玉川寛治『『資本論』と産業革命の時代―マルクスの見たイギリス資本主義』~現地取材によるリアルな記事が魅力の参考書

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玉川寛治『『資本論』と産業革命の時代―マルクスの見たイギリス資本主義』概要と感想~現地取材によるリアルな記事が魅力の参考書

今回ご紹介するのは1999年に新日本出版社より発行された玉川寛治著『『資本論』と産業革命の時代―マルクスの見たイギリス資本主義』です。

早速この本について見ていきましょう。この本について「はじめに」では次のように書かれていました。

筆者は、繊維技術者として働くなかで、「女工哀史」をうみだし、いまなお過労死やリストラを苦にした労働者の自殺が平均寿命を引き下げているという、驚くべきわが国のルールなき資本主義を民主的に改革する問題に強い関心をもちつづけてきた。

マルクスとエンゲルスが、工場制度のもとで働く労働者の実態をたんねんに調査し、産業革命をとおして確立されたイギリス資本主義をどのように見たのかを、エンゲルスの『イギリスにおける労働者階級の状態』とマルクスの『資本論』から学ぶことは、ルールなき日本の資本主義を民主的に改革しようとこころざす人々に、貴重な示唆をあたえてくれるにちがいない。

これらの著作で描かれている工場制度、労働者の過酷な実態とたたかいを、現存している機械や工場建物、水車や蒸気機関などの産業遺産にもとづいて産業考古学の手法で解明しようと試みてきた。この本はその要点をできるだけ分かりやすく紹介しようとするものである。(中略)

筆者は、イギリス各地に現存している産業革命期の機械、工場、労働者住宅、鉄道や運河などの産業遺産を訪ねて歩いた。そして、産業遺産という物的証拠にもとづいて、産業の歴史を研究するという産業考古学の手法によって、『資本論』の紡績技術をはじめその他の技術の解明に取り組んできた。その成果を、一九九七年一二月、出版された新日本出版社・上製版『資本論』の翻訳に協力するというかたちで活かすことができた。上製版の特徴の一つとして、〝産業考古学者の協力によって、はじめて正訳ができた〟と『しんぶん赤旗』で過分の紹介をうけたことがあった。

産業遺産にもとづいて、『資本論』を読みすすめる楽しさを、多くの人に知ってほしいということが、この本のもう一つの目的である。

新日本出版社、玉川寛治『『資本論』と産業革命の時代―マルクスの見たイギリス資本主義』P9-13

この「はじめに」でもありますように著者の玉川寛治氏はマルクス思想の学者ではなく、現場で働いていた技術者でもありました。

巻末にプロフィールもありましたのでそちらもご紹介します。

1934年、長野県松本市に生まれる
東京農工大学繊維学部繊維工学科卒業
産業考古学会理事・編集部会長
日本産業技術史学会会員
東京国際大学非常勤講師
元大東紡織(株)技術者


新日本出版社、玉川寛治『『資本論』と産業革命の時代―マルクスの見たイギリス資本主義』

この本ではそんな技術者でもあった著者が実際に現地に取材に赴き、産業革命時代の遺産を紹介してくれます。

そして何より、マルクス・エンゲルスが見たであろう視点から産業革命を考えていきます。

さすが技術者ということで、当時の機械の仕組みなどもかなり詳しくこの本では語られます。

ですがマニアックすぎるような内容でもなく、歴史の流れや当時の労働者の様子などもわかりやすく解説してくれるのでとても読みやすい作品です。写真やイラストも多いのもありがたいです。

産業革命について書かれた本はいくつもあれど、「マルクスとエンゲルスが見た」視点から産業革命をじっくり見ていこうという本はなかなか貴重です。

マルクスとエンゲルスは実際に産業革命時代を目の当たりにして生活していました。そんな彼らの実体験があったからこそ彼らの思想、作品は生まれてきています。彼らの思想を学ぶ上でも産業革命とはどのようなものだったのか、そして彼らがそれをどのように考えていたかを知ることは非常に重要なことだと思います。

当時の時代背景を知る上でもこの本はありがたいものになるのではないかと感じています。

マルクスとエンゲルスがどのように産業革命を見たのか。また、さらにはマルクスに惹かれた著者が産業革命をどのように見ているかということも学べます。これらは一見同じようにも思えますが、これは重大な問題です。マルクス・エンゲルス以降の世代が彼らの影響をどのように受けて世界を見ているかというのは慎重に考えていかなければなりません。こうしたことも考えながら読むことができる作品でした。

産業革命を学びながらマルクス、エンゲルスとのつながりも学べるおすすめな一冊です。

以上、「玉川寛治『『資本論』と産業革命の時代―マルクスの見たイギリス資本主義』現地取材によるリアルな記事が魅力の参考書」でした。

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