長谷敏司『メタルギアソリッド スネークイーター』あらすじと感想~MGSの前史。ビックボスの物語はここから始まる

ディストピア・SF小説から考える現代社会

長谷敏司『メタルギアソリッド スネークイーター』あらすじと感想~MGSの前史ービックボスの物語はここから始まる

今回ご紹介するのは2014年に角川文庫より発行された長谷敏司著『メタルギア ソリッド スネークイーター』です。

この作品は大ヒットゲーム「METAL GEAR SOLID 3: SNAKE EATER」のノベライズ小説になります。

これまで当ブログでは全体主義や冷戦時代について記事を更新してきました。そして最近では全体主義を扱った小説を紹介してきましたが、この記事では日本を代表するゲーム『メタルギア』シリーズの作品についてお話ししていきたいと思います。

『メタルギア』シリーズは小島秀夫監督の下制作されたゲームで、そのシナリオは冷戦や反戦、反核をテーマに描かれています。

「敵に見つからないように隠れ、敵基地へ潜入する」。タクティカル・エスピオナージ(戦略諜報)アクション『メタルギア』シリーズは、1987年にMSX2専用タイトルとして誕生した。そして初代プレイステーションからプレイステーション3へ、またプレイステーション・ポータブルへ。ゲームハードにあわせてゲームデザインは進化していった。20世紀最高のストーリー、21世紀最高のゲームシステムと評された『メタルギア』シリーズは、ひとつのサーガとして読み解くことができる。それは1960年代から2010年代の約50年に渡って世界と闘い続けた2人の主人公、ビッグボスとソリッド・スネークの物語。彼らは「GENE(遺伝子)」の運命と戦い、「MEME(文化的遺伝子)」を未来に残すために語り伝えながら、「SCENE(時代)」の変化に翻弄されてきた。「歴史に記録されることのない、誰も知らない真実」がここにあるのだ。


「メタルギアソリッドの真実」HPより

そして実際にこのゲームがどのようなものであるかは以下の動画を観て頂ければ早いと思います。

さて、このゲーム『メタルギア』シリーズですが、実は私はプレイしたことがありません。

ですがこのシリーズの大ファンであります。

これはどういうことかというと、メタルギアシリーズはノベライズ(小説化)されていて、そのシナリオを作品として読むことができるのです。

私がこのメタルギアシリーズと出会ったのは元々は伊藤計劃さんの『虐殺器官』というSF小説がきっかけでした。そしてその伊藤計劃さんが『メタルギアソリッド4 ガンズオブパトリオット』のノベライズ作品を発表していたのを知り読んでみたのが始まりでした。そこからメタルギアシリーズにはまるのは、それこそあっという間のことでした。

さて、前置きが長くなってしまいましたが 、 長谷敏司著『メタルギア ソリッド スネークイーター』 について見ていきましょう。

1964年8月24日、冷戦下のソ連上空、3万フィートを飛行するガンシップから、ひとりの男が舞い降りた。彼の暗号名は“ネイキッド・スネーク”。一度は西側に亡命したが返還された男、「悪魔の兵器」開発者のソコロフを奪還するために単身潜入したスネークを待っていたのは、師匠でもあるザ・ボスと、彼女が率いるコブラ部隊だった。避けられないザ・ボスとの対決。ここから「メタルギア」の物語が始まる―。


Amazon商品紹介ページより

前回、前々回の記事で紹介したメタルギアソリッドⅠ・Ⅱの前史にあたるのがこの作品になります。

メタルギアソリッドシリーズの主人公はタイトル通りソリッド・スネークなのですが、このシリーズを通して最も重要な人物と言ってもいい存在が今作の主人公ネイキッド・スネークになります。

ネイキッド・スネークは後にビックボスと呼ばれ、このシリーズにおいて決定的な役割を演じます。

メタルギアシリーズの根幹をなすこの人物は何者なのか。そもそも「スネーク」という存在とはいかなるものなのか。

この作品も名作中の名作です。いや~素晴らしい!

