野島一人『メタルギア・ソリッド・サブスタンスⅡ マンハッタン』あらすじと感想~迫りくるAI支配!私たちの現在を問う恐るべき作品!

ディストピア・SF小説から考える現代社会

野島一人『メタルギア・ソリッド・サブスタンスⅡ-マンハッタン』あらすじと感想~迫りくるAI支配!私たちの現在を問う恐るべき作品!

今回ご紹介するのは2015年に角川文庫より発行された野島一人著『メタルギア ソリッド サブスタンスⅡ マンハッタン』です。

この作品は前回紹介した『メタルギア ソリッド サブスタンスⅠ シャドーモセス』の続編になります。

前作と同じくこちらもゲームのノベライズ作品です。

『メタルギア』シリーズは小島秀夫監督の下制作されたゲームで、そのシナリオは冷戦や反戦、反核をテーマに描かれています。

「敵に見つからないように隠れ、敵基地へ潜入する」。タクティカル・エスピオナージ(戦略諜報)アクション『メタルギア』シリーズは、1987年にMSX2専用タイトルとして誕生した。そして初代プレイステーションからプレイステーション3へ、またプレイステーション・ポータブルへ。ゲームハードにあわせてゲームデザインは進化していった。20世紀最高のストーリー、21世紀最高のゲームシステムと評された『メタルギア』シリーズは、ひとつのサーガとして読み解くことができる。それは1960年代から2010年代の約50年に渡って世界と闘い続けた2人の主人公、ビッグボスとソリッド・スネークの物語。彼らは「GENE(遺伝子)」の運命と戦い、「MEME(文化的遺伝子)」を未来に残すために語り伝えながら、「SCENE(時代)」の変化に翻弄されてきた。「歴史に記録されることのない、誰も知らない真実」がここにあるのだ。


「メタルギアソリッドの真実」HPより

そして実際にこのゲームがどのようなものであるかは以下の動画を観て頂ければ早いと思います。

さて、このゲーム『メタルギア』シリーズですが、実は私はプレイしたことがありません。

ですがこのシリーズの大ファンであります。

これはどういうことかというと、メタルギアシリーズはノベライズ(小説化)されていて、そのシナリオを作品として読むことができるのです。

私がこのメタルギアシリーズと出会ったのは元々は伊藤計劃さんの『虐殺器官』というSF小説がきっかけでした。そしてその伊藤計劃さんが『メタルギアソリッド4 ガンズオブパトリオット』のノベライズ作品を発表していたのを知り読んでみたのが始まりでした。そこからメタルギアシリーズにはまるのは、それこそあっという間のことでした。

さて、この野島一人著『メタルギア ソリッド サブスタンスⅡ マンハッタン』ですが、はじめに言わせて頂きます。

この本はすごいです・・・!

メタルギアシリーズの中で私が最も強烈なインパクトを受けたのがこの作品です。シナリオがあまりにえげつない・・・!

この作品で語られるメッセージはあまりに強烈です。

こんなに恐ろしい作品はなかなかありません。

ゲームをプレイしたことがない方にもぜひこの作品は見て頂きたいものとなっています。

では、この作品について見ていきましょう。

タンカー沈没により汚染されたニューヨーク湾の除染施設ビッグ・シェルが、テロリストに占拠された。首謀者はソリッド・スネーク、人質は米大統領。単独潜入を命じられた新兵雷電は、想像を絶する陰謀に阻まれる。真の敵は英雄ソリッド・スネークなのか、前大統領ソリダス・スネークなのか。地獄巡りの果てに雷電が知ったのは、国家をも否定するシステムの存在だった。マンハッタン島に、新たなグラウンド・ゼロが出現する。

Amazon商品紹介ページより

前作の舞台はアラスカの孤島でしたが、今作は文明の中心、ニューヨークを舞台に世界を揺るがす戦いが行われます。

このノベライズ作品は前作の『メタルギア ソリッド サブスタンスⅠ シャドーモセス』と完全に繋がっている形式で語られます。

前回の記事でもお話ししましたが、著者の野島一人さんの語りは絶品です。

ゲームのノベライズといっても、単にシナリオをなぞっただけのものではありません。このゲームに込められた深いメッセージを絶妙に汲み取り、その語りに還元しています。

この作品は現代を生きる私たちにとって避けては通れない巨大な問題を提示します。そのことについて「メタルギアの真実」というKONAMI公式サイトで次のように語られていましたのでここで引用します。

