R・セイラー『行動経済学の逆襲』概要と感想~従来の経済学と行動経済学は何が違うのかを知るのにおすすめの作品

マルクス・エンゲルス著作と関連作品

ノーベル経済学賞受賞のリチャード・セイラ―による傑作ノンフィクション!リチャード・セイラ―『行動経済学の逆襲』概要と感想

今回ご紹介するのは2019年に早川書房より発行されたリチャード・セイラー著、遠藤真美訳『行動経済学の逆襲』です。

早速この本について見ていきましょう。


新たな学問はこうして生まれた!

ノーベル経済学賞に輝いた著者が語る全舞台裏

経済学界の異端児が、心理学者と協働し、仲間を作り、経済学者に反撃する!
ノーベル賞に至る、行動経済学誕生のすべてがここに。

「行動経済学を発明した天才は、稀代のストーリーテラーでもある」
――ダニエル・カーネマン(ノーベル経済学賞受賞者。『ファスト&スロー』)

「経済学に人間らしさを導入して、よりよい行動をそっと後押しする「ナッジ」を政策に定着させた開拓者の物語」
――大竹文雄(大阪大学大学院経済学研究科教授)

「現代経済学に関心のある人には必読の好著」
――根井雅弘(京都大学大学院教授、本書解説より)

「創造的破壊のドキュメンタリー。経済学に関心がない人にこそ読んでほしい、最上の知的エンターテイメントがここにある」
――楠木建(一橋大学教授。『ストーリーとしての競争戦略』)

「行動経済学一代記! 学者人生の中での試行錯誤を通して見えてくる新分野誕生の悩みと興奮の全貌」
――山形浩生(評論家・翻訳家)

「「ぐうたら」セイラ―教授の半生記は、「人間の不合理さ」を直視する行動経済学の発展史そのものだった」
――吉崎達彦(かんべえ)(双日総合研究所チーフエコノミスト)

「読むべき。行動経済学のガイドとしてこれ以上の本はない」
――ロバート・J・シラー(ノーベル経済学賞受賞者。『アニマルスピリット』)

「大学教授が書いたとは思えないほど、赤裸々で笑える本だ」
――マイケル・ルイス(作家。『マネー・ボール』)

Amazon商品紹介ページより

本書を絶賛する言葉がずらりと並んでいますがより詳しくこの本について見ていきましょう。

従来の経済学は完全に合理的な人間像を想定してきたが、そんな人は地球上に一人もいないのでは?根本的な疑問を抱えた「ぐうたら」経済学者は、意思決定の不合理を探究する心理学者たちに出会う。
彼らとの協働はやがて「行動経済学」という新たな学問へと結実していくが、それは同時に、学界の権威たちとの長きにわたる戦いの始まりだった……。ノーべル経済学賞を受賞した異端児が、学者人生の軌跡と喜怒哀楽を語りつくす(上巻)

旧態依然の経済学界に渦巻く非難をはねのけ、認知バイアスに関する研究成果を着実に積み上げていった著者は、それらの知見を逆用し人々をより合理的な行動へと導く画期的手法「ナッジ」を提唱する。いまや日本をはじめ各国の政策に取り入れられている行動経済学は、世界をどのように変えていけるのか?話題の学問の全史を類まれなユーモアとストーリーテリングで描き絶賛を浴びた痛快ノンフィクション。解説/根井雅弘(下巻)

早川書房、リチャード・セイラー著、遠藤真美訳『行動経済学の逆襲』 より
リチャード・セイラ― Wikipediaより

この解説にありますように従来の経済学では人間は経済的に合理的な観点から動いていくという大前提がありました。そしてそうした前提をベースに高度な学問理論を積み上げてきたのが経済学でした。

しかし著者をはじめとした行動経済学者のグループはそれに疑問を抱き、「はたして人間はそんなに合理的な行動を取るのだろうか、明らかに不合理な行動を取ることが多々あるではないか」と提言します。

