受けけました。これが大きかったなと思います。これは仏教の本なのではないかと思うくらい、人間のものの見方についてカーネマンは語っていくのでした。これは興味深かったです。ここでは仏教と行動経済学の類似点についてはお話しできませんが、いつか仏教のものの見方、考え方についてまとめられたらなと考えています。

また、前回の記事でも少しお話ししましたように、行動経済学は従来の経済学との激しい論争を巻き起こしました。そして行動経済学は世界的に流行し、政治やビジネスの場でも採用されるようになっていきました。

しかし、最近カーネマンのデータの不正疑惑が出てきたり、行動経済学に対する強い反論も出てくるようになりました。

これから先、行動経済学という学問がどうなっていくかは注視が必要かもしれません。

ただ、経済学において絶対視されていた「人間は合理的な存在である」という大前提に対し、「人間は合理的には動かないのでは?」という問題を提起したのは非常に大きな意味があると思います。

合理的に理屈や理論ですべてを解決していこうとするあり方にはどこか限界がある。そうしたことは私達の実感としてもあるのではないでしょうか。

人間の行動には不確実な要素が混じる。理屈通りには動かない。

そうしたことを改めて理解し、そのメカニズムを知ることで誤解や錯覚は減るかもしれない。また、他者への寛容さももっと持てるかもしれない。

そうした面でもこの本は非常に有益なのではないかと思います。

ただ、少し難点があるとすれば、下巻が読みにくい点が挙げられるかもしれません。

上巻は「早い思考」「遅い思考」についての解説や、様々な心理的バイアスの仕組みが実際の事例と共に語られるので面白く読むことができるのですが、下巻になるとその内容が急に難しくなり、理解するのも大変になってきます。これが翻訳の問題なのかそもそも本の問題なのかは私にはわかりませんが、上巻と下巻ではその印象がかなり違いました。

Amazonのレビューでも読みにくさを指摘している方が多いようですが、それはこの辺りに原因がありそうです。

ですが仮にそうだとしてもこの本の魅力は全く損なわれることはありません。全て読むのがベストなのかもしれませんがまずは上巻だけでも楽しむのはありだと思います。かなり刺激的な内容です。

ぜひおすすめしたい1冊です。

以上、「ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー あなたの意志はどのように決まるか?』人間は不合理な存在であることを学べる1冊!」でした。

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