 冷戦時の1957年、アメリカ国防総省はソ連との軍事拡大競争に抵抗するためにARPA(高等研究計画局)を結成した。この局が研究・開発した技術のひとつにコンピュータ同士によるネットワーク網があった。1969年にARPAが発表したARPANETをベースにして、やがてインターネット(INTERNET)が誕生する。1993年にゴア副大統領は「NII(情報ハイウェー構想)」を宣言。全米中にネットワークは広げられた。そして現在、ありとあらゆる情報がデジタル化されネットワークを巡るようになったのである。

 「DNAが遺伝情報として生物の進化過程を残すのならば、人の記憶や思想、文化や歴史を残すことがデジタルの役割である」とAI(人工知能)が本作のクライマックスで雷電に語りかける。

 AIのセリフの内容は、図らずもオックスフォード大学の生物学者リチャード・ドーキンスが1976年に著書『利己的な遺伝子』の中で提唱した「ミーム(meme)」という概念に近い考え方だ。「すべての文化はミームと呼ばれる原子のようなもので組まれている。遺伝子が精子と卵子を通じて人から人へと伝えられるのと同じように、ミームは心から心へ受け継がれていく」と彼は定義した。そして競争に勝ったミーム、すなわち最も多くの心に入り込むことに成功したミームこそが、今日の文化を形作っているのだ。

 本作のセリフでは、このドーキンスの主張をネットワーク時代に置き換えたものと言っても良いだろう。つまりミームそのものがデジタル化され、ネットワークを介して受け継がれていく時代の物語なのだ。

 すべての文化や情報がデジタル化され、数値化して受け継がれており、人間すらも数値化されていく時代。1990年代に入り、アメリカとイギリスが協力して、人工衛星などを使った通信やネットワークを監視する全地球的な通信情報傍受システム「エシュロン(Echelon)」を構築しているという情報が流れた。同様に本作においても、愛国者達(ホワイトハウスという重力場で産み落とされた念のかたまり、アメリカという国家のミーム)が、全デジタル情報を検閲・管理していることを暴露する。 そのデジタル化の中で、はたして人間はどうやって生きていくか。それが本作の投げかける問題なのである。この物語は未来の物語ではない、いずれ避けては通れない「今そこにある危機」を描いているのだ。

「メタルギアソリッドの真実」HPより

これを読むだけだとかなり難しそうな感じがしますが、ノベライズを読んでみるとこれの意味するところがものすごくはっきりしてきます。

デジタル化の中で私たちはいかに生きるのか、これから先人類の未来はどうなっていくかがこの作品では語られていきます。

そして前作と同じく、この作品も映像で観ることができます!

5時間強の超大作ですが、もう最高です・・・!面白過ぎます・・・!

観て下さい!それしか言えません!信じられないほど完成度の高い作品です!

特に5:15:20辺りから始まるデジタル化と人間の未来について語られる箇所は戦慄ものです。私にとってこのシーンがこの作品のハイライトです。

あまりに核心を突きすぎて、恐怖しか感じません。

また、この作品については『メタルギアソリッド4 ガンズオブパトリオット』のノベライズを書いた伊藤計劃さんが鋭い考察をしています。

その考察は「伊藤計劃記録」というサイトの「制約された現実とは何か」という記事で読むことができます。

ぜひそちらも読んで頂きたいなと思います。

そして最後に一言。

私は2019年にニューヨークを訪れました。

そうです。この物語の舞台となった場所です。

そしてこの物語の最後の戦いはウォール街の中心、フェデラルホールの屋根の上で行われます。

この写真は私が撮影したものです。私はここを訪れて、ここで雷電は闘っていたのかと感無量の思いになりました。ここでの戦いのシーンと、その後のエンディングが最高なんです・・・メタルギアの映像を思い浮かべながら見るフェデラルホールは私にとってとてつもなく強烈な印象を残しました。

そんなことを思ってここを訪れる観光客はほとんどいないと思いますが、メタルギアファンにはここはたまらない場所ではないかと思います。

『メタルギア・ソリッドⅡ』は私にとって、とても思い入れのある作品になりました。

この作品の深さをここで詳しく解説していければ一番いいのかもしれませんが、今の私にはその力量も、時間もありません。正直、語り尽くせないほどの魅力、メッセージがこの作品にはあります。

とにかく読んで下さい!

とにかく観て下さい!

とにかく読んで、観て下さい!

これに尽きます!

メタルギアソリッドシリーズで私が最もインパクトを受けた作品です!

これまで私が学んできたドストエフスキーの「大審問官の問題」とも繋がってきます。

とてつもない傑作です。ぜひぜひおすすめしたい作品です。

以上、「野島一人『メタルギア・ソリッド・サブスタンスⅡ マンハッタン』あらすじと感想~迫りくるAI支配!私たちの現在を問う恐るべき作品!」でした。

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