『やばいデジタル “現実”が飲み込まれる日 』~個人情報が丸裸~情報管理社会の恐怖

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『やばいデジタル “現実”が飲み込まれる日 』概要と感想

近々世間を騒がせているLINEの個人情報漏洩のニュースに衝撃を受け、私はIT企業に勤めていた友人にこの問題について尋ねてみました。すると彼はその問題を考えるならこれがおすすめですと、ある本を紹介してくれました。

それが講談社現代新書出版のNHKスペシャル取材班、『やばいデジタル “現実”が飲み込まれる日 』という本でした。

Amazonの本紹介では次のように紹介されています。

あなたの人生は、わずか2.74GB(ギガバイト)。
2020年の1年間で生み出されたデータ量は「50,000,000,000,000GB」。

デジタルは、私たちの社会をさらに自由に、豊かにしてくれるーー。
しかし、それが実にはかない願望であったことを、私たちはいま実感させられている。

SNSの広がりは「真実」と「フェイク」の境界をあいまいにし、私たちは「フェイク」に踊らされるようになった。

文脈を失い、断片化された情報は、それがデマであってもまるで真実であるかのように、「いいね」がつけられ、世界中に拡散されていく。

ビッグデータに蓄えられた検索履歴は、私たち以上に私たちのことを知り尽くしたデータ=「デジタルツイン」となり、私たちのプライバシーを丸裸になりつつある。

にもかかわらず、私たちは、デジタルの恩恵から逃れられない。

フェイクが横行し、プライバシーが剥奪され、リアルはデジタルに侵食されるーー。不自由で非民主主義的な世界を、私たちはどう生きるべきか?

Amazon商品ページより

昨年はコロナウイルスに始まり、アメリカ大統領選でも驚くほどのデマやフェイクニュースが出現しました。私自身も何が正しくて何が嘘なのかまったくわからないというのが正直なほど情報が錯綜していました。

この本の前半ではなぜそうしたフェイクニュースが生み出され、広まってしまうのかというメカニズムを追っていきます。

その中でも私が特に印象に残ったのは次の箇所です。

なぜ、このような情報(※コロナ感染者を誹謗中傷する投稿。ブログ筆者注)が拡散してしまうのか。私たちは、SNSの解析を専門とする、東京大学の鳥海不二夫准教授に分析を依頼した。

まず鳥海氏が行ったのは、新型コロナウイルスに関連する、1億2000万件にも及ぶ膨大なツイートのうち、どのようなツイートが拡散されやすいのか、その傾向の分析である。ツイートの文面から、発信者の感情を分析、「怒り」「喜び」「驚き」など、10種類に分類する。

すると、「好き」や「安心」といった感情は広がりが少ないのに対し、多く拡散していたのは「負の感情」、とくに「怒り」だということが明らかになった。たとえば、1000回以上リツイートされたツイートの占める割合を計算すると、最も多い「怒り」のツイートは、最も少ない「好き」のツイートの3倍も多かった(次ページ、図1ー2)

さらに詳しく解析したところ、なかでも感染者を攻撃するような書き込みは、拡散するスピードも速いことがわかった。

講談社現代新書、NHKスペシャル取材班、『やばいデジタル “現実”が飲み込まれる日 』P27

「怒り」をはじめとした「負の感情」は広がりやすい。

デマやフェイクニュースを作る側はそうした「人間の傾向」を利用する。

ちょうど今私はレーニンの記事を更新している最中ですが、レーニンも大衆の怒りや憎悪を煽る達人でした。階級闘争や裏切り者に対する暴力を奨励し、大衆の不満を刺激して支持を集めました。

レーニンとSNSのつながりが見えたようで私は背筋が凍るような思いになりました。

そしてこの本の後半では私たちの個人情報はほぼ丸裸であることが語られます。

スマホやインターネット、位置情報やアプリなどを解析すればいくらでも使用者の人間像が見えてしまいます。著者は次のように述べます。

「あなたの住所や家族構成、身の回りの人も知らない趣味や年収、病歴、異性関係まで丸裸にできますよ」。初対面の人にこんなことを言われたら、どう感じるだろうか。実は、スマホの利用履歴のデータさえあれば、そんな占い師のようなことができてしまう時代がすでに到来している。「デジタルツイン」と呼ばれる”もう一人のあなた”を、デジタル空間に作り出し、あなたの人物像を解析することが可能だというのだ。

講談社現代新書、NHKスペシャル取材班、『やばいデジタル “現実”が飲み込まれる日 』P108

GoogleやAmazonをはじめとした巨大企業は膨大な情報を収集し、解析しています。

「プライバシーは、もはやあなたのものではない。プライバシーは晒されている」
(Privacy is not private. Privacy is public)

自分のプライバシーがどれほど企業に握られようが、広告の配信に使われるくらいなら別に問題ないと考える人も多いのではないか。また、後述するように、多くのIT企業は利用者のプライバシーを守るために、様々な施策を打っている。しかし、もし私たちの「デジタルツイン」が、悪意のある企業に渡ったらどうなるのか。国家権力が悪用したらどうなるのか。ズボフ氏の問題意識は、さらに先の未来を見据えているようだった。

講談社現代新書、NHKスペシャル取材班、『やばいデジタル “現実”が飲み込まれる日 』P149-150

この本では、香港での抗議デモで実際にスマホデータによって多くの逮捕者が出たことが語られます。すでに情報統制は国家によって行われています。これはもはやSF小説に描かれる未来の話ではありません。今現在、私たちに突き付けられている問題なのです。

しかし厄介なのはもはやスマホはインフラと化していて簡単には手放せないところにあります。

正直なところ、私自身もどうしたらいいのかわかりません。

ただ、今回のLINEの個人情報漏洩の一件はこのことを考える大きな機縁となりました。

友人は「この本はホラー小説を読んでるような気分で一気に読んでしまいました」と薦めてくれましたが、まさにその通り!ホラー小説とはよく言ったもので、ずばりそんな恐怖を感じる本でした。とても面白い本でした。これは今の時代にまさにオススメする1冊です。ぜひ手に取ってみてください。

この本を紹介してくれた友人には大感謝です。

以上、「『やばいデジタル “現実”が飲み込まれる日 』個人情報が丸裸~情報管理社会の恐怖」でした。

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