従来の経済学の前提を崩壊させかねない行動経済学者の主張は当然、多くの経済学者に大きな衝撃を与えました。

そこから彼らと行動経済学者の論争が始まっていきます。

この本ではそんな経済学者と行動経済学者の戦いの歴史を知ることができます。

著者のリチャード・セイラ―はこの本について次のように述べています。

人は、経済モデルが想定する人間像から大きくかけはなれたふるまいをする。私は大学院生時代から40年間、無数にあるこうしたストーリーのことだけをひたすら考えてきた。

ただし、人々の行動はどこかがまちがっていると思っているわけではない。私たちはみんな、ただの人間、つまりホモサピエンスである。問題はむしろ、経済学者たちが使っているモデルのほうにある。

そのモデルでは、ホモサピエンスの代わりに「ホモエコノミカス」と呼ばれる架空の人間が設定される。「ホモエコノミカス」というのは長ったらしいので、私は「エコン」と短く略して呼ぶようにしている。エコンのいる架空の世界と比べると、ヒューマンは誤ったふるまいをたくさんする。それはつまり、経済モデルが誤った予測をたくさんするということを意味する。経済モデルの予測が、学生たちを怒らせるどころではすまないような重大な結果を招くこともある。
※一部改行しました

早川書房、リチャード・セイラー著、遠藤真美訳『行動経済学の逆襲』 P22

この本では、行動経済学がどのようにして生まれ、発展してきたのかを、私が見てきた範囲で回想していく。本書で取り上げる研究はすべて私がしたわけではない(ご承知のとおり、私はとてもぐうたらなので、そんなことはしない)。

しかし私は、行動経済学の黎明期に立ち会い、新しい潮流を創り出す一翼を担ってきた。この先、エイモスが最後に残した言葉に従って、さまざまなストーリーを紹介していくが、私の最大の目標は、行動経済学がどのようにして生まれたのかを伝え、その中で私たちが何を学んだのかを説明することだ。

当然ながら、従来の手法を擁護する伝統的な経済学者とは何度となく衝突した。そのときはけっして楽しいことばかりではなかったが、旅先でのアクシデントと同じで、いまとなっては、想い出だし、伝統主義者との闘いを通じて、行動経済学はより強くなることができた。
※一部改行しました

早川書房、リチャード・セイラー著、遠藤真美訳『行動経済学の逆襲』 P31

この「 私たちはみんな、ただの人間、つまりホモサピエンスである」という言葉がいいですよね。

これは浄土真宗の僧侶である私にとって非常に身近に感じられる言葉です。というのも、浄土真宗の開祖親鸞聖人も「凡夫(平凡な人、凡庸な人という意味)」という言葉をよく用いていたからです。自分自身が何か優れた人間であるかのように思い上がらず、「私はただの凡夫です」と言えるかどうか、本気でそう思えるようになるか、それが親鸞聖人の教えの重要な点になります。

合理的にものごとを捉え、それによって自分が高みに上って行くような道、理路整然と理屈を積み上げて世界を把握していこうというあり方、それを戒めるのが浄土真宗のあり方の一つです。

「人間は状況次第で何でもしうる。それは理屈を超えたものだ」と親鸞聖人は戒めます。

そんな教えを学生の頃からずっと聞いてきた私でありましたので、リチャード・セイラ―の言葉はすっと入ってくるように感じました。

すべてを合理的に考え、数式によって経済を理解し、実際にそれを適用しようとしてもそううまくはいきません。もしそれが可能なら経済はもっとうまく回せるはずではないか。うまくいかないならばそもそも前提からして間違っていたのかもしれない。

ということで著者の長年の研究と行動経済学者のグループが辿った道のりを知ることができます。

冒頭の本紹介にありましたようにこの作品はドラマチックでとても読みやすいです。

経済学についてあまり知識のない方でもこの本は楽しんで読むことができます。

また、これまで私がブログで更新してきましたマルクスについて考える上でも非常に興味深い視点を与えてくれました。これはありがたい作品でした。ぜひぜひおすすめしたい作品です。

以上、「リチャード・セイラー『行動経済学の逆襲』~従来の経済学と行動経済学は何が違うのかを知るのにおすすめの作品」でした。

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