メタルギアソリッド作品はすべてそうなのですが、何と紹介してよいのか本当に難しい!あまりに盛りだくさんでどこをどう紹介すればいいのか困ってしまいます。

ですが、この作品も例のごとく映像で観ることができます。

本を紹介する身としてはとても情けないのですが、「読めばわかる」「観ればわかる」。これしか言えません。

前作の『メタルギア・ソリッド・サブスタンスⅡ マンハッタン』では、戦慄するほどの恐怖を体感することになりましたが、今回紹介する『メタルギア ソリッド スネークイーター』は如何ともしがたい現実に対する切なさを感じることになります。

この物語の背景には冷戦があります。冷戦とメタルギアソリッドの関係について公式サイトでは次のように解説されています。

第二次世界大戦以後、世界は二分された。アメリカを中心とした資本主義体制、ソビエト連邦を中心とした共産主義体制。両体制はお互いを仮想敵とみなし、約50年にわたり軍事的、経済的、政治的に対立した。 その対立構図が露出した例が、『メタルギア ソリッド 3』で扱われている「宇宙開発競争」と「キューバ危機」である。

 「宇宙開発競争」はソ連が1957年に世界初の人工衛星スプートニク1号を打ち上げたことに始まった。「宇宙開発競争」に勝ち、宇宙を手に入れることは絶対的な制空権を手に入れることであり、同時に広大なフロンティアを得ることになる。4ヵ月後、アメリカは人工衛星エクスプローラー1号を打ちあげるが、1961年にソ連はボストーク1号を打ちあげ、人類初の有人宇宙飛行を実現する。大国にとって「宇宙開発競争」は譲れない仮想戦争だった。

 「キューバ危機」は1962年にソ連が核ミサイルを、アメリカの隣国であるキューバに配備しようとしたことが契機となった。そのとき配備された中距離ミサイルの射程距離は1500キロといわれ、キューバからワシントンやセントルイスが射程圏内にあったという。射程内のミサイル配備が、戦争の勝敗を決定する時代がやってきたのである。

 『メタルギア ソリッド 3』はその両者を一本の線でつなぐ物語を描いている。その一本の線とは「ロケットエンジン技術者『ソコロフ』の運命」である。一度はアメリカへ亡命したソコロフがソ連へ返還されたのは「キューバ危機」が原因だった。返還されたソ連で彼はロケットエンジン技術を使って、新兵器の開発に従事する。そのソコロフをスネークは救出に向かうのだが……。

 こういったケースは史実でも起きていた事件だ。1942年ナチス・ドイツにいたロケットエンジン開発者のヴェルナー・フォン・ブラウンは液体推進燃料による「A4ロケット」を開発した。この「A4ロケット」は第二次世界大戦時にナチス・ドイツにより、「V2ロケット」としてヨーロッパ西部戦線へ実戦投入される。戦争末期にフォン・ブラウンはアメリカへ亡命。1958年にアメリカ初の人工衛星エクスプローラー1号の打ち上げに成功する。まさしく彼のロケットエンジン技術が「宇宙開発」と「兵器開発」の両方を左右したのだ。

 相手の顔が見えない距離から、ボタンひとつで敵をせん滅してしまう超長距離兵器の誕生は、戦争を変えてしまった。緊張状態が続く冷戦下では、敵が反撃できないような長距離から攻撃する技術の有無は、「キューバ危機」のように国家の存亡を左右することにもなりかねない。「肉弾戦」から「見えない戦争」へ。ソコロフの悲哀を通じて、冷戦の転換期を『メタルギア ソリッド 3』は描いているのである。

「メタルギアソリッドの真実」HPより

メタルギアソリッドシリーズがいかに巨大な視野で構想されているかというのがこの解説を読んで頂ければわかると思います。

この作品を読めば冷戦時代の雰囲気も感じることができます。

そして何より、ネイキッド・スネークのあまりに過酷な戦いの数々。

 1964年8月30日「スネークイーター作戦」発動――。
 超音速機YS-12から切り離されたドローンでソ連の地に再び降り立ったスネークは、ザ・ボスの痕跡を追う。その前に立ちはだかるのはザ・ボスとともに世界中の戦場でその名を轟かせてきたコブラ部隊。<至高の痛み>ザ・ペイン、<至純の恐怖>ザ・フィアー、<真実の終焉>ジ・エンド、<無限の憤怒>ザ・フューリー、<深淵なる悲哀>ザ・ソロー。そしてオセロットもまた、スネークをつけ狙っていた。


「メタルギアソリッドの真実」HPより

ただ単に強大な敵を倒すだけでなく、スネークは超人たちとの戦いを通して「自分とは何なのか」ということも突き付けられていくことになります。

「痛み」「恐怖」「終焉」「憤怒」「悲哀」

それは人間が直面し、克服されねばならない問題です。

これらを象徴する彼らとの戦いはまさに自分との戦いでもあったのです。

こうしたシナリオ作りはやはりさすがだなと脱帽でした。

ものすごく面白い作品です。この作品も何度も読みたい私の大好きな作品です。

ぜひぜひ映像と合わせて楽しんで頂けたらなと思います。非常におすすめな1冊です。

以上、「長谷敏司『メタルギアソリッド スネークイーター』あらすじと感想~MGSの前史ービックボスの物語はここから始まる」でした